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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第4章ー青年冒険編ー
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これは怒る彼の物語


 彼等が世界を渡るのは、これで何度目だろうか。

 眠たそうに「うつらうつら」するグレンを、心配そうに見守るヤミは彼女がいつ倒れても良いように手を(かざ)す。

 転移特有の視界の揺らぎに慣れて来たマゼンタは、隣で転げそうになった記号の手を取った。

 その対面で同じ様に彼女を支えたシロは、キーツを心配して振り返る。

 キーツの体幹は思いの外強く、危なげなく地上へ降り立っていた。


 ――――――――――――――――――――


 世界同士を繋ぐ光の柱周辺を、ここまで装飾する世界も珍しい。

 ドーム状の石柱に、程良く草木が絡まり、自然と一体化している。

 各所にブランケットが乱雑に置かれているが、周りの花瓶や単色の置物達のおかげで、インテリアの(てい)を成していた。

 宙に浮かぶ燭台がマゼンタ達を感知し、暖色から寒色へと変化する。

 その信号を感知した関所の役員が、ひょっこりと姿を現した。


8番目の世界(アンダス)への訪問は初めてでしょうか。おや?2度目の方もいらっしゃいますね。ですが、初めての方が多い様なので、まとめて説明致しましょう」


 燭台の色を数え終えた役員が杖を振ると、鉄製の小さな装飾が4つ動き出し、上空にモニターを生成した。

 画面に映ったのは、冒険ガイドの序章。

 『8番目の世界(アンダス)』はダンジョン探索をメインに添えた世界性を持つ故に、外界からの訪問者が後を絶たない。

 異種族・異世界との交流が盛んな彼等は、外界からの訪問者に慣れている様子で、淡々と業務をこなした。


「観光目的でも冒険目的でも、まずは『プリューフェンの羊皮紙』取得をお勧めします。ステータスの開示、いわば『鑑定』と同じです。我が世界では、固有魔法無しでも個人がステータスを知る事が可能です」

 

 セピア色の地図が数か所光り、冒険者ギルドが強調される。

 そして、その内の1番近いギルドが更に拡大された。


「『冒険者ギルト』と呼ばれる役所には、ランクに応じてクエストが設けられています。羊皮紙の取得自体はどのギルドでも行っているので、何処を選ばれても問題ありませんが、上位ランクの依頼は、場所によって変動するのでご注意ください」


「冒険者ギルド……!」


 身を乗り出して画面に食い入っていたマゼンタは、その「キラキラ」とした瞳を役員へ向けた。

 目を輝かせた青年の圧に怯んだ役員は、備え付けのキャビネットから案内用紙を彼に手渡す。


「ここでの説明は全てこちらに記載しています。どうぞ気の向くままに冒険をお楽しみください」


 優しい役員に「ありがとう!」と叫びに似た感謝を述べたマゼンタは、シロの腕を引いて地図を頼りにギルドを目指した。

 町並みは自世界の王都(ユシルファ)と変わりなく感じられたが、各所にある鍛冶屋や防具屋の規模が段違いだった。

 各所を占有する専門店に、マゼンタは感嘆の声を漏らして、何処から見始めようかと目移りさせる。


「ここが……勇者の生まれた世界……!」


 彼の憧れる勇者は、この世界で生まれた。

 魔王を討伐した勇士ある青年を生み出した世界は、平和を手にした今でも雄々しく在り続けた。

 当時の様な各地を巡る冒険は出来ないものの、各所に設けられたダンジョンが世界の活気を維持する。

 「キョロキョロ」と観光客丸出しのマゼンタは、振り回したシロをすれ違った大柄な男性と衝突させてしまった。


「こん奴隷が!誰んぶつかっとんじゃ!」


 「ブン!」と風の音を上げながら、シロに有無も言わさず殴り掛かった男性は、ビクともしない腕に驚いてマゼンタの方を見た。

 体格差のある彼を容易く止めた青年は、彼を「キッ」と睨んでシロを背後に置く。


「ぶつけてごめんなさい。でも、いきなり殴ろうとすんなよ」


「……チッ。あー愛玩用か。悪かった」


 マゼンタとシロを見比べ、どこか納得した様子の男性。

 彼の発言に衝撃を受けたマゼンタが、返す言葉を探して口を「パクパク」している内に、相手はそそくさとその場を去って行った。


「えー僕、愛玩用なのー?」


 悔しさで拳を握っていたマゼンタにお道化てそう言ったのは、馬鹿にされた張本人だった。

 シロは()して気にした様子も無く、ギルドまで放心状態のマゼンタを連れて行く。

 通りの一角にある2階建ての錆びた建物へと足を踏み入れたシロは、野蛮な視線を捨て置いて、受付のあるカウンターを目指した。

 受付に立ったシロが「すみません」と、受付嬢に声を掛けたが返答はない。

 その態度に苛立ちを覚えるでもなく、無感情に彼女を凝視続けるシロだったが、それでも受付嬢は無視を続ける。


「えっと……ステータス確認したいんですけど……」


 シロの後ろから顔を出したマゼンタに気付いた受付嬢は、綺麗に微笑んで案内を開始した。


「はい。『プリューフェンの羊皮紙』は、こちらの用紙になります。未登録の用紙に魔力を流して頂くと登録が完了し、随時更新されるステータスを永続的に表示します。主な項目は属性と固有魔法。現在の体力や魔力も常に確認できますよ。羊皮紙は全て無料となっておりますが、再登録は銀貨1枚必要になりますので、無くさない様お願いします」

 

 急に態度を変えた彼女に違和感を感じつつも、説明を聞き終えたマゼンタは、渡された羊皮紙をシロへと配る。

 すると、困った様子の受付嬢が、溜め息交じりに説明を加えた。


「奴隷にステータスを確認する権利はありませんよ?使い捨ての奴隷に資源を回すだけ無駄ですから」


 人の良さそうな雰囲気のある彼女から、ごく自然に言い放たれた言葉。

 マゼンタは「はぁ?」とキレ気味に言い返して、机を「ダン!」と強く叩いて抗議した。


「何だよそれ!シロさんは俺の仲間だぞ!」


「で、ですが、奴隷のステータス確認は前例がなく……」


 マゼンタの拳で粉砕した木製のカウンターから距離を取った彼女は、他の受付嬢に助けを求める。

 

「冒険目的の奴隷登録でしたら承ります。レベル毎のステータス上昇なら確認が可能です」


 彼女よりベテランそうな女性が、マゼンタに説得を試みるも、青年の怒りは収まらなかった。

 受付嬢の2人は顔を見合わせて「コソコソ」と耳打ちを始める。

 おおよそ、面倒な客をどうあしらおうかと相談しているのだろう。

 怒りで肩の強張ったマゼンタを「ツンツン」突いたシロは、横に首を振ってアピールした。


「別に僕は要らないよ」


「ダーメ!絶対ダメ!シロさんは俺とパーティー組むんですから必須ですよ!一緒に最高ランク目指すんでしょ!」


 頑固なマゼンタの言葉に「目指した覚えがない」とシロが返す頃、彼等に一足遅れてグレン達が受付へと辿り着いた。

 「何騒いでんの?」と聞いたグレンに顛末を説明したシロは、彼女にマゼンタの説得を促した。


「ふーん。お前等、私の可愛い可愛いお猫様にケチつけんのか?」


 グレンがマゼンタ側に回ってしまった。

 今にも受付嬢へ掴み掛りそうな2人を宥めるシロは、「味方に付け」と記号へと目を遣る。

 だが、自由気ままな彼女はシロの意図を汲めず、「分かった!」と頷いてカウンターの内側へ侵入した。

 素早い彼女を捕まえようとした受付嬢は、用紙を並べた棚へぶつかり、資料を地面へとばら撒く。

 騒動を聞きつけた他の冒険者がマゼンタの腕を掴んだ瞬間、背中から床へ落ちた。

 マゼンタの怪力を見た他の冒険者が戦闘態勢に入り、剣を抜こうとしたので、それより先にグレンが武器を叩き落とす。

 すると、好戦的な新顔に喜んだ冒険者達が、一斉にグレンとマゼンタに畳み掛けた。

 殴る、蹴る、破壊する。

 何でもありの戦闘は規模を増し、ギルド外の人達にも騒動が伝わった。

 マゼンタは鼻血を垂らしながらも、次の相手に頭突きをして、掴まれた袖に構う事無く相手の杖を蹴り上げた。

 グレンが飛び乗ったシャンデリアは呆気なく地面へ落下し、周辺へガラスを撒き散らす。

 人々がそれに気を取られた隙に、彼女は双刀で相手の服を引っ掛け、倒れた椅子の脚に絡ませた。

 グレンが入り口付近で身動きの取れない彼等を嘲笑っていると、騒動を聞き付けた男性が頭を抱えて現れた。


「なんだぁなんだぁ!誰だ!?騒ぎ起こした奴は!」


 彼の傍にいたグレンは他人事の様に「知らん」と答えると、記号達に手招きをしてそそくさとその場を後にする。

 シロはそれに気付いて彼女へ付いて行こうとしたが、取り残されたマゼンタを(かえり)みて足を止めた。


「お前が暴れてんのか!ほら!動くな!」


 ボロボロな青年の頭を小突いた男性は、その首を腕で拘束して周りの冒険者達へ大剣を向けた。

 武器を見た冒険者達が一斉に眉唾を飲み、無抵抗を表す様に両手を上げた。


「ギルド内で喧嘩すんなっていつも言ってんだろ!ったく、面倒事ばっか増やしがやって!おい!暴れんな新顔!」


「はなっせ!先に手ぇ出したのはこいつ等だ!俺は悪くねぇ!」


 躾のなってない青年を、更に締め上げた男性。

 次の瞬間、彼は全身に流れた電撃で拘束を緩めてしまう。

 何事かと周りを見る男性の隣で、地面へと降り立ったマゼンタは首元を気にしながら距離を置いた。

 男性は素知らぬ顔をした半獣が犯人だとは思いもせず、自身の連れるパーティーを振り返った。


「おい!コレット!魔法を無意味に使うんじゃねぇ!」


「あら?何の事かしら?」


 色っぽい彼女のお道化た言葉に信用など無く、彼は仲間へと詰め寄った。

 大剣を背負った筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な茶髪の大男と、胸を(はだ)けた肩だしファッションの麗しい美女とでは、どちらが有利か一目瞭然だ。

 だが、シルクの袖で口元を隠した美女――コレットは、彼に怯む事なく「クスクス」と笑っている。

 

「そーんなに隙だらけだから、愛しの剣姫(けんき)に振り向いて貰えないのよ?ボイド」


「なっ……!今は関係ねぇだろ!?」


 図星を指された男性――ボイドは、口をあんぐりと開けて顔を真っ赤にする。

 その2人の会話に割り込む様に、丸々太ったカエルの上で大の字になった手足の長い細身の人が躍り出た。

 彼はうつ伏せのまま微動だにせず、ただカエルが地面から数㎝ぴょんぴょんと跳ねている。


「ぅおい!てめぇも文句あんならハッキリ言いやがれ!カール!」


 ボイドの大声でカエルが跳び上がり、慌てた素振りでギルドの出口を目指す。

 外へと跳び出す最中(さなか)、上に乗った細身の男性が地面へと振り落とされた。

 人々の視線は彼に向かう。

 否、彼等が見ているのは横たわった彼では無く、その隣で流し目をする小柄な青年だった。


「……報告は、終わりましたか?」


「「まっまだです!すぐに終わらせます!」」


 威勢の良かったボイドと踏ん反り返っていたコレットが、一様(いちよう)に慌てて受付へ向かう。

 その狼狽(ろうばい)()てられた冒険者達が囁き始めたのを、マゼンタとシロは聞き逃さなかった。


「本当だったんだな、エミール様がボイドさんとパーティー組んだって話」


「変わり者のカールまで仲間に入れて大丈夫なのか?まあ、あの2人じゃあコレットさんの食指(しょくし)は動かねぇだろうが……」


 話を聞く限り、彼等のボスはあの小柄な青年に違いない。

 マゼンタの目線に気付いたエミールは腕を組み、扉を塞ぐ形で片足を壁に合わせた。

 そのつま先が「プルプル」と震えている様子に目を奪われたマゼンタは、それを半笑いで指差す。


「ハハッ、足届いてねぇぞ。それにしても()()()のに大変だな。あんな大人達の面倒見させられて」


 ――マゼンタの軽口に、その場の空気が凍り付く。

 唖然とした冒険者が、マゼンタの腕を掴んで首を横へ「ブンブン」と振るも、何を伝えたいのかがハッキリとしない。

 そうしている内に、短い脚でマゼンタに距離を詰めたエミールが、頭の位置にあるマゼンタの襟を掴んで黒い笑みを浮かべた。


「誰が小さいって……?若造が舐めた口聞かないで下さい」


 エミールは冷たい目で辺りを見渡して、被害状態を確認した。

 そして、再びマゼンタへ視線を戻し、真剣な眼差しで彼を睨み付けた。


「各位!この者を捕らえなさい!ギルドを破壊した罪で実刑を与えます!」


「実刑!?俺は悪くねぇ!ってか建物壊したのは――」


 抵抗するマゼンタの言葉を遮る様に、「パァン!」と銃声が鳴り響いた。

 絡みついたベルトの様な拘束具でバランスを崩した青年は、それが発射された方向を見る。

 そこでは、発砲の反動で壁へ倒れ込んだ受付嬢が、マゼンタを恐れる様に涙目で震えていた。

 マゼンタへ絡むベルトは、そのバズーカ砲から発射されたものだと、先から漏れる煙が物語っている。


「――な……ま、りょくが……」


「マゼンタ!」


 力の抜ける感覚で視界を白黒させたマゼンタは、その場へと倒れ込む。

 シロは彼を支えるでもなく、その体へ手の平を当てて魔力を流し続けていた。


 ――――――――――――――――――――


 これは怒る彼の物語。

 捕らえられた青年2人は、国王の待つ城へと連行を余儀なくされた。

次回更新は2025/12/21を予定しています

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