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第一話:わがまま令嬢、転生す

転生しようそうしよう


「今日は私、1人で買い物に行くわ。夕方まで予定があるから、迎えは夜の9時にしてちょうだい。」

桜井エリカは、大理石が敷き詰められた広々としたリビングで紅茶を飲みながら、使用人に命令を下した。


「かしこまりました、お嬢様。車の準備をいたします。」

「お願いね。あと、買い物の荷物は郵送するように手配しておいて。私が持つ必要なんてないでしょう?」

「承知しました。」


エリカは、日本有数の総合商社「桜井グループ」の社長令嬢だ。絵に描いたような裕福な家庭に生まれ育ち、幼少期から「何でも思い通りになる人生」を歩んできた。広大な敷地を持つ大豪邸には専属の料理人、庭師、メイド、運転手が常駐し、エリカはそれが当然の生活だと思っている。


「わたくしの人生に、不便や妥協なんてあり得ないわ。」

彼女は紅茶のカップをテーブルに置くと、優雅に立ち上がった。


------


黒塗りの高級車が、銀座の一等地に到着する。運転手がすぐにドアを開けると、エリカは颯爽と車から降り立った。


「それじゃあ、夜9時にまたここで迎えに来てちょうだい。」

「かしこまりました、お嬢様。」


エリカはハイヒールの音を響かせながら高級ブランド店が立ち並ぶ通りへ歩き出した。


エリカが次々と訪れるのは、どれも名の知れた高級店ばかり。バッグやジュエリー、靴などを片っ端から試着しては、気に入ったものを選び出していく。


「これとこれ、それからあっちのバッグも全部ちょうだい。」

「かしこまりました、お嬢様。お支払いは……?」

「ブラックカードで。」


エリカは慣れた手つきで財布からブラックカードを差し出す。すでに限度額を気にする必要などなく、これもまた彼女にとっては当たり前の光景だった。


「郵送はいつもの住所にお願いね。私が持ち歩くなんてあり得ないから。」

「承知いたしました。」


買い物を終えるたびに、商品はエリカの家に郵送されるように手配され、彼女自身は手ぶらのまま通りを歩く。その堂々とした様子に周囲の客たちは呆れつつも、彼女のオーラに圧倒されていた。


「ふふ、やっぱり買い物は最高ね。今日もいいものばかり揃ったわ。」

エリカは満足げに笑みを浮かべ、次の店へと向かった。



-----


時刻は夜8時半を回り、銀座の街並みも少しずつ静けさを帯び始めていた。エリカはショッピングを満喫し、軽くカフェで休憩を取るつもりで近道の路地を歩いていた。


その時、ふと背後に気配を感じる。振り向くと、そこには汚れたジャケットを羽織った中年の男が立っていた。


「……誰?」

エリカは眉をひそめた。男の顔をじっと見ると、どこかで見覚えがあるような気がした。


「まさか……あんた、私の家で働いてた……田代じゃない。」

「ようやく思い出したか。俺だよ、田代だ。」


田代――かつて桜井家で庭師として働いていた男。エリカがまだ中学生だった頃、庭の植木が気に入らないという理由で彼を解雇したことを思い出した。


「そうよ、あなた。あの時、私の植木を台無しにしたからクビにしたのよね。」

「台無しにした? 違うだろうが! お前が勝手に『気に入らない』って理由で俺を追い出したんだ!」


田代の目は怒りに燃えていた。エリカは怯えそうになる気持ちを抑えつつ、毅然とした態度で言い返した。

「それが何よ? 仕事ができない人間に価値なんてないの。クビになったのはあなたが悪いんでしょ。」


その言葉に、田代の怒りは頂点に達する。そして――


「お前みたいな金持ちのお嬢様が、俺の人生を踏みにじったんだ。その報いを受けてもらう!」


田代がナイフを取り出し、振り上げた瞬間、エリカの胸に鋭い痛みが走る。



-----


次に目を覚ますと、そこは見覚えのない石造りの天井だった。


「ここ……どこ?」


エリカは周囲を見回し、驚愕した。自分が眠っていたのは薄汚れた木のベッドで、部屋全体は狭く、質素な作りだった。


「えっ……夢?」


鏡を見ると、そこには金髪で美しい令嬢の姿ではなく、痩せて地味な少女が映っていた――いや、これが自分なのだと気づいた瞬間、彼女の頭に異世界の記憶が流れ込んでくる。


エリカ――いや、ミリアという少女として転生したことを理解した彼女は、この世界が「魔法の強さで階級が決まる世界」であること、そして自分が最底辺の「無力族」と呼ばれる存在だということを知る。


「ふざけないでよ! なんで私がこんな目に遭うのよ!」


しかし、これしきで折れるエリカではなかった。豪華な生活を取り戻すため、彼女はある決意を固める。


「いいわ。絶対にこの世界でも勝ち組になってみせる!」

「絶対に妥協なんてしないんだから!!」


こうして、エリカの波乱万丈な異世界生活が幕を開けるのだった。



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