第4話:「※冷徹な心、少しだけ温かく」
涼子と一緒に帰るようになってから、二週間が経った放課後。
教室でいつものようにオタク仲間と談笑を終え、帰ろうとしたところに
彼女はやって来た。
「ねえ、蓮くん。ちょっと残ってもらっても、いいかな?」
まるで業務連絡のように淡々と。それでも彼女の声には、わずかに震えがあった。
「なんかやらかしたのか?」
「冷徹の涼子様の鉄槌は怖いぞ〜」
茶化すオタク仲間を見送りながら、俺──野中 蓮は心の中で小さくため息をつく。
そう、佐藤 涼子は『冷徹の涼子様』という二つ名を持っている。
そのきっかけが風紀強化月間のとき、言葉少なに鋭い目線を送るだけで、
生徒たちを黙らせてきた“風紀の鬼”。
「……これ、必要かな?」
淡々と、でも容赦なく没収されていく持ち物たち。
その無表情さは、まるで感情というものが存在しないようで
でも、今の彼女は違っていた。
「……うん、な……なんでしょうか? な、なにか、そそでも……」
俺の声が裏返っている。
それをよそに、涼子が俺の制服の袖をぎゅっと握りしめながら、彼女は小さく息を吸った。
そして──
「私……ずっと気になってたの。蓮くんのこと」
……は?
まるで、アニメの告白シーンみたいだった。
なのに、確かに“現実”だった。
俺は何も言えなかった。ただ、目の前の現実が信じられなくて。
涼子は少しだけ微笑んで、
「返事は、急がなくていいよ」
そう言って、踵を返し、廊下へと消えていった。
──その先。
階段の陰に立っていたのは、山本 結衣。
玲央の彼女であり、ギャル系の見た目に反して学年トップクラスの頭脳を持つ、学内屈指の「監視者」。
スマホを手にした彼女のレンズ越しには、涼子と俺の姿がしっかり映っていた。
「へぇ〜、あの地味オタくん、やるじゃん」
彼女の心がこもってない祝福を言いながらスマホに打ち込む。
「ちょっとウケるんだけど、これ。見覚えある?笑」
玲央への即送信。
数秒後──既読。
「面白いな。ちょっと話そ(笑)」
「何年ぶりだからマジキンチョーするわー(爆笑)」
──その日の帰り道。
昇降口で靴を履いていた俺の前に、結衣の声が降ってきた。
「ねえ、野中 蓮だよね? ちょっといい?」
振り向けば、結衣・玲央、そして見知らぬ男子。
三人の視線が、まるで裁判官のように俺を見下ろしていた。
「ちょっとだけ、話があるのよ。すぐ終わるから、ね?」
その笑顔は、氷のように冷たかった。
──まるで、「地位協定違反の通知」。