執着心に近い信仰心、崇拝心のような何か
少し短いです
「ユリエラ様!!」
「誰か!ユリエラ様を!!」
エーディトの顔色は、ほんのりと頬に赤らみがあり、生気も戻っていた。
反対にユリエラは真っ青になり、体からは力が抜けきってぴくりとも動かない。
このままにしておいては、一体何のためにエーディトを治したのか分からなくなってしまうではないか、と皆が焦った。
二人が無事でなければいけないのだ。
ユリエラがエーディトをとても大切にしているように、エーディトだってユリエラのことをとても大切にしている。
幼いユリエラが神殿にやって来る前の日、『明日からわたしの妹のような、とってもかわいい子がやってくるのよ!』と無邪気にエーディトは喜んでいた。
ユリエラが神殿にやって来て、二人は笑いながらぎゅうっと抱き締め合い、そして本当に嬉しそうに微笑み合っていたし、手を繋いでその日は眠ったのだ。
授業の時間はさすがに離れ離れだったけれど、何をするにしても二人は一緒に行動していた。
微笑ましい、まるで姉妹のような二人を、神殿に仕える者たちは揃って微笑ましく見守り、そして二人が悪戯をしたときにはきちんと叱り、神殿をあげて今代の神子たちを慈しんでいた。
歴代最高の平和と恩恵を、この二人は与えてくれる。
まさに神の愛し子と呼ぶにふさわしい二人だった。
だが、エーディトが先ほどまで死にかけていた。
それを救おうとしたユリエラが、今度は瀕死の状態になりつつある。
しかし、もしもユリエラが意識を有していて今のとんでもない状況を包み隠さず伝えたとしても、彼女は『まぁ、わたくし一人の犠牲で済むのですね?それは何より、良かったですわぁ』とあっけらかんと笑うだろう。
その直後、命の灯は消えることになろうとも、ユリエラはエーディトを最優先にしてしまう。
しかし、神殿の皆からすれば、何も良くない。
エーディトが助かったことは言うまでもなく良いことなのだが、ユリエラがそこにいないと意味がないのだ。
エーディトだって悲しむし、神殿の皆だって勿論悲しい。
神子が片方いなくなれば、エーディトへの負担も凄まじいけれど、今代の神子が消滅してしまう。
なお、恐らく神からすれば花嫁を得られて結果オーライなのだろうが、次の神子が生まれるまでにどのくらい待てばいいのかもはっきりとしたことは分からない。
それに加え、アルベリヒの怒りも恐ろしく溜まってしまう。
自分達のためでもあるけれど、神殿が神殿たる所以の存在にいなくなられてしまっては困るのだ。
第一は勿論、神子二人の無事なのだけれど。
「魔力が枯渇しかけているわ!!ユリエラ様の魔力に近い人、誰かいないの!?」
「わたしがやろう」
「オースティン様…!」
慌てふためく女性神官達を押し退けながら前に出てきた一人の男性。
ユリエラの父であるオースティンが、ユリエラの額に手を当て、もう片方の手はユリエラと繋ぎ、ゆっくりと魔力を注いでいく。
魔力酔いをしないように、慎重に。
娘の魔力の流れに沿って、力の量も調整しながらゆっくり、ゆっくりと注ぎ込んでいく。
こんなにも魔力を失い、今にも死にそうな顔色のユリエラを見るのは初めてだった。
落ち着いた風を装っているものの、オースティンは自分の娘は何があっても失いたくなどなかった。
「…無茶をしたものだ」
ぽつり、と呟けば腕の中のユリエラは少しだけ身じろぎをする。
「………………とう、さま」
そして、魔力量が増えたことでユリエラはぱちり、と目を開けた。
「だが、頑張ったな」
「うん……姉様が助かるなら…それで、いい」
「お前はどこまでもエーディトが大好きだな」
「自慢の…お姉様…だから」
父に魔力を分けてもらい、少し喋れるようになったユリエラは微笑みながら言う。
だいぶ回復したであろうエーディトが運ばれているのを見ながら、ユリエラ自身はそっと目を閉じた。少しだけ、眠ろう。回復しなければ何も出来ない…そう思って。
良かった、という思いしかなかった。
エーディトが生きていてさえいてくれれば、それでいい。
信仰心に近いこの気持ちは一体何なのだろうかとも思うけれど、きっとそれはいつか神の花嫁となるであろうエーディトへの思いの強さも関係しているのだと思う。
エーディトと離れたくないと泣いたけれど、でも逆に考えれば神の花嫁となれば何があろうと離れることはないのでは。ずっと身近に存在を感じられるのでは、となかなか末期なことを考えているユリエラだった。




