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37話「翼をはためかせて次の場所へ」

ある王国の街道を得体の知れない者に追われて走っている少年が一人。


その少年は水色の上着を着て下半身にはグレーの半ズボンを履いた服装を着て首元には黄色のマフラーを巻いた。髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太。


そんな新太は緑色のシャツを腕に巻いており、後ろからはクマの着ぐるみの様な何かが追いかけてくる。


「クッソ!このクマ野郎…ピッタリ付いてきやがる!」


その距離間はおよそ3~4m。攻撃してくることもなく、一切妨害をしてくるということもない。完全に追跡の為に送られてきた刺客。


しかし新太はなぜ自分だけ追われるのかについてのおおよそ見当はついていた。


(対象者を追うような魔法があれば話はべつだけど、広い王国の中でピンポイントで俺を追うっていうのは難しいんじゃないか?それを可能な人物且つ俺を知ってる奴といえば…)


この国の王。ルミノジータ・ウキメ・イニグランベしかいない。街道を曲がって曲がっていくと道幅が狭くなっていく。壁を蹴って上に行き、急いで腕に巻いた緑色のシャツを窓の冊子に引っ掛ける。


後ろを見て追いかけてくるクマが近づいてくるのだが、緑色のシャツが引っ掛けられている真下に立ち止まっている。


(おし…そのままいつまでも真下に立ってな。さあ早くこの王国から出ねえと!)


歩き出そうとした途端。「ギッ…ギギ」と機械音の様な音が聞こえてくる。振り返ってみるとゆっくりと顔がこちらを向いてくる。


『対象者の移動が止まりました。座標が重なっているため対象者に気付かれた可能性があります。よってレベル2へと移行します』


バッ!とクマの着ぐるみは新太に飛びつくように近づいてくる。新太は腕を前にして攻撃を受け止めるのだが、ぶかぶかとしているため衝撃はあまり無く痛みはあんまり感じない。


「ぐっ!?急に攻撃してきた!」


さらに追撃を加えようとそこに蹴りや拳が飛んでくるのだが、苦しい表情で新太はそれらを捌いていく。


「うおおらあぁ!!」


クマの着ぐるみに右脚のミドルキックを当てて、距離を少しだけ作ることが出来た新太は振り返って窓の冊子に引っ掛けた緑色のシャツを取りに戻った。


(さっき引っ掛けて対象物が何とか~って言ってたな…やっぱり触れられたときに何か細工されてたんだな)


新太の手に再び緑色のシャツを巻き付けるとクマの着ぐるみは構えを止めて襲ってくる気配が無くなった。


「これじゃあ振り出しに戻っちまった…」


魔法が掛かった緑色のシャツが動かないままだと新太を襲ってくる。そしてこれはいつまでも追跡してくるだろう。だがそのままにしておいても結果は変わらない。


(これに終わりはあるのか?こいつを倒せばあるだろうけど…倒したとしても王様に通達が行ってややこしいことになりかねない。一番安全に乗り切るには移動し続ける物に巻きつけて騙し続けるしかない!)


踵を返す様に振り返って上に向かって風の魔力を使って建物の上に出る。下を見たらこちらに向かってくるクマの着ぐるみの姿が虫の様で気色が悪い。


急ぎで新太が向かう先は仲間の元。


「リオオォォォッ!!カラーーーンッ!!」


2人と別れた付近まで屋根伝いを走っていくと、声が届いていたのかこちらに近づいてくる藍色髪をした少女が一人。


黄色のカチューシャに茶色のブーツに左太腿にガーターベルトを着け、鉄製の防具で上半身には黄緑色の装飾品や足元まで伸びた布。両手には前腕まで隠す黒色の手袋で右腕には護るための鎧。左腕には甲の部分にカバーが付いた軽装備を身に付けたリオという少女。


「アラタ!何があったの?」


「あれ?カランは?まあいいか。リオお前にやってもらいたいことがあるんだ!」


新太は先程までに起こったことをリオに話す。対象物が移動し続けないと本格的に襲ってくるということ。これをどう対処しようとしていることも。


「俺がこのシャツをどこかに置いてくるまでの時間稼ぎをしてもらいたいんだ」


「なるほ…ん?」


タッタッタッと新太の後方からクマの着ぐるみが近づいてくる。


「アラタ。分かったやるよ私…何分あればいい?」


「リオ。ありがとう!せめて5~10分欲しい。あと言っておくことがあるんだけど…戦う際に俺じゃなくて別の人が戦ったらどうなるか分からない!」


最後にそれを言い残して新太は先に進んでいく。クマの着ぐるみも新太に続いて追いかけようとしたが、リオは手を振り払う様に炎の魔力を出して行く手を阻む。


「そういうのは最後に言っちゃダメでしょうが…」


身構えると同時に腰に備えている黒い弓を構える。弓に魔力を通すと赤く燃える様な弦が出現し手を添える。


(思いもしなかった展開だけど…ここでこの武器の試運転といきますか!)


右手で炎を纏った矢を生成して狙いを定めて、炎の矢を放つ。しかし矢の軌道はあらぬ方向に行き「ビュンッ!!」とクマの着ぐるみに当たらなかった。


「あれ!?真っ直ぐ飛ばなかった…弦の張りが強すぎた…?」


纏わせる魔力を少し抑えてもう一度狙いを定める。しかし相手も止まっているだけではない。機械音が鳴り低い声が発せられる。


「部外者からの攻撃魔力を確認。対象者の距離が10mを離れました。目の前の部外者を直ちに排除し追跡を続行します」


するとクマの着ぐるみは手の部分から「ザシュッ!」と鋭利な短剣が2刀出てくる。


「アラタ以外の相手には容赦ないのね…!」


迫りくるクマの着ぐるみは両の手で短剣を横切りで斬り付けるが、リオはバック宙で避けると燃える弦を引いて放つ。


だが放たれた矢は「ガンッ」と切り捨てられる様に攻撃は無意味に終わる。


(今度は弦の強さが弱すぎた…魔力のバランスが難しい…)


おまけに相手との距離も考えないといけない。精度もまだまだ上がっていない状態なため有効な攻撃手段が限られてしまっている。


(狙えるとしたら近距離の一撃しかないか…)


ここから先どうやって相手の懐に入って放つのか。意識を極限までリオは高める――。






「はあ…はあ…」


必死に屋根伝いを走り回っているのは輪道新太。リオに相手を任せて新太が向かう先は交易場もしくは城門に向かっている。


(対象者が移動し続けないといけないなら常に動く物に結び付けて騙す。それがここで可能なのが馬車などの乗り物しかない!)


巻き添えになってしまう人には申し訳ないが襲ってこない相手からずっと追い回されるなら国の兵士に言えば問題が生じ、証拠隠滅を図るだろう。


「ここからだったら…まだまだ遠いか!」


距離の事を考えて全力疾走で向かおうとして次の屋根伝いに飛ぼうとした矢先、下から謎の人影が這い上がってくるのが見えた。


その姿はクマの着ぐるみとは別のウサギの着ぐるみで、両の手には長い剣が埋め込まれており新太に斬りかかってくる。


不意打ちだったため思わず目を瞑ってしまったが、「ガギイィン!」と金属音がぶつかり合う音が聞こえてくる。


目を開けてみるとフードが付いたローブを着て可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという少年が剣で受け止めていた。


「カラン!」


「お前はとことん危険な場所にいるよね…!」


「ありがとうカラン!早速で悪いんだけどコイツをしばらく抑えててくれないか?」


「抑えるって…結局コイツは一体何なんだ?」


「簡単に言ったら多分王様からの嫌がらせだよ。マーキングした対象者をしつこく追いかけ回してくるんだよ」


「その対象者がお前だったとしたらどうしようもないんじゃないの?」


「いや。マーキングされてあるのはこの緑色のシャツだ。さっき引っ掛けて放置しようとしたら行動が変化したから確信に変わった。別の奴はリオが抑えてくれてる」


「けど抑えるって言ってもさ…コイツ相当殺意が高めだよ」


「そうっ…ぽいな。さっきの奴よりも攻撃性が高そうだ…な!」


勢いよく飛び出して奇襲を仕掛けようとしたが、ウサギの着ぐるみは剣で新太の蹴りを受け止めると直ぐに2刀の剣で斬りかかる。しかしカランの剣で軌道を変えさせ、新太も続いて魔力を込めた蹴りで軌道を変えさせる。


「うおおおおおっ!!」


体勢が崩されたウサギの着ぐるみは胴体がら空きになったため、新太は力を込めた右ストレートを打ち込むが、中身が柔らかくしっかりとした衝撃が伝わっていないのか対してダメージは与えられていない。


(やっぱり駄目だ…相性が悪くて有効打が与えられない!ならここは!)


視線を互いに合わせた2人は攻撃手段を入れ替えて前にカランが出て後ろに新太が下がる。


打撃系の攻撃はあまり効果が無いのなら武器を持っているカランの方が効果覿面なはず。新太は離れすぎずカランの周りを常に位置取る。


ウサギの着ぐるみから斬りかかってくる剣を魔力を込めた拳で真正面から受け止める。


「ぅぐ…おお…!」


着ぐるみだろうと相手の魔力の質が高ければ攻撃力は歴戦の者と大差はない。その証拠に剣を受け止めた新太の拳から血が流れている。


一刀一刀が連撃で放たれる攻撃が新太の拳を傷つけていく。


「おおおおおっ!!」


気合を入れて声を出すと同時に相手の剣の軌道にタイミングを合わせて裏拳を繰り出す。「ギイィィィン!」と甲高い音と共にウサギの着ぐるみの体勢は大きく崩れ後ろにのけ反ると直ぐにカランの剣がウサギの着ぐるみの左腕を斬り落とした。


そして新太は少し飛び跳ねるとウサギの着ぐるみの顔面にハイキックを当てるとウサギの着ぐるみは地面を転がっていく。

「今のうちに行けっ!」


「ああ。あとは頼む!」


「ビュンッ!」手から風の魔力を噴射して一気に目的地まで距離を近づいていく――。






謎のクマの着ぐるみに襲われる少女リオは振りかざしてくる短剣の攻撃を避けていた。


(こいつ…!やっぱり学習能力がある!私の攻撃が遠距離だと分かった途端一気に距離を詰めてきた!)


弓の調整がまだ慣れていない段階ではあるが、近づいてくるのなら好都合。小さな隙を見つけて近距離で打ち込むしかない。


(打撃はあまり意味は無い。弓は引くタイミングが中々見つけられない。なら炎で牽制…?)


シュボッ!と右手から炎を見せた瞬間。相手は一歩引きさがる。その様子を見たリオは自身の弱点さえも認識しているのだと理解する。


(炎には近づかない…自分の体が燃えてしまうから。攻めてくるのは主に近接戦なら私のペースに持っていける!)


リオは周辺に弱い炎を円形に展開して相手を迂闊に攻めさせない様に間合いを取るとリオは落ち着いて弓を引く。


だがクマの着ぐるみは短剣を勢いよく振りかざすと魔力の斬撃がリオに向かって放たれる。


リオは身を引いて避けようとして屋根伝いから飛び降りるとクマの着ぐるみも一緒に飛び降りてくる。


(飛び降りて近づいてきた!――でも。狙い通り!)


現在リオの真上にはクマの着ぐるみが空中にいる。勢いよく加速して降りてくるクマの着ぐるみの手がリオに迫りそうになるとリオはニヤリと笑うと、右手に炎の矢を形成した。


(炎を見て勝負を焦ったのが運の尽きね!距離も近いし空中なら躱しづらいでしょ!)


弓に全開の魔力を纏わせると炎の弦が勢いよく燃え盛って生成されると狙いを定め、炎の矢を飛ばす。


くるクマの着ぐるみは短剣で弾こうと刀身を矢に重ねたが「パキッ」と折れて炎の矢は勢いが落ちることなく腹部を燃え盛る炎で貫いた。


そしてリオは空中で姿勢を整えて地面に着地すると自身の手に持っている黒い弓を見て小さく息を漏らすとこの場を後にした――。






(急げ!あの2人が作ってくれた時間を無駄にするな!)


人混みの中をかき分けて進んでいく新太は交易場までおよそ1kmまで着ていた。後ろを見て見るが追ってくる着ぐるみの姿は見当たらない。


(よし。あとはこのシャツを荷台に乗せればいいだけだが、次の目的地と方向が被らないようにしないといけない…)


リオが言っていたピーシャという街は地図上では左下に位置付けられていた。なら方角的には南西辺りだろうか。そことは違う方向に向かう馬車を探して置くしかない。


新太は手で視界を遮る様にして空を見上げる。太陽の昇り方が元の世界と同じなら東から登って西に沈むはず。


現在昼過ぎ頃の時間。沈んでいっている方角とは逆側の方角に顔を向けて停められている馬車やら荷台を積んだ箇所に向けて近づいていく。


(どれだ?どういった馬車の方がいいんだ?やっぱり貴族の人が乗りそうなやつか?)


そうこうして目に留まった物は白くて一回り大きな馬車を発見した。注意深く様子を伺ってみると人の気配は無い。


静かに移動して荷台前に着くと積荷にはこれから先に備えられているであろう旅路に向けての資材が積まれている。


(よし。このシャツをどっかに隠して――。)


「しかし荷台の警戒なんて面倒だな」


「まあ後は荷物のチェックだけだ。速く終わらせるぞ」


(やばい!帰ってきた)


急いで荷台から降りようとした時、土壇場で「ガンッ!」と足をぶつけてしまって音を立ててしまった。


「誰かいるのか!?」


(何やってんだ俺の馬鹿!!ど、どうする?)


足音からして2人。恐らく国の兵士がもう目前まで着ている。


「大人しく出てこい!そうすれば危害は加えない」


「待って!直ぐに出ていくからさ!」


新太は両手を上げたままで荷台から姿を現す。特に抵抗をすることもなく兵士と話をしようとするが、手に持っている武器を向けられる。


「荷台に勝手に乗ってたことは謝る!だけどこっちにも事情があったんだ!」


「おい。コイツ大会の優勝した奴じゃないか?」


「本当だ!暴虐の武人。リンドウ・アラタだ!」


(えっ?何その暴虐の――。ってそんな呼び方されてんの俺!?)


予想だにしていなく自分にとっては嬉しくない二つ名みたいな物が嫌で仕方がないが、今はこの状況を何とかしないといけない。


「実は今俺狙われているんだよ!多分大会で優勝した時に貰った賞金を狙って来てるんだと思って、ドタバタしててここで姿を隠してたんだ」


嘘と真実を織り交ぜながら話す新太の様子を見る兵士の2人は少しづつだが警戒を緩めていく。言葉を間違えないように頭を動かしながら会話を続ける。


「ここで言うのもなんだけどさ俺を助けてくれないか?せっかく体を張って頑張ったのに変な奴に賞金を奪われたくねえよ!」


すると離れた箇所から「ドガンッ!」と黒煙が上がっている。この状況は利用出来ると思った新太は直ぐに兵士に呼びかける。


「やばい!アイツ俺を探すために見境なく攻撃したんだ!なあ!この国で強い人を呼んでくれきてくれよ!」


「な、何故貴様に命令されなければならないのだ!」


「じゃあアンタらが戦ってくれるのか?俺戦ってみたけど普通じゃなかった…ここで一番の選択はアンタらが他の兵士を呼んでくることなんだよ」


「しかし――。」


「お前らは自分の仕事がなんなのか分かってないのかよ!ここでモタモタしてる間に市民が怪我してる可能性だってある…。そうなりゃお前らの信用は落ちてしまうことに繋がることになりかねない」


「……くっ」


(もう少しで完璧に行けるぞ!めっちゃこいつらの良心に付け込むのは悪いけどこっちだって急いでるんだ…)


周囲に人が騒ぎ始めて黒煙の方に向かっている。急いでこの場から離れないと何かマズイ気がしてならない。


「俺は狙われて他の人に危害が及ぶかもしれない。他の兵士を探して助けを呼んでくるから様子を見てきてくれ!」


「わ、分かった!」


新太の勢いに気圧された兵士2人は黒煙が舞い上がっている箇所に急いで向かっていく。後ろ姿を見て、騙してすまないと心の中で敬礼をとっていた。


(さあ、あとはこの忌まわしきシャツを隠す様に置いて――。)


木箱の下に見えない様に隠す。直ぐに馬車から降りた途端、見知った顔が見えた。


短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型。完全にラフな格好で鎧は着ていない。そして腰元にはあの『破壊』を扱える。細くて長い青白く光る神代器の剣を携えた少年の転堂裕樹が暗い表情でこちらに近づいて来ていた。


(な、何で裕樹がこっちに来てるんだ!?まさか付近の馬車に裕樹が乗ってるやつがあるのか…)


闘技場で戦ったこともあり余計に気まずい。出来れば会話をせずにこの場を乗り切るため、まずは視線を遮るため馬車の陰に移動する。


そして止められている馬に近づいて紐を風の魔力で斬ると、馬の尻を力強く叩いて驚かせて走らせる。


制御されていない馬は裕樹の方向に向かって走っていくのを見て、こちらでも騒ぎ始める。視線が完全に馬の方に向けられている。


(今しかない!)


陰から飛び出すと同時に足に風の魔力を出して空中を飛びあがりこの場を離れる。建物で視界が遮られる前に少しだけチラッと裕樹を見てみると視線が合った様な気がした――。





「……私の送った使いがやられました。イネリア様…私は外に行ってきます」


「そうですか。思っていたよりも……ですね。対象者はどちらに向かって移動を?」


薄紫色の髪色で束ねた髪を後頭部でまとめた髪型をして、こめかみ部分には煌びやかな髪飾りを付けている。そして胸元の上部分が開け、強調されている赤色の服装を着ていた。ルミノジータ・ウキメ・イニグランベというこの国の王女は少しだけ沈黙すると口を動かした。


「東側の城門に向かって移動しています。恐らく乗り物を利用していち早く出ていこうとしているのでしょう」


「なるほど。人形達はそれぞれどうなっているのですか?」


「それぞれ2体は遠くない距離間で消失しています」


「そうですか。ウキメ?本当に行ってしまうのですか?貴方が行っても確かめられないと思いますが」


「いいえ。だからこそ私が向かうのです。実際に会わないと確かめられない――。」


そう言ってルミノジータ・ウキメ・イニグランベは扉から笑みを浮かべながら出ていく。そして一人取り残されたベッドの上に白い寝巻の様な服。肩まで掛かった黄色い長い髪。ルミノジータ・イネリア・イニグランベは、口元にほくろが一つある大人びた雰囲気を持った小柄な女性は近くの机の上に置いてあった長方形の結晶を手に持つ。


「クロイアですか?一つ頼み事があるのですが――。」


城内にて冷たい言葉の会話が繰り広げられる。


そんな不穏な事があっていることは露知らず。新太達はこの一件をなんとかやり過ごし一同は交易場付近の場所で落ち合っていた。


「ふぅ~いや~危なかったあ」


黒色のシャツを着たあとに水色の上着を羽織って体を伸ばしていた。


「ホント何でお前はこうもトラブルに見舞われるのか知りたいよ」


「ん~何でリオさんは真剣に買ったばっかの弓を凝視してるの?」


「なんか思ってた以上に弓の精度がブレブレだったみたいなんだってさ。説明されてた通り魔力を調節が出来ないと攻撃が通らない遠距離攻撃はかなり痛手だろうし」


「まあここはリオ自身が向き合わないといけない問題だからなあ。俺は魔力面に関してはお手上げだからカランしか任せられないんだけど」


「何で僕に押し付けるんだよ。仲間の問題は解消してあげてよ」


「その仲間にお前も入ってること忘れんなよカラン」


「……はぁ」


「よし一息つけたし本格的移動しようぜ。また変なのに絡まれたくないし」


「そういえば次の目的地は?僕は何も聞いてなかったんだけど」


「ここから大体南西辺りあるピーシャっていう街。んで先生から受け取った地図だと赤丸で囲まれてる箇所があるからそこに何かがあると踏んでる」


「なるほどね。じゃあ問題は移動手段か…残っている金はどのくらいだ?」


「えーとね。6万エルぐらいだね」


「…まともな移動手段すら用意出来ないかも。早速不安な旅路になりそうだ…」


「まあ、何とかするっきゃねえよ。おーい。リオー!そろそろ行こうぜー!」


「魔力が強すぎると左右どちらかに向かっていく…それも距離によっても変わるだろうから――。」


真剣な眼差しで黒い弓を見ているリオはブツブツと独り言を言っていた。


「お、おーい。リ、リオさーん?」


「今考え事してる最中でしょうが!!」


「ハ、ハイ!ごめんなさい!!」


迫真の表情で叫ばれた新太は驚きながらもリオの背中を押しながらここから移動を開始する。


「ところでさ移動手段って奴はどんなのがあんの?」


「基本的に馬車での移動がセオリーだ。けど馬車を借りる場合、料金の価格は高くなる。ただ陸を走る生物単体を借りるなら多少低くなるけど、旅をする人は安く済ませるためにある一つの選択を取るね」


「選択?」


「自ら護衛を買って出る。ってこと。商人などの人が一番懸念していることは魔物や盗賊などに襲われるという事例。買った物届け物などが壊されたらたまった物じゃないから」


「なるほどな。目的地と同じ方向までなら護衛するし、途中まででもいいから請け負うのか」


「けど商人側も強い人を希望する。そこで…」


カランは自分のローブの中から文字が書かれた銀色のネームプレートを取り出した。


「それは?」


「自身が冒険者であること証明するための物。アラタは自身の冒険者登録は?」


「いや?そんなのやってない。ていうかやる暇も無かった気がする」


「リオは?」


「うーん。集落で育ったって言ってたからしてないと思う」


「そっか。今この王国で作ることは可能だし大きな街でも出来るけどどうする?」


「いいや。ここでは作らない。時間を掛けてたらまた変な奴に襲われるかもしれない」


「確かにそれは言えてるね」


まだ一人でブツブツと話してるリオを尻目に会話を繰り広げられる新太とカラン。しばらくこの先の事に関して話していると交易場の施設まで足を運んでいた。


「安くて済ませるためにはじゃあ動物単体を借りて移動しかないか~」


「あとは相場がどれくらいなのかは確認しないと…?」


カランが施設に入る一歩手前で何かの存在に気付いた。新太も気になってカランの視線の先を見てみると新太は「あ」っとその存在に気付く。


それは新太が大会で戦った人物が立っており、向こうも新太達に気付く。大きな鎌を持ち所々に紫色に怪しく光り、黒色のボロボロな服装でドクロの仮面を着けたシューナという人物ともう一人は大きな銃を肩に乗せていて、少しゴツゴツしたズボンで両腕には装備で武装してビキニという露出が多めの緑髪の長い女性。


気まずい空気にならないように新太は早歩きで施設内に入ろうとすると足元に大きな鎌が突き刺さった。


「えーーと?これはアレなんでしょうか?リベンジマッチという奴なのでしょうか?」


見たことがある大鎌を引き抜いて持ち主のシューナに変えそうとしたが相手は仮面越しに睨みつけてくる。


「辞めなさい!シューナ。負けて悔しいのは分かるけど自分の価値を下げるだけよ」


シューナの両肩を抑えながらなだめる女性は笑いながらこちらを見てくる。


「優勝したアラタさんでしょう?私アンティー。貴方が戦ったケイシーと旅してる人って認識でいいわ」


(まともそうな人だった…)


「……」


息を漏らしながらまだ睨みつけてくるシューナとの割って入るアンティーは続けて話をする。


「ケイシーが貴方に負けたあと色々大変だったんだよ?宿の部屋に閉じこもっちゃうし…余程心に来ちゃったのかしらね?」


「ええ?あの人強かったでしょ?なんだってそんな…」


「さあ…どんな人でも心の支えになっている物があるだろうし、そういうのは時間しか解決する手段しかないしね」


「まあこの世界だと物理的に強い奴が生き残る世界だし、俺が関わっても無駄だろうし変な事になりかねないだろうし」


「そうなっちゃうわね」


「もし復讐心で一杯だったら俺達を探せばいいし、その時は相手になるよ…カランが!」


冗談交じりで言い放つと新太の後頭部に「ゴンッ!」と棒状な物で叩かれる。少し振り返るとカランが真剣な眼差しで睨みつけていた。


「じょ…冗談じゃないっすか~」


「フフ。もし大変になったらお願いしようかしらね?シューナのこともそのうちね」


「…次は、もっと斬り刻む」


「ええ~嫌だなあ」


「それじゃあ私達は次の用意があるからこの辺で。それじゃあ」


アンティーはシューナを引きずりながら新太から離れていく。お互いに手を振って姿が見えなくなるまで見送っていた。


「何で君は変なことを抱え込もうとするのさ」


「抱え込んじゃいないよ。ただ俺がそうしたいだけなんだよ」


「は……」


やっぱりこの目の前に立つ男は得体の知れない存在なんだ。と再認識させられる。そしてこの者の行く末はきっと悲惨な物になるのだろうと予感がしてならないのは何故なのか…。それも分からないから尚更怖い。


「そうだ!距離によって炎を配置すればいいんだ!」


「うおおっ!?ビックリした!急に立ち上がるなよリオ…」


自問自答を繰り返して自身で答えを導き出したのであろうリオは思い切って立ち上がり2人を驚かせた。


「さあ早くしよう。移動の準備をしないと変な騒動に巻き込まれるのはごめんなんでね」


「それもそうだな。早く次の街に行こう」


施設内に入った3人は早速受付の人に話しかけて、馬車などの乗り物に関しての受付をしようとするが新太の肩に勢いよく掴まれる。


「待ってアラタ。今から私達がしようとしていることって、乗り物に乗ろうとしてる?」


「そうだよ。ここから先は移動手段もしっかりしていかないと時間が掛かるだろ?」


「お願い!ちょっと考え直して…だって私道中で吐いちゃうんだよ!?カランだってここに来るまでに私のを見て気持ち悪くなってたじゃん!」


「そんなこと言われても…俺らの旅に終わりが無くなるぞ」


「いやああああっ!胃液が出なくなるまできっと吐き続けて死ぬんだ私!」


「僕乗り物を前にして情緒不安定になる人初めて見た」


「この先、酔いのことも気にして旅しないといけないのか…」


「あの~そろそろ説明いいですか?」


「「あ、本当にすいません」」


男性の受付がひきつった表情で説明をしようとしてきたのでリオを落ち着かせて全員で説明を受ける。


「まずこちらから貸し出す際に料金は目的地の距離によって変わります。更に期限も決めてもらい目的地まで辿り着けなかった場合は罰金が発生しますし、貸し出した動物が旅の道中で死んでしまった場合も罰金が発生します」


「お~目的地って言うのは基本的には町だけ?」


「そうなります。各国が指定した町や村に貸し出す施設があるのでそこに返却。もしくは貸出をやり取りして頂くことになります」


距離によって料金が変わる。死なせてしまった場合と期限までに着けなかった場合に罰金。つまり安全なルートで移動しつつ、動物の体調管理もしなければならない。


「貸し出せる奴って馬車しか駄目?」


「いいえ。動物単体での貸し出しも可能ですし、そちらの方が多少は安くはなります」


「よかったなリオ。乗り物ではなく動物なら何とかなるぞ」


「乗り物特有の揺れが無ければなんとかなる、筈」


青ざめた表情で考え込んでいるリオは何とか気力を振り絞って返事をするが、ため息をつく回数は多くなっている。


「それで利用者様はどちらまで向かわれますか?」


「えーとここからピーシャって街はどのくらいですか?」


「そうですねえ…問題なく進めれば7日間で行けるでしょう」


「おっしゃ!じゃあ料金は?」


「距離。期限。動物の命のことを踏まえると馬単体で5万エルは掛かりますね」


(終わった……)


今度は新太がその場で座り込んでしまった。今こちらが残っているのは6万エル程。圧倒的に金銭面が足りていない。


「アラタ?残ってるのは…」


「6万エルだね…」


「んー。アラタが走りかあ…」


「リオさんやそれは流石に酷いのでは…?」


「じ、冗談よ。そんな酷なことはさせないって…。この予算内で何とかなる方法はありますか?」


「ふむ。では一つは目的地を変更し、徒歩まで行ける距離で妥協する。二つは馬ではなく別の動物を利用するか…ただし乗り心地は悪化しますが」


「それは同じ条件で利用する動物が変わった場合。料金は低くなるってこと?その動物って?」


「イグイースです」


「「うわあ」」


「うん?」


この世界の出身ではない新太にとっては聞いたこと無い名前。2人が渋い顔になって反応しているということはメジャーな動物なのだと理解する。


「それってどんな動物なの?」


「正確に言うとイグイース・ランナー。主に陸上を走る大型の鳥類です。自分よりも弱いと感じた相手には従わない動物です。そのため価格が低く設定されているんですよ」


「うわあ」


それを聞いて渋い顔になる新太。それは2人も渋い顔になるのも無理はない。下手すれば全滅への道へ進まされる可能性がある。


「速度に関しては馬と大差はあまりありません。まあいう事を聞かない馬の代わりといった認識で大丈夫です」


「そのイグイースは同じ条件で一羽おいくら?」


「一羽2万エルですね。個体差で感じ取る振れ幅があるのですが、実際に見てもらった方がいいと思いますが…どうしましょう?」


「手っ取り早く移動したいから早く見て、大丈夫そうだったらそれにしようか」


「そうね。貸し出しされていなかったら私達でも乗れそうな奴はありそうだし」


「僕は自分で出すからどっちでもいい」


「ええ?別にいいよ。こっちで出すよ」


「ごめんだけど、僕はそういった施しとかを受ける気はないんだ」


『なんかカッコつけてるぜ~コイツ』と言おうとした新太なのだがカランの表情は暗く、曇っている様に見えたので思わず手で口を抑えて言わない様にした。


「それではこちらです」


受付員は扉を開けて別の棟への道を案内し始め3人は着いていく。


先に進んでいくと少しづつ獣臭さが漂ってき始め、動物などの鳴き声が聞こえてくる。


「こういった施設には馬とかイグイースの他に貸し出されている動物とかはあるんですか?」


「他には地竜といった賢い動物や闘犬などといった動物も貸し出しています」


「地竜はわかるけど、犬は何でなんですか?」


「育成された闘犬には魔物にとっての瘴気の臭いを嗅ぎ分けられる様にしてあるので、魔物との遭遇率を大幅に減らせるんですよ。まあその分高額にはなっていますがね」


「色んなのいるんだな~すっげえ…」


これから先の旅路に不安感と期待感を孕みつつ家育小屋の扉が開かれる。


新太はあまりこういった大型な動物に会う機会が無かった人生を送っていたので、心の中で胸を躍らせていた。


「さあこちらがイグイースです」


初めて見るイグイースという動物はダチョウと同じ大きさで個体によっては赤色や青色などといった小さな爪や牙が生えているフカフカの羽を持った大きな鳥類。新太の世界で例えるならハシビロコウに似ている。


「い、意外に大きいんだね。間近で見るのは初めてかも」


「あ、お嬢さん。あまり近づかない方がいいですよ。噛みつかれてしまいますよ」


「それはもう少し早めに教えて上げて欲しかったですかね。彼の為にも…」


不思議に思った受付員は新太の方を見ると、既に手に噛みつかれていた。落ち込んだ表情でガブガブと歯が肌に食い込んで血が流れている。


急いで振りほどいて噛みつかれている新太を助け、取り扱いについての説明を始める。


「イグイースの口元の手綱には魔力を通しやすい金属が使われているため、乗る場合は必ず手綱に魔力を纏わせて、主導権を取られないようにしてください。さもないと言う事を聞かなくなるので」


「なるほどね~価格が安く設定されている背景には常に魔力を出さないといけないから体力面や精神面が削られていくのね」


「ですが速度に関しては馬と大差はありませんが、休み休みで向かわれた方が安全に進めるでしょう」


「それって定期的に魔力を纏わせるんじゃあ駄目なんですか?」


「あまりオススメは出来ませんね。イグイースが驚いてストレスになってしまうので、騎手を振り落としかねないので」


「なるほどな~。それで今から一人一人乗れるイグイースを探す感じですか?」


「ええ。もう探し方は簡単で、イグイースの手綱に魔力を纏わせつつ触り大人しくなったら自身に乗れる個体ということです。さあどうされますか?」


「金銭面的にこれしかないよな?」


「体力面と相談しながらの旅路だから度々体調面を確認していきましょう。カランもそれでいいでしょ?」


カランは無言で頷いて並んでいる青色のイグイースの手綱に触れて、誰よりも速く乗れる個体を見つけていた。


「はえーよお前」


新太とリオは目配せをした後にそれぞれに別れて自分に合う個体を探しに行く。


数分後にはリオは赤みがかったイグイースを連れてきたのだが、新太はまだ戻ってきていない。


さらに数分後やっとイグイースを引き連れて戻ってきた新太の姿が見えてくるのだが、連れてきたイグイースは一回り小さく灰色をした個体で、何故か泣きながら戻ってきた。


「とりあえず何があったの?」


「なんか…どれも触らせてくれずに、逃げられて…最終的にコイツしか捕まらなくて…俺、動物にも弱いって思われてんだなって…うぅ」


気の毒に思ったリオとカランは頭を撫でたり、背中に手を置かれたりしていた。


「えーと…各々はそれで大丈夫です…か?」


カランとリオは頷いて、新太は腕で目元を隠しながら親指を立てる。


「ではそれぞれ書類に目を通した上で、サインをお願いします」


渡される書類の項目には期限や貸し出される動物。死亡させてしまった場合のペナルティといったなどの規約に関する文章が載っていた。


(特に怪しい文章は無い。流石に国公認の施設では不正を働こうとはしないか)


「カラン~とりあえず見たけど大丈夫だよな?」


立ち直った新太は一応他の合意を得ようとしてカランに尋ねる。新太を変な目で見るカランは無言で自身の名前を書き始める。


カランが書いているのを見て新太とリオも書き終えて受付員に書類と料金を提出する。


「はい。それでは確認致しましたので出入口まで案内いたします…えーと。本当に灰色のイグイースしか駄目だったのですか?」


「そうだけど…同情するなら安くしてください」


「いや。それは出来ませんけど…扱いには気を付けてくださいね?」






様々手続きと説明を受けた3人は城門前付近までイグイースを引き連れていた。


「えっと…動かす時とか支持を出す時はかかとで蹴ったりすればいいんだよな?」


「何回聞けば気が済むのよ!?10回は聞いたわよ!」


「まだ8回目だし!だって乗った事ないんだから不安なんだよ!」


「そんな小心者の考えだから小さい奴しか捕まらないんでしょ!」


「うわー!心に突き刺さるチクチク言葉が容赦無く襲ってくるんだけど!」


今から自身達の身を危険に晒すかもしれない旅の前なのに緊張感を全く感じさせない3人は人々が行きかう中で目立っていた。


「君達さあこれから先の緊張感とか無いの?」


「「もうなるようになれって思ってる」」


「こいつらは……!」


カランは苛立ちながらイグイースに跨ると颯爽と城門をくぐり抜けて走っていく。リオも跨って動き出してカランに着いていく。


(ようやくここからもう一度出発か。待っててくれよ…!先生!)


勢いよく灰色のイグイースに勢いよく跨った瞬間。新太の乗ったイグイースは暴れる様に爆走して、新太は後ろに倒れそうになりながら手綱を握りしめている。


「ああああぁぁあああああっっ!!」


新太の絶叫は王国から外の世界に向かって響き渡っていく――。




皆様いかがお過ごしでしょうか。オオモリユウスケです。リアルが忙しすぎて年内まで1話投稿出来るのか不安でした。

そして今回で王国闘技場編は終了で次回はピーシャという街に目指す話になっていきます。途中で出てきた新太の『暴虐の武人』というワードは傍若無人からとったりイグイースは自分が知っている限りこんな動物はあまりいないよな…という感じで不安に襲われながら移動手段として誕生しました。

この先新太やリオ。カランはどう活躍していくのかご期待ください。投稿頻度に関しては申し訳ございません…それでは次回お会いしましょう!

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