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【連載版】今度こそ、笑っていてほしいのです【コミカライズ計画進行中】  作者: みなと
過去に何があったのか

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どうしてそちらを選んだのか理解できない

 アルベリヒからの手紙を受け取ったエーディトは、封を切れずにじっと見つめていた。

 誘拐のように王宮に連れていかれ、あっという間に魔力が使えないようにする腕輪を装着され、そして結界内に閉じ込められてしまった。


「…そんな人からの、手紙…」


 恐怖しか抱けない。

 もしくは、人間じゃないような気持ち悪い存在。


 それがエーディト自身がアルベリヒに対する思い。

 好意も抱けなければ、その程度の感情しか抱くことができず特別な何かを思うことができない相手からの手紙で、開けて読んだところで何かが変わるとも到底思えなかった。だが、何故だろうか。

 開けなければ、何かとても良くないことが起こりそうな気がしていた。


 第六感とでもいうのだろうか。


 けれど、自分はアルベリヒ(あの人)からの手紙など読みたくない。

 相反する思いが、じくじくとエーディトの心を食い散らかしていくような、気持ち悪い感覚。


「……でも」


 見なければいけないのだろう。

 はー、と大きく息を吐いて、エーディトはようやく受け取った『謝罪の手紙』を開いた。


「…………っ」


 しばらく読み続け、エーディトはこみあげる吐き気を抑え込むのに必死だった。

 どうして、こんなことができる?


「な、んで」


 けれど、自分さえ耐えれば。

 アルベリヒが次はどんな暴走をするのか、予測がつかない。自分が我慢さえすればいいだけなのだ。

 助けなど、求めてはいけない。

 誰にも、何も、望んではいけないのだ、そう自分に言い聞かせるが、ただただ涙が溢れてきている。


 それが何からの涙なのか。


 恐怖や嫌悪感、そして自分が我慢さえしてしまえば『皆』が救われるに違いないという思いもあるが、それでも気持ち悪いものは気持ち悪い。


「…」


 とても小さな声で呟かれた悲鳴は、誰にも届かなかった。

 神にすら届かなかったのは、神子のエーディトが願ってしまったから。『どうか、私の声が、大切なあのお方に届きませんように』と。

 エーディトは知っていたのだ。


「あのひと」は、望まない限り権能を自らの意思で使うことはできない。

 人の願いを聞きもするが、力を増幅させるための、そして己の意思がそこにない時でも権能を行使できるための、愛し子。それが、神子。


 神であるからこそ、願いを聞き遂げて、叶えてから初めて感謝の想いからの神力が発生するのだと。

 かつて、そう聞いたことがある。


 そして、エーディトがどうして神に愛されたのかという疑問。その魂が純粋無垢ゆえ、特に、愛された。


 勿論ユリエラも愛されてはいたのだが、例えるならばユリエラに対しては『親愛』、エーディトに対しては『愛』。そう言っても過言ではないと思えるほどの違いは確かにあった。


 少しずつ、家族以外の周りも理解してくる。

 ああ、この子はきっと神の花嫁になるのであろうと。


 ユリエラはきっとこのまま神子なのだろうけれど、エーディトが死んだその時、肉体を失って神の元へと向かう。

 向かった先で、神と添い遂げることとなるのだ。


「…ごめんなさい…」


 エーディトの口から零れた、小さき謝罪。

 これまで、紙をぐしゃぐしゃと丸めたりすることがなかった少女が見せた、初めての行為。


「…誰か、来てください」


 りりん、とベルを鳴らす。


「王太子殿下へ、伝令を」


 エーディトから伝えられた内容に、女性神官はその場で泣き崩れた。

 どうしてそんな思いを一人で背負ってしまったのか、と泣き叫んだが、決めてしまったエーディトは梃子でも動かなかったのだ。


 そして、エーディトは追加でこう告げた。


「ユリエラには…言わないで」

「どうしてですか!」

「だって、言うと…あの子は止めるから」


 当たり前だろう。

 ユリエラが何より大切にしているのはエーディトで、次に家族という順番。

 今のエーディトの決めた内容を伝えたら最後、アルベリヒを殺しかねない。恐らく殺して良いと判断する人の方が多いような気もする。しかし、一応は王太子なのだからすぐさま殺すということにならないかもしれないが、ユリエラは間違いなく即断即決。即座に殺すに違いない。


 なお、エーディトからの伝言を聞いたアルベリヒは、狂気的な笑みを浮かべて悦んだ。ああ、やっとだ!!やっと手に入る!!と声高らかに叫んだ。

 だが、あくまで手に入るのはエーディトの体であるのであって、『心』までは手に入らないということは、この時点では理解していなかったのだ。


 ユリエラがこのことを知れば、間違いなくエーディトに対してでもとてつもない勢いで叱りつけるだろうということは想像できてしまう。

 だから、エーディトはユリエラが留守の時に決め、行動してしまったのだ。


「ごめんね、ユリエラ。…だめなお姉ちゃんで。わたし、あなた、の…よう、に…たかった、なぁ」


 ひぐ、としゃくり上げて泣き笑うエーディト。

 もしも、助けてと言ってしまえばまたきっとユリエラや神、そしてエーディトの家族たちは何の躊躇もなく彼女を守ってくれる。

 助けてくれる。

 地獄から救い上げてくれる。


 ぐしゃぐしゃにした手紙を床に落とし、エーディトが思いきり踏みつけ、ぐりぐりと足で押さえつけた。

 だん!と大きく足を鳴らして、大きく深呼吸をしてから、パン!と己の両頬を叩き、きっと表情を引き締める。


「あんな手紙を送ってくるようなとんでもない無礼者のためにではない。私は…いいえ、わたくしは、家族を、守ります!」


 きっぱりと言い切ったエーディト。

 開いていた窓から風が入り、ふわりと手紙が宙を舞った。




『エーディトへ。

 そなたが我が元へ来ないというならば、代わりに公爵家を破滅させよう。

 そなたに拒否権などない。

 どちらを取る?

 俺の元に嫁ぐか、家族をズタボロにされてしまうのか。


 ああ、忘れていた。家族の中には使用人や親戚一同も含んでいるぞ?

 俺は優しいから、選ばせてやろう


 アルベリヒ=ウスルフェン』

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