恋人と初めてをたくさん①
結局、桜凪さんに告白された後、その帰りに彼女の家に寄ることになった。
彼女曰く、恋人は放課後にどちらかの家に寄り道するのが当たり前なんだとか。
どこの知識だよ……
「うわ、でっか……桜凪さんってお金もちデスネ……」
口がふさがらないとはまさにこのことだろうか。
目の前には超がつくほどの巨大な豪邸。
それを目の当たりのして普段通りの体裁を保っていられる私ではなかった。
というか、そういえばここら辺に敷地が異様に大きい建物あったな……
あれがクラスメイトというか、潜在的な友人というか、現在の恋人というか、の所有物であると考えるとどこか奇妙な感じだ。
「何で敬語なの……。お金持ちなのは私ではないわ。親がそうなだけよ」
そう言って桜凪さんは玄関の扉を開ける。マンション住み界隈の私からすると一軒家でも十分お金持ちだと思うのに、こんな豪邸を見せつけられると――いや人聞きが悪いぞあかね――見ると、比較する気すら起きなくなる。
と言っても、顔認証、指紋認証、パスキーとかいう3種の神器みたいなセキュリティを突破する桜凪さんを横目に見て、3日で面倒に感じそうなのでやはり普通のマンションでいいかもしれないという結論に至った。
そういえば、桜凪さんの親御さんは何をして稼いでいるのだろうか……。
これほどの巨大な家を持っているのだから、総資産1億とか保有していてもおかしくなさそう。
お医者さん?弁護士?んー。
ま、まさか、危ない仕事!?
ヤクザかもしれない。
その手の集団には金を集めるプロがいるとよく聞く。
ヤクザの娘と恋人関係とかいう恐ろしい想像をしてしまった私は、恐る恐る聞いてみることに。
「そう言えば桜凪さんの両親は何の仕事を……?」
「……あまり人に言えない職業だわ」
え、まさかほんとにヤクザだった!?
ってことは桜凪さんは将来ヤクザの総長ってこと……?
このままいくと恋人関係にある私は、副総長とかになってヤクザの幹部になってしまうのか。
というか、親に紹介するときなんて言えばいいんだよ。
『はは、こちらは次期ヤクザ総長の桜凪さんで、私の恋人でしっ‼』
ヤクザの娘と怖い怖いお母さんとかいう究極の板挟み状態ッ!
ばっどえんどだ!!
震えてきた。
「海外で経営者をしていてね、結構著名だから住所がバレると困るって母さんが言っていたわ」
「ああ、そういう……」
ヤクザの副総長にならなくてよかった……。
というか、体育の評定が万年2の私が副総長になれるわけないだろ、帰れよ幹部役員伏見あかね。
私は安堵してため息をつくも、桜凪さんが訝しげな目で見てきたので逃げ場を探し求めるようにそっぽを向いておいた。
「にしてもほんと桜凪家は大きいね……掃除とかどうしてるの?」
等間隔に設置された大窓はその大きさにも関わらずピカピカだし、床には埃一つ見当たらない。
たいていこの手のお話は、ゲームとかなら主のお世話に加えて館の掃除とか料理をする万能メイドがいるのが定番なのだが、残念ながらここは現実世界。可愛らしいメイド服を着た女の子がお帰りなさいませをしてくれるわけではない。というか、お前はご主人ではないぞあかね……。
「お手伝いさんがいるのよ。彼女たちが定期的にここを訪れて掃除してくれているわ」
「えぇ……さ、流石金持ちは考えることが違う……。というか、こんな広い家一人じゃ掃除できないもんね……」
「そーそ」
少し主張の激しい外見とは裏腹に質素で落ち着いた雰囲気の内装と、お手伝いさんがいるという事実にもはやポカンとすることしかできない私を気にも留めず、まるでついて来なさいとでも言わんばかりに背を向けてすたすたと歩く桜凪さんを追いかける。
こんな迷路みたいな館でよくも迷わないな、と他人事みたいに思いながら歩いていると、やがて彼女はとある部屋の前で立ち止まった。
「ここは……?」
「私のゲーム部屋兼寝室」
恋人の寝室という少しえっちな響きのある気がする単語と、桜凪さんゲーム好きだったの!というオタク特有の仲間意識の芽生えで、私の脳みそはキャパオーバーしそうだった。
桜凪さんが扉を開けるとそこには――。
「え、なにこの全ゲーマーの夢を袋いっぱいに詰め込んだみたいな神部屋!?」
まずデスクには大きなモニター3台と、女の子らしいマウスパッドとキーボード、いくつものマイク、高級ゲーミングPCまで完備されている。それも全部いいやつ。心なしか、そのすべてがキラキラに輝いて見えるのは気のせいだろうか…?
そして追い打ちをかけるように存在感を露わにしたのはベッドに置かれた大量のぬいぐるみたち。こいつらは桜凪さんの帰宅を歓迎しており、それどころか侵入してきた私に敵意をばしばし向けてきている気がした。これはお前の気のせいだあかね。
そんなこんな、私がリビングの角っこでゲームのソフトとキャラクターを並べて作った秘密基地がちっぽけすぎて劣等感すら感じなくなったところで、VTuber『cherry-yuna』のポスターとグッズが目に入ってきた。壁一面に貼られたポスターにはyunaちゃんの立ち絵が、棚には見たことある缶バッチとかミニぬいぐるみが、ぎっしりと並べられている。
天真爛漫で、清楚担当。みんなのアイドル”cherry-yuna”
もしかして桜凪さんは私が最近密かにこのVtuberを推していることを知っていたのだろうか?
もしその上でcherry-yunaで溢れかえったこの部屋に連れてきてくれたというのなら今ここで死んでもいいし、知らなかったとしてもこれを見れただけでもう満足だ。私の屍を超えてゆけ、桜凪さん。バイビー。
というか、よく見るとあのポスター、『百万人、おめでとう』って書いてあるな……。
なんだろ。まあいっか……。
ここで我に戻り、桜凪さんの顔をまじまじと見つめていたら、いくつかの単語が脳裏によぎった。
この人は桜凪由奈。
私の推しはcherry-yuna。
サクラ……。
チェリー……。
ゆ、な……?
アレレ……?
これから導き出される一つの答えは――――。
「桜凪さん、Vtuberだったのぉぉっ!?」
あ、やべ。聞き方ミスった。




