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【連載版】今度こそ、笑っていてほしいのです【コミカライズ計画進行中】  作者: みなと
過去に何があったのか

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巻き戻す直前、聖女様は

 王宮で、美奈はがたがたと震えていた。

 ユリエラから突き付けられた事実に、今更ながらとんでもないことをしてしまったのだと遅すぎる自覚をしたのだ。


「どうしよう…どうしよう…」


 こうなっては名ばかりの聖女でしかない。

 恐怖と後悔で、まともにアルベリヒへの加護など与えられそうになかった。


 現に、アルベリヒに対しての加護は、現状ほぼない。


 それを知ったアルベリヒは発狂したように美奈を罵った。

 だが、美奈自身が満たされてないと力は発動しない。聖女がいるから神子はいらないと断言したのだから、今更神殿に助けてくれと泣きつくわけにもいかない。


 アルベリヒもどうしたら良いか分からず、しばらく悩んでいたのだが、どうやらユリエラに土下座をしてでも何かしら手を打つしかないとようやく気付いたらしい。


 加護無しが国王の地位に居続けられることなぞ、できはしないのだ。


 アルベリヒの弟はこれ幸いにと、兄に対して反発心を持つ貴族を取り込んでいる。

 乗り込まれてはたまったものではない。


 そして焦ったアルベリヒは、ユリエラに対して『時戻し』を依頼しに行く!と意気込んで走っていったのだ。


 今までも何度か乞うていたのだが、ユリエラから『聞いてやるわけねぇだろうが』という内容の手紙が何通も送られてきており、紙面での交渉は不可能だと察したらしい。ようやく。


「アルさま…たすけてよぉ…」


 美奈に見向きもしなかったが、それでも美奈自身はアルベリヒを慕う心は捨てきれていなかったのだ。

 何ともまぁご立派ですこと、とユリエラの嘲笑う声が聞こえてくるような気がした。




「気のせいなんかじゃありませんけどぉ?」




 はっきりと聞こえたユリエラの声。


「ひぃっ!!」


 弾かれたように顔を上げると、部屋の入口にもたれかかるように立っているユリエラの姿が、あった。


「な、なななな、なん、で」

「あらまぁ、聖女様ともあろうものがこれから起こる悲劇にもお気づきになっていらっしゃらないのでぇ?」


 完全に馬鹿にしたようにユリエラが言ってやると、美奈は顔を真っ赤にした。


「う、うるさい!」

「一応、聖女様なので教えて差し上げますとぉ…」


 こつ、とヒールの音がやけに大きく響いた。

 一歩、距離が詰まる。


「陛下はやり直しを懇願されました」

「…………へ?」

「あなたを捨てて」

「うそ」

「エーディト姉様を取り戻したくて」

「うそ、よ」

「まぁ、今まさにもう戻しつつあるんですけどぉ」

「う、そ」


 呆然としていく美奈になんか、遠慮などしない。


「ここだけ、ちょぉおっと時を止めさせていただいたんですけどねぇ?」


 あまりに当たり前のようにユリエラが言うものだから、美奈は頭が追い付いていなかった。

 どうして?

 自分を愛してくれていなかったの?

 何度問いかけても、誰も答えてなどくれない。


「もしもーし?こっちの話聞いてますぅー?」


 いつの間にか近距離にいたユリエラにぎょっとし、慌てて距離を取ろうとするが叶わなかった。


「ひ!」

「やめてくださいよぉ…人を化け物みたいに」

「化け物じゃないの!!何なの!?アンタほんとに何なの!?」

「えー?人でなしに言われたくないんですけどぉ」

「ひ、ひとで、なし?」

「だってそうじゃないですかぁ?」


 にっこりと可愛らしく、けれど冷たく微笑んでユリエラは遠慮なく続けた。


「召喚されたことをいいことに、わがまま放題。王妃であるエーディト姉様をさしおいてあれこれ口出ししまくって、結果として姉様を追い詰めた。大変な国王陛下。聖女様は文句やわがまましか言えない役たたずで、回らなくなってしまった王妃の業務まで、陛下自身がこなしていた、だなんてねぇ」


 突き刺さる言葉の刃。

 ユリエラは、もう遠慮してやらないととっくの昔に決めていたのだ。決めていないはずがない。


 最愛の従姉の死因の一人なのだから。


「まぁまぁ、泣くだなんてぇ…。被害者面はおやめくださいまし、聖女様ぁ」


 ぼろぼろと涙を零す美奈だが、ユリエラは一切の遠慮も情けもかけてなどくれなかった。


「貴女、エーディト姉様をとても軽んじていたでしょう?」

「そ、それは」


 事実だ。

 紛れもなく真実。


「エーディト姉様を軽んじて、何とも思っていなかったんでしょう?」

「だ、って」

「エーディト姉様は王妃で、お前なんかとは違っていーっぱい、やることだってあるのに…ねぇ」

「…っ」

「お前は何をしていたのかしらぁ?我儘放題言って、仕事も何もしていなかったんでしょう?」

「私は!聖女だもん!」

「でもぉ…」


 うーん、と呟いてユリエラは続けた。


「加護すら与えられないお前の存在価値って、何ですぅ?」


 にっこり笑って問われた内容に、思わず美奈は問い返した。


「………え?」


 ぎくりと、美奈の顔が強張る。

 ここ最近、確かに加護を与えられていなかった。でも、美奈が幸せになれば、幸せを感じられれば、問題ないはずなのだ。

 知らず、歯がカチカチと恐怖で震えて、鳴る。


「お前を幸せにすればぁ、加護は貰えるのに…どうしてアルベリヒは時間を戻しているんでしょうねぇ?」


 見上げたユリエラの顔を、きっと忘れることはできないだろう。


「…所詮、どこまでもお前は代わりでしかなかったことが、証明されちゃいましたねぇ…?」


 とても、心の底から愉しそうに笑うユリエラ。反対に、絶望の底へと落とされたような感覚の美奈。

 二人の表情も雰囲気も、すべてが対極にあった。

 何か悪いことをしたのか、と美奈は考える。それすらが間違っているというのに。


「か、わ、り?」


 ユリエラが発した、心に引っかかる単語。


「あらぁ、気付いていなかったのぉ?!」


 問い掛ければ、とても不思議そうにきょとんとするユリエラと視線が合う。


「だって貴女、エーディト姉様とびっくりするくらい同じ顔じゃないですかぁ。聖女召喚で顔も選べるなんて初耳ですけれどねぇ?」


 何でもないように、ユリエラはあっけらかんとして言い放つ。だが、美奈にとってはそれは青天の霹靂。

 確かにエーディトと同じ顔だと思ってはいた。

 では、代わりとは、一体何なのか。


「エーディト姉様、『体はお前にあげた。これ以上を望むならお前の目の前で喉を掻き切って死んでやる』って言ったそうですわぁ。子供ができれば腹を切り裂いて生まれないようにして、己もろとも死んでやる、って付け加えたんですってぇ」


 つまり、それは、と、美奈が呆然と呟く。

 それを肯定するように、ユリエラはにっこり笑って頷いた。


「そう。何度もエーディト姉様の体を楽しみたかったアルベリヒは、神の加護をついでに得るために、聖女召喚をしたんですよ。実のところはね」

「は、?」

「でもぉ」


 いつもの間延びした声が、とても綺麗に耳へと届いた。


「ご自身のご両親を犠牲にしてまでも、所謂愛玩人形を手に入れて、オマケで加護も得ちゃうなんて…。どこまでも人の皮をかぶったケダモノ、っていうことが証明されちゃっただけなんですけどぉ」


 今、ユリエラが言ったことに愕然とする。


「ご両親、の…命?」

「ええ。聖女召喚は、そういうものですしぃ?」


 自分がこの世界にいられるのが、誰かを犠牲にして手に入れたものだったなんて、と。

 だが、ユリエラは遠慮などしない。


「前・国王夫妻の命を犠牲にお前はここに来て、わがまま放題、好き放題!」

「あ…」

「エーディト姉様を精神的に追い詰めて、そしてお前が姉様の使用人を追い出して、お前の息のかかった者ばかりを揃えていじめて」

「ちが、ちがいます!ちがうの!」

「結果、お前のせいで、死んだ。三人も」


 事実を、淡々と伝える。

 美奈はすっかり意気消沈しているようだが、これくらいで悲劇の主人公みたいな顔をしないでほしいと、ユリエラは思った。

 もう人が死んでいるのだから。

 アルベリヒの我儘を叶えるためだけに。


「だからね、もう、お前にもアルベリヒにも、幸せなんて与えてやらないって、わたくし決めたの」

「私まで!?」

「何でお前だけ無事に生きられると思ったのぉ。…お前の頭、お花でも詰まっているのかしらぁ…それとも粘土ぉ?砂ぁ?」


 やめて、許して、と何度縋ろうとしてもユリエラに手を伸ばせない。


「それではさようなら、もう会うこともない聖女様」


 とても綺麗な微笑みを見た瞬間、美奈の体がいきなり後ろに引っ張られるような感覚に襲われた。


 そして、世界は一変する。

 ユリエラの強すぎる思いを受けて。

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