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利益を求める恋人

鍵の壊れた鉄扉の前。

私はこれから起こるであろう修羅場に思いをはせて、深呼吸をする。

この先に待つのは、秘密の告白現場に居合わせた私を断罪せし者。

口封じをされるのか。。。

というかあの人、私が恋人ですとかほざいていらっしゃったぞ……

そんな人間にエンカしてまともに生きて帰れるのだろうか。

ああ、私をいかなる状況からも守ってくれるSPが欲しい。

現実世界にはゲームみたいにリブート機能も、復活の儀もないのだ。

鉄の扉一枚を挟んだ向こう側は戦場と化しているぞあかね。

さあ、行こうー!


ノブに手をかけて、キーと無駄にうるさい金属音を耳に扉を開く。

そして、その先に待つのは。


「あれ……?誰もいない……」


4月の少し冷たい空気が頬を撫でる。夕方独特のお日様の匂いが鼻をつついた。

私が一番乗りだった……?


「ねぇ、春は嫌い?」


どこからか声がして、屋上を見渡す。

すると、給水塔から桜凪さんが顔を覗かせていた。

周りにサクラの花びらを舞わせてそう問いかける桜凪さんは、どこか春を告げる妖精めいた雰囲気があって、幻想世界に入ったのではないかと錯覚してしまう。


「えと、まあ、その、好きではない、と言いますか……あ、別に嫌いってわけじゃ、ないんですけどね!」

「嫌いなのね」

「あっはいごめんなさい………」


簡単に見透かされてしまった。。。

もしかしたら私は嘘を受けない人種なのかもしれない。

ピュアってことね!(は?


「どうして……?」

「え?」

「どうして、春が嫌いなの?」


そうして淡々とした口調で続きを促す桜凪さん。


「春って、出会いも別れもあるじゃないですか。それで良い人たちと出会ったらその年は楽しくなって、悪い人たちと出会ったら重たい一年になる。なんか、それって強制的な賭けにしているような、そんな気分になっちゃって。この季節が来ると憂鬱になるなーなんて……」


答え終わって顔を上げる。

澄んだカラメルの瞳がこちらをしっかり捉えていた。

あと鋭い眼光で私を刺してくる。


もしかして答えミスった……?

首が物理的に飛んじゃう!?

震えてきた。


そんな私の回答に目の前の妖精(桜凪さん)は、


「そ」


とだけ答えて私にその華奢な背中を向けた。

それから常盤の緑髪をゆらゆらと揺らし、うしろで手を組んでこちらに微笑む少女がひとり。


――じゃあ、私と付き合いましょ


「……は、はあああああああああああああああああああああああ!?」


何を言うとんねん………。


「だれと、だれが……」

「私と貴方が」

「いつから」

「今この瞬間から」

「何をするって……」

「交際をするらしい」

「ソレって地球が何回周った日……?」

「知らないわよ」

「えぇ……」


小学生よろしく、アホみたいな質問を繰り出すこと数分間。

目の前のヤツはなぜか終始ニコーとしながら、応答する機械人間と化していた。

私は数分前までこの人に抱いていた怖さをどこかに捨ててしまったらしい。

それもこれも、ぜんぶ私に交際を要求していた桜凪さんのせいだっ!


「というか、なんで私なの……」


一ノ瀬さんほどではないけれど、桜凪さんも超がつくほどの美人だ。顔は整っているし、髪はサラサラだし、透明感ある肌とかもう人類を誘惑しにきてるレベル。


そんな女の子がどうして冴えない私なんかと付き合うと言うのだろうか。

いや、ありえない。


「利害の一致ってやつかしら」

「?????」


恋愛関係に利害とか言い始めたぞコイツ。

というか、私が日本語として知っているはずの交際とかいう単語に利益うんぬんの話なんて入っていただろうか。


「私は訳あって恋人がほしい。貴方は良い人と巡り合いたい。そして私は良い人でしょう?ゆえに私と交際することで私という人間を知れる。それは一種の巡り合いだわ」

「その自信どこから出てくるの…」


おそらく桜凪さんが恋人を欲しがっているのは、昼休みの告白現場のときと同じで、告白していたあの陽キャ男子生徒と付き合わないための口実にしたいからだろう、と思う。

んで、あの現場に当然居合わせて、なおかつ利害が一致した私がそのちょうど良い標的になったというわけだろう。知らんけど。


「私は都合よく利用された女だった!?」


私にとってのメリットはあるようでないようなものだし。

くそぅ。

桜凪さんのヤツめっ。


と、ここであることに気が付いた。


でもこれってチャンスじゃない…?

私は高校デビューに失敗した。

このままだとぼっちまっしぐら。

でもどうだろう。

クラスの3大美少女の一人とも呼ばれる桜凪由奈が親友になれば、話は別だ。

それは一種のステータスであり、バフ効果。

閉ざされた陽キャへの道を再び歩むことができるのではないか?

こんなときに限って、しょげていた私の野心が再び燃えてくる。


そうなれば、私がやることは一つ。


「桜凪さん、付き合おう」

「え、いいの?」

「でもその代わり条件があるッ!」

「なにかしら?」

「私と別れた後は、親友の関係になること」

「分かったわ。というか逆に、そんな見返りでいいのかしら?」

「私にとっては大切なことなの!」


よしっ。交渉成立だ。

桜凪さんは私に『恋人関係』という仮面を求め、その対価として私は桜凪さんに関係解消後の『親友』の地位を求める。


「んじゃ、帰るわよ」

「え?」

「恋人は、手を繋いで帰るものでしょう?それくらい私だって知ってるわ」


そうしてすべすべの手を絡めてきた。

なんか、ちょっとエロい……。

というか、距離の詰め方バグってない!?


波乱の展開はまだまだ続くらしい。





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