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神様の自由帳  作者: ぼたもち
第3章ー傲慢奇襲編ー
56/64

これは平等な彼女の物語


 勇者一行が11番目の世界(ヴァレイク)の次に訪れた世界は、最も平穏と名高い4番目の世界(リィベ)だった。

 澄んだ空気に自然の多い城下町では、領主が平民と同じ目線で生活をしていた。


 ――――――――――――――――――――


 世界同士を結ぶ光の柱から歩み出たブル達を出迎えたのは、丸眼鏡を掛けた小柄な魔法使いだった。

 純白の彼女を一目見るなり、血相を変えたウルイナが勇者を押し退けて彼女の手を握る。


「ももっもしかして!『西の魔女』様ですかあああ!わわっ私っだいっっファンなんですうううう!」


 ウルイナに腕を「ブンブン」と振り回された魔女は、嫌な顔せず「そうだよ」と穏やかに答えた。

 そして、絹の様な(つや)のある三つ編みを揺らした彼女は、勇者達の道案内を申し出ると、背よりも高い白杖を振って道を照らす。

 日の落ちた時間だった事もあり、光に包まれた石畳(いしだたみ)が光を反射し、イルミネーションで彼等を歓迎した。


「どうぞこちらへ。宿を準備してるんだ」


 どこぞの姫君みたいな容姿に反して、彼女は少年っぽい言葉遣いで勇者達を先導した。

 ウルイナは道の装飾に目を奪われて右往左往し、その後ろを歩くブルは2階の窓から覗く子供達へ手を振っている。

 セルンが足元の壁画を模写始めたので、ラジスがその小さな肩を軽いて耳打ちをした。

 そんなこんなで、魔女の勧めの店で一息ついた彼等は、丸テーブルを囲む小柄な彼女に夢中で質問を投げる。


「あのあの~!魔女様って、どんな病気でも治療しちゃうんですよねー?聞くところによると……無償だとか」


 声を潜めたウルイナの下世話な質問を「こらこら」と諫めたブルは、ウルイナの前のめりを抑えて魔女へと笑い掛けた。


「まずは自己紹介とお礼が先でしょ?紹介が遅くなったが、僕はブル。長い間勇者を専任している。今回は憤怒の悪魔(サタン)を探す過程で、この世界へ寄ったんだ。ここに悪魔が滞在しているとは思い難いが、暫くの間調査をしたい。此度は、快く僕達を受け入れてくれてありがとう。それに、宿まで手配してくれて……本当に感謝するよ」


 重ねてお礼を言う礼儀正しい勇者に、礼節(れいせつ)ある態度で対応した魔女は、慈愛に満ちた空気を纏いながら柔らかく笑う。


「なに、感謝には及ばんよ。平和に一役買う勇者を無下にする奴は居らん。調査の協力は惜しまない。それは4番目の世界(リィベ)の総意だ」


 そう言い切った彼女は「おっと」と、忘れ掛けていた自己紹介を口早に話した。


「私はアル。西を代表する魔女などと大層な呼ばれ方をしているが、ただの町医者だよ。医療知識が必要な時は、いつでも頼ってくれ(たま)え」


 口調こそ強いものの、彼女は勇者一行に寄り添う姿勢の様だ。

 ここで、銀製の懐中時計を懐から取り出したアルは、慌てた様子で椅子を引く。


「夜間診療で暫く留守にする。帰るのは明日だろうから、分からない事は宿の者に聞いてくれ」


 部屋の隅に置いていた重量感のあるドクターバッグを持ち上げた彼女は、魔女帽子を扉へ擦りながら階段を駆け降りていく。


「お手伝い必要ですかー?」


 ウルイナが手摺(てすり)から身を乗り出して叫ぶと、足を止めたアルが振り返った。


「気遣いありがとう。急患は助手と対応するから人手は足りているよ。ゆっくり休んでくれ」


 止まった勢いで落としてしまった帽子を、杖の柄で器用に掬い上げた彼女は、そのまま暗闇の中へと消えて行った。


「はぁ……想像通りの良い方だなぁ……」


 手摺に肘を付いたウルイナは、うっとりと彼女の過ぎ去った道を眺めている。

 その後ろから、彼女の二の腕をセルンが「ツンツン」と突いた。


「景色の邪魔しないで」


「それは意地悪言葉だよ!セルン!」


 画家の辛辣な言葉で凍り付いたウルイナは、ラジスに宥められながら「トボトボ」と席へと戻る。

 スケッチを続けるセルンを背景に、机を囲った3人は宿の店主が用意した夜食に舌鼓(したづつみ)を打つ事にした。


「凄いよねーこんな時間も熱心に働いて。マジ尊敬!理想が過ぎるよ、アル様ー!」


 テーブルの下で足を「ブラブラ」揺らす彼女と対照的に、ブルは思い詰めた様子で並んだ食事を口に運んでいた。

 その様子が気になったラジスが、彼の取り皿にこれでもかと料理を盛る。

 彼の突起な行動に目を丸くしたブルは「ごめんね」と、謝りながらも腕で口元を隠して「クスクス」と笑う。


「んー。大したことじゃ無いんだけど……同じ魔女なのに、どうしてここまで違うのかなって思っちゃっただけだよ」


 一頻(ひとしき)り笑い終えた彼は、過去の出来事をつらつらと語った。


「僕は何度か『東の魔女』に会う機会があってね」


「東って、あの暴食の器でしたよね」


 憤怒の悪魔(サタン)に関連する話だと嗅ぎ付けるや否や、セルンは誰よりもブルの近くへ移動して話を聞く姿勢に移った。

 少年の勢いに気圧された勇者は、椅子を下げて彼から距離を取る。


「う、うん。彼女は『異質』と言う他無かったよ。僕の全身が彼女の存在を否定して、彼女の排除を急ごうとするんだ。……きっと()()が無ければ耐えられなかった」


「悪魔が関連しとるんじゃろう。アル殿からは、邪気を感じられんかった」


 ラジスの補足する言葉を明確に否定したブルは、「ケイは違う」と言葉を続けた。


「暴食を異質だと感じるなら、憤怒の方をより否定的に捉えると思う。もっとこう……本能だけが……。言葉にするのは難しいな」


 ブルの発言を聞きながら「スラスラ」と情景を描いたセルンが、彼等の前にスケッチブックを向けた。

 そこに描かれたイラストには、ブルのイメージと東西(とうざい)の魔女の性質がメモされている。

 そして、その隣のページには、美化された兄さんの肖像画があった。

 

「サタン様と暴食の妹は似通っていますが、違いは一目瞭然です」


 グレンに会ったこともないセルンだったが、その発言には妙に説得力がある。

 その理由はきっと、彼が自分の仮説を信じ切っているからだろう。


「『容姿』ですね!美しいサタン様と同じDNAを持とうとも、あの方の魅力には敵いません!」


「ねー!セルンが憤怒関連の話になると馬鹿になるー」


 年上に囲まれたパーティーの中で最も冷静な彼は何故だか、憤怒の悪魔(サタン)の話題になると一気に知能が下がる。

 お馬鹿な年下を羽交い絞めにして頭を撫で繰り回したウルイナは、スケッチブックを見ながら「ブツブツ」と新たな条件を探し始めた。

 そこで、ブルはセルンにグレンの情報を1つ開示した。


「えっと、セルンは暴食に似た人物を知ってるんじゃないかな?ケイに渡した絵画の女性を思い出してよ」


 5番目の世界(エタ・アルテミ)で兄さんがセルンへ依頼した肖像画。

 描かれた女性は髪の色が違えど、グレンとよく似ていた。

 だが、記憶を呼び起こしたセルンは、何処か達観した様子で左右に首を振る。


「だってあの女性は、サタン様より()()ですよ?あり得ません」


 途端、ブルはセルンの言葉へ異様に食い付き、少年の肩を強く掴んで息を荒げた。


「年、上って……それは本人から聞いたのかい?」


 詰問を始めたブルの気を落ち着かせる為に、ラジスがテンポの遅い曲を奏で始めた。

 楽器の音色を聞いたブルは謝罪を述べながら、少年の体から手を離して座り直す。


「聞いては無いですが……僕の描いた絵――彼女は、弟が可愛くて仕方が無いって様子でした」


「そう……。ケイに姉が居るなんて、聞いた事無いんだけどな。……家族好きの彼なら、話題に出すはずなのに」


 ここに居合わせた人間だけでは、真相へは辿り着けないだろう。

 不可解な話題の行き先を失った彼等は、次第に話の種を変え、そのまま夜更けまで時が進んだ。


 ――――――――――――――――――――


 早朝。

 「フカフカ」のベッドで目を覚ましたウルイナは、野宿ばかりが続いていた冒険の反動で素早く身支度を終えた事を若干後悔しながら、階段を駆け下りた。

 パーティーの中で唯一の女性である彼女は、とある1つの悩みを抱えている。

 身嗜(みだしな)みに無頓着な訳ではなく、年頃の娘同様オシャレに興味がある彼女だったが、効率重視の装備ばかりを揃えて一向に女性らしい恰好が出来ない。

 男達の寝静まった今なら呉服店を巡れると、意気込んだ彼女は女将(おかみ)に一言挨拶をして外へと飛び出した。

 昨日は月明りで寂しさを醸し出していた街が、人々の往来で活気を得ている。

 その活気の一員である女性達を観察したウルイナは、自分の恰好を(かえり)みて酷く肩を落とした。

 そんな彼女へ声を掛けたのは、街から一足浮いた存在の魔女――アルだった。


「おはよう、剣士さん。えっと……ウルイナだったよな。町案内でもしようか?」


 カッコいい言動と可愛らしい容姿のギャップに萌えたウルイナが、涙を流しながら「うんうん」と頷き、溢れた歓喜を両手一杯で表現した。


「生まれてきてくれてありがとー!」


「ええ?大袈裟だなぁ」


 流石のアルも妄信的な彼女に、少しばかり気後れしている。

 鞄から取り出した汚れ1つない布で、ウルイナの涙を拭った彼女は、「荷物を置いて来る」と言って宿へと立ち寄った。

 ウルイナは改めて、自分が一夜を明かした施設を見上げる。

 よく見ればその施設はT字路の突き当りにあり、いかにもお金持ちが利用しそうな立派な宿だった。

 庶民思考の抜けない彼女は、恐れ多いと言わんばかりに「ひょこひょこ」と入口から横に逸れて、無関係を装いながら魔女を待つ。

 暫くすると、上等なカーディガンを提げた彼女がウルイナを見つけるなり、その服を彼女へ被せた。

 何事かと驚くウルイナへ「似合うと思って」と、一言で済ませたアルは、彼女の手を引いて繁華街を案内する。

 街の様子はウルイナが生まれ育った5番目の世界(エタ・アルテミ)に似ていたが、何処か不自然さを感じさせる。

 通りに面した住宅のデザインが統一されている事が、違和感の正体だと気付いたウルイナは「ハッ」と声を上げた。


「うわー!自分のお家、分からなくなりそうですね!」


 効率的な感想を叫んだウルイナに笑い掛けたアルは、「統率こそ、デザイン性だからね」と整列する建物群を紹介した。


「全ての人々が平等に幸せな世界を。そんなコンセプトで作られたこの国には、格差が存在しない。裏路地を覗いてご覧」


 アルに勧められるがまま、暗い路地を覗き込んだウルイナは、樽や木箱を観察する。

 そこへと足を踏み入れ、もっと奥の小路(こうじ)や、人の通れない石垣の隙間を覗き込んだ彼女は、アルの言葉の意味を深く考え込んだ。


「格差……あ!奴隷が居ない!?」


 (うつつ)に存在する大半の世界に、奴隷制度が適用されている。

 その奴隷の多くは半獣が占めているが、人間がその地位へと落ちる場合もあった。

 主に捨てられた奴隷や、同職に暴力を振るう奴隷の姿は、影の濃い裏路地の代表格の様なものだ。


「いくら平等を提唱するからって、奴隷にまで手を回す必要あるんですか?そもそも、奴隷には人権が認められていないのに」


 勇者のパーティーらしからぬ発言の様に思われるが、(うつつ)ではこれが常識とされている。

 ウルイナの意見を最もだと受け止めた上で、西の魔女は諭す様に優しい言葉を彼女へ向けた。


「人権が無くとも意志があるんだ。意志ある全ての生き物は、神に望まれて生まれたんだ。無下にはしないさ」


 聖母の微笑みをウルイナへ向けた彼女は、「それに」と言葉を続けた。


「切愛の巫女がそう望んでいる」


 四聖巫女の1人である切愛を司る巫女は、長い間4番目の世界(リィベ)にその身を置いている。

 巫女の中でも武力に重きを置いた彼女を恐れる悪魔は、よほどの理由が無ければこの世界には訪れない。

 きっと、世界が平和な理由はそこに在るのだろう。


「巫女様!?凄い!私も人生で一度は会ってみたいなー」


 13の世界の内4か所にしか存在しない巫女は、一般人からしたら珍しいものだろう。

 アルは「直接会うのは無理だけど」と前置きをした上で、女神の銅像が飾られた聖地へ案内する事を約束した。


 ――――――――――――――――――――


 アルのセンスで揃えられた色の薄いワンピースと、髪色に合わせた自然由来のサンダルを身に付けたウルイナは、無敵な気分で銅像のある森の奥へと向かう。

 そこへ続く道は木々に囲まれていたが、躓くような小石1つなく整備されていた。

 自然であって自然ではない空間に気圧された彼女は、緊張した面持ちで眉唾を飲み込む。


「当人に会うんじゃないんだから、そう気を張り詰めるな。ここは誰でも利用できる広場なんだ」


 肩を強張らせたウルイナへ軽く笑い掛けたアルは、足早にその森の奥を目指す。

 その時――


「待って。僕の仲間を連れて行かないで」


 血相を変えてウルイナの進路を塞いだのは、勇者その人だった。

 ブルは警戒心のある瞳で、アルを「ジッ」と見つめている。


「……何か用事でもあったのかな?すまない、勝手にウルイナを連れ回して」


 アルがバツが悪そうに言うので、ウルイナは全力でそれを否定した。

 ブンブンと顔の前で両手を振り、スカートを持ち上げた彼女は、彼によく見える様に服をアピールした。


「違うよ勇者様!服が欲しいって言ったの私だし!女神像を見たいって我が儘は私が言ったのよ!アル様めっちゃ良い人だし!」


 ウルイナの恰好を見たブルは、彼女の発言に間違いが無いと理解するも、決して首を縦には振らなかった。


「アルさんも、そっちに行ってはダメだ。僕の『幸運(フルーク)』が危険を予知している」


 勇者の固有魔法は、理屈を無視して彼等を幸福へと導く。

 裏を返せば、幸運が向かない場所は彼等にとって死地に等しい。

 世界的に有名な勇者の固有魔法は、アルの耳にも届いて居たのだろう。

 戸惑いの色を見せた彼女だったが、「うん」と素直に頷いて踵を返した。


 ――――――――――――――――――――


 これは平等な彼女の物語。

 聖なる森(リグヴァルト)に近い気配を漂わせる森は、新たな獲物を取り逃した事で(ざわ)めいていた。

次回更新は2025/11/30を予定しています

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