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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第4章ー青年冒険編ー
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これは巧妙な彼の物語


 煙の立ち込める兎の巣から身を乗り出したマゼンタは、「他に魔力反応が無いか」とシロに問うた。


「あるけど、これ以上は詮索(せんさく)しない方が良い」


 そう言い切ったシロを訝し気に思いながらも、彼を信じ切っているマゼンタは、すぐに小道へと降り立った。


 ――――――――――――――――――――

 

 洞穴を出たシロは、マゼンタの手に握られた淡い黄色の鉱石が気になるのか、ケモ耳を「ピクピク」と揺らしている。

 その様子に気が付いたマゼンタは、手のひらサイズの塊を白猫へと渡した。


「どうしたの?これ」


「兎の腹から出て来ました。戦闘後になるんですけど、俺なりに兎の弱点探してみたんですよ。生命活動が終わってるはずなのに、魔力が漏れ出してて、何かなって思ったらこれでした」


 シロはマゼンタの話に軽い相槌を打ちながら、その鉱石に魔力を通した。

 魔力は不思議とその鉱石に馴染む。

 外に溢れることなく「ドンドン」と魔力を吸収するので、シロは調子に乗って更に魔力の量を増やした。


 ――パリン――


「あ、割れた」

 

 魔力量に耐え兼ねた鉱石は呆気なく崩れ、砂状に変化して「サラサラ」と風に流される。

 手の平に残った粉状の鉱石を振り払ったシロは、マゼンタに両手を差し出した。


「残りも頂戴」


「え?ああ、はい。何で割れたんですかね?」


 マゼンタは首を傾げながら、残りの2つをシロへ手渡した。

 白猫は実験をする様に、2つの鉱石を宙へと浮かべた。


「僕の手から出てる魔力、見えるよね?」


「うん。左の人差し指から、一方にだけ伸びてますね」


 シロの指から伸びた魔力は、鉱石に当たって消滅している。


「魔力が急に消えたとは考え辛い。内部へ移動したと考えるのが妥当だろうね」


「魔力を吸収する物質ですか」


 シロは次に、対面に浮遊するもう1つの鉱石へ向けて、雷魔法を発動した。

 小さな雷の球体は、鉱石に「ツルン」といとも簡単に飲み込まれた。


「すげぇ!魔法を無効化出来るんですね!……使い所が多そうだな」


 鉱石の機能に感動したマゼンタは、シロと同じ様に魔力を鉱石に少しずつ流し始めた。

 しかし、反応の無いそれに苦笑いをして、すぐに手放した。


「もしかして、さっき割れたのって魔力を入れ過ぎた所為?あっぶねぇ壊すところだった」


「うん、過度に溜めると壊れるんだろうね。でも使える」


 「使える」と断言したシロが不敵な笑みを浮かべるのを、マゼンタは見逃さなかった。


「次からも、手に入れた鉱石は全部僕に頂戴ね」


「はい、勿論です」


 目の色を変えたシロに僅かな恐怖を感じた青年は、身震いをして自身の肩を抱いた。

 その様子を見た白猫は「失礼だな」と言いながら、鉱石を魔法陣の中へと仕舞い込んだ。


 ――――――――――――――――――――


 町と村を繋ぐ大通りから道を逸れた2人は、通りに戻る事を怠って森の中を進んだ。

 道中では、枝に刺さったままのハンモックや、腐敗した麻布が度々目に付く。

 洞穴の入り口と同じく、長年捨て置かれたであろう生活の跡は、その土地の栄枯盛衰を表していた。


「ここら辺、管理が杜撰(ずさん)ですね」


「利用者が減ったんだろうね」


 シロはそう言うと、少し黙り込んでそっと目を閉じた。

 足を止めた彼に習って立ち止まったマゼンタは、思案に耽る仲間を見守る。

 暫くして顔を上げたシロは、「仮定の話なんだけど――」と話し始めた。


「『異空ダンジョン』の先にある空間は、異なる時空じゃなくて地上。ギルドにある魔法陣は意図的に作られた転移魔法で、任意の地点に冒険者を運んでるんじゃないかな」


「でも、それならわざわざ異空ダンジョンなんて名乗りますかね?」


 神の力で作られた神秘的な場所を否定されたマゼンタは、「ムッ」となって強い口調で言い返した。


「利権でも絡んでるんじゃない?そうじゃなきゃ、洞穴にあんな威圧的な魔法陣組まないでしょ」


「魔法陣?」


 シロが洞穴を早々に切り上げた理由。

 マゼンタと兎の獣が戦闘したその先、洞穴の奥部へと続く道には、常人では生成できない複雑で巨大な魔法陣が組まれていたらしい。

 その事実を知った青年が「俺、気付けなかった……」と肩を落としたが、シロは「普通は分からない」と彼を擁護(ようご)した。


「僕が見たのですら円陣の一部だった。全貌を把握できれば属性も分かっただろうけど……。少なくとも、製作者は僕以上の魔法使いだろうね」


「いやいやいや、シロさん以上の魔法使いなんて存在しませんよ」


 仲間からの信頼の厚さを鼻で笑ったシロは、「それもそうだね」と嘲笑気味に返した。

 そして、先へ進もうと夕日を振り返ったマゼンタは、「あとどのくらいで目的地に着くか」とシロへと問う。


「んー、2日くらいだね」


「めちゃくちゃ遠いな!?」


 その日数が休み無しで走った場合だとマゼンタが知ったのは、荒れ地で倒れた2日目の昼時だった。


 ――――――――――――――――――――


 彼等が目的地に到着したのは、それから3日後の事だった。

 震える膝を道中で拾った木の枝で支えたマゼンタは、村の防壁を視界に収めた安堵から倒れ込む。

 見えたと言っても村までの距離はまだまだあるのだが、今までの道のりと比べれば、どうということは無い。

 休憩も取らず彼を先導していたシロは、青年の倒れる音で立ち止まった。

 白猫は汗1つ掻かず「ケロッ」とした態度で、遠くに見える村を指差した。


「村って言ってたけど意外と規模が大きいね。地方都市と言って差し支え無さそうだ」


「ゼェ……ハァ……み、見えないです」


 大量の汗で視界を滲ませて地面を這うマゼンタには、村の様子は分からない。

 そんな彼の代わりに、シロは見える範囲の情報を言い始めた。


「全体を囲う壁は2m規模の石造りだね。破壊は簡単そうだけど、無いよりはマシってレベルだ。見張り塔くらい建てたら良いのに」


「入口……ハァ……どの辺りにありますか?」


 シロの説明を無視する様に質問をしたマゼンタ。

 村との距離を気にするマゼンタへと振り向いたシロのジト目には、青年へ対する失望が含まれていた。


「はぁ……。過負荷(オーバーロード)は対象に重力を追加する魔法だよ」


「……あ!」


 溜め息から始まったその発言に戸惑いを向けたマゼンタは、そこでようやくシロの魔法が誰に使われているのか気付いた。

 普段より体力の消耗が激しいと感じていた青年は、それを気のせいだと片付けていたが、その実、彼には高負荷なデバフが与えられていた。

 マゼンタ自身気付いてはいないが、彼のスタミナは群を抜いて高い。

 数日山道を走ったくらいでは消費しきれない程強靭だからこそ、シロは負荷を掛けて彼を鍛えていた。

 

「物事を深く考えてって言ってるよね。調子が出ない時はまず周りを疑えって。敵がいつ何処で現れるか分からないでしょ?そもそも――」


 ネチネチとした毒を吐く白猫の説教からは、決して逃れられない。

 一歩でも逃げ出そうものなら、容赦ない魔法が追撃に来る。

 何度か経験した魔法トラップを横目に映したマゼンタは、彼の気が収まるまで誠心誠意叱責(しっせき)と向き合った。


「――だから、いつまでも僕の手を煩わせないで」


「はい、反省してます。……あの、門越えるまでもう一度掛けて下さい。今度はもっと負荷を増やして良いんで、体で覚えて、次は絶対に気付いてみせます」


 シロの毒舌もさることながら、マゼンタの真っ直ぐな態度も健在だ。

 キラキラと輝く青年の瞳に怯んだ白猫は「じゃあ競争」と、そっぽを向いて駆け出した。


「うっ!ハハッ!卑怯ですよ!」


「そう?丁度いいハンデでしょ」


 全身に重く圧し掛かる重力でバランスを崩したマゼンタは、苦しい声を上げつつも自身を奮い立てる為に口角を上げた。

 シロの背中は遠く離れ、声が届かぬ場所にあった。

 だが、村の入り口までは更に距離がある。

 青年は「よし!」と強く頬を叩き、一気に加速するとあっという間にシロの横に並んだ。


「……もう少し荷重を掛けるべきだったか」


「いやっ!十分重いんすよ!?ってか抜けねぇ……」


 マゼンタが追い抜こうと(りき)むも、歩幅を調節するシロの姑息な行動の前では、つま先1つ抜けない。

 そうこうしているうちに、堀を飛び越えたシロが村の防壁へ指先を触れた。


「はい。僕の勝ち」


「ハァ……ハァ……こんの負けず嫌い……」


 大人げなくも鼻歌交じりで勝利宣言をする白猫を「キッ」と睨んだマゼンタは、乱れた心を落ち着けるべく深呼吸をした。

 改めて石壁を見上げた青年は「簡単に飛び越えられそうだな」と考える。

 その思考を読み取ったのか、シロが嬉々として壁の上を指す手を上下に振った。


「流石に不法侵入は不味いでしょ」


「門まで回るの面倒じゃない?」


 数m先の跳ね橋を「チラ」と見たシロが鼻を鳴らす。


「道中に比べりゃめちゃくちゃ近いです。行きましょう」


 村の跳ね橋は馬車が一台通れる程度の小さな造りで、2人が訪れた時には行き交う馬車の片方が堀へと脱輪していた。


「お前が道を譲らなかったからだ!」

「出る方が先だろう!?」


 口論する御者(ぎょしゃ)達と、頭を抱えた商人が道を塞いでいる。

 商品の無事を確認したい商人は、斜めで停止している荷台に乗り込もうと、無茶な体勢で身を乗り出した。

 歩を速めたマゼンタは「俺が持ち上げますよ」と、堀へ頭を吸い込まれそうになっていた商人の襟を掴んで持ち上げた。


「中に人乗ってますかね?揺れに注意してください!」


 マゼンタは商人と御者が離れた事を確認すると、3トンはありそうな荷台を持ち上げた。

 馬車の全体が浮いた事で馬が「ヒヒン」と高い声で鳴いたが、すぐに暴れた脚を地面へと垂らす。

 橋に負荷が掛らぬ様に村の外へ馬車を置いたマゼンタは、一息吐いて額の汗を拭った。


「ななな……あ、ありがとうございます」


「ああ、どういたしまして。中の物壊れてないと良いんだが……」


 荷台を覗き込んだマゼンタは、小さな子供と目が合った。

 どうやら、荷台には商人の息子が乗っていたらしい。

 モチモチの肌に短い指先は、彼が十代にもなっていないと物語る。

 だが、その小さな腕は商人の息子らしく、しっかりと高価な荷物を握っていた。

 マゼンタの怪力に恐れ(おのの)く親とは対照的に、青年を上から下へと眺めて価値を吟味した少年は、「パッ」と作り笑顔を瞬時に展開した。


「ありがとう!お兄ちゃん!荷物は大丈夫。それより名前教えてよ!俺はディミトリ!」


「ああ、無事で何よりだ。俺はマゼンタ。冒険者になる為に他世界から来たんだ。よろしくな」


 ディミトリの胡散臭い挨拶を疑う素振りも無く、マゼンタは正直に名乗りを上げた。

 だが、少年はマゼンタの言葉に引っ掛かりを覚えたのか、作り笑顔を数秒仕舞い込む。

 真顔になった少年の前で「大丈夫か?」と手を振るマゼンタは、頭でも打ったのかと心配げだ。

 一方、ディミトリは平静を取り戻して、マゼンタの腰へと抱き付いた。


「お兄ちゃん!ダンジョンアイテム手に入れたら、絶対父さんの所に(おろ)してね」


「え?ああ、善処するぜ」


 マゼンタが気まずそうに商人へと振り返ると、彼も同じ様に困り顔で頬を掻いていた。

 だが、商人である彼は、息子の捕まえた顧客をむざむざ逃がす事もしなかった。


「私、エンドリックと申します。各地でダンジョンアイテムを取り扱う商売をしておりまして――」


 頭に帯状の布を巻いた男は、マゼンタから離れない息子の頭へと手を添えた。


「エンドリック商会の名の付く店へ卸して頂ければ、色をお付けしましょう。息子と商品を助けて頂いたお礼です」


「そうか、助かる」


 まんまと彼等に捕まったマゼンタは、彼等の腹の内も知らずに笑顔でそう答えた。

 言質(げんち)を取ったディミトリは「ニコニコ」と笑って、口を大きく開けて「やった!」と大喜びだ。

 可愛らしい少年と内気な商人へと手を振って、別れを告げたマゼンタ。

 彼とは対照的に、白猫は不機嫌そうだった。


「……鉱石は僕のだからね」


「あ、それで不服そうなんですね」


 腕を組んで「プンプン」と怒る白猫を連れて、村へと立ち入ったマゼンタは、思いの外規模の大きい街並みに感嘆の声を漏らした。


 ――――――――――――――――――――


 これは巧妙な彼の物語。

 お人好しなマゼンタは、鉱石を求めるシロと貪欲な商人の息子に、搾取される未来を気付けないでいた。

次回更新は2026/02/01を予定しています

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