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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第4章ー青年冒険編ー
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これは認められる彼の物語


 「ゼェ、ハァ」と息を切らしながら、前線2人を探すフリッガ。


「どう見ても俺の方が数が多いだろ!」

 

「ネームドの分裂は1体分だろ! 合計数は俺の方が上だぜ!」


 「ねぇ、2人共」とフリッガが声を掛けるも、白熱した彼等の耳には全く届いてない。

 深い溜息を洩らした魔法使いは、マゼンタとアギルマーの首根っこを掴んで、ヒポグリフの足止めをするヤカブの(もと)へと彼等を無理に引っ張った。


 ――――――――――――――――――――


 『盾使い(シールダー)』のヤカブは、他の役職よりも基礎体力が多く設定されている。

 加えて、彼は平原地の上限レベルを優に超えている為、エリアボスの『ヒポグリフ』の攻撃など痛くも痒くも無かった。


「遅れてごめんねぇ」


 フリッガのおっとりとした声へ振り返ったヤカブは、お互いのHPを減らし合う仲間を見て目を丸くした。

 彼等への心配なのか呆れなのか。

 無口な彼の意思は表に出なかったが、どちらにせよ困っている事に変わりはない。

 一足先に、焦った様子のヤカブに気が付いたのは、彼との付き合いが最も長いアギルマーだった。


「おっ! ヒポグリフ見つけてんじゃん! チャンスだぜ最年少」


 マゼンタの背中を前へと押しやったアギルマーは、「自分で倒せよ」と保護者目線で命令した。

 アギルマーは口も態度の悪い男だったが、腐ってもパーティのリーダー。

 目的を違えず、ダンジョン攻略に協力の意を見せた。

 急に態度を変えた彼へ驚いたマゼンタは、挙動不審になりつつも双刀を構える。

 青年はしっかりと両足を踏み締め、木刀を外へと振りながら薙ぎ攻撃を繰り出した。


 ――スッ――


 木刀はモンスターの重心を捕らえて風を裂く。

 フリッガは青年の滑らかな動きに見惚れ、「上手い……」と感嘆の声を漏らした。


 ――ガギン!――


 だが、その攻撃はヒポグリフの(ひづめ)に跳ね返された。

 思いがけぬ衝撃に、木刀へのダメージを軽減するべく武器を手放したマゼンタは、モンスターから目線を外す。

 

「翼狙え! 飛び上がるぞ!」


 戦いを見守っていたアギルマーは、焦った様子で忠告と共に槍を構えた。

 リーダーの行動に釣られて、フリッガとヤカブも各々武器を掲げる。

 それよりも早く、木刀を拾おうとしていたマゼンタは、反射的にヒポグリフ目掛けて一刀を投げ込んだ。


「ヒヒイイイイン!」


 飛び上がり直後に横っ腹を貫かれたモンスターは、悲痛を叫びながらも徐々に高度を上げる。

 魔法杖を上げたフリッガに対して「必要ねぇ!」と叫んだマゼンタは、一目散にヒポグリフの(もと)へと駆け出した。

 マゼンタの鼓動が加速する。

 好敵手に興奮冷めやらぬ彼の視界は狭まり、周りなど見えていない様子だった。


「クラウ! 逃げられるぞ、うおっ!」


 アギルマーは肩に掛かる負荷で、槍の先を地面へと落とした。

 パーティの中で最も背の高い男を踏み台にしたマゼンタは、自身の背丈の3倍は跳び上がる。

 「バッ!」と、マゼンタがヒポグリフへと獅噛(しが)みついた。

 モンスターは重みでバランスを崩しながらも、その場から離脱しようと翼を羽ばたかせる。


「くっ、近寄れねぇ! フリッガ! 彼奴(あいつ)を巻き込まずに()けるか!?」


「風に流されてフレイムの制御が効かないよぉ! どうしよぉ!」


 鷲の翼から巻き上がる旋風(せんぷう)が、魔力を帯びて裂傷性を増す。

 炎魔法は風へ流され、遥か上空へと離散した。

 地上で3人が慌てふためく中、マゼンタは目の前のモンスターへと意識を集中していた。

 胴体へと刺さったままの木刀が、風の影響で少しずつヒポグリフの傷口を広げている。

 流れる血液と減少するヒポグリフのHPが比例関係にあると踏んだマゼンタは、胴体に刺さった木刀へと手を伸ばしたが届かない。

 そもそも、ヒポグリフに(つか)まった状態の彼が、木刀を抜くのは困難だ。

 もし仮に、木刀を両手で引き抜いてしまったら、そのまま落下死するに違いない。


「飛ぶな! こん野郎!」

 

 マゼンタは羽根を鷲掴みし、風切羽(かざきりばね)を捻り取ってモンスターの飛行能力を奪った。

 ヒポグリフは「キキキッ!」と、甲高い悲鳴を上げてマゼンタを振り落とそうと抵抗を示す。


「おい! 高度が下がってるぜ!」


 ヒポグリフを言葉で煽ったマゼンタは、発言とは裏腹に肝を冷やしている。

 両腕は()(ほど)かれ、右手の力だけでなんとか食らい付いている彼に、次の手を考える時間はない。

 生きるか死ぬかの攻防戦に、胸を高鳴らせた青年は白い歯を見せて「へへっ」と強気に笑った。


「どっちが先に倒れるか勝負しようぜ」


 マゼンタはタイミングを見計らって、モンスターの背中を掴んでいた手を離した。

 落下する青年の手の平は、ヒポグリフの脇腹に刺さった木刀へと近寄る。


「ッ! 届けぇ!」


 木刀の(つか)にマゼンタの右手が重なった。

 彼は目を「カッ」と開き、ヒポグリフへ背を向ける形で木刀を引っこ抜いた。


「ギャアアアア!」


 ヒポグリフは先程よりも大きな悲鳴を上げ、血飛沫をマゼンタへと撒き散らした。

 敵へ致命傷を与えたマゼンタだったが、依然、落下死を避ける術はない。

 それに加えて、ヒポグリフから手を離したことで、彼はモンスターよりも下に位置している。

 場合によっては下敷きになる事も考えねばなるまい。


「使えるスキルねぇかな……」


 ようやく事態の悪化を把握した彼は、落下中にも関わらず冒険者カードを取り出した。

 レベルの上昇で覚えたスキルは『オブストラクション』と『コレクト』。

 『オブストラクション』は、気配を消して盗みを働くのにお(あつら)()きの能力だが、今は必要無いだろう。

 となると、現状を打破するには『コレクト』を使うしかない。

 小さな物を寄せるだけの簡素な能力で、マゼンタが窮地(きゅうち)を脱せるとは到底思えなかった。


「ヤカブの盾を(かご)みたいにしてさぁ」

 

「いや、お前のどてっぱらで跳ねさせようぜ!」


 嫌に緊張感の無い2人の会話を耳にしたマゼンタは、地上側へと目線を向ける。

 彼が眺めた草原には、一部カラフルな場所が存在した。

 それは、スライムの群生だった。

 誰からも忘れ去られた白猫が、スライムに囲まれた状態で草原へと腰を下ろしている。

 

「コレクト、コレクト、コレクト」


 地表まで残り5m程に差し迫った所で、マゼンタはスキルを発動した。

 磁石へ寄せられる様に移動した1体のスライムが、彼の体を「ポヨン」と横へと弾いた。

 そして、1体、また1体と数を増やし、総勢30体のスライムがマゼンタの進行方向を僅かに変えた。

 ヒポグリフの下部から脱したマゼンタは、横へ流れる力を利用して受け身の体勢を取る。


 ――ドンッ! ズザザザッ――


 落下音と二の腕で地面を擦る音が響き渡る。

 遅れて「ドシャン!」と、ヒポグリフが頭から地面へと衝突した。

 失った血液と脇腹の致命傷。

 それに加えて、頭部を強打したヒポグリフのHPは殆ど残っていない。

 ヒポグリフのHP表示を見たマゼンタは、アドレナリンによる興奮状態で立ち上がり、木刀をヒポグリフの首へ向かって振り下ろした。


 ――ザシュッ――


 木刀から発せられたのは、予想よりも軽い音だった。

 首の落ちる前に絶命したヒポグリフは、早々に粒子へと変わり、亡骸の代わりに小さな木箱を残す。

 その変化を見下ろしながら腰へ木刀を仕舞ったマゼンタは、拳を「ギュッ」と握って喜んだ。


「……よっし、倒した」


 初めてのエリアボス討伐にしては、薄い反応だろう。

 自身の戦闘に多くの反省点を見出した青年は、眉間に皴を寄せてもう1つの武器を求めて「フラフラ」と歩みを進めた。

 初撃を防がれ武器を零し、危険を承知の上で力尽(ちからず)くの手段に出た。

 己の不甲斐なさに溜め息を吐きながら、武器を拾い上げたマゼンタの体が、アギルマーの手によって地上から数㎝浮いた。

 

「凄いじゃねぇか! クラウ!」

 

「1人で倒しちゃうなんてぇ! 僕たちの出る幕無かったよぉ!」


 アギルマーはマゼンタの腰を持ち上げて、フリッガは感動のあまり涙目になっている。

 やたらと「ガシャガシャ」物音を立てて不可思議な動きをするヤカブは、全身で喜びを表現している様子だ。

 体を強張らせたマゼンタの反応の薄さを前に、苛立ちを覚えたアギルマーは鼻を啜って両腕に力を入れた。


 ――バンッ!――


「よく聞け! 普通の冒険者は、1人じゃエリアボスを討伐出来ねぇんだ。俺達は、お前が半ベソ掻いて助けを乞うと思ってたぜ!」


 雑にマゼンタの体を地面へ放り投げた彼は、人差し指をマゼンタの鼻に当てて偉そうな態度を取る。


「んだのに、無茶しやがって! お前最高だな!」


「はぁ……。そう、なのか?」


 青年を貶して褒めるアギルマーは嬉しそうに「ニカッ」と笑うが、その評価を素直に受け取れないマゼンタは目をパチクリさせている。

 転げたまま呆然とするマゼンタの足元へ、ヤカブがヒポグリフからドロップした木箱をそっと置いた。


「これ、何なんだ? ……あ、そういやディミトリが、アイテムが云々(うんぬん)言ってたっけか」


 手の平サイズの木箱を開けたマゼンタは、その中にある羽根と鉱石を取り出した。

 鉱石は地上で倒した兎の獣のコアと似通っていたが、あの時見た物より色が濃い。

 真緑(まみどり)の宝石は小指の爪程度の大きさで、以前の物より価値は無さそうだった。


「ヒポグリフの羽根と風の魔石だねぇ。羽翼(うよく)は出なかったかぁ」


 声のトーンを落としたフリッガに釣られて、アギルマーも「残念だったな」とマゼンタの肩を叩いた。

 ヒポグリフのドロップ品は、ギルドで換金が可能だとフリッガが説明を始める。

 

「上位素材だったら武器の作成に使えるけど、下位素材は市場へ卸すのがベターだねぇ」


「へぇ、そうなんだ。なあ、こっちの鉱石は手元に残してぇんだけど、仮に、売ったら(いく)らになるんだ?」


 シロを盗み見しつつ、あわよくば当面の活動資金へ回したいと考えるマゼンタ。

 「んなもん、金になんねぇよ」と答えたのは、冒険者カードを開示したアギルマーだった。

 彼のステータスが一瞬表示され、すぐに対象の映像へと切り替わる。


「魔石は冒険者カードに(かざ)すんだよ。図鑑登録出来りゃあ他に使い道もねぇしポイだな。2体目以降は登録すら必要ねぇし。ただのゴミだぜ」


 画面をスライドさせたアギルマーは、ヒポグリフの項目で画面を拡大した。

 

 ――――――――――――――――――――

 

 ヒポグリフ【討伐推奨レベル10】

 個体レベル8~?

 属性:風属性

 特徴:逃げ足が速く、戦闘より離脱を優先する。

 弱点:後ろ脚の付け根に魔力中枢があり、火属性魔法でダウンが可能。

 形態変化:????


 ――――――――――――――――――――


「そっかー。討伐後に弱点が分かるってむず痒いな」


 魔石を自分のカードへと登録したマゼンタは、1人孤立しているシロへと魔石を手渡した。

 それを受け取ったシロは「ジッ」と、マゼンタの鎖骨辺りを見つめている。


「ん? 何か付いてます?」


「いや、痛く無いのかなって」


 短い会話を終えたマゼンタは、そこで自分の怪我を自覚した。

 受け身の衝撃を一身に受けた右肩から下側が、真っ青に腫れ上がり、腕の関節が捻じれている。

 途端に、電気が流れる様な痛みに襲われた青年は、「ギャアッ」と叫びながらその場へと倒れ込んだ。


「やっぱ、あれ(いて)ぇんだな」


「平気そうな顔してたから、分かんなかったねぇ」


 呑気な2人は、ほのぼのとした雰囲気を(かも)し出している。

 唯一マゼンタを心配して駆け出したヤカブは、彼の全身に必要以上のポーションをぶちまけていた。


 ――――――――――――――――――――


 「ピロン」と、マゼンタの脳内で電子音が鳴った。

 レベル上昇を知らせる音に誘導され、冒険者カードを取り出した彼は、自身のレベルが15へ上がった事に歓喜した。


「おっ、魔法覚えてる! やっと戦闘の幅が増えるぜ」


 洞窟ダンジョンへと攻略地を変更したマゼンタは、レベル上げをしながらアイテム収集を行っていた。

 3人に教わって初めて素材収集の方法を知った青年は、それ以降、嬉々として薬草集めに専念している。

 しかし、立地が洞窟である事もあり、『斬撃』で取得できるアイテムは限られていた。

 その為、主な素材集めはヤカブが担当していた。

 ヤカブの職業である盾使い( シールダー)には、突撃の魔法『オンスロート』がある。

 盾を構えた突進を補助する魔法は『打撃』に位置する為、彼等の中で唯一鉱石の採掘が可能だった。

 マゼンタに付き合ってダンジョンへと潜っていたヤカブは、青年の喜ぶ声に釣られて両腕を上げた。

 無口な彼は言葉を補う様に、誰よりも身体で感情を表現しがちだった。


「随分と待たせちまったな。本来は13ありゃ良かったのに」


 申し訳なさそうに頬を掻くマゼンタの両肩に、手を「ガシャン」と置いたヤカブは「グッグッ」と何度も肩を押した。

 きっと彼は「気にするな」と言いたいのだろう。

 ヤカブの気遣いに笑顔で返したマゼンタは、アギルマーとフリッガに報告をしようと洞窟ダンジョンを離脱した。


 ――――――――――――――――――――


 これは認められる彼の物語。

 仲を深めた彼等4人が次に挑戦するは、ダンジョン内にある隠し要素だった。

次回更新は2026/02/22を予定しています

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