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第9.5話:「※それでも、空はつながっていた(後編:音にならなかった恋のかけらたち)」

別の日


駅前のファーストフード店。

1階の窓際、並んで座るふたりの姿があった。

涼子と、拓真。


ポテトを分け合いながら、笑っている。

聞こえないけど、たぶん、他愛ない会話だ。

店の中は温かくて、明るくて、

ふたりの距離はごく自然だった。


蓮はその前を通りかかる。

視線が、ふと交差しかける――

けれど、ふたりは気づかない。


彼は、何も言わず、足を止めることなくそのまま歩き去った。


(いいよな、ああやって並んで笑えるって)



夕暮れの公園。

街の喧騒から外れたベンチに、ふたりの影。


制服の少年がたい焼きを一口かじる。

隣の少女は、もうひとつの包みを手に取り、

無言のまま、それを口元へ運ぶ。


赤いペンで「Y」と書かれた包装紙。

少年はその文字を見ないように、

そっと指先で端を折った。


会話は一切なかった。

けれど、その動きはどこか慣れていて、

いくつかの季節をまたいだような空気が、そこにあった。


ふたりの名前は、誰も知らない。

でも――たしかに“秘密”が、そこにあった。



電車の接近を知らせるアナウンスが流れる中、

駅のベンチに並んで座るふたり。


玲央はスマホを見つめていた。

結衣は、ジュースのストローを静かに回している。


「今のあなた、どこ見てるの?」


そう問いかけた結衣に、玲央は目線を上げた。

だけど、答えはなかった。


「じゃあ、私は“自分の目”で見ることにする」

「未来、かな」


その言葉に、玲央のスマホが微かに震えた。

画面には――「野中 蓮」の検索履歴。


交わらなかった言葉が、確かにふたりを分けていた。



蓮は、帰り道の歩行者信号の前で立ち止まっていた。

青は点滅を始めていたけれど、渡る気にはなれなかった。


向こう側に誰かがいた気がした。

けれど、次の瞬間には、もういなかった。


やがて赤に変わる。

音もなく、蓮はその場に立ち尽くした。


(呼ばれなかった、誰にも)


そして、再び青になったとき、

彼は歩き出した。

足音だけが、やけに遠くまで響いていた。



窓の外、星がひとつ光っていた。


美鈴は机の上にクラリネットを置き、

リードを丁寧に拭いていた。


今日、吹奏楽部の練習はなかった。

でも、楽器にはうっすらと湿り気が残っている。


ひとりきりの音。

誰のためでもなく――

でも、きっと“たったひとり”の誰かに届けたくて。


それは音にはならなかった。

けれど、たしかにそこに“気持ち”はあった。


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