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フツメンな俺を餌に呼び出した相手はまさかの!? え? 俺達そんな関係じゃないですけど?




んぅ~(誰か~)!! むぅ~(いないのかぁ)!!」

 出来る限りの大きな声を出そうともがくが、口に詰め物をされその上で口の周りをガムテープのような物でぐるぐる巻きに成せている状態では、自分でもしっかりと声として発せていない事は分かった。


 口の中に詰められているモノ――先ほどまで履いていた自分の靴下なのだけど、めちゃめちゃ日中が暑かったいや、その辺は事もあって非常に蒸れてなかなかの匂いが……いや、その辺は考えるのをよそう。


「ちょっと静かにしててよ!!」

「もうちょっといい子ちゃんにしてれば、お目当てのやつも来るだろうし、ね? その辺……分かるでしょ?」


んん~(何言ってんだ)!!」


「あぁもう!! 静かに……してよね」

 どごっ!!


「ぐぶぅ~~!!」

 近付いて来た女子がノーモーションから俺の腹に足を振るう。その衝撃と痛さで言葉にならないうめき声が上がる。




 衝撃の展開から始まった今の状態だけど、簡単に言ってしまえば拉致られた? という事になるのかな。

 


 一応言っておくと、この状態になっている俺こと、河合相馬(かわいそうま)はいたって普通の高校に通う男子高校生だ。


 何か取り柄があるわけじゃないし、頭脳明晰というわけじゃない。そして顔も至ってフツメン。

 彼女? いないいない!! 生まれてこの方、高校3年生の夏になろうとしている現段階でも、高校生生活で『彼女持ち』なんて伝説級の言葉にしか感じない。


 そんな俺がどうしてこの状況に追い込まれているのかというと――それが自分でもわからないでいた。


 いつも通りに授業終わりに学校を出て、進学するために通っている予備校へと向かう途中、同じ学校の制服を着た女子生徒に声を掛けられた。


 最初は付きまっとって来る男性がいるとか言っていて、怖いので少し一緒に居てくれないですか? とかそんな感じだったと思う。


 急いで予備校へと向かう時間でもなかったし、少しなら……なんて、その女子生徒の言われる道を一緒に移動していたら、いつの間にか使われていない古い工場の中へと誘導されていて、疑問に思った事で問いかけようと振り向いた瞬間に、頭にごす!! という衝撃を受けそこで意識が飛んでしまった。


 そうして気が付いたらこの状態というわけだ。


むむ~(放せ)!!」

 腹の痛みに耐えながらも、必死にもがく。


「まったく……いくらもがいても外れないよ? ソレ結束バンドだし」

「そうそう。痛いだけだから諦めなよ」

 俺の方を見ておどけるような声を出して笑う女子生徒二人。残念ながら陽が落ちてきている工場の中では二人の顔は良く見えない。


――くそ!! なんなんだこの二人は!! 俺は何故ここにこうして捕まってるんだ!?

 考えても良く分からない。


 そんな中、工場の中に遠くから『カツ―ン、カツ―ン』と響いて来る足音。段々と近づいてきて俺達のすぐ側にまで来ている事が分るほど大きくなり、やがてその足音も止まる。


がちゃり

ぎぎぃ~


 きしむ音を部屋の中へとヒビカセ、誰かが中へと入って来た。


「どう? 来た?」

 今まで聞いていた二人とは明らかに違う声質が部屋に響く。


「いえ、まだですね」

「本当にコイツを連れてくれば、アイツが来るんですか?」

 二人のうちのどちらかが疑問を投げかけるような声を出すと、部屋の中に『パシぃ!!』と何かを叩いたような音が響いた。


「え? なに? 私のいう事が間違ってるっていうの?」

「あ……いえ……」

「そういうわけじゃ……」

 明らかに最初の二人から震えるような声が聞こえてくる。いや実際に体も震えていたのだろう。目の前に見える4本の脚がプルプルと静かに震えているのだから。


「大丈夫よ。絶対に来るわ。なにせこの男はアイツのカレシなんだから」

 そういうと部屋へと入って来た人はまた部屋から出て行くために歩き始めた。

 

 その後を、俺をここに誘導した女子二人も追っていく。


 誰もいなくなった部屋の中、俺は良く回らない頭をフル回転して、今の三人の会話を考える。



――どういうことだ? カレシ? ダレが誰の? いや、アイツは『この男』と言っていた。つまりは俺が誰かのカレシだって思っているという事だ。でも俺には彼女なんていない。


 か、悲しくなんて無い。今はそれでいいと思っているし、これから大学生になれば――なんて先の俺に期待しても仕方ない気はしている。


 でもそうすると、俺は誰のカレシに間違われたんだ? 


 色々と考えるけど、結局は分からないまま時間だけが過ぎて行った。




 陽も完全に落ち、部屋の中も暗くなった中、一人で腹と頭の痛みに耐えていると、静かにガチャリと音がして、ぎぃ~っとドアが開くような軋む物音が部屋の中に響いた。


誰かが中へと入って来た事に気が付き、体を硬直させる。


その人物が少しづつ近付いてきて――


「しぃ~」

んむぅ(何で)!?」

「だからしぃ~だってば」

 口に人差し指を盾乍ら、にっこりとほほ笑んでいるその人物は、俺も良く知っている人物であり、俺の義妹である河合伊那(かわいいいな)であったのだから、驚くのは当たり前だと思う。


「ごめんね? まさかアイツらがここまでしてくるなんて思って無くて……」

むぅ~むむぅ~(知り合いなのか)?」

「はいはい、何言ってるかわかんないから少し黙っててね? もうすぐ取ってあげr――」


「はいそこまでよ!!」


バン!! 

と、勢いよくドアをあけ、先ほどの偉そうな声の主だと思われる女子高生と、俺をここに引き込んだ女子高生の二人、更に見慣れない制服を着た女子生徒が数人部屋の中へと入って来た。



「待ってたわよ伊那」

「はぁ~……」

 声を掛けられてため息を吐く伊那。


「何してるんですか? 先輩」

「何って、みればわかるでしょ?」

「え? 何ですか? これからパーティとか? ごめんなさい私忙しいので」

ん~ん~(違うと思うぞ)!!」


「そんなわけないでしょ!!」

「はぁ~~……」

ん~(ほらな)……」

 先ほどよりも大きなため息を吐く伊那。



「やっぱりその男の事は大事なのね? カレシだもんね」

「え? 違いますけど?」

「はぁ? あんなに仲良さそうに買い物したり、学校帰りに喫茶店に行ったり、腕汲んだりしてるのに?」

「あぁ……つけてたんですね? なるほど……」

ん~(カレシ)? んんっんむっむぅ(俺が伊那の)?」


「カレシじゃないですよ」

んっむ~(そうだな)!!」


「「ちょっと黙って義兄ちゃん(なさいあなた!!)!!」


むぃ~(はいぃ)……」

 二人に大きな声で怒られてしまった。しょんぼりと項垂れる俺。


「う、ううん!! えっと……どうしてこんなことを?」

「あんた歳下なのに生意気なのよ!! 人の男を獲りやがって!! 一人だけじゃなく何人も私の後輩の男まで!!」

「え? 私カレシなんていませんよ? 今は――」

「な!? 嘘をつかないでよ!! あなたを好きだって別れてくれって言われてるのよ!!」

「それは私のせいじゃないですよね? あぁ……もしかして告白してきた人の中に先輩のカレシもいたって事ですか……ね?」

「っ!! ちょっとかわいいからって調子に乗ってんじゃないわよ!!」


――なるほど。

 ちょっと話が見えてきましたね。なんというか逆恨みっぽい?

 

 伊那は義兄の俺が言うのもアレだが確かに可愛い。


それは高校一年生になった年に行われたミスコンで優勝してしまう程で、どこかのアイドルかと勘違いしてしまう程、整った顔立ちと色白な肌、そしてきらりと輝くロングの黒髪。


 誰に対しても優しいし、男女分け隔てなく接するその姿と、身体能力をいかんなく発揮する運動能力で、たちまち学校中のアイドルとなってしまう程だ。


 しかし家ではめちゃくちゃ甘えん坊であり、義兄の俺にも中学生の時に出会ってすぐからいつも隣に居るみたいな女の子だった。


 ただ――。


「ん~……で? 先輩方は人を集めてきてお義兄ちゃんをこんなにして、どうするつもりなんです?」

「決まってるじゃない? あんたをバチボコにしてSNSにいろんな画像を上げて上げるのよ。そこの男と一緒にね。どうかしらね。そうなったらあなたの評判も落ちるでしょう?」

 にたぁっと笑う先輩と呼ばれる女子生徒。


 ちょうどその時、どこからともなく現れた車のライトが部屋の中を照らし、ドア付近にいたと思われる人達の姿を良く見せてくれた。


んむぅ(マジで)!?」

 その顔を見た瞬間に驚いて声が出る。


 映し出された女子生徒の顔、先輩と呼ばれている女子生徒の顔は、俺も良く知っている人だった。


ンむむぅ(お前か)!! むむんむぅ~(前野姫香)!!」



 前野姫香(まえのひめか)は俺と同級生であり、前のミスコン優勝者である。つまりは伊那が高校に入ってくる前まではこの前野がミスコン女王として、学校のアイドルであったのだが、伊那の登場により現在はあまり名前も聞かなくなってしまった人物。


 しかしミスコンを獲るほどなので、容姿は整っているのだが一方であまり女子ウケは良くないと聞いたりする事もある人物でもある。


 その辺は男子と女子で感性が違うからよくわからんが……。


 しかしそんな人物がまさか俺を使って伊那を貶めようとするなんて、なんて無謀な――。



「え? バチボコにされるのはあなた達になっちゃいますけど?」

「はぁ? チョッとこの状況で良く煽れるものね」

「いえ煽ってませんよ? 私、小さい頃から空手ならってますけど大丈夫ですか?」

「「「え!?」」」


 そうなのである。この家ではデレ甘、学校でも人気者な義妹だが、出会った中学生の頃には地元でも有名な道場へと通う実力者で、通う道場の師範から『是非ウチの孫の嫁に!!』と何度も誘いを受けていたほどなのだ。


 まぁその度に『え? 無理ですけど?』と言ってすげなく断ってはいたみたいだが。


「どうします? やりますか?」

「「「…………」」」

 ちょっとずつ後ずさっていく女子達。


「やらない? ならお義兄ちゃんを開放してもらえます?」

「…………」

 静かに前野が歩み寄って来て、俺の結束バンドやガムテープを外していく。


 ようやく自由になった俺は伊那の手を借りて立ち上がると、腹に痛みが走り少しだけよろめいてしまう。


「お義兄ちゃん!?」

「……ん、大丈夫だよ」

「でも……あいつらね?」

 それまで優しい目をしていた伊那の眼がきらりと光ったのを見逃さなかった。


「はいはい。大丈夫だからね。心配かけたね。伊那、ウチに帰ろうか」

「…………うん」

 頭をなでなですると、まるで猫の様に俺に体を摺り寄せてくる伊那。


 その様子を静かに見守る前野達。


 ちょっと落ち着いた伊那がぎゅっと右腕にしがみついて離れないので、そのまま俺は歩き出す。



「えっと……前野、帰っていいよな?」

「…………えぇ」

 小さな声で返事をする前野。


 そんな前野こくりと頷き、横を通っていこうとしたら、伊那が前野の方へと身体を向け前野に近づいていく。


「お義兄ちゃんにまた手を出したら……○○よ?」

「……わかったわよ」

「あ、今の話はお義兄ちゃんには内緒にしてね?」

 くるりと体を俺に向けると伊那は凄く言い笑顔を浮かべていた。


――いや、聞こえちゃってるんだけどな伊那……。

伊那の言動に嬉しさと、何とも言えない気持ちが込み上げて来た。




 二人で並んで家路につく俺と伊那。


「ね、お義兄ちゃん」

「ん?」

「私のカレシなんだってさ!!」

「ん? まぁそうみられてもおかしくはないのかもな」

「へへ!!」

「なんだよ」

 俺の腕から体を放し、ちょっと先にとととと走っていく伊那。そうして振り返るとにこりと微笑み――



「そうなるといいね」

「っ!?」

 

 俺に向けられるその笑顔。その表情を見て胸の奥で何かがはじけた感じがした。


 俺と伊那は義兄妹である。

 今はそうでも、もしかしたらその先にそういう未来があるのかもしれない――。


御読み頂いた皆様に感謝を!!


まずは登場人物の名前から――


河合相馬→かわいそうだ→可哀そうだ!!

河合伊那→かわいいな→可愛いな!!

前野姫香→まえのひめか→前の姫か!?


です。

さてこのお話しなのですけど、とある過程から生まれた作品です。

皆さんに楽しんでいただけると嬉しんですけどね。(*^▽^*)


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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 逆恨みからのこの拉致は凄いですね。
すごいやりすぎ女子を見た……。 人質使って呼び出す昭和センスと、SNSで貶める令和センスを合体させた残念発想力。 そしてその動機が……。  相手が格闘技経験者でも、一対多数なら数のほうが有利。凶器を…
そうですねえ、今のご時世ですと、次に同じようなことをほかの人にすると警察につかまりやすくなるように、しかるべき措置をとったほうがいいのかもわからないですね。拉致監禁ですし、手首に傷でもつけば傷害罪です…
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