リヒリアニスの『指輪の返還』
XのTLで見かけたとあるコンテストの要項が、なかなかの難題で興味を引いたので、挑戦してみました
(そのコンテストに応募はしません)
その要項は以下の通り
・1000文字以内
・伝統的ファンタジーの文脈に則っている
・大喜利・一発ネタではなく、広がりがある
・幻想小説である
私の技量でどこまでクリアできるだろうか? という腕試しの短編です
特に評価は求めませんが、コメントや感想などで
・コンテストの主旨に沿っているか
・伝統的ファンタジーの文脈から逸脱しているか、いないか
・広がりはあるか
など、ご指摘いただけると嬉しいです
かつて神が世界を創造した時。
その全てを双子で創ったとされる。
光と闇、生と死、人間と魔物、男と女、善と悪、愛と憎しみといった具合に、万物は一対ずつ生み出された。
ゆえにこの世界は『オポシタムジェミナス』と皮肉られている。
※
ある時。
リヒリアニスと名乗る男がアーリの村を訪れた。
アーリの村は、『神の御座』として崇拝されたウイヤホロス山の麓にあり、巡礼者の宿場町として賑い、簡易の礼拝所があったことから聖地とまで囃された。
しかし百年前に起こった厄災によって、ウイヤホロス山は『魔境』へと変じ、寂れて村にまで落ちぶれた。
その厄災は一組の男女の悲恋が引き起こしたものだ。
二人は幼い頃から睦まじく、早くから婚姻の誓いを交わしていた。
しかし娘は神官の子であったから、年頃になると遠くの貴族に娶られる話が舞い込んだ。
方や男の仕事は引き馬の世話係で、地位も財力もない。
だが二人の誓いは堅く、ウイヤホロス山へと駆け落ちした。
これに怒った貴族は引き連れていた兵士を山へ向かわせ、翌朝、憔悴した娘を連れて国へ帰っていった。
男は行方知れずとなり、その頃から神々しかったウイヤホロス山は禍々しい黒い靄に包まれ、山へ入った者は一人も帰って来なくなった。
伝承を語って聞かせた老婆は引き止めるつもりで
「行くのかい?」
と問うたが、リヒリアニスは躊躇いなく「もちろん」
と応じてウイヤホロス山へ足を向けた。
※
山中は黒い靄が陽の光を遮り、松明をかざしても十歩先しか照らさない。
木々は干からびて黒く、土も消し炭の様に踏み心地悪い音を立て、靄に触れた肌は心なしか痒くて寒気がする。
松明を五本取り替えた頃。
頂き付近に祠を見付けた。
同時に、祠の傍らにゆらりと蠢く影も目に入った。
その瞬間に影の一部が鞭のように伸びて襲ってきたが、松明を投げつけてかわし、腰から祝福の光あふれる剣を抜いて構え叫んだ。
「デニー・クラブ! 私の顔を見よ! そしてこの指輪を思い出せ!」
リヒリアニスが叫ぶと、影は動きを止め、掲げられた指輪を凝視した。
「……フラウスの、子孫、か?」
「孫にあたる」
「……俺の孫、か?」
「祖母の遺言だ。指輪だけでも共に、と」
リヒリアニスが告げると、影は呪縛を解かれたように霧散し靄に紛れた。
この後、ウイヤホロス山の靄は徐々に晴れたという。
※
これが双子の兄王ライハリオンの命を受け、世界安寧の闘いに身を投じた王弟リヒリアニスの最初の任務『指輪の返還』である。
(2025/02/17、加筆修正を行いました)
お読みいただき、ありがとうございました!
『やれるかな? まぁやってみるか』の体当たりでした
ありがとうございました!