恋人と初めてをたくさん②
「よく分かったわね。そうよ、私がVtuberのcherry-yuna。もしかして配信とかよく見るのかしら?」
「え、そんなあっさり認める!?」
ほらもっとこう、あるじゃん、身バレとか…。
おい単刀直入、仕事しすぎだ休め。
このご時世どこから情報が漏れるか分かんないのに、よくさらっと言えるものだ。
いや、それほど信頼されてるのかもしれない。ないか…。
私が悲しい真実に気づいたともつゆ知らず、高そうなゲーミングチェアに腰掛けてひじ掛けに手を乗せる桜凪さん。
これだけでも絵になっている。
流石Vtuber。
「仮にも今日から恋人なわけだからは知っててもらおうと思ってね」
「そういうこと…」
「あ、私のベッドに適当に腰掛けてちょうだい」
「あ、ありがとう」
ベッドに腰を下ろすや否や、ぼふっという音とともに体が沈む。
ふっかふか。寝れそう。
それにしても意外。
何が意外かって、利害の一致で始まった偽の恋人関係なのに桜凪さんは私と向き合ってくれて、しっかり”交際”しようとするところだ。
ただまあ、逆に上っ面の関係だけでよく分からない恋人の女の子っていうのはそれはそれで嫌だけど。
「桜凪さんって真面目だよね」
「急ね。どうして?」
「だって偽の恋人関係ってだけならその中身にこだわる必要はなくてただその関係性だけキープしてれば自分のカードとして使えるよ…?なのに、桜凪さんは私の中身を知ろうとしてくれるし、逆に私が桜凪さんのこともたくさん知れるように色々教えてくれるもん…」
「私はやると言ったものは徹底的に取り組むタイプなのよ。途中で放り出すあの人と違ってね」
「…?」
「いやこっちの話だわ。気にしないで」
外ヅラはすごく怖い人っていう印象だったけど、意外と堅実で真面目な女の子だったらしい。
そしてあの人って誰だ…
まあいいか。それより今はcherry-yunaの話が聞きたい。
実はこう見えても、登録者5万人のときから見てる古参なのだ!!
「ねね私桜凪さんの配信いつも見てるよ!」
「そう」
「え、反応薄っ…もっとこう、『えー、そうなの!?ファンと出会えたー!キュンキュン//』みたいな展開を期待してたんだけど…」
「だって登録者100万いるのよ?ざっと100人に1人、天文学的確率じゃあるまいし」
「はあ…」
この人身バレしても『へー、そうなのね』とか言って驚かなさそうだな。
というか、むしろそれを逆手にとって知名度上げてファン増やしてそう…身バレ系Vtuberみたいなタグつけて。
「ゲームはもちろん上手だし、コメント裁くのも早いし返しも上手くて面白いし!」
「ふふっ…ありがとう。でもなんだかむず痒いわね」
そう言ってぽつりと言葉を零し俯く桜凪さん。
少し声は浮ついているし、いつもはお人形さんみたいな白い顔だって今は心なしか火照っているような…。
まさかさっきのは照れ隠し!?
ほんとは内心リアルで視聴者に出会えてうっきうきだったりして、ね。
ぐへへ、試してみよう。
「ちょっとぉ~、桜凪さんったらさっきから顔赤いじゃありませんかぁ~?まさかほんとはリスナーに出会えて嬉しいんじゃないんですかー!このこの~」
「あ?」
「しゅびばせんでじだ」
ひっ。
桜凪さんが威嚇するような目で見てきた。
いや、これは人を殺す目だ。
おっかねぇ…。
やはり私ごときが調子に乗るには早すぎたらしい。
出直してこよう。
「それにしても貴方大丈夫かしら?」
「え?何が…?」
「ほら、貴方って今日私の家に泊まるでしょう?おうちの人に連絡とかしたかしら?」
…は?




