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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第4章ー青年冒険編ー
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これは選択する彼の物語


 グレン一行が8番目の世界(アンダス)を訪れた目的は余りにも不明確だ。

 「クラヴェル国王の思惑通りに事を運びたくない」と、我儘を通そうとするグレンは冒険者家業に一切の興味がない。

 その裏を行くように、彼女と不仲な青年は、嬉々として冒険者登録を終えようとしていた。


 ――――――――――――――――――――


 プリューフェンの羊皮紙を手順に沿って折り返したマゼンタは、神官の指示通りにそれをヘルツ結晶へと合わせた。

 宙へと浮く結晶は新たな羊皮紙の登録を認可し、1枚の冒険者カードを青年の手へ戻した。

 折った形と同じ様に対角が欠けたカードは、一見するとプラパンと相違ない。

 背景を透過する薄い板を天井へと掲げたマゼンタは、羊皮紙を名残惜しそうに振り返った。


「ステータス見えなくなっちまったな」


「個人の情報を守る為です。セキュリティコードを入力して、本人確認を行ってください」


 マゼンタの持つカードに表示されたのは、彼だけが答えを知る質問だった。

 

 『ゼノから託された使命は?』


 ゼノは彼の恩人であり、最初の師匠だ。

 リリィを護る師匠から与えられた使命は、彼の役目を継承する事。


 『リアスを護る事』


 迷いなく入力した画面からは、赤色の警告文が表示された。

 どうやらこれは、カードが望む答えでは無かった様だ。

 マゼンタは周りの目を気にしながら、恐る恐る()()を入力する。

 すると、警告文が緑色へと変化して消え去り、冒険者カードは彼を所有者と認めた。


「どんな情報が追記されたの?僕からは見えないんだけど」


 マゼンタの後ろから覗き込んだシロは、透明なカードを指差してそう言った。

 青年は動揺を隠しながら、改めてステータスの疑問点を述べる。


「いや、あのさ。ずっと足りない気がしてた感情って、『愛』だったんだなって改めて思いまして」


 頬を掻いて笑った青年は、シロにステータス開示の許可を出した。


「ん?職業選択画面になってるよ」


「あっ本当だ」


 冒険者カード登録後、一番初めに提示される職業選択。

 そこには剣士(フェンサー)魔法使い( ウィザード)などのメジャーな職業から、召喚士(サマナー)牧師(ブリーチャー)という珍しい職業も表示されていた。

 マゼンタが迷いなく武士(サムライ)へと手を伸ばすと、シロが待ったの声を掛けた。


「武士は刀使いの項目だよね。マゼンタの適正武器は剣でしょ?」


 シロの意見に「うっ」と息を詰まらせたマゼンタは、口をへの字に曲げながら眉に皴を寄せる。


「だって、ゼノさんも師匠も刀使いだし……。いや、分かってんですよ?妖刀も意識しなきゃ刀になってくんないし」


 そう言って取り出した妖刀・クラウは、形を迷いながらも剣として生成された。


「でも、最近動き辛さを感じる事があって、重心が前よりブレてるって師匠も言ってますし。シロさんも俺の戦い方に疑問があるんですよね?矯正すんなら刀を使いたいです」


 マゼンタが剣を正面へ突き出す。

 その動きを観察したシロは、「確かにブレてるね」と頷いて考え込んだ。


「マゼンタにその剣は軽すぎるんだろうね。重量は変えられないの?」


「試した事あるんですけど、突きで周りの物壊しちまってこっぴどく怒られました」


 ヤミの剣術を真似るのであれば、軸の保持は切っても切り離せない課題だった。

 身近な戦闘員で、誰よりも器用に立ち回る主の事を頭に浮かべたシロは、「マゼンタが嫌がるだろうな」と思いつつも提案をした。


「双刀使ってみない?グレンみたいな短剣じゃなくて普通の刀で」


「……くっ、そババアみたいに……」


 苦虫を嚙み潰したように顔を歪めたマゼンタは、嫌々ながらも双刀が使えそうな役職を探す。

 職業一覧の詳細文を読み進めた青年は、ある項目で指を止めた。

 

「シロさん……双刀使い『盗賊(シーフ)』しか無いんですけど……」


 職業『盗賊(シーフ)

 装備可能武器:双刀・双剣・二丁拳銃

 職業効果:クリティカルアップ・防御力ダウン


「そっか、ならそれにしよう」


「俺は勇者みたいなカッコいい感じが良いんです!盗賊って……悪い人じゃないですか!」


 マゼンタは幼少の頃からずっと、勇者を憧れ続けている。

 羨望と現実の狭間に迷い込んだ青年は、「ううう」と唸りながらも現実へと人差し指を運んだ。

 透明な画面に指が触れる感覚はない。

 だが、指から広がる波紋は、彼の決定を受け入れていた。

 職業選択画面がその波の中に消え、ホーム画面にが表裏に分かれた。


「リアルステータスとダンジョンステータスに分かれましたね。確か、ダンジョンステータスは現実の1/10から始まるらしいですよ」


 名前:【未設定】

 職業:盗賊(シーフ)Lv.1

 武器:なし

 装備:なし

 属性:火(雷)

 固有魔法:集約

 HP:25/25

 MP:76(3720)/80(4200)

 STR:3/100

 ATK:4/100

 VIT:3↓/100

 DEF:2/100

 INT:3/100

 RES:2↓/100

 DEX:2/100

 AGI:5/100

 LUK:0/10

 CRI:1/10

 【スキル】

 なし

 【魔法】

 なし

 【状態異常】

 強欲の呪縛・感情喪失【愛】


 マゼンタの言う通り、ステータスの数値の下一桁が無くなっている。

 ただ、MPの一部は維持されたままだった。


「集約で集めた魔力は別でカウントか。名前はどっかのギルドで登録しないと駄目みたいですね」


「初めに行った所は避けるべきだろうね。近くに初心者用のギルドは……」


 シロが案内用紙を見つつ、数か所に指を合わせた。

 間近で推奨レベルが10以下のダンジョンを管理しているギルドは、エミールやボイド達と出会った施設の様だ。

 次に近い初心者用ギルドは、町を出て数百㎞先にある小さな村だ。


「少し歩くみたいだけど、面倒事を避けるならこっちが良いね。どうする?すぐにダンジョンへ挑戦したいんでしょ?」


 シロはマゼンタの意見を優先しようと質問を投げる。

 地図を覗いていた青年は、周りのひそひそ話を気にする素振りを見せ、シロへと向き直った。

 

「そうですね。田舎の方がシロさんへの偏見が少ないだろうし」


「ん?変わらないと思うけど」

 

 堂々と冒険者登録の手続きをする奴隷は、周りの人間から好奇の目に晒されてる。

 そんな視線を気にする事無く、自分の冒険者登録を終えたシロは、冒険者カードの表裏を変えながら遊んでいた。


「凄いね。向きを変えるだけで、ステータス状態がリアルとダンジョンに切り替わる。場所に依存しないなら、ダンジョン内でもリアルステータスで動けそうだね」


「でも、その分デバフが付くみたいですよ。魔力消費も10倍されるみたいだし、ダンジョンステータスのレベルが上がればリアルの方が不利になりますよ」


 マゼンタの言葉に「どうして?」と返したシロは、小さな風を巻き起こして青年の髪を揺らした。


「使える魔法が制限されない分、リアルが優勢でしょ。消費魔力が固定化された魔法なんて利用価値もない」


 シロは自身のステータスをマゼンタへと開示した。

 どうやら職業選択の恩恵で、既にスキルを1つ取得しているらしい。

 スキル欄にある『ゲイズ』という言葉の横には、消費魔力が5と書かれていた。

 だが、それよりも気になるのは、シロの選択した職業だった。


拳闘士(ファイター)……え!?拳闘士(ファイター)!?」


 驚くマゼンタから目線を逸らしたシロは、気恥ずかしそうに「モジモジ」と指で横髪を絡める。


「ステゴロに憧れるのは(さが)だと思う。僕だって拳で戦ってみたい」


 現実から離れて理想を叶えるのが、ダンジョンシステムの利点でもある。

 それを知ってか知らずか、シロはここぞと理想を選んでいた。

 現実の鍛錬を優先して職業を選んだマゼンタは、彼を羨ましがって奥歯を噛み締めた。

 だが、袖から覗くシロの白く細い腕を見た青年は、考えを改めて肩を落とす。


「シロさんの場合だと、魔法職選んでもメリットが無いんですね。……ところで、シロさんの体力ってどうなったんですか?」


「ああ、1だね。瀕死だ」


 ステータスの表示は切り捨て形式になっていたが、0になるほど鬼畜な使用でなく安心したのも束の間。

 今なら肩を叩くだけで死んでしまうのでは?

 という疑問がマゼンタの中で渦巻いて、彼はシロから執拗に距離を置くと、通り道にある小石をわざと外へと蹴り出した。

 このか弱い拳闘士(ファイター)を護って戦う決意をしたマゼンタは、「用事は済んだ」と教会を後にした。


 ――――――――――――――――――――


 村を目指す道すがら、武器屋で木刀を2本購入したマゼンタは、寂しくなった財布を見て「ブツブツ」と何やら考え込んでいる。

 軍資金はヤミに頼ればいくらでも出るだろうが、自力で冒険を楽しみたい彼は、どうやって金策を練るべきかと悩んでいた。


「僕の武器は買わなくて良かったのに……」


 両手に皮のグローブを装備したシロが小声で呟くと、マゼンタが勢いよく振り返った。


「武器にも防御力があるんですから!シロさんが死んじゃったら俺悲しみますよ!」


「縁起でもない事言うね」


 シロは今一度装備したグローブを見つめる。

 指先が露出したそれは、見た目に反してシロ自身の防御力よりも高い。

 DEF(防御力)が1→3へと変化した事を確認した彼は、冒険者カードをひっくり返した。

 そして、常時発動している魔法を成形し直した。


「あ、道を逸れた所に何か居るよ。動物より魔力が多いし、モンスターじゃ無いかな」


「マジ?どこですか?」


 シロが「あっち」と指差した先を目を細めて見たマゼンタは、「分かんないです」と叫びながら駆け出した。

 木々を避け、時には枝を掴んで最短距離を跳びながら走った先には、人が余裕で通れる規模の洞穴が在った。

 入口には長年放置されたテントが風化して、骨組みだけがその場に留まっている。

 砂だらけの木箱を漁ると、古い手記や割れた瓶が出て来た。


「んー、これじゃあ読めないな」


 ボロボロのページは読むに堪えず、内容は一切分からない。

 これ等が放置されたのは、気が遠くなる程昔なのだろう。

 マゼンタが他に当時の手掛かりが無いかと周りを探索していると、数分遅れで同行者が顔を覗かせた。


「洞穴、入らないの?」


「魔力反応の場所が分かんなくて、シロさんを待ってました。一本道じゃ無いですよね」


 入口は一見すると大きな空洞だが、田舎育ちのマゼンタは自然物が単純でない事を知っている。

 彼の発言通り、暗闇を暫く進むと複雑に道が枝分かれしていた。

 シロは迷いなく道を選択する。

 炎で周りを照らして進むマゼンタより、魔力感知のみで進む白猫の方がしっかりと地面を捉えていた。

 新たな分岐点で立ち止まったシロは、上方向を指差してマゼンタを誘導する。


「あそこの小さな穴の奥の先が空洞になってて、3つの魔力反応がある。動き的に兎かな」


「兎だけですか?こんなに規模の大きい洞穴なのに」


 少々不満げなマゼンタは「試し斬りして良いですか?」と、穴へ跳び乗ってからシロへと確認する。

 白猫は最初から戦う気が無いのか「好きにしなよ」と、近場の岩に腰掛けた。

 穴の先にはシロの言う通り、3体の兎が生息していた。

 真っ白な毛に赤い瞳。

 体長と同じ長さに伸びた一角は、どう見ても生活に支障がある。


「背後取れば簡単に倒せそうだな」


 木刀に纏わせた炎を消したマゼンタは、静かに穴から飛び降りた。

 落下の勢いを利用して、まずは1体仕留めようと双刀を下へ向ける。

 その最中、マゼンタは予想より長い落下時間に違和感を覚えた。


「!?待ってデカくない!?」


 青年の驚きを聞いた兎の獣は振り返り、マゼンタへと角を向けた。

 こうなると木刀が届くよりも先に、角が青年の体を貫通してしまう。

 炎を撒いて目眩(めくら)ましをしたマゼンタは、空中で妖刀を蹴って進行方向を変えた。

 それでも兎から距離を稼ぐことは叶わず、結果的に3体に囲まれた場所へと落下した。


「うわー、角だけで俺の身長越えてんじゃん」


 3方向から向けられた角が、マゼンタ目掛けて突き進んだ。

 兎がぴょんと一飛びしただけで、地面の岩が抉れる。

 威力は驚異的だが、予備動作を含めると速度は速くない。

 寧ろ、岩肌に隠れる余裕が出来たマゼンタは、その攻撃に感謝した。


「突き攻撃だけだと隙が多いんだな。ううっ、自分を見てるみたいで情けねぇ」


 角をスレスレで回避したマゼンタは、兎側の勢いを利用して双刀を目玉へ突き刺した。

 赤い瞳から青色の血飛沫を上げた兎は、よろけて仲間へと衝突した。

 2体がバランスを崩している最中、対面の兎が再び突きの予備動作を始める。


「小細工ばっかじゃ楽しくねぇよな!」


 木刀に炎を纏わせたマゼンタは火力を上げて、正面から角へと攻撃を仕掛けた。

 「キリキリ」と音を立てた角の先は徐々に丸みを帯び、衝撃に耐え兼ねたそれは真っ二つに折れた。


「ギュアアアア!」


「鳴き声キモッ!」


 自尊心を踏み(にじ)られた兎は叫び声を上げて、左右に頭を振る。

 そして運悪く、倒れ込んでいた仲間に折れた角が刺さり、1体目の討伐が完了した。

 経験値を確認しようとステータスを表示したマゼンタは、「ああ!」と声を上げた。


「ダンジョンステータスに変えんの忘れてた……」


 項垂れたマゼンタは、1体分の経験値を惜しみつつ、冒険者カードを裏返した。

 途端に、纏っていた木刀の炎が消える。


「やべっ!魔法使えなっ!」


 慌てて兎を振り返ったマゼンタが防御態勢を取るも、予想していた衝撃は来なかった。

 それもそのはず、目を突かれた兎は気を失い、角を折られた兎は角に刺さった仲間の重さで身動きが取れない。


「そっか、こっちのステータスじゃ魔法使えねぇのか。気を付けないとな」


 マゼンタは木刀を構え直し、斜めに倒れ込んだ兎の心臓部を一突きした。

 

「あれ?刺さらねぇ。これもステータスの所為か?」


 毛を斬るだけに留まった木刀を仕舞い込んだマゼンタは、妖刀を持ち出して同じ様に兎を攻撃した。

 今度は普段通り刃が通る。

 青い血液を全身に浴びた青年が目を擦って顔を上げると、冒険者カードが警告文を発していた。


『異空ダンジョン外での討伐は経験値が発生しません。焼却処分の後、感染症対策を講じてください』


「俺の経験値……」


 目尻に涙を浮かべたマゼンタは最後の1体を仕留めて、カードの指示通り兎の巣を焼き払った。


 ――――――――――――――――――――


 これは選択する彼の物語。

 マゼンタの初めての討伐は、無駄足に終わった。

1週間遅れの投稿失礼します。

先週はコロナに罹っていました。

今週から平常運転に戻ります。


次回更新は2026/01/25を予定しています

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