鈴の音
鈴の音
いつの頃からだったろう。 私の家と学校の間には神社があった。
ちょっとした階段の上に社があったけど、何が祀られているのか、誰が管理しているのか知れない。
そもそも人の手が入っているのか? というくらいの古ぼけた神社。
朝の通学の時、ふとその前で足を止め何気なく神社に向かってペコリとお辞儀をした。
そして帰りにも同じように。
それがいつしか習慣になり、毎日登下校時にはペコリと挨拶をしていた。すると・・
ある朝いつものようにお辞儀をしたら耳の奥・・? それとも頭の中? で小さな鈴の音がチリーン・・と。
周りを見渡すけど鈴を持っている人なんかいないし、みんな足早に歩いていく。
気のせいか・・と思いそのまま登校。そして下校時またそこで頭を下げると今度はチリリーン・・と二度聞こえた。
気のせいじゃない・・。もう一度お時期をしたが今度は聞こえない。
次の日からちょっとだけ注意してみた。すると朝はチリーン、夕方はチリリーン・・と鳴る事が判った。
(なんだろう・・神社のなにかが挨拶返ししてくれるのかな? ) なんて思って登下校していた。
するとある朝は鈴の音がしなかった。( あれっ? ) と思い登校していつものように過ごしていた時、
いきなり階段から滑り落ちた。でも不思議な事に最後に身体を打つ・・その瞬間に誰かにふわりと支えられる
感じがして傷ひとつ負わなかった。頭の中は ? ? ? だらけ。
もしかして危ない日とかは鈴の音がしなくて教えてくれた?
そんなこんなで中学・高校が終わり就職でちょっと離れた街に行く事になった。その最後の朝、神社前に
行き手を合わせて (今までありがとうございました。これからは◯◯町に行きます。帰る事があったら
またご挨拶します) と心の中で伝えた。するとまたチリーン・・と。
私は泣きそうになるのをこらえてそこを後にした。
それから数年経ちその神社も鈴の音もすっかり忘れた頃、私にも素敵な男性が現れあれよあれよという間に
結婚が決まった。そして次の年には待望の赤ちゃんも授かり幸せ真っ只中。
色白の可愛い女の子を産んで名前をどうしよう・・と思っていたら旦那が
「「すず」はどうだい? 漢字の「鈴」もいいなぁ。だって泣き声が鈴みたいに可愛くて❤」
と親ばかを炸裂させてきた。鈴・・・うんいいかも。
そして退院の日。ちょっと寄り道してもらってあの神社前で車を止めてもらってお社の前に立ち一礼して
(お陰様で良縁に恵まれ、元気な娘も授かりました。名前を「鈴」と申します。これからもよろしく
お願いいたします ) と伝えると大きな音でチリリーン・・っと。わぁ、この感覚久しぶりだ・・・。
思わず涙を流す私を見て驚く旦那に今までの事を話すといたく感心していた。
それから何事も無く娘が三歳になった頃、いきなりこんな事を言いだした。
「あのねお母さん、私がまだお空にいた時この世に生まれてくる順番が来てね、どこに行こうかな・・
って迷ってたら私の前に真っ白な犬さん? 狐さん? が来て (お前はこの娘の所に行くがいい。
とても幸せになれるだろう。なにせ私が守っているからね。)って言われて、それでお母さんの
所に来たんだよ」
私は泣きながら「ありがとうね」と言って娘を抱きしめた。
やはりあのお社にはお狐様がいらしたのだろう。私の事を守って・・そう思うと心の奥がじんわり温かくなった。
おしまい。