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【連載版】今度こそ、笑っていてほしいのです【コミカライズ計画進行中】  作者: みなと
やり直し、開始

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26/43

やり直すんだ

やり直し、開始です

 ぱちり、と目を開く。

 見慣れた天井が広がり、きょろきょろと周囲を見渡すと、やはりどこをどう見ても見慣れた、大好きな場所。

 ヴァイセンベルク公爵家の、自分の部屋だ。


「どう、して?」


 聞こえた自分の声は、幼い。


「え?」


 エーディトは、自身の手をじっと見つめる。

 確か自分はもう既に成人しているはずなのだ。だが、目に入ったのは小さな子供の手。


「ちい、さい」


 呆然としているエーディトが動けないままでいると、幾人もの足音が聞こえてくる。


「なに…?」

「エーディト!」


 いつもなら、ノックを忘れることはない。

 いつもなら、自分の名前を優しく呼んでくれる。


 でも。


 部屋に入ってきた人たちは、息切れしながらも、目に涙を浮かべエーディトを見て微笑んでいた。

 良かった、成功なさった、そういう声が皆から聞こえてくる。


 成功した、とは何なのだろう。


「おとう、さま?」

「あぁ…っ、良かったエーディト!わたしたちの宝物!」

「エーディト!」

「エーディトちゃん!」


 我が我がと室内に入ってくる家族たち。父、母、兄や姉。

 そして使用人たちまでもが『お嬢様!』となだれ込んでくる。

 皆、礼節はきっちりと守っている人達ばかりなのに、どうして今はこんな、とエーディトは混乱してしまった。


「ど、して」

「体は?辛くないか?」


 未だ事情を呑み込めていないエーディトは、自分の体を呆然と見ている。問いかけには無意識で頷いていた。

 おかしい。

 だって、死んだはずなのだ。バルコニーから、飛び降りて。


 もう疲れ切っていた。

 終わりにしてしまえば、それでいいと思っていた。


 愛しい神を、しっかりと心に抱いたままで、来世。もしも生まれ変われるのであれば、そこで会えたら…とエーディトにしては乙女チックな思考を持って、心だけはあげないと決めて、自死した、のだが。


「私、何で…?」

「…エーディト、まずは今、どれくらいの年齢か分かるかい?」

「…え、と…?」

「六歳、だよ」


 父、マルクが教えてくれた自分の年齢を聞いて、きょとんと目を丸くするエーディト。

 自分の家族をゆっくりと見渡すと、皆が頷いてくれる。



「神子には…?」

「今はまだ、選ばれていないんだ」

「あ、っ…」


 このままでは時の神との再会が叶わない、そう悟ったエーディトの顔色は真っ青になるが、マルクがしっかりと体を支えてやる。

 早く、早く、神に選ばれないと。

 焦る気持ちが一気に溢れ出しそうになってしまう。何らかでやり直しが起こっているのであれば、きっとこれが最後のチャンスなんだから、早く選ばれないと、と震えていると、マルクの声がエーディトを落ち着かせた。


「エーディト、聞きなさい」


 真剣な声と、目。

 知っている、父がこうしているということは、きっと何もかも大丈夫なのだと。


「とてつもない奇跡を、ユリエラが引き起こした」

「ユリエラ、が?」

「君と、わたしたちと、…そして、君を愛した神をも、救うために」


 目を丸くするエーディトだったが、全員の表情は明るい。

 そして、この場にユリエラがいないことが不思議で仕方ない。

 それだけが、とてつもない嫌な予感だったのだが、でも、どうして大丈夫と父は言い切っているのだろうとエーディトは不思議そうな顔になる。

 ユリエラがいてくれないと、こんなにも不安になってしまうだなんて、と思っているエーディトの頭を、マルクは優しく撫でてやった。


「まだ神子には選ばれていない。だが、『前回』とはっきり違っているものがもう一つあるんだ」


 愛し子たる神子に選ばれていないのだが、それでも大丈夫と言い張る父の服を、エーディトはしっかりと掴んだ。


「お父様、どういうことなのですか?私、は…私は!」

「神を、愛したのだろう?そして、神の花嫁たるべく自死した」

「…そう、です」


 頷くと、エーディトの姉であるサファエラがやって来て、そっとエーディトの頭を撫でる。


「みんな知っているわ。それもね、大丈夫なの」

「ど、して」


 どうして、何で、ばかりがエーディトの頭の中を占めていく。

 分からないことだらけだ。どうして家族の皆はこうも自信満々なのだろうか。


「それはね」

「わたしから説明させてくれないか、姉君」


 よく聞いた声が、した。


「…え?」


 でもそれは、普通には聞けないはずの声。


「…なんで、あなた、が」

「こうして人として会うのは初めてだ。…エーディト=ヴァイセンベルク公爵令嬢」


 ずっと、会いたかったひと。

 しかし彼はひとではない。自分が死ななければ会えなかったはずの存在。


「クロノス、さま」


 エーディトの名前を呼ぶ声に、微笑んだのは神であるはずのクロノスであった。


 思いがけない人との再会。

 いや、これは再会と言っていいのだろうか、とエーディトは考える。しかも何故か小さい。まるで人間の子供のようなのだ。


「あの…どう、して、…ですか?」

「わたしも、とても驚いてるんだ。事情はゆっくり話すとしようね」

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