39話「騎士は木々と共に悩み耐える」
散乱した木々があちこちに倒れている中。緊張感が迸っている空間に4人存在している。
一人は少年で、水色の上着を着て下半身にはグレーの半ズボンを履いた服装を着て首元には黄色のマフラーを巻いた。髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太。
「勝てないって言ってもさ、こっちが大人しく投降する気はないんで」
「アラタ。戦闘が始まったら時間を稼いでくれる?離れたところで攻撃したいから」
新太と喋るのは藍色髪をした少女で黄色のカチューシャに、鉄製の防具で上半身には黄緑色の装飾品や足元まで伸びた布。両手には前腕まで隠す黒色の手袋で左腕には甲の部分にカバーが付いた軽装備を身に付けたリオという少女。
「一撃一撃はお前に任せるよアラタ。行けると思ったら攻めていって」
「ああ」
ローブの内側から1刀の大剣を出す人物はフードが付いたローブを着て可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという少年。
そんな3人の前に立っている男性は気圧されることもなく堂々な立ち振る舞いをしている。
白銀の鎧を着たオレンジ色の髪色で七三分けされトラッド風な髪型をした男性が地竜を操り迫る。背中には大きな剣を携えており、その名はクロイアという男。
「作戦会議は終わりかな?どれだけ策を講じようとも無駄だよ」
そして「スッ」と3人の前から姿が突然消える。クロイアは一瞬にして3人の背後に回って手刀を新太に当てようとするが――。
「ぐっ!?」
少し反応が遅れたが新太は右腕で受け止める。リオは後ろに飛びながら弓を構え離れる。カランは一度離れて大剣を握りしめてクロイアに飛び掛かる。
咄嗟に新太はクロイアの片腕を掴んで動きを制限しようとするが、クロイアは新太の足を引っ掛けて体勢を崩させ、掌から魔力を飛ばして新太を吹き飛ばす。そしてカランの大剣は片腕で軽々と受け止める。
「くっ!」
「はあっ!!」
受け止められているカランのフォローをするべく炎の矢を数本放ちクロイアに迫るが、カランを蹴飛ばした後に矢の攻撃を避ける。
「む?」
一つ軌道が外れた矢がクロイア迫るが掌で受け止めると勢いは簡単に無くなっていく。
「痛っつつ…判断能力が速いな。当てれるって思ってたのに!」
「…思っていたより、だな。話にならない…一瞬だけ力を合わせただけで分かったよ」
「何が言いてえ?」
「『期待外れ』。だよ。王からは君を見て何を思ったのかは知らないが…まあ鍛えればいい線はいくだろう…だがそれまでの男しか見れないな」
「ああ。そうかよ…勝手に言ってろ。別に最強目指してる訳じゃあねえし、俺はただ救いたい人のために頑張ってるだけだ」
服に着いた汚れをはたき落としながら立ち上がる。そして新太の顔つきが変わりクロイアも身構える。
「はあっ!」
掌を後ろに回して風の魔力を噴射してクロイアに近づく。そして回転しながら右脚での回し蹴りを繰り出すが片手で受け止められる。
さらに背後から大剣を近づけていくカラン。クロイアは新太の足を掴んでカランに投げつけると2人はぶつかって倒れ込む。
だが急いで立ち上がった新太は足から風の魔力を出して頭突きでクロイアを攻撃するがこれも片手で受け止められる。
「ぐっ!ぅおおおおっ…!」
そのまま力比べに発展するがクロイアはピクリとも動かない。クロイアは手から軽く魔力を放出すると新太は後ろに仰け反って横腹に回し蹴りが新太に炸裂する。
「お゛ぉっ!?」
地面に転がる新太は苦悶の顔を浮かべる。そこにクロイアは追撃を加えようと新太に近づくが、背後から矢がクロイアの髪を掠る。
(あの女性。確かリオと言ったか…先程から狙いが定まっていなかったが徐々に上がってきている。先に片付けておくか)
向きを変えてクロイアはリオに近づいていく。リオは距離を取りながら弓を構え炎の矢を放つ。
その攻撃は連続で放たれるが、クロイアは自身に当たる攻撃だけ片手でいなしていく。そこに一撃を加えるため迫るカランは横から大剣を当てようとするがこれも片手で受け止められる。
だが受け止められる大剣から手を放しカランは身体を捻って上へ飛ぶ。そしてもう片方の手にはローブの中から引き抜いた棍棒を振り下ろす。クロイアは両腕を交差して防御をするがカランは違和感と変な手応えを感じた。
(ん――?)
カランの表情を見たクロイアは何かを察し、カランを蹴り飛ばす。だが同様にクロイアの背後に衝撃が入りクロイアも弾き飛ばされる。
背後に立っていたのはリオ。姿勢を低くして弓を構え大きな一撃をクロイアに向けて放っていた。
吹き飛ばされたクロイアはすぐに体勢を立て直し、顔に着いた汚れを取ったりして余裕がある態度を見せる。
距離が生まれたためリオは立って弓を構える。その際にクロイアはリオの弓を見てある違いに気づいていた。
(纏っている炎の色が先程と変わっているな…)
基本的に炎の魔力を出現させる際に色は赤色であるのだが、リオが纏っている炎は黄色に変わっていた。
オの新調したこの弓。距離や纏わせた魔力によって矢の精度が変わってしまう。そのため精度を上げるために攻撃をする際に条件を作った。
条件としては炎の魔力で作ったスコープを通して赤、黄、緑、青の4種類の色に分けた。その役割として相手との距離で色が分けられるのだが、攻撃の仕方と放つ際の自身の体勢での色に分けられた種類で限定される。しかし一部を除いて。
「スゥ~」と息を吐いて黄色の炎が矢を形成して狙いを定める。そして放たれた矢は途中で分裂して散弾銃の様にクロイアに迫る。
黄色は中距離で対応され攻撃は一つの矢が分散して敵に向かっていくのと体勢は通常通りに立って構える。という発動条件に設定されている。
近づいてくる矢を速いスピードで移動して避けたり、身体に当たりそうなのは拳や脚などで打ち消していく。
(一つ一つの攻撃は対して強くは無い…密度も無い。これは――。)
クロイアは途中で気付く。この無数の矢はダメージを与えるものではないと。背後にはもう険しい表情をした新太がクロイアの背中に蹴りを打ち込んだ。
(ん――?何だ今の感触)
倒れた木にぶつかったクロイアは煙の中から現れる。
(ノーダメージか…でもあの時違和感があった。蹴った感触が無くて何かに阻まれてる様な感覚だった)
クロイアは白銀の鎧を身に付けているため新太の攻撃では必ず金属が何かにぶつかる音が少なくとも出るはずだったのだが、感触も実体のない壁を蹴った物に近い。
(奴が神代器もしくは何かの魔道具を持っていたとしたら能力を見破らないとキツイかもな)
神代器はこの世界で貴重な代物。それは概念すらも操ることが出来る代物であり、世界すらも壊すことも可能な強力な物。
「アラタ。奴の能力を暴きたい。協力してほしいんだけど」
「奇遇だな。俺もお前に頼みたいと思ってた所だ」
新太とリオは直接的にクロイアに触れている。そのため何か2人にしか分からない何かがあるのだろう。
「僕かアラタのどっちかでいい。奴に直接攻撃を当てるために隙を作る」
「了解。多分無理だろうからリオにも手伝ってもらうしかないな」
恐らくここから敵の猛攻は増していくと感じた新太は水色の上着と黄色のマフラーを脱いで黒色のシャツ姿が露わになり上着は木の枝に引っ掛ける。
一息深呼吸をしたあと新太は足から風の魔力を出してジグザグで動いてクロイアに向かっていく。
至近距離まで近づくと素早い動きでクロイアの背後に回りこむが新太の動きに対応し、拳が新太の姿を捉える。
「ぐう!!」
片腕で何とか受け止めるが、防御した左腕は痺れるほど響き苦しい表情を浮かべる。もう一度新太は接近すると互いの拳がぶつかり合うのだがすぐにその均衡は崩れ新太は押し負ける。
「ああああっ!!」
新太が弾き飛ばされたその後ろからカランがクロイアに飛び掛かり左手に持っていた棍棒を当てに行くがこれも片手で受け止められるのだが、自身の体を陰にして右手に隠し持っていた『銀月』という銀色に輝く魔剣がクロイアに打ち込まれる。
「キイィィン!」と音が発せられると剣が何かに反応し、クロイアの鎧に少しの傷が入る。
(この剣は!?)
(銀色の効果が発動した!)
クロイアは剣の脅威を悟り直ぐに後ろに身を引いた。
このカランが持っている『銀月』という魔剣。神代器に比べられると劣るのだが、能力が備わっている。
その能力は『複雑に絡んだ魔法をバラバラにする』という物である。その名を銀月『砕軌』。
魔法は魔力と魔力が絡み合って織りなす代物である。魔力単体に向けて振りかざしても銀月『砕軌』は反応しない。
つまるところクロイアには何かしら方法で攻撃が通用しない『何か』を持っている。
(さあ、あとは無敵のカラクリとその限界を見極めるだけか…けど銀月は明らかに警戒されるだろうから有効打は乏しくなる…だけど2人にも攻撃出来るチャンスも生まれるだろうから動いてもらおうか。だけど銀月を取り出すために色んな武器を捨ててしまったな…)
新太とクロイアが押し合いをしていた際にカランは自身に身に付けているローブ。これも神代器である。ローブの中に無数の道具を入れられる『収納』を操れる。
ただしローブの内側から取り出す際にこちらから物を指定して取り出すことは出来ない完全ランダム性な代物なのである。
「ああっ!!」
カランの体は銀色の光を出しながら駆け出していく。近づいてくるカランに対してクロイアは背中から大剣を抜くと剣がぶつかり合う。
クロイアの抜いた大剣はノコギリの様な見た目で植物のツルが巻かれている大剣。互いの剣が交差した瞬間、銀月に植物のツルが巻かれ始める。
ヤバいと思ったカランは振り払ってツルを切り離すと後ろに下がって距離を取る。しかしクロイアは横に大剣を薙ぎ払うとクロイアの足元から太い木の根が生え始めてカランに向かっていく。
避けることが出来ずカランは木の根に押し寄せられ身動きが取れなくなってしまう。
「ぐ、うぅ。密度が高すぎて威力も凄い…」
クロイアは前に剣を振るとカラン目掛けて一直線に根が向かっていく。そこにリオが前に立ちはだかると、片膝を地面に着いて低い体勢で弓を引く。その炎は青い色で燃えており温度もこの戦いの中でも一番熱い。
「ふっっ!!」
指を放すと青い炎を纏った矢が放たれるとクロイアが放った木の根は破壊されていくがクロイアの目の前で勢いは止まる。
「オラァ!」
そして新太が身動き取れなくなっているカランを助けるため木の根を蹴り壊す。そしてカランの手を掴み救い出す。
「あの剣何なんだ?魔道具の一つか」
「恐らくね。見た感じ近・中距離タイプだと思ってるけどまだ分からないわ。とりあえずアラタから内容は聞いてるからねカラン」
「そうか。ひとまずこの戦況はまだこっちにも分はある状態だ…そして奴の能力に関しては確定じゃないけど体の周りに何かを纏っている感じに近いかな」
「了解。攻撃面はリオとカランに任せる。俺がアイツの注意を惹き続ける!」
フゥ~っと息を吐いてからスゥ~っと息を吸い込む。新太のこの動作に関しては昔から行っている癖の様な物である。
新太自身も何故この動作をすることはよく分かってはいない。ただ昔学校か何かでの発表会の時に一度深呼吸をしてから発表しましょうと誘導されてする様になった気がする。
ただただ無意識に何故行うのかは自律神経のバランスを取るためだと言われている。でも人は無意識のうちにする行動の一つだと新太は思っているのだがそれは何故か。
『死なないため』だと思っている。
今この場を乗り切るために細胞が遺伝子がそれをして、先祖達が生き残ってきたのだと新太は思っている。
その死なないために新太は数回深呼吸をしてクロイアに向かって、足に風の魔力を纏わせてジグザグに移動していく。
「ああ!」
飛び蹴りを入れるがクロイアは大剣で受け止める。その後一度新太は後ろに下がって正面から拳を入れ込んでいくのだが、木の根が行く手を阻む。
「く、うおおおおおっ!!」
バキィッ!!っと向かって来る根っ子を拳の連打で壊していく。
(先程までとは魔力の出力が違うな。戦闘後半からからギアが上がっていくタイプか?)
「うが、ああああああっっ!!」
新太は打ち壊していった大きな木の根を両手で掴みクロイアに投げつける。投げた物は簡単に避けられる。だがその陰からリオが上に向けて弓を構えていた。その矢は緑色に燃えており、空中で矢が分散する。
クロイアは微動だにせずその場に立つだけで片手のみで撃ち落とそうと緑色に燃える矢に触れた瞬間、爆発が起こる。
それは大きな物とは言えないが、無視することは出来ない威力。その攻撃が分散して向かって来ること少しだけ恐怖心を抱いた。
全ての攻撃に構っている訳には行かずその場から移動して回避していく。
「どうしたよ?さっきまでの余裕そうな表情が無くなってきてるぜ!」
「っ!!」
爆風の中から新太が現れると右脚を高く上げてかかと落としをクロイアの頭に振り下ろす。
爆風を喰らいながらクロイアは防御する時間が無く頭に一撃が入る。クロイアの意識は奪えることは出来ず、クロイアの表情は強張っていく。
だがまだ攻撃の手は緩めずクロイアの手を掴むと空に向かって投げる。その後直ぐに倒木を掴み槍投げの様に投げつける。
大剣を使って木を切り捨てようと剣を当てた瞬間『バリーン!』とガラス細工の様に木は粉々になってしまった。
新太はこの世界に召喚された際、自身が戦闘に使う武器、ちょっとした道具でも簡単に壊れてしまう。
そんな事を気にも留めていないクロイアは一瞬何が起こったのかを理解するのに数秒だけ時間が掛かった。
「今だ!カラン!」
そう叫んだ新太の声でクロイアに迫ってくる陰を見過ごすことは無く、怪しく動いている陰に向けて大剣を振るうのだが――。
「ん!?」
クロイアが剣を振るった先にカランは居なかった。そこには居たのは青い炎を纏っていたリオだった。
(あの剣を持った奴は何処に――?)
放った木の根は止められることは出来ずリオに向かっていく。青い炎で纏った矢を放ち攻撃は相殺されるが、リオは衝撃で吹き飛ばされる。そして限られた短い時間でカランを探し、見つけることが出来た。
カランはクロイアにはむしろ近づいておらず、地表に立って槍を構えていた。
「はあああっ!!」
カランはクロイアに向けて槍を投げる。その槍には魔力が込められており、氷を纏って一直線に進んでいく。
(魔道具の一種だ…防御しないと危ないけど、この状況じゃあ防げない筈だ)
(まさかこいつら気付いたのか!?)
クロイアの防御は間に合わずカランの投擲した槍は横腹付近に突き刺さる。無様に落下し3人はようやく深手を負わせることが出来たと思った。
だが槍が突き刺さったクロイアは何事もなかったかのように立ち上がる。
「よく気付けたな」
「まあね。アンタは最初から同時に襲い掛かってくる攻撃に関して必ず防御の形を取っていた。自身が攻撃した時にはアンタは避けていたし、銀月が発動していたということは鎧に何か仕掛けがあるって分かったからね。推測だけど鎧には防御魔力を回せば攻撃を通さない。攻撃魔力に回せばそれが無くなる…って思ってるんだけど」
「大方正解と言っておこう。少し気に掛けすぎたようだ…私もまだまだみたいだな」
「…お前は何で俺を捕まえようとするんだ?」
「決まっているだろう?王がそれを求めているからだ。何故貴様の様な奴に期待を抱いているのかが私は気に食わない」
「……慕っている人が変な道に行こうとしてるなら無理を言ってでも止めるべきなんじゃないのか?お前がそうあって欲しい人なら自分の身を犠牲にしてでも言わなきゃいけないんじゃないのかよ!」
「私ではあの方に何かを言ったとしても心には響かないのだ」
クロイアの表情が少しだけ暗くなったのを新太は感じ取った。
「仮に私の行動が間違えているとしても…私は信じたい人の為にこの命を使うさ」
大剣を持ち直したクロイアは顔つきが変わると、剣を地面に着き刺す。次の瞬間新太。カラン、リオの周囲から鋭利な木の枝が生えてくる。
広範囲に及ぶ技で避けるスペースが無く攻撃を受ける。肌に深く突き刺さっていないが3人の体から血が流れ始める。
(こんなことも出来るのか!?)
動かせる手でカランは持っている銀月で自身達に生えている木を斬ると新太とリオも動けるようになる。
「大丈夫か?」
「私は全然動けるわ!」
「ア――。」
カランが新太の方を見ると目の色が変わってクロイアの方を睨んでいた。その姿を見ただけでカランは『大丈夫』だと確信する。
(相手の弱点はこれ以上の変化が無ければ別方向且つほぼ同タイミングの同時攻撃。アラタとカランのどっちかが攻めやすい起点を作る!)
リオは左腕に炎を出現させながら駆け出す。「はあ!」と声を出すと前方に炎の壁を出現させる。クロイアは大剣で炎を薙ぎ払い掻き消す。
炎が消えた瞬間に新太が勢いを付けて拳を当てにかかったが、大剣で防がれる。クロイアは新太を仰け反らせ、回し蹴りを打ち込んだのだが新太は腕で受け止める。
「ああああっ!!」
受け止めたクロイアの足を掴むと新太はその場で回転して勢いを付けて投げ飛ばす。
空中で体勢を立て直すクロイア。そこに打ち込まれる黄色く燃える炎の矢。分散して向かって来る矢を大剣で斬り落としていく。火の粉が飛び移り木々に燃え移って煙が立ち上がっていく。
新太は風の推進力を利用して右足のミドルキックから回転して左足のハイキックの2段蹴りでクロイアの頭部を攻撃するが、見えない壁に阻まれる。
(この時が魔力を防御に回している時か…どうやって攻撃を当てる?)
頭の中で悩んでいると煙の中から銀月を構えたカランが近づいていた。銀月は鎧の効果を打ち消すと知っているためか大剣で受け止めた。
(この時か!)
今この瞬間はクロイアの防御力は少なくなっている。右手に魔力を込めてまた接近していくが、クロイアが大剣に魔力を込めると刀身の植物のツルが刺々しい形状になり新太とカランに向かって飛んでいく。
「くっ!?」
新太はとっさにカランのローブを掴んで後ろに向かって飛び込んで、幸い掠る程度で済む。
(駄目だ!読み切れないっ!)
攻撃を入れるタイミングは分かっているのだがあと一歩。いや2歩か3歩届かない。向こうもこちらの動きに合わせて対応していくため時間は掛けられない。
(これじゃあ駄目だ。相手の魔力を感知し続けないと動きを見てからじゃあ攻められない)
そう思った新太は再び深呼吸を繰り返し意識と魔力を高めていく。そして新太を起点に弱い風が吹き始める。
(アレは…)
この感覚は闘技場の時転堂裕樹との勝負の際に起こそうとしていた技だとクロイアは理解する。
「大いなる自然の木よ!命令する!我等の立つ地に芽吹きを与え、光と恵みの水を吸い割れの妨げとなる者から護り給え!」
大剣を上に掲げるクロイアの背後に木の根が集約していき、一つの大きな巨木が出来上がる。するとクロイアは大剣を巨木に差し込むと驚くことに木が生命を与えられた様に動き始める。
『大いなる木の防護』
「何なの…アレ!?」
足が生えて動き始めたという訳では無いが、左右対称に生えた大きな枝が人間の手の様に動き、表皮には穴が開き人の表情が浮かび上がる。
新太達に向けて手を向けると巨木が動き左右の枝が新太達に向かって来る。そこからさらに枝分かれし、細かい針の様な形状になり避ける隙間が見当たらない。
カランが前に出ようとして迎撃しようとした瞬間ローブが引っ張られる。新太はカランを引っ張った後数歩後退りすると、枝分かれした攻撃は掠りもせずに回避出来た。
「はあ…ハァ…」
新太が先程起こした微弱な風。範囲内での魔力を感知するために作った技『風域』。だがこれは未完成の技でこの技を安定させるため、範囲内で発動した魔法などの攻撃は新太自身の痛覚を刺激する諸刃の剣なのである。
(どこに何が来るのかは分かるようになるのはいいけど、連続で来られるとこっちが持たない!)
巨木は地面に向けて枝を突き刺すと「ズドドドドドドッ!」と棘が地面から生えてくる。
『風域』の範囲内で繰り出される攻撃は新太に痛覚として体中に走ってくる。しかしどこに攻撃が向けられるのかが感知しやすいためカランとリオに声を掛けて回避できる場所へ指示を出す。
回避しつつクロイアに近づいていくのだが、中々前に進めない。だがクロイア自身から新太達に近づいてくることにリオは驚く。
(前に出てきた!でもあの木は自動で動いてる…ということは完全オートで敵に攻撃する魔法だということ。それなら!)
リオが何かを画策しようとして時、新太とクロイアは接近戦の場面に行っていた。クロイアが拳を前に出すと新太も拳を前に出す。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
力ではやはり叶わず押し負ける新太。また走り出そうしたが前に転びそうになってしまった。足下を見たら木のツルが足首に巻かれ動きが制限されてしまっていた。
「んのやろっ!!」
クロイアの蹴りが顔に迫ってくる。両手を交差して守りの体勢に入るのだが、目の前にカランが横入りし銀月で攻撃を受け止めた。
「んああああっ!!」
ツルを足の力で引きちぎりクロイアの顔面に一撃を喰らわせるのだが微動だにしていない。それと同時に体に痛みが走ってくる。上から巨木の枝が降り注いでいた。
(やべえ…避けられねえ!)
しかし頭上に降り注いでくる枝は緑色の炎で爆散して新太達に攻撃は届くことは無くなった。
(この炎はあの娘の…)
先程から自身の方に向かって攻撃してこないリオを見つけるため辺りを見渡すが彼女は見つからない。
だがクロイアに人影が重なる。気付いて上を見上げるとリオは高く飛んでいて空中で弓を構えている。
「炎よ命令する。我に在りし力を使い――。」
「チィ!」
クロイアは両手を合わせる動作をすると巨木の枝が形状変化し手の形になる。その動きに合わせリオを挟み込もうとする。
「うっ――。こ…の矢に疾風の如く素早い炎を宿せっ!!」
空中で体を翻して攻撃を回避しつつ魔法の詠唱を唱え続ける。まだ赤色の炎の矢はクロイアには見せていない。
4つの色に分けた炎の色。色によって弓の構え方と放つ距離を設定されているのだが、赤色の炎に関しては発動条件は設定していない。
『豪炎の一矢!!』
リオが放った魔力の一撃は『豪炎の一矢』。炎を纏った矢は巨木に向かって一直線上に突き進む。枝が矢を受け止めるため何重にも重なって受け止めようとしていたが、一瞬で貫通し巨木に撃ち込まれる。
苦しい声を上げながら燃え盛っている巨木は最後にリオに向けて手を伸ばす。重い一撃を放ったリオは動けずにただただ下に落下していくだけ。最後の方に見せる執念でリオは呆気に取られていた。
(手が…重い…!)
何とか動こうと手を前に出そうとするが腕が痺れて上手く動かせない。燃える手が迫って来る――。
「だああああっ!!」
手が目前まで迫る中新太がリオに向かって飛んでいき、手を掴んで燃え盛る手から救い出す。
「ありがとなリオ!おかげでアイツが消えた!」
「えへへ…でも私まだいけるよ!」
木が破壊されたクロイアは急いで燃え盛る巨木に近づく。何故その行動をするのかは新太でも理解出来た。突き刺した大剣を手元に回収するために走っているのだと。
「リオ!ここから奴を狙えるか!」
「くぅ…う!」
まだ空中にいる2人はクロイアから離れている。このままでは大剣を取られてこちらの勝ち筋が遠のいてしまう。
しかしリオの手はまだ少し痺れている。構えられても弦を引くことが出来ないことにリオは焦って弓を落としてしまいそうになるが、新太がしっかりキャッチする。
燃える巨木に手を伸ばすクロイア。しかし黒い煙からカランが現れ銀月で斬りかかるがクロイアは肘と膝で挟み込んで受け止める。その後カランの顔に掌底を当てて距離を取って直ぐに大剣を手に取る。
(何故だ。何故なのか…私は今高揚している。騎士になった私は魔物や賊などを討伐し報告する日々で何も無かった。だが今は戦いが拮抗している相手達と闘い己の力を引き出している感覚に今、私は酔いしれている!)
上を見上げるクロイアは落ちてくる2人を見つめる。新太は地面に落ちる寸前で足から風の魔力を出して衝撃を最小限に抑える。そして新太は腕で口元を抑えながらリオに提案を持ち掛ける。
「リオ。頼みがある」
「それで?頼みって?」
「リオに最後の一撃をお願いしたいんだ。一撃の威力ならお前の方が圧倒的に上だから」
「それはいいけど、詠唱する時間とある程度至近距離で撃たないと外す可能性がある」
「作るしかねえんだ…最悪俺ゴと撃チぬいてもイい。もう勝つ方法がそれしかない」
新太が覚悟を決めて言い放っている時、リオは新太に嫌悪感を抱き鳥肌が立つ。思わず新太の肩を掴んで呼び止める。
「ねえ。アラタだよね?大丈夫なんだよね…?」
「んえ?何言ってんだよ。こんな良い男そうそう居ねえぞ?」
こんな状況でも軽い冗談を言える彼を見てリオはまだ『大丈夫だよね?』と疑問を抱かずにはいられなかった。
そして新太はゆっくりとクロイアに近づいていく。魔力を両手に纏わせ拳を構える。
「そろそろ終わらせなければ私の地位も崩れかねない。最後にもう一度言おう…大人しく投降しろ」
「嫌だね。俺達が勝ったらお前の有り金全部貰うからな。こちとら逃げたかもしれないイグイースの罰金払わないといけないかもだからな!」
「言ってることがまるで蛮族だな。まるで闘技大会で優勝した者とは思えんな」
新太とクロイアが構えて2人の汗が地面に落ちた瞬間2人は一気に距離を詰めていく。
剣と拳がぶつかって力の押し合いから始まる。だが競り合いはまだクロイアに分があり新太は押し負け後ろに下がる。
すかさずクロイアは下から振り上げ尖った木の根が新太に迫る。上へ飛び回避するとそれを見たクロイアは横に剣を振り針の様な木片が出現し、空中にいる新太に向かって飛んでいく。
右に向かって風を出し攻撃を避けるが、降り立った場所にクロイアは待ち構えていた。両腕に防御魔力を全て回して受け止める気でいた新太だが、クロイアの足元に見慣れない短剣が刺さっていた。
するとクロイアの側に一瞬でカランの姿が出現し、短剣を回収しつつ剣同士がぶつかって攻撃が止まると新太は何事もなく地面に着地する。鍔迫り合いをしている2人だが、クロイアはカランの腹部を蹴り新太が受け止める。
「カラン!それは魔道具の一つか?」
「ああ。けどタネが分かったら対応されやすい代物だけどね!」
カランの持っている短剣は以前プロフェヴァルという街で使用されていた代物。この短剣には所持者を対象にして一瞬で移動する事が出来る『瞬間移動』の能力を持っている。
発動条件としては同じ短剣を所持していなければワープする事が出来ない。刺した箇所を自由に行き来出来る訳ではなく、刺した順番の元へ移動しか出来ないという代物である。
それを手に5本持っているがよく見るとそれぞれ1本ずつ色分けされていて赤・青・黄・白・黒に分けられていた。
「瞬間移動…カラン!少し耳貸せ――。」
(策を講じようとしているのだろうが、大方瞬間移動を繰り返し銀月で斬りかかり隙が生じた瞬間に少女の一撃を撃ってくる…という感じだろうか)
油断はせず鎧に魔力を纏わせ防御力を上げる。目の前の新太とカランの話し合いが終わるとカランが地面に向かって何かを投げる。
「ボンッ」と周囲に白い煙が充満して互いの姿が見えなくなる。「ザッザッ!」と迫って来る足音に意識を向けるクロイアは勢いよく剣を横に振る。
煙は吹き飛び、新太は膝を地面につけながらスライディングの様に滑って避ける。その体勢から手の反動を使って飛び顔面に足蹴りを入れるが、クロイアにはダメージを与えられない。
クロイアは上から剣を振り下ろすが、新太はそれを両手で挟み攻撃を受け止める。
「ぅぐ…ああああっ!」
剣を横に倒させて右脚のミドルキックをクロイアの横腹に当ててから後ろに飛び距離を取る。
(魔力が高まっていく気配…!)
後方で弓を構えているリオの存在感が凄まじい。今すぐ止めなければ鎧の防御力を貫通しかねない一撃が飛んでくるとクロイアの直感がそう脳に訴えてくる。
リオを止めるべく移動をしようとしたが、「サクッ」と足元に赤色の短剣が刺さっている。側に一瞬で現れるカランの攻撃を止めるため、下から大木を生やし剣を止める。
だがクロイアの死角から迫る拳が一つあり、その拳はクロイアの顔面を捉える。ほぼ同時の攻撃と防御であるため鎧の効果をかいくぐって攻撃を与えられた。
(い、今優先するべきはあの少女を止めること!)
クロイアは足に魔力を込めて回し蹴りを新太に喰らわせ、かなり遠くに弾き飛ばす。
「ズガガッ!!」と大木を斬り壊しながらカランが銀月に魔力を込める。カランの体は銀色に発光していく。
クロイアも大剣に魔力を込める。剣に巻かれた植物のツルが編み込まれより強固な形に変わっていく。
2人の持つ剣が衝突する――。事はなかった。「ボンッ」とまた煙が発生しカランの姿が消える。
(煙幕…剣の軌道を読ませない為か!だが攻撃を止めず広範囲に繰り出せばカバーは出来る!)
大剣の持ち方を変えてその場で勢いを付けて回転する。煙は斬り捨てられる様にクロイアの視界はクリアになり、側に居るのはカラン――。ではなく魔力を極限まで高めたリオが至近距離に立っており、カランは先程までリオが立っていた地点にしゃがみ込んでいた。
(入れ替わって、いる!)
クロイアの脳裏にはあの時新太とカランが耳打ちをしていた時の策を読み間違えていたことに気付く。
(あの時最初に煙幕を張ったのはリオに短剣を渡す為に移動していたことを悟らせないため。突き刺さった短剣はわざと回収せず、その内の1本をリオに渡し立っている箇所に短剣を刺しておく。これで発動条件は満たすことが可能…後は最後の局面にて僕の姿を隠し、攻撃を読みづらくさせるためと意識させてタイミングを合わせ互いを入れ替える――。最後に遠距離からの攻撃しかないと思い込んでいたアンタの落ち度だ!)
(詠唱はもう済ませてあるのよ。喰らいなさいっ!)
『炎鳥の牙突!』
炎を纏った矢は突き進み、やがてその炎は形を変化させると2つの翼に鋭い脚を形作り紅色の鷹が出来上がる。
その炎鳥はクロイアに激突し、勢いは落ちる事無く突き進んでいく。しかし炎鳥の動きが段々と止まっていく。
「おおお、おおおおおっ!!」
大剣を前に出してリオの技を受け止めていくクロイア。「ズザザザザザッ!!」と足で踏ん張っているが、やがてクロイアが押し始めていく。
(耐えてる!?不意を突いた一撃なのに…このままじゃ!)
「あああああああっ!」
リオが動こうとした瞬間にクロイアは『炎鳥の牙突』を弾き返す。リオとカランの表情が曇っていき次第に戦う意志が薄れていく。
(駄目、なんだ…)
座り込み力が抜けていくリオ。疲労で視線が地面に下がっていくが、ほんの少し視線を上げてみると新太が真剣な眼差しをクロイアに向けて、今にも魔力が込められた拳を振るわんとしていた。
「っ!?」
突き刺さる殺気に気付いたクロイアは後ろを振り向く。新太は前のめりに飛び掛かっていて澱んだ魔力を纏い右拳が迫っていた。
(間にあわ――。)
「うおおおおおおおおっっ!!」
「ズガッ!!」「ズシャッ!!」
二つの不快な音が響き渡る。
新太の右拳は確実にクロイアの顔面を捉え、大きな一撃を与えることは出来た。
しかし新太の体に違和感があった。左腕の感覚が全く感じられないのだった。新太は視線をやや左に向けるとそこに映ったのは鋭利な木の根によって切り離された左腕が空を舞っていた――。
新太が攻撃したのと同時にクロイアは大剣の能力を使って新太の左腕に攻撃を加えたのだ。
「あ、ああ…ぐ、おおおおおおっ!」
新太は痛みに耐えながら、歩みを止めずクロイアに近づいていく。止める訳にはいかない。ここで止めてしまえばここまで繋いできたことの意味が無くなってしまう。
血を流しながら右拳で攻撃しようとしてくる姿を見るクロイアは感心を抱くが、それだけだった。
「……」
「ザシュッ!」と大剣を左下から右上に新太の体を斬り上げる。胴体に傷つけられた箇所から血が大量に流れると同時に新太は地に倒れる――。
「アラタァァァァァッッ!!」
意識を失う前に少女の叫び声と哀しみに包まれながら、少年の意識は闇に落ちていく――。
どうもオオモリユウスケでございます。
また投稿ペース乱してしまって申し訳ございません。時間と自分自身の健康水準が段々と下に行ってるためか小説に割ける時間が少なくなってるので…何とかします。
さて今回はクロイア戦になりますが、やはり王国の騎士ということなので強さを表現したかったのとまだまだ余力がありますよ。っていう感じを出したくてこの結末に致しました。新太達の中で一番の成長株は今の所新太ではなくリオに向けてるので個人的に書いてて楽しいかなって思ってます。
さて今回はここで終わります!それではまたお会いしましょう!




