表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

第11話:「※それは知略、それは無垢(後編:静かな共犯関係のはじまり)」

その日の放課後の教室。


誰もいなくなった教室の窓際に腰をかけ、

山本結衣は校内チャットアプリをそっと開いた。


画面に並ぶ“公式”連絡用スレッド。

その中で、彼女は一通だけメッセージを打ち込む。


「……さっきはありがと。答えは、どっちでもいいよ」


宛先は、蓮。


送信ボタンを押したあと、

彼女はスマホを机に置き、別のスマホを取り出す。



もう一つの、“現実よりもリアルな世界”に接続する端末。


アプリを立ち上げ、

グループ作成画面に進む。


[招待] misu_clari_55

[招待] tkm_soccer27

[招待] ryoko_gen_ai

[招待] …


……[招待] 東條玲央 → ✕(未選択)


指が、ふっと止まる。


「……“壊す”って、こういうことから始まるんだよね」


グループ名:「#Rebuild」

一瞬、入力を迷ったが、すぐにピン留めを選んだ。


それは、静かな共犯関係のはじまりだった。


---



──通知音だけが、静かに灯る。


夕焼け色に染まった校舎のどこかで。

誰にも知られず、“指先”だけがつながっていた。


---


[21:34] yui_3jsb_luv:

おっ?なんかやってるねー


──山本結衣は、軽く流すようなテンションでグルチャを立ち上げた。

けれどその内側には、静かな決意があった。


---


[21:34] misu_clari_55:

…なにこれ。ちょっと緊張感ある?


──西村美鈴は、譜面台の横にスマホを置き、クラリネットを磨いていた。

今日、自分の音が誰かに届いたことを思い出しながら。


---


[21:35] ryoko_gen_ai:

うん、でも私たちで決めたことだし。


──佐藤涼子は部室の隅でタブレットを閉じ、深呼吸。

“守られる側”から、“支える側”へ。意識が静かに切り替わっていた。


---


[21:35] tkm_soccer27:

ってか、グルチャ名w「#Rebuild」って誰がつけた?


──藤井拓真はトレーニングマットの上でスマホを持ち直す。

くだけたように見える言葉の裏には、ずっと見守っていた親友への想いがあった。


---


[21:35] yui_3jsb_luv:

あたしだが?笑

“再構築”、イマドキでよくない?


---


[21:36] ryoko_gen_ai:

かっこいいと思う…(ほんとに)


---


[21:37] misu_clari_55:

やっぱり、蓮くんにはまだ…?


──少しの不安と、でも信じたい気持ちが混ざった問い。


---


[21:37] tkm_soccer27:

今回はナシ。本人が選ぶまで、見守る。


---


[21:38] yui_3jsb_luv:

そ。外から動かすだけ。今の彼は、中心にいるのに、まだ気づいてない。


──“自覚のない主役”。

でもだからこそ、今は“支える誰か”が必要だと結衣は思っていた。


---


[21:38] ryoko_gen_ai:

…それでも、届くと信じてる。あの人の、真ん中に。


---


[21:39] misu_clari_55:

“音”で支える。

それが、私にできることだから。


──その指は、まだほんの少し震えていた。

けれど、今日よりも明日へ向かう意志だけは、まっすぐにあった。


---


[21:40] tkm_soccer27:

ま、俺はいつでも出るよ。蹴りの一発くらい。


---


[21:40] yui_3jsb_luv:

やめい笑

でも、ありがとう。みんなの温度が嬉しい。


---


[21:41] ryoko_gen_ai:

わたしたちは、“彼を守るため”じゃない。

“自分たちで進むため”に、ここにいるんだよね。


---


[21:42] yui_3jsb_luv:

──なら、もう始めよう。

#地位協定は、壊す。


---


\[system message] グループ名「#Rebuild」がピン留めされました。

この夜、秩序の綻びは、目に見えぬ場所から始まっていた。


---


 


──夕方の部活終わり、帰宅後の部屋。


西村美鈴は、クラリネットのキーをクロスで丁寧に拭いていた。

楽器をしまうには、まだ少しだけ早い。


夕方の空気がほんのり残る窓の外。

今日という一日が、ようやく身体に馴染んできた頃だった。

 


(野中くん……少しだけ、前を向けてた)

 


吹いた音が、彼の心に届いたかどうかはわからない。

でも、拍手があった。

それだけで、もう十分だった。


机の上に置いたスマホが、静かに光る。

画面には、新しく作られたグループチャット【#Rebuild】。

自分の名前が、そこにあった。

 


(“その場にいる”って、こんなにあったかいんだ)

 


「……また、吹こう。

今度は、誰かに聴かれても、ちゃんと笑えるように」


リードケースを閉じ、軽く息をついたそのとき。

 


「美鈴〜、ごはんできたよー」


「うん、今行くね」

 


クラリネットのケースを、静かにカチリと閉じる。

ひとつ区切りがついた気がした。


 


---


──同じころ、山本結衣は自室にいた。


カーディガンの袖口を少し伸ばして、スマホを指でなぞる。


画面に表示されたのは、【#Rebuild】。

ピン留めされた通知が、ぽつんと灯っていた。


 

蓮には伝えていない。

あえて、伝えない。


でもこの“場所”は、

彼のために、そして自分たちのために作ったものだ。



(蓮くんが、選ばないままでも――

私たちは、ちゃんと“選んでる”から)



階下から、母の声が届く。


「結衣ー、ごはんできてるわよー」


「はーい、今行く〜」



スマホを伏せて、ベッドの上に放った。

今日のことを反芻するように、ふっと笑う。

 


「さ、「俺たちの戦いはこれからだ…!」ってね」

 


誰に言うでもなく、誰に聞かせるでもなく。

でも、その声はちゃんと、胸の中に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ