第3話:「※涼子の冷徹な一面」
放課後の教室。いつものように、俺――野中 蓮――はオタク仲間たちと談笑していた。
アニメの話、ゲームの話。彼らとの時間は、俺にとって唯一、心が安らぐ瞬間だ。
「お疲れ〜」と、みんながそれぞれ解散する中で、ふと目の前に立つ人物が現れた。
「……蓮、ちょっといい?」
その声に、俺は驚きつつも振り返った。そこに立っていたのは、クラスで冷静さを保ち続ける佐藤 涼子だった。
風紀委員の彼女の表情は、いつも通り無表情で、どこか冷徹さを感じさせる。
「え、ああ、佐藤さん。どうした?」
涼子は一瞬、黙り込んだ。何かを言おうとしたのか、口元がわずかに動いたが、すぐに言葉が出てこない様子だった。その沈黙が、逆に不安を煽る。
「…少しだけ、話したいことがあるんだけど」
「うん?」
涼子の声は、いつも通り冷静で感情を抑えたもので、でもその裏には何か隠しているものがあるように感じた。
それはきっと、彼女が普段からあまり多くの人とコミュニケーションを取らないからだろう。
「…あの、オタク趣味のこと」
涼子が、やっと口を開いた。だが、その言葉の後には沈黙が続く。
普段なら、あっけらかんと話しそうな内容でも、涼子にはすごく不自然に感じられる。明らかに緊張している。
「うん、どうした?」
「いや、別に…なんでもない」
涼子は小さく首を振って、また言葉を探すように口を閉じた。
普段、理論的で冷徹な印象が強い涼子がこんなにも不安げに見えるのは、何かが違うからだ。
「…もしかして、オタクのこと、嫌い?」
俺は思わず質問してしまった。涼子は、しばらく黙っていたが、やがてほんの少しだけ顔を上げた。
「嫌いじゃない。でも、私は…普通にできないから」
その言葉に、俺はなんだか胸が締めつけられるような気がした。涼子が何を言いたいのか、少しずつ理解できた気がした。
彼女は自分の中で、他人とどう接していいか分からず、無理に自分を押し殺している。
「…ああ、オタクの話をしたいんだろ?」
「うん、でも、なんか…難しくて」
涼子は、また言葉を途切れさせる。彼女が言いたいことは分かるけれど、それを伝えるのはとても苦手なんだろう。
普段の冷徹さとは裏腹に、彼女にはコミュニケーションに対する大きな壁がある。
「まあ、別に無理しなくても大丈夫だよ」
俺は、無理に続けさせないように、軽く言った。涼子は何も言わず、ただ小さく頷いた。
そして、しばらく沈黙が続いた後、彼女は小さく呟いた。
「…ありがとう」
その一言に、俺は少し驚きつつも、心の中でほっと息をついた。
涼子は、普段は冷徹で無表情なイメージが強いけれど、その裏にはこんなにも繊細な部分がある。言葉をうまく使えなくても、彼女なりの感謝の気持ちが、少しだけ垣間見えた瞬間だった。
その後、涼子は静かにその場を去っていった。彼女が去った後、俺はふと考える。
涼子は、やっぱり冷徹で、どこか距離を置いている。
でも、彼女には何か深い理由があるのだろうと感じた。
あの日を境に、たまに涼子と一緒に帰ることが多くなった。