↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/21

第9.5話:「※それでも、空はつながっていた(後編:音にならなかった恋のかけらたち)」

別の日


駅前のファーストフード店。

1階の窓際、並んで座るふたりの姿があった。

涼子と、拓真。


ポテトを分け合いながら、笑っている。

聞こえないけど、たぶん、他愛ない会話だ。

店の中は温かくて、明るくて、

ふたりの距離はごく自然だった。


蓮はその前を通りかかる。

視線が、ふと交差しかける――

けれど、ふたりは気づかない。


彼は、何も言わず、足を止めることなくそのまま歩き去った。


(いいよな、ああやって並んで笑えるって)


⸻


夕暮れの公園。

街の喧騒から外れたベンチに、ふたりの影。


制服の少年がたい焼きを一口かじる。

隣の少女は、もうひとつの包みを手に取り、

無言のまま、それを口元へ運ぶ。


赤いペンで「Y」と書かれた包装紙。

少年はその文字を見ないように、

そっと指先で端を折った。


会話は一切なかった。

けれど、その動きはどこか慣れていて、

いくつかの季節をまたいだような空気が、そこにあった。


ふたりの名前は、誰も知らない。

でも――たしかに“秘密”が、そこにあった。


⸻


電車の接近を知らせるアナウンスが流れる中、

駅のベンチに並んで座るふたり。


玲央はスマホを見つめていた。

結衣は、ジュースのストローを静かに回している。


「今のあなた、どこ見てるの?」


そう問いかけた結衣に、玲央は目線を上げた。

だけど、答えはなかった。


「じゃあ、私は“自分の目”で見ることにする」

「未来、かな」


その言葉に、玲央のスマホが微かに震えた。

画面には――「野中 蓮」の検索履歴。


交わらなかった言葉が、確かにふたりを分けていた。


⸻


蓮は、帰り道の歩行者信号の前で立ち止まっていた。

青は点滅を始めていたけれど、渡る気にはなれなかった。


向こう側に誰かがいた気がした。

けれど、次の瞬間には、もういなかった。


やがて赤に変わる。

音もなく、蓮はその場に立ち尽くした。


(呼ばれなかった、誰にも)


そして、再び青になったとき、

彼は歩き出した。

足音だけが、やけに遠くまで響いていた。


⸻


窓の外、星がひとつ光っていた。


美鈴は机の上にクラリネットを置き、

リードを丁寧に拭いていた。


今日、吹奏楽部の練習はなかった。

でも、楽器にはうっすらと湿り気が残っている。


ひとりきりの音。

誰のためでもなく――

でも、きっと“たったひとり”の誰かに届けたくて。


それは音にはならなかった。

けれど、たしかにそこに“気持ち”はあった。


⸻

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。