自業自得
ちょっと今回短めです
国王に成り代われる可能性のある公爵家の後ろ盾は失った。
そして神殿の後ろ盾も。
更には、ユリエラの生家の後ろ盾までも失ったのだが、これらは全て彼の言動と行動の招いた結果。
国内に貴族は数あれど、本来であれば彼らの後ろ盾ありきとして、国王就任が認められるといっても過言ではない。アルベリヒが国王として即位することは決定しているのだが、決定後に後ろ盾が全て彼を見放すと、誰が想像したであろうか。
「なかったことにはできないのですから、まぁせいぜい頑張っていただきましょうか?」
ヴァイセンベルク公爵はしれっと、それを言って優しくエーディトの頬を撫でる。
そうだ、今更なのだ。
決定をほいほいと覆すことなど、王家としてできるわけもない。だが、この決定は後々にマイナスしか残さないものではないか。
選んだのはアルベリヒ、止めなかったのは両親である国王夫妻。
「愛しい我が娘、何かあれば…」
「はい、お父様。エーディトは心得ております」
にこやかに交わされている親子の会話も、ただ、アルベリヒは呆然と眺めることしかできなかった。
そして改めて、エーディトはじっとアルベリヒ、国王夫妻に何の感情もない目を向けた。
「…改めまして、エーディト=ヴァイセンベルクでございます。殿下におかれましては私には決して触れぬよう。もしも、触れた時は…」
淡々と告げるエーディトは、神子であり、そして公爵令嬢であることを、その場に居た王城関係者にしっかりと見せつけた。
「エーディト、」
縋るように手を伸ばしたアルベリヒだが、エーディトのドレスの裾に触れようとしたまさにその瞬間、弾かれたように吹き飛ばされた。
「…だから、申しましたのに」
淡々としたエーディトは、脅されていると言っても、どうやっても『神子』なのだ。
それを、神子としての力を、知らしめた瞬間であった。
「わたしは、あなたを、拒絶する」
一言ずつ区切って言われたそれは、エーディトからの『力』での拒絶に他ならなかった。
「なんで、だ」
「この拒絶を解除することもできます」
「なら!」
ぱっと顔を輝かせたアルベリヒだが、次ぐ言葉に絶望した。
「解除した途端、わたくしの寿命はあれよあれよと縮まるでしょうね。もって何年かしら」
「そんな…」
こんなはずじゃない。
エーディトを手に入れたら、楽しく会話をしようと思っていた。
無理矢理に手に入れたとしても、きっといつかエーディトの心は穏やかになっていってくれる。いや、そうしていけるという自信があったのだが、取り付く島もないということが分かっただけだった。
触れることすら叶わない。
会話をしようとしても目が合わない。
エーディトに王宮の侍女をつけようとしてもこう返ってきた。
「不要です。わたくしは、わたくしの信じている者しか、いりません」
侍女たちは憤慨するかと思ったが、エーディトから続いた言葉で全員がひっと息をのんだ。
「だって、王太子殿下に心酔している者が仮に傍付きになれば、何を盛られるのか分かったものではありませんものね」
エーディトの目は本気そのもの。
この王宮にいるものたちの何を信じればいいというのか、信じるに値するものが果たしているのかどうかすら怪しい。
アルベリヒが、侍女が、「そんなことをするつもりはない」と言っても、届かない。
届くわけがないのだ。
信用に値する行動など、何もできていないのだから。
王太子妃になることの意味は理解しているらしく、元々勉強好きであったエーディトはありとあらゆる知識を詰め込まれていった。
それが、過剰だと分からずに。
本人の体を蝕んでいく疲労感と虚無感。
やればできる。だが、本来エーディトが暮らす場所ではないところでの生活。
いくら気心知れている侍女や使用人を揃えているといっても、少しずつ綻びは出てきてしまうものだ。
アルベリヒが超えることの出来ない『壁』があるうちは問題ないとはいえ、精神的なストレスや肉体的な疲労を軽減してくれるわけではない。
就寝時間を迎え、ばったりと倒れることだって、何回もあった。
教育係は文句を言ったそうだが、エーディトからはこう返された。
「まぁ、でしたら殿下にお伝えくださいませ。体の弱い王太子妃が役に立たない、と」
一人目の教育係はそのまま伝えた。
そして、呆気なく首をはねられた。
それを見ていた二人目の教育係は、アルベリヒからこう告げられた。
「エーディトを、悪く言うな」
狂人じみた目で言われ、迫力に負けてしまい、エーディトの体の弱さには誰も口出しできなくなったのだ。
だって、彼女を望んだ張本人が今の状況を招いているのだから。




