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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第4章ー青年冒険編ー
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これは辿る彼の物語


 何百㎞も馬車に揺られて村へと辿り着いた若い娘は、痛む臀部(でんぶ)(さす)りながら御者の頭を「ペシペシ」と叩いた。


「なにしてるのよ!さっさと宿に連れて行きなさい!」


「す、すみません。さっきの衝突で馬が機嫌を損ねてしまって……」


 娘は「はぁ?知らないわよ!」と、喚き散らしながら腕を組んで仁王立ちした。

 性格に合致したツインテールを揺らした彼女は、文句を言いつつも馬の回復を待つしかなかった。


 ――――――――――――――――――――

 

 マゼンタとシロの訪れた村の入り口には、直近に設置されたであろう色落ちの少ない看板が立て掛けられていた。

 

「クルンヴィッグがこの村で、こっちのリーラってのが俺達が元居た(とこ)ですね」


「うーん、随分と変わった街並みだ。底が見えない」


 看板を指差すマゼンタを他所に、シロの興味対象は村の作りにあった。

 それもそのはず、石壁に囲まれた村の大部分は下り坂になっており、枝分かれした小道は先日の洞穴を想起(そうき)させた。

 だが、各所にある松明の明かりで先が見えない程ではない。

 隠れ家風の薄暗い路地に人影は殆どなく、何処かの明かりで照らされた人のシルエットが時折見え隠れする程度だった。


「外観はデカかったが、中は人気(ひとけ)が極端に少ねぇな。人の数だけ見りゃ村ってのも納得だな」


「これだけ人の気配が散ってたら、現在地が分からなくなるね。一先(ひとま)ず、宿かギルドを探そう。詳細な地図があると良いね」


 文字だけの看板から得られる情報は少なく、それを無視したシロは一番広い道へと歩みを進めた。

 村は複雑に入り組んだ形状だったが、馬車の通る都合上、最低限の幅を担保(たんぽ)した道が随所に在った。

 実際に歩いてみると案外迷わぬもので、小道にさえ入らなければ迷子になる事も無さそうだ。


「なんか、さっきからグルグル回ってません?」


 なだらかな時計回りの下り坂を暫く進んだ後、マゼンタがシロに待ったを掛けた。

 前後を見た白猫は耳を傾げて、マゼンタへ「なに?」と不機嫌そうに返した。


「ぱっと見分かり辛いんですけど、ちょっと道が傾いてるなって……」


 自信の無さそうに語尾を濁らせたマゼンタは、身振り手振りで道沿いの建物が歪んでいると表現した。

 下り坂の影響で判別が難しいが、確かに建物が湾曲している。


「建物がごった返してるから気付かなかったよ。同じ所を歩いてるの?僕じゃ分かんないや」


「入口戻るか、誰かに聞きましょう? うん? ……あれ、どっから来たんだっけな」

 

 彼等は村に立ち入ってからずっと、大通りを下り続けている。

 一本道で迷う事は無いと思われたが、返しの付いた罠の様に張り巡らされた通りは、完全に2人の感覚を惑わせた。

 来た道を戻れば、見覚えのない道が姿を現す。

 分岐点ばかりの帰り道に頭を抱えたマゼンタは、何処かに人が居ないかと探し始めた。

 光に照らされた影を見つけた青年は「あ!」と声を上げ、その方向へと駆けて行く。

 だが、小道の先で人の姿を捕らえる事は叶わなかった。

 それどころか、大通りから外れた事で来た道を完全に見失ってしまう。


「方向感覚はある方だと思ってたんだがな」


「意図的に作られた罠なんだろうね。まぁ、最悪飛べば良いよ。板材の所なら壊して進める」


 次第に暗くなる村の空は、天然の岩肌や宙へ露出した建物、足場の為の板材で埋まっている。

 シロの言う通り、破壊すれば地上へと戻れるだろうが、マゼンタの良心の呵責がそれを許さなかった。


「下手に弄ったら他ん所まで壊れますよ。あと、俺は飛べません」


 平然と1人だけで脱出しようとしたシロの肩を強く掴んだマゼンタは、彼が逃げない事を確認して下り坂を進むことにした。

 上り坂で人を惑わせる道は、下りになると素直な一本道へと変貌する。

 「このまま罠にかかっても良いのか」と悩むマゼンタ。

 だが、そもそも悪意が有って村に来たわけでない彼は、「何とかなるだろう」と(たか)(くく)った。

 何十分も歩いた先、村の中心に当たる場所には、サーカステントの様な円状の建物が数軒立ち並んでいた。

 テントの布を張る(ひも)がお互いを支え合い、蜘蛛の糸みたいに天井を覆い尽くしている。


「すっげぇ……カラフルで綺麗だな」


「ごちゃごちゃしてるだけでしょ」


 幻想的な風景を見た2人の意見は纏まりがなく、お互い違和感を感じた様子だったが、テント内から現れた団体を見た事で話題が一転した。


「シロさんシロさん!冒険者だ!冒険者!」


「うるさいな。君、記号の悪い癖ばっかり似て来てない?」


 肩を強く揺さぶられたシロは、無抵抗ながらに文句を垂れる。

 彼の指摘で「ハッ」としたマゼンタは、浮足立つ感情を抑えつつ、極めて冷静にテントの入り口を目指した。

 だが、ニマニマと上がる口角は、隠そうにも隠しきれていない。

 テント内は砂利がそのまま地面として敷かれており、ドーム状の壁に沿う形で受付や簡易的な保管庫、道具屋が立ち並んでいた。

 中央部には1枚の大きな立て看板があり、正面と裏側にびっしりとクエストが張りだされている。

 ぎこちない笑みを浮かべるマゼンタに営業スマイルで返した受付嬢は、慣れた手つきでギルド登録の手続きを進めた。

 

「――と、この様に冒険者カードの角を埋めます。あとはカードの指示に従って行ってください」


 冒険者カードは長方形では無く、角の2辺が欠けた形になっている。

 その欠けた角に沿う様に、緑色の三角板が嵌め込まれた。

 1辺を残したカードは三角形のギルドカードを認証して、設定画面へと切り替わった。

 ギルド内の注意事項を読み終わり、名称設定に進んだマゼンタは「あれ?」と呟く。


「すみません。なんか、名前弾かれるんですけど」


 手を挙げたマゼンタは、受付嬢へとその画面を共有した。

 エラー画面を見た彼女は暫く間を置いて、違う名前を選択する様に指示した。


「冒険者カードに実名は登録できないんです。主神へ御身を捧げ、真名(まな)を差し出す事でダンジョンへの道が拓けるんですよ」


「え?名前を差し出す?」


 偽名を語った者は、膨大な魔力を神に奪われる。

 それは、地上に住む人間ならば知っていて当然の常識であり、神への冒涜は許されるべきでない。

 目を泳がせたマゼンタは、隣で淡々(たんたん)と名前を入力するシロを盗み見た。


「ん?ああ、僕は元々愛称だし。君も愛称を考えたら?マゼ、マズ、マゼン?」


「……どれも嫌ですね。真名を登録したいんですけど、どうしても無理なんですか?」


 受付嬢は困り眉で「これも神の思し召しですよ」と、罪では無い事を強調する。

 肩を落としたマゼンタを不憫に思ったシロは、「ねぇ」と肩を「ツンツン」と突いた。


「クラウにしたら?妖刀も君の一部なんでしょ?」


「ハッ!確かに!シロさん天才ですね!」


 元気を取り戻したマゼンタは、嬉々として登録画面へ『クラウ』と入力した。

 そんな青年の視線の端で、ガラスの様な揺らぎが生じた。

 「なんだろう」と顔を上げた青年の正面には、100分の1サイズの『ヘルツ結晶(シュムック)』が置かれていた。

 受付嬢曰く、それは中継地点らしい。

 マゼンタは彼女の言葉を深く理解せず、言われたままに結晶へ血液と魔力を流した。


「お疲れさまでした、以上で登録完了です。ダンジョンへ繋がる魔法陣はあちらの建物に。クエストは中央のボードから受注してください。各用紙の右下にある紋章へギルドカード部を翳すとクエスト情報を確認できますよ。では、良い冒険者ライフを」


 お決まりのセリフを言い終えた受付嬢は、笑顔を潜めて通常業務へと戻って行った。

 その変貌に若干引きつつ、マゼンタはクエストボードへと吸い込まれた。


「うわっこの紋章かっけぇ!どれから受けよう?うお!これヤバくね?首多すぎだろ。シロさん!ヒュドラ討伐受けましょう!」


「適正レベルとか書いて無いの?まずは平原地のモンスターから手を付けようよ」


 シロの言葉は、マゼンタの耳へは届いてない。

 夢にまで見た冒険者ライフを目の前にぶら下げられた青年は、白猫の発言を無視してギルドカード部分をクエスト用紙へと重ねた。

 冒険者カードへクエストの詳細が表示されるも、マゼンタは生返事と同じ要領でさっさと決定を押してしまう。


「ダンジョン用の魔法陣はあっちの建物だよな!行きましょう!」


「僕、こっちのスライム受けたい」


 シロの呟きを流したマゼンタは、彼の手を引いて宝石の装飾が施されたテントへと移動した。

 テント内には魔法陣特有の魔力が漂い、発動中の五芒星は淡い光を放っている。

 左右に整列した魔法陣の背面には、目的地別にギルド側の用意したイメージ画が壁掛けされていた。

 草本(そうほん)植物の自生する平原地や、鬱蒼(うっそう)としたジャングル。

 海の広がる海岸地や、岩肌ばかりの洞窟。

 マゼンタの立ち止まった魔法陣の後ろには、火山の噴火する荒れ地が描かれていた。


「絶対終盤に攻略するダンジョンじゃん」


 ゲーム脳を携えたシロがマゼンタの先導に抵抗を示すも、青年は力強く彼を引っ張った。

 魔法陣内へ足を踏み入れた2人は、白い視界に包まれて浮遊感を得た。

 転移魔法の感覚に慣れている青年達は、何食わぬ顔で転移先へと辿り着いた。

 視界に広がるのは、イメージ画とは比べ物にならない迫力のある火山地帯。

 噴火し続ける火山の影響で、地面が揺れ続ける。

 だが、火山流は一切流れて来ない。

 自然現象と乖離した世界を前に、だんまりを決め込んだシロは飛び上がって各所を観察した。


「シロさん!サラマンダーだってさ!近寄ると名前が見えます!」


 はしゃぐ青年は、近くを通り過ぎようとした小さなトカゲへと木刀を振り被った。

 しかし、木刀は「キンッ」と音を鳴らして、サラマンダーに弾かれてしまう。

 サラマンダーへ表示されたHPに変動はなく、首を傾げた青年は再びモンスターへと斬り掛かった。

 「キンッ、キンッ」と幾度と攻撃をするも、サラマンダーはマゼンタへ興味すら示さない。


「なんで!HP減らねぇんだよ!」


 文句を言いつつ、連撃を止めないマゼンタ。

 執拗にサラマンダーを攻撃し続けた彼は、遂にモンスターへ1のダメージを与えた。

 『critical(クリティカル)』の文字表示と同時に、目の色を変えたサラマンダーがマゼンタへ向けて火を噴いた。


「うえっ!?」

 

水玉珠(アクアボム)


 シロの発動した水球に身を包まれたマゼンタは、火の粉でHPを100減らす骸骨戦士(スパルトイ)に一瞬だけ目を向けた。

 刹那の事だった。

 スパルトイの剣がサラマンダーを捕らえ、サラマンダーは粒子へと姿を変える。

 「ガシャガシャ」と骨身を鳴らして、マゼンタへグルリと向いたスパルトイは、叫ぶ様に口を大きく開けて水球へと剣を突き刺した。


「ねぇ、マゼンタ。僕はスライム倒しに行きたいんだけど」


「良い……提案だと……思います」


 水球の中で腰を抜かした青年は、目前に迫った切っ先へ目を剝いていた。


 ――――――――――――――――――――


 そもそも、火山地帯へ足を踏み入れた段階で熱さの影響により、徐々にHPを減らしていたとシロは語る。

 ステータスに気を配らなかった青年を一頻(ひとしき)り非難した白猫は今、スライムを両手に抱えてにこやかに笑っていた。


「ブニブニしてるよ。薬の材料になりそうだね」


 顔を青くしたマゼンタにスライムを差し出したシロは、楽しそうに「ふふっ」と微笑んだ。

 だが対照的に、スライムは恐怖で身を縮めている。

 「フルフル」と震えるスライムへ同情した青年は、その内の1体を摘まみ上げてヨーヨーの様に揺らした。


「こいつLv.3ですけど、大丈夫なんですか?」


 マゼンタはスライムを「ポンポン」叩きながらシロに問う。


「僕はリアルステータスのままだから」


「いや、そっちも最大体力5でしたよね」


 マゼンタが呆れたツッコミをしたタイミングで、ヨーヨー代わりのスライムが「ポンッ」と弾けて粒子へと成った。

 その粒子の一部がマゼンタの方へと向かい、「キラキラ」と全身を輝かせる。

 そして、マゼンタの頭の中だけでウィンドチャイムの音が鳴った。

 驚いた青年が「バッ」と周りを見るので、シロが平然と「ステータス見なよ」と言う。

 

「あ、盗賊レベル2に上がってる……」


「死体が消えるから鉱石取れないね。生きたまま解体しようか」


 スライムの中核にある真っ青な珠へ「グリグリ」と指を当てたシロは、爪で嫌がるモンスターの腹を裂いた。

 体が裂けた瞬間に、スライムは前述通り粒子へと姿を変える。

 それと同時にシロの視界には、冒険者カードからの警告が表示された。


鬱陶(うっとう)しいな。勝手にポケットから出ないでよ」


「シロさんもダンジョンステータスに変えましょう?」


 無駄になる経験値を顧みることなく、シロは近場のスライム達の腹を次々と(ひら)いていく。

 だが、どの個体も鉱石を残すことなく肉体を消滅させた。


「んー、もう少しレベルの高いモンスターで試すべきかな。骸骨の取っておけば良かった」


 シロは悩む素振りを見せて、マゼンタと目を合わせる。

 青年に無茶をするなと言った矢先、自分だけ先へ進むべきでないと思った白猫は、軽く目を伏せて心地よい草原を見渡した。


「すぐに辿り着くだろうし、焦らなくてもいいか」


「?何の話です?」


 疑問符を浮かべてアホ面を晒す青年の鼻を摘まんだ白猫は、「なんでもないよ」と小さく笑った。


 ――――――――――――――――――――


 これは辿(たど)る彼の物語。

 シロの魔法で集められたモンスターを狩り尽くしたマゼンタは、ギルドへと戻り平原地のボスクエストを受注した。

次回更新は2026/02/08を予定しています

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