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第二話:最底辺の転生生活

桜井エリカは、銀座での買い物を終えた帰り道、元使用人の田代に襲われて命を落とした――はずだった。しかし、目を覚ました彼女がいたのは見知らぬ場所。粗末な木造のベッドに横たわり、周囲には古びた家具が並ぶ部屋。見覚えのない光景に、エリカは困惑しつつも、自分の姿を確認する。


「……何これ、私の体じゃない……!」


エリカの身体は、これまでの華やかな生活を物語る美しい姿とは程遠く、黒髪の貧相な少女のものに変わっていた。鏡に映るのは「ミリア」という名前の少女。しかも、彼女は魔力が少ない「無力族」とよばれる最底辺の貴族の娘だった。


「最底辺? ……冗談じゃないわ!こんな生活、耐えられない!」


エリカが怒りと混乱を抱えていると、部屋のドアがゆっくりと開き、年老いた使用人が現れた。


「ミリアお嬢様、朝食の時間でございます。旦那様と奥様がお待ちです。」


「……はあ、分かったわ。」


エリカは仕方なく、使用人に促されるまま食堂へ向かう。



-----


食堂に着くと、簡素なテーブルに父のロナルドと母のキャロラインが座っていた。質素な朝食が並ぶ光景を見て、エリカは軽く眉をひそめる。


「おはようございます、お父様、お母様。」


エリカは普段通りに見せようと努めて挨拶したが、声がどこか堂々としていて、これまでの控えめなミリアの態度とは異なっていた。それに気づいた両親は何も言わなかったが、互いに目を合わせて軽く首をかしげた。


「さあ、座りなさい。冷める前に食べるんだ。」


父ロナルドの促しでエリカは席に着き、質素なスープとパンを口に運ぶ。


「……これだけ?」


思わず声に出してしまう。

父ロナルドが何か言ったか?という目線を向けてきたのでエリカは慌てて言い直す。


「いえ、なんでもないわ。いただきます。」


母キャロラインは不思議そうにエリカを見つめたが、「最近お疲れなのかしら」と呟くのみだった。

「これが思春期か…」とロナルドも心配する様子を見せる。


-----


朝食を終え、エリカは自分の部屋に戻った。そこには古い本がいくつか積まれており、その中に「アウストリア王国の歴史」という本を見つけた。


「……えーと、この世界は『アウストリア王国』で、強力な魔法を使える者ほど高貴とされる、と。」


また、ミリアの家系である「フォン・エルステッド家」のことも本には記されていた。

"「フォン・エルステッド家」は、かつてはアウストリア王国でも名の知れた魔法の名家だった。その歴史は古く、祖先は王家に匹敵するほどの膨大な魔力を誇り、強力な魔法を自在に操ることで戦争や国の繁栄に大きく貢献してきた。しかし、時代の流れとともにその力は衰え始め、次第に家の評価も低下していった。

「魔力は血統によって継承される」というこの世界の法則の中で、フォン・エルステッド家の魔力は代を重ねるごとに薄れていき、今では最底辺の貴族にまで没落していた。"


本を読み進めるエリカは、いかにミリアの家が最底辺であるかを改めて思い知らされた。


「最底辺の貴族……って、どんだけ不運なのよ!まぁそのへんの農民よりはいいけれど…」


ため息をつきながらふと目を横にやると部屋の隅に古びた魔導書があった。そこには魔法の仕組みや基礎的な呪文の記載もあった。


「ふーん、魔法は精神集中と詠唱で発動するのね。まぁ、元々賢い私なら、すぐに覚えられるはずよ。」


そう自信満々に呟き、部屋の隅にあった他の古びた魔導書を何冊か手に取った。呪文はやや難解だったが、エリカは「これぐらい簡単よ」と軽く考え、そのまま庭に向かうことにした。



-----


庭に出たエリカは、小さな火の魔法を試してみることにした。


「確か、ここに集中して、こう詠唱すれば……」


手を前に差し出し、呪文を唱えると、ぽっと手のひらに小さな火が生まれた。


「やった!できたじゃない!」


しかし次の瞬間、その火が急激に膨れ上がり、エリカの制御を離れて爆発を起こした。


「……え、ちょ、待って!」


轟音と共に庭の一部が吹き飛び、煙が立ち上る。エリカは思わず後ずさり、地面に尻もちをついた。



-----


爆発音を聞きつけたロナルドとキャロラインが慌てて庭に飛び出してきた。


「ミリア!何があったんだ!?」


「大丈夫なの!?怪我はない!?」


両親は心配そうに駆け寄るが、エリカは必死に笑顔を作りながら立ち上がった。


「あ、あはは……ちょっと魔法の練習をしてただけよ。ちょっと失敗しちゃっただけ。」


その言葉に両親は唖然としたが、エリカの無事を確認して一旦安堵の表情を浮かべた。


「魔法の練習か……危ないことをするなよ。」


「そうよ、無理はしないで。」


しかし、近くにいた使用人だけは何かを察したようにエリカをじっと見つめていた。その鋭い視線にエリカは少し不安を覚えたが、特に何も言われなかったため気にしないことにした。



-----


エリカは部屋に戻り、爆発の原因を考え込んだ。


「何これ……明らかに魔力の量がおかしいでしょ。最底辺貴族で無力族なんて呼ばれてるのに…でも、どうしてこんなに多いのかしら?」

「早く最強魔法をマスターして最上級貴族になりたい…」


元の世界での贅沢三昧の生活を思い返すが、実はその生活で自然と魔力が蓄積されす尋常ではない魔力量になっているなんて本人も含め誰も気が付かなかった。


「まぁいいわ。とにかく、この魔力があれば、この世界でも贅沢三昧できるはずよ!」


エリカは楽観的に結論を出し、再び魔法の練習を始めることを決意した。

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