33話「大事な勇気」
闘技場前の入場口で靴紐をしっかり結び直す少年が目を鋭くしていた。
その少年は緑色のシャツとその中に薄めた青色の全身タイツ。(顔と手に足首辺りは切って多少手を加えている。)下半身にはグレーの半ズボンを履き、恥ずかしさを誤魔化している服装を着た髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太。
「おし…もうすぐで始まる時間か」
先程まで外に居た新太は会場のアナウンスによって戻ってきたのだ。そして体が震えないように入念に柔軟運動を繰り返して待っていた。
「アラタ大丈夫?ちゃんと戦える?」
心配そうに声を掛けてくるのは短いデニムパンツを身につけ、紺色の上着を羽織って黄色のカチューシャを身に付けた藍色髪をしたリオという少女だった。
「大丈夫?」というのはこれから戦うことになる。この異世界に来る前に親しくしていた友人の転堂裕樹と戦えるのかについてだろう。
「あ~とりあえずこの青色の全身タイツを何とか出来たから、恥じらいを持たずに戦えそうだな」
「別に恥ずかしくないでしょお?全身タイツぐらいさあ」
「いや恥ずかしいと思うよ!?そんなニッチそうな衣装を着れる人なんて変態的趣味を持ってる人ぐらいじゃなきゃ難しいと思うよ?勇気が要るよ?」
「私が言いたいことはそれじゃなくて――。」
「分かってるよ。こうやって話せてるんだったら、問題ないさ」
親指でグッドサインを見せて安心させる新太は、少し袖を捲りながら青色のタイツを見せる。
「気にしてるんじゃない!?やっぱり!」
「アッハッハッハ」と笑いながらリオの掴みかかろうとする攻撃を躱し続ける新太に呼び止める声が掛かる。
「カラン。なんだよ見送りに来てくれたのか?」
フードを深く被り顔が見えづらいが、可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという人物。
「僕が言っていたことを覚えてるかどうか確認しとかないと不安でね」
「さっきお前が念入りに何回も言ってきたから覚えてるわ!」
「どうかな~」
「なんだったらお前の垂れ下がった獣耳に大声で言ってやろうか!?」
「別に構わないよ。この耳は機能を果たしてないから」
「え?それはどういう――。」
『さあ!いよいよこの戦い最後の試合になりましたっ!新たな英雄が勝つのか?それとも無名のダークホースが優勝を攫って行くのか?』
突然のアナウンスで驚く新太達は入場口の方へ視線を向けると、今までにないぐらいの観客達の声が大きく響いている。
「すごいね…この声量」
「俺この中で戦ってたんだな…今になって気持ち悪くなってきた。そういや3位って誰になったんだ?誰か知ってる?」
「いや。というか僕達全員は外にいたから知らないしね」
「それもそうか」
「時間ギリギリに戻ってすぐ試合に参加させるってことは、3位決定戦はしてないのかもね。となるとどっちかが棄権したのかな」
「どっちかって、言ってもなあ2人供強かったからなぁ。棄権はあまり考えられないんだけど――。」
「いや。そこのお嬢さんの言う通りだよ」
大きな体格に包帯を巻いた姿で、金色の長い髪をしたドリオンという美青年な男が松葉杖を突いて姿を現す。
「ドリオン!?その通りって…」
「私が棄権したんだ。思ったより後遺症があってね。それと、気持ち的にも戦えそうにないと思ったんだよ」
(ん?何かこの感じ…)
「まあ、目の前であんな狂戦士みたいに立ち上がられたら心は折られるよね。それでここに来た理由は?棄権したって負けました宣言しに来ただけじゃないんだろ?」
「ちょっとカラン!」
「いやいいんだ。私がここに来た理由はヒロキの持つ神代器の能力についてだ」
神代器の能力。数時間前にドリオンと転堂裕樹が戦っていた際に使っていた力。あくまでも推測でリオが出した答えが『破壊』なのではないかと聞いたのだが、実際に体感した者なら答えは違ってくるのかもしれない。
「気付いたのかもしれないが、ヒロキが持つ神代器は壊す事に特化した力であることは身をもって知った」
「リオが言ってた事は当たってたんだな」
「そうみたいね。剣で攻撃していた割に亀裂ばかり入ってたから変だと思ったけど…それが何か?」
「それ以上に気になるのは、あの変化だ。聞けば君と裕樹はこの世界に来る前は同じ学び舎に居たと聞いた。何か知って――。」
「いや。俺は何も知らないよ。あの状態の裕樹はこの世界に来て自力で発現した力だと思うよ」
知らない。知ってたまるか。この世界に来る前にそんな真実を隠し持っていた事を認めたくない新太は言葉を遮って言い放つ。
「おし!じゃあそろそろ行ってくるわ!」
親指を立ててサムズアップのポーズを見せて向かっていく。
「ねえアラタ!」
「あん?」
「大丈夫だよね…」
「…この大会では殺す行為は禁止されてるだろ?少なくとも帰って来れる保証はあるってことだから大丈夫だって!」
勝っても負けても目的はもう果たしている。でも負けたくはない。自分はここまで強くなったと見返したい。
そして――。
前のようにはいかなくとも、関係を取り戻したい。
震える手足を抑えて、いざ闘技場の上に立つ。
闘技場の中央には先に新太と同い年の少年が立っている。
短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型。所々に汚れ等が目立つ白色を基調をした武装に背中の赤色のマントは少しボロボロになっている。そして腰元には細くて長い青白く光る神代器の剣を携えた少年の転堂裕樹が剣幕そうな表情で待っていた。
そしてもう一つ違うのが、この闘技場に立っている人物がまさかのこの国の王。ルミノジータ・ウキメ・イニグランベという女性も何故かこの場に居る。薄紫色の髪色で束ねた髪を後頭部でまとめた髪型をして、こめかみ部分には煌びやかな髪飾りを付けている。そして胸元の上部分が開け、強調されている赤色の服装を着ていた。
「な、なんでここに王様がいらっしゃるのでしょうか?」
「この大会最後の試合だ。ならば一番間近でこの雌雄を決する瞬間を見たいのだ。ここで新たな英雄が誕生するのかと思うと…興奮が収まらないのだよ」
「じゃあ、この戦いを取り仕切るのは貴方ということで間違いないのでしょうかね」
苦笑いする新太を見たルミノジータ・ウキメ・イニグランベは妖艶な笑みを見せて、確信に変わったため「あぁ」と新太は嫌そうな顔を見せない様に作り笑う。
「そんなことはいいので、早く始めませんか…もうこっちは準備出来てるので」
「確かにこれ以上多くの民を待たせる訳にはいかないな。さあ両者前に…」
そう言われ2人は近づいて1m程までの距離間になる。
(俺は裕樹をやれるのか?この関係性に終止符を打てるのか?)
そしてルミノジータ・ウキメ・イニグランベの手に魔力が集約していくと、開始を合図する光の球体が出現する。後ろに下がりながら闘技場外に降りて球体を天に掲げたら空に向かって発射され――。
闘いが開始される。
「はあっ!!」
始まった途端に裕樹が剣を抜き、魔力を乗せた斬撃で新太に攻撃するが、両手から風を噴射し攻撃を躱す。
(やっぱいきなり撃ってきやがったか!)
裕樹の持っている神代器は『破壊』を操れる能力。まともに当たってしまえば大惨事なことになるのは目に見えている。
それに能力の最大値がまだあるのかもしれない。新太は剣先すらも掠らないように裕樹の攻撃を避け続ける。
「喰らえっ!『壊麻』!」
振り下ろされた剣の魔力が動きを見せ、湾曲に曲がり始める。そこから形状が変化し数十本の糸が新太に向かって伸び始める。
新太は後ろに向かって飛び、一本一本伸びてくる糸を避けていく。ただ向かって来るのではなく、頭上からも攻撃が降り注いでくる。
体を翻して避け続けていくが、右肩に糸が掠って攻撃が通る。
当たった箇所からは、痛みが走り右肩が割れていく様な感覚に襲われる。
(これをドリオンは、喰らい続けてたのか…動かすと軋む様な音がして不安感を煽ってきやがる!)
これ以上喰らうとダメージが入るだけじゃなく、身体に異常をもたらすかもしれない。糸をしっかりと避け、躱すことに意識を向けようとしたが。
「ぅぐ!?」
避けた先に剣を構えた裕樹の姿が現れる。攻撃の糸だけでもいっぱいいっぱいなのに、剣からの直接攻撃は糸を通したダメージよりも威力は上だろう。
だから喰らう訳にはいかない。新太は体勢を変えてスライディングの形を取ると、進行方向に向けて風を噴射し裕樹の股の間を潜り抜ける。
攻撃を躱した新太は直ぐに飛び起きて裕樹の方に向き直す。
(見てて思ったけど、やっぱり近・中距離ぐらいの射程はあるな。さっきの技といいまだ隠し技はあると見ていいかもしれない)
「どうしたんだよ。攻撃してこないのか?」
「はっ!こっちは当たればそくゲームオーバーの状況下で戦ってんだぜ。慎重になるのは当然だろうが」
「まあ、そうだろね。だから…壊そうか」
裕樹は表情を変えないまま、剣を天に向けると赤黒い霧が発生する。その霧からバチバチとスパークが鳴り響くと、新太目掛けて赤黒い稲妻が落ちてくる。
『破天壊技場前の入場口で靴紐をしっかり結び直す少年が目を鋭くしていた。
その少年は緑色のシャツとその中に薄めた青色の全身タイツ。(顔と手に足首辺りは切って多少手を加えている。)下半身にはグレーの半ズボンを履き、恥ずかしさを誤魔化している服装を着た髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太。
「おし…もうすぐで始まる時間か」
先程まで外に居た新太は会場のアナウンスによって戻ってきたのだ。そして体が震えないように入念に柔軟運動を繰り返して待っていた。
「アラタ大丈夫?ちゃんと戦える?」
心配そうに声を掛けてくるのは短いデニムパンツを身につけ、紺色の上着を羽織って黄色のカチューシャを身に付けた藍色髪をしたリオという少女だった。
「大丈夫?」というのはこれから戦うことになる。この異世界に来る前に親しくしていた友人の転堂裕樹と戦えるのかについてだろう。
「あ~とりあえずこの青色の全身タイツを何とか出来たから、恥じらいを持たずに戦えそうだな」
「別に恥ずかしくないでしょお?全身タイツぐらいさあ」
「いや恥ずかしいと思うよ!?そんなニッチそうな衣装を着れる人なんて変態的趣味を持ってる人ぐらいじゃなきゃ難しいと思うよ?勇気が要るよ?」
「私が言いたいことはそれじゃなくて――。」
「分かってるよ。こうやって話せてるんだったら、問題ないさ」
親指でグッドサインを見せて安心させる新太は、少し袖を捲りながら青色のタイツを見せる。
「気にしてるんじゃない!?やっぱり!」
「アッハッハッハ」と笑いながらリオの掴みかかろうとする攻撃を躱し続ける新太に呼び止める声が掛かる。
「カラン。なんだよ見送りに来てくれたのか?」
フードを深く被り顔が見えづらいが、可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという人物。
「僕が言っていたことを覚えてるかどうか確認しとかないと不安でね」
「さっきお前が念入りに何回も言ってきたから覚えてるわ!」
「どうかな~」
「なんだったらお前の垂れ下がった獣耳に大声で言ってやろうか!?」
「別に構わないよ。この耳は機能を果たしてないから」
「え?それはどういう――。」
『さあ!いよいよこの戦い最後の試合になりましたっ!新たな英雄が勝つのか?それとも無名のダークホースが優勝を攫って行くのか?』
突然のアナウンスで驚く新太達は入場口の方へ視線を向けると、今までにないぐらいの観客達の声が大きく響いている。
「すごいね…この声量」
「俺この中で戦ってたんだな…今になって気持ち悪くなってきた。そういや3位って誰になったんだ?誰か知ってる?」
「いや。というか僕達全員は外にいたから知らないしね」
「それもそうか」
「時間ギリギリに戻ってすぐ試合に参加させるってことは、3位決定戦はしてないのかもね。となるとどっちかが棄権したのかな」
「どっちかって、言ってもなあ2人供強かったからなぁ。棄権はあまり考えられないんだけど――。」
「いや。そこのお嬢さんの言う通りだよ」
大きな体格に包帯を巻いた姿で、金色の長い髪をしたドリオンという美青年な男が松葉杖を突いて姿を現す。
「ドリオン!?その通りって…」
「私が棄権したんだ。思ったより後遺症があってね。それと、気持ち的にも戦えそうにないと思ったんだよ」
(ん?何かこの感じ…)
「まあ、目の前であんな狂戦士みたいに立ち上がられたら心は折られるよね。それでここに来た理由は?棄権したって負けました宣言しに来ただけじゃないんだろ?」
「ちょっとカラン!」
「いやいいんだ。私がここに来た理由はヒロキの持つ神代器の能力についてだ」
神代器の能力。数時間前にドリオンと転堂裕樹が戦っていた際に使っていた力。あくまでも推測でリオが出した答えが『破壊』なのではないかと聞いたのだが、実際に体感した者なら答えは違ってくるのかもしれない。
「気付いたのかもしれないが、ヒロキが持つ神代器は壊す事に特化した力であることは身をもって知った」
「リオが言ってた事は当たってたんだな」
「そうみたいね。剣で攻撃していた割に亀裂ばかり入ってたから変だと思ったけど…それが何か?」
「それ以上に気になるのは、あの変化だ。聞けば君と裕樹はこの世界に来る前は同じ学び舎に居たと聞いた。何か知って――。」
「いや。俺は何も知らないよ。あの状態の裕樹はこの世界に来て自力で発現した力だと思うよ」
知らない。知ってたまるか。この世界に来る前にそんな真実を隠し持っていた事を認めたくない新太は言葉を遮って言い放つ。
「おし!じゃあそろそろ行ってくるわ!」
親指を立ててサムズアップのポーズを見せて向かっていく。
「ねえアラタ!」
「あん?」
「大丈夫だよね…」
「…この大会では殺す行為は禁止されてるだろ?少なくとも帰って来れる保証はあるってことだから大丈夫だって!」
勝っても負けても目的はもう果たしている。でも負けたくはない。自分はここまで強くなったと見返したい。
そして――。
前のようにはいかなくとも、関係を取り戻したい。
震える手足を抑えて、いざ闘技場の上に立つ。
闘技場の中央には先に新太と同い年の少年が立っている。
短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型。所々に汚れ等が目立つ白色を基調をした武装に背中の赤色のマントは少しボロボロになっている。そして腰元には細くて長い青白く光る神代器の剣を携えた少年の転堂裕樹が剣幕そうな表情で待っていた。
そしてもう一つ違うのが、この闘技場に立っている人物がまさかのこの国の王。ルミノジータ・ウキメ・イニグランベという女性も何故かこの場に居る。薄紫色の髪色で束ねた髪を後頭部でまとめた髪型をして、こめかみ部分には煌びやかな髪飾りを付けている。そして胸元の上部分が開け、強調されている赤色の服装を着ていた。
「な、なんでここに王様がいらっしゃるのでしょうか?」
「この大会最後の試合だ。ならば一番間近でこの雌雄を決する瞬間を見たいのだ。ここで新たな英雄が誕生するのかと思うと…興奮が収まらないのだよ」
「じゃあ、この戦いを取り仕切るのは貴方ということで間違いないのでしょうかね」
苦笑いする新太を見たルミノジータ・ウキメ・イニグランベは妖艶な笑みを見せて、確信に変わったため「あぁ」と新太は嫌そうな顔を見せない様に作り笑う。
「そんなことはいいので、早く始めませんか…もうこっちは準備出来てるので」
「確かにこれ以上多くの民を待たせる訳にはいかないな。さあ両者前に…」
そう言われ2人は近づいて1m程までの距離間になる。
(俺は裕樹をやれるのか?この関係性に終止符を打てるのか?)
そしてルミノジータ・ウキメ・イニグランベの手に魔力が集約していくと、開始を合図する光の球体が出現する。後ろに下がりながら闘技場外に降りて球体を天に掲げたら空に向かって発射され――。
闘いが開始される。
「はあっ!!」
始まった途端に裕樹が剣を抜き、魔力を乗せた斬撃で新太に攻撃するが、両手から風を噴射し攻撃を躱す。
(やっぱいきなり撃ってきやがったか!)
裕樹の持っている神代器は『破壊』を操れる能力。まともに当たってしまえば大惨事なことになるのは目に見えている。
それに能力の最大値がまだあるのかもしれない。新太は剣先すらも掠らないように裕樹の攻撃を避け続ける。
「喰らえっ!『壊麻』!」
振り下ろされた剣の魔力が動きを見せ、湾曲に曲がり始める。そこから形状が変化し数十本の糸が新太に向かって伸び始める。
新太は後ろに向かって飛び、一本一本伸びてくる糸を避けていく。ただ向かって来るのではなく、頭上からも攻撃が降り注いでくる。
体を翻して避け続けていくが、右肩に糸が掠って攻撃が通る。
当たった箇所からは、痛みが走り右肩が割れていく様な感覚に襲われる。
(これをドリオンは、喰らい続けてたのか…動かすと軋む様な音がして不安感を煽ってきやがる!)
これ以上喰らうとダメージが入るだけじゃなく、身体に異常をもたらすかもしれない。糸をしっかりと避け、躱すことに意識を向けようとしたが。
「ぅぐ!?」
避けた先に剣を構えた裕樹の姿が現れる。攻撃の糸だけでもいっぱいいっぱいなのに、剣からの直接攻撃は糸を通したダメージよりも威力は上だろう。
だから喰らう訳にはいかない。新太は体勢を変えてスライディングの形を取ると、進行方向に向けて風を噴射し裕樹の股の間を潜り抜ける。
攻撃を躱した新太は直ぐに飛び起きて裕樹の方に向き直す。
(見てて思ったけど、やっぱり近・中距離ぐらいの射程はあるな。さっきの技といいまだ隠し技はあると見ていいかもしれない)
「どうしたんだよ。攻撃してこないのか?」
「はっ!こっちは当たればそくゲームオーバーの状況下で戦ってんだぜ。慎重になるのは当然だろうが」
「まあ、そうだろね。だから…壊そうか」
裕樹は表情を変えないまま、剣を天に向けると赤黒い霧が発生する。その霧からバチバチとスパークが鳴り響くと、新太目掛けて赤黒い稲妻が落ちてくる。
『破天壊業』
ギリギリで回避して、落ち着いて周囲を確認しようと顔を上げようとしたが直ぐに稲妻がこちらに向かって来ている。
「ぅお!」
呼吸する間もなく落ちてくる連続の雷撃のせいで近づく隙が無い。避ける暇が無いときは手から風を噴射して躱していく。
(頻度が多い!避けた先に稲妻がないように先を見ないと当たっちまう!もう使うか?いやまだ序盤すぎる…見せちまえば通用し辛くなる!)
だが避け続ける新太は着々と攻める心構えを準備していた。落ちてくる稲妻の間隔は3~4秒程のインターバルがある。そして無数の落ちてくる稲妻にバラつきがあるということ。
一発は確実に対象した人物に落ちてくる。そしてその周辺に落ちる稲妻は精度は落ちるが付近に攻撃が落ちてくる。その他の稲妻は見当違いな箇所に落ちている。
(これが罠なのかどうかは分からないが、続けられるとこっちがやられる。次落ちてくる稲妻の後が勝負!)
ピッ!ガガッ!!
落ちた稲妻が迸り、煙の中から姿を現すのは空中を水平移動しながら裕樹に近づく新太が姿を現す。
一気に距離を詰められたためか、2激目の稲妻は新太から少し離れた箇所に落ちる。読み通り対象した人物とその周辺を操作出来るようだ。
「うおおおおおおっ!!」
狙いが定まらない稲妻を簡単に避けつつ拳を構える。
「ぐっ…はあ!」
近づいてくる新太を神代器から発せられる衝撃波を出して吹き飛ばす裕樹は、新太目掛けて魔力の斬撃を飛ばす。
「ぅ、おおおお!!」
空中で体勢を入れ替えて斬撃を避けて地に着地する。
(あ~畜生。あと一歩が近づけねえなあ…離れた所から距離を詰めても向こうは吹き飛ばせば自分有利に進められるからな。それなら…)
右腕を後ろに回して掌から風を出して一直線に裕樹の元へ近づいていく。
裕樹は距離を詰めてくる新太に剣を振るい、拳が届かない距離感を保ちつつ攻撃を繰り出していく。
その状況下で何とか隙を作りだしたい新太は体勢を低くしたまま、裕樹に向かってアッパーカットを繰り出そうと動くが直前で動きを止めて真下の石板をひっくり返す。
「ぬあっ!?」
ひっくり返した石板によって互いの姿が見えなくなるが、新太は魔力を込めた右脚の蹴りを繰り出し石板を壊す。
瓦礫が裕樹に向かって飛んでいき、当たる瓦礫はガラスが割れる音と共に砕け散っていく。裕樹は剣を振りかぶって煙を払うが、あまり動揺はしていないようだった。
だが隙は作れた。
新太は裕樹の死角に入り込んで拳を構えていた。走って近づき煙の中から飛び出した新太は裕樹の姿を捉える。
攻撃が振り終わったタイミングで仕掛けたため、こちらの対応に遅れる筈。間合いの距離が詰められると一歩強く踏み込んで右手を一杯力強く握りしめる。
しかし裕樹は意外にも冷静に対処し始める。左手で腰元にある短剣を鞘から抜いて新太に向ける。
「ぐぅ!?」
寸前で体勢を変えて、裕樹の短剣が頬を掠める。この攻撃は神代器ではないため割れる様な痛みは無かった。
負け時と裕樹が伸ばした腕を掴んで、左拳で攻撃をしようと行動に移そうとしたのだが、一抹の不安がよぎる。
顔に向かって攻撃出来る余裕はあったのだが、ボディーブローだけの攻撃だけで終わらせてしまった。
裕樹の身に付けている鎧で阻まれ、あまりダメージにはなっていない。
「はぁ…ふぅ…」
一息ついて互いはただただ睨み返す時間が数秒続いた。しかしその数秒は2人にとっては数分間にも感じられる程長く、そして冷たく感じた――。
「今の一撃。顔面に当てることが出来た筈だね」
「ちゃんと隙は作れてたし、咄嗟の判断も合っていたと思うんだけど…」
特等席で観戦していた2人の少年少女はこの闘いを見ていたリオとカラン。『破壊』の魔力による大きな損傷は無いが、このままだと均衡は裕樹の方に傾いていく。
「多分だけどアイツ。まだヒロキとの戦いは『友達』だと思ってるんじゃないかな」
「え?」
「要は思いっきり攻撃出来ないってこと。今までのアラタは知らない人ばっかと戦ってきていたけど、アイツは初めて一緒に過ごしてきた人と本気の殴り合いをしているんだ。迷うのも無理ないだろうね」
「やっぱり不安だったんだ…ねえカラン。あの戦法はまだ駄目なの?」
「使うとしたら中盤から終盤ぐらい。序盤に見せてしまえば警戒されるし、まだこの戦いは言ってしまえば序盤。でも、迷っている間は不利が続いて行くし何も出来ずに終わる場合もある」
(このままでいいの?アラタ。仲違いしたままなのは辛いと思うけど、今勝たないと取り戻したい物も取り戻せないんだよ!?)
少し考えたリオは特等席の部屋を飛び出していく。
「おーい!?どこに行くんだ?」
呼び止めるカランの声を無視してリオは観戦席に向かっていく。
自身が伝えたいことを頭にまとめながら階段を下りていき、熱狂に包まれている観戦席に辿り着く。
「アラタ!!」
リオは息を荒立てて名前を必死に叫ぶが、他の観客達の声が邪魔をして戦っている新太に声が届いていない。
(どうしよう…実況席からマイクを奪う?流石にそれは気が引けるし…前には人が沢山居て気付かれない)
自身を見てもらうためには高さも必要になっており、声は届かない。かと言ってちょっとした騒動を起こしてしまえば中止になりかねない。
「誰も傷つけることなく、ただ私が居るということ知らせるには…」
リオは熱狂に包まれながら静かに上を見てあることを思いつく。
(空に向かって魔法を放てば視線を集められる…ほんの数秒だけでもいい。伝えられるのなら!)
リオは両の手に炎の魔力を出現させ、形状を変化させていく。炎が湾曲し一つの線を作り上げると弓を形成する。
以前アドバイスをもらった時、矢は魔力で形成させれば戦いにおいてアドバンテージは取れると。
リオは戦闘に使う際に扱う武器は弓。矢だけではなく、弓自体も形成出来るように手が燃えようとも修行を続けていた。
炎の弓を天に向けて矢を放つ。「ヒュ~」と段々と小さくなる音と共に炎の矢は天に昇っていくと「ボンッ!」と音を立てて爆発する。
そして一斉に視線が爆発に集まったのと同時に大きかった声も一瞬だけ静まり返る。その隙を見逃さずにリオは、「すぅ」と息を吸い込むと――。
「アラタァァァァッーー!!」
その聞き覚えのある声が耳に入ってくると新太は思わずその声の方向を見てしまう。
「リ、オ?」
その声を聞いていた裕樹も思わず手を止める。2人が見つめる先に居たリオはちょっとした騒ぎを起こしたため兵士に追いかけられて姿を消していく。
「騒ぎを起こして、戦いの手を止めた上に逃げるなんてとんだ恥知らずだね。お前のお仲間さんは。王様さんはあの行動を許していいの?妨害行為とみなしてもいいんじゃない?」
ルミノジータ・ウキメ・イニグランベは腕を組んだまま、表情を変えずに口を動かす。
「構わん。他の民達に危害は見られていない。よって不問とし、闘いは継続せよ」
「ハッ!どいつもこいつも…そうですか」
しばらく棒立ちになっている新太は落ち着いてリオの起こした行動について考える。
(リオは恥知らずとかなんかじゃねえ。変なところはあったとしても大きく目立つ行為は避けたがる筈だ…)
この行動に深い意味は特に無いだろう。でも理由はとっても簡単で友達だからこそ起こした行動だと理解する。
「なんつうかさ…心で理解出来たって、こういう感じなのかな」
「ん?」
「手を止めてごめんな裕樹。こっからはさ、俺も頑張ることにしたよ」
少し垂れ下がった髪を上にかき上げて、いつにも増して真剣な眼差しで裕樹を見つめる。
再び体勢を低くして身構えると裕樹も剣を構える。そして先に動いたのは新太であり、勢いよく前に飛び出していく。
剣を構えた裕樹は赤黒い魔力を放ち、その魔力の斬撃を乱打し続ける。新太はその斬撃を左右に避けながら、風を巧みに扱い近づいていく。
「ぐっ!?『壊麻っ!』」
近づいてくる新太に焦りを感じ、赤黒い魔力が湾曲に曲がると数十本の糸が新太に向かっていく。
新太は赤黒い糸を避けるため上に飛ぶと拳を構える。飛んだ新太にもう一度斬撃を飛ばそうと纏い始めようとしたが、裕樹の顔面に何かが当たる。
「う!?」
思わず目を瞑ってしまう最中に見えたのは割れて消滅していく新太の履いていた靴だった。撃たせないために空中のまま蹴りと同時に靴だけを飛ばしたのだ。
(けど、その体勢なら直ぐに行動は出来ないだろ!)
「落ちろっ!!」
左手を下に振り下ろすと新太の頭上から赤黒い稲妻が光り、勢いよく落ちていく。
「ズドォッ!」と新太の姿を捉えた稲妻が赤黒く光ると、そこは焼き焦げ新太は居なかった。
(当たった…筈だよな?)
疑問に思っていると視界の端に黒く動いている影を捉える。だが頭で理解する判断が遅かった――。もう目の前に奴の拳がそこにあったのだ。
「バキィッ!!」と新太の右拳が裕樹の顔面を捉えて、吹っ飛ばした。
「ガハァッ!?」
「ぁが!?」
裕樹は倒れ、新太はその場にうずくまる。『破壊』の魔力に当たった右手は電流が走るような痛みを味わう。
吹っ飛んだ裕樹は口から血が流れており、新太をずっと睨み続けている。
(クソッ!なんでだ…上手く当てれたと思ったのに!)
(チクショウ…魔力に触れたらダメージってズル過ぎるだろ!)
互いに痛む箇所を抑えながら再び近づいていく。そして剣の間合いまで近づくと先に攻撃した裕樹だった。
「うおおおっ!」
赤黒い魔力を纏った剣を縦方向に斬りかかる。新太は少ない動きで剣の攻撃を避けると、新太の背後が「ズガアァァッッ!!」と衝撃波が発生する。
「うお!?」
衝撃で体勢が崩れそうになるが踏みとどまると、裕樹の腕を掴んだのと同時に足を掛けて体勢を崩した瞬間に一本背負いで裕樹を投げ、地面に叩きつける。
魔力に触れているだけでも痛みが自身にもやってくる。叩きつけられた裕樹は立ち上がると掌から炎を新太に向かって発射する。
(これは、神代器の力じゃない。裕樹本来の魔力だ!)
火球が新太を包んで裕樹からは見えなくなると急いでその場から離れる。
「はぁ、はぁ…ん?」
息を整えていると日影が重なっていくことに気付いた裕樹は恐る恐る上を見上げると高く飛び上がっていた新太が居た。
「な、あ?」
新太は空中に浮かんでいるまま、クルクルと回転していく。その回転はどんどん速くなっていく。
そして勢いが乗った足蹴りが裕樹の右肩に当たる。
(な、んで…あの状況下で、避けられたんだ?)
ガシャ!ガシャ!と鎧が床に激突する音を発しながら闘技場外に落ちていく。
(あの炎には驚いたけど、上手く避けれたな。そして赤黒い魔力を出していない時に攻撃してもダメージが入ることは無いみたいだな)
左足に履いている靴を脱いで完全に裸足となり、右足首を回しながら裕樹の『破壊』の魔力について有効な手段を見出していく。
「新太ァァッッ!!」
「ドガァ!」と飛び出して戻ってくる裕樹は剣を下に振り下ろす。
『破天壊業ぉっ!!』
段々と血走っていく裕樹の目を見ていく新太は、自分でもおかしいと思うぐらい冷静で寧ろこんな一面を見てしまった裕樹の姿を知り、『哀しさ』という感情に打ちひしがれる。
「ズドン!ズドン!」と落ちてくる稲妻が新太を狙ってくるが、風を手から噴射して真っ直ぐ裕樹の元へ向かっていく。
(へ?コレは!?)
走ってくる姿を見て裕樹は驚愕する。異常なほどに早くこちらに向かって近づいてきているのだ。
一直線、一直線の移動なのだがその移動スピードが異常に速いのだ。
(はっ!そうか分かったぞ…今までの攻撃とこの速さの正体が!)
裕樹が新太の足下に視線を向けると、風が巻き起こっていたのだ。以前までの新太は手からしか噴射出来なかったのだが、足からも出すことが可能になっていた。
そのせいで一歩一歩に風を巻き起こすことにより速さが通常よりも段違いなのだ。
「うおおおおおおおっ!!」
落とす稲妻で新太を捉え切れずにそのまま接近を許してしまった裕樹はそのまま、右ストレートを顔面に喰らってしまう。
「ぅぐ…さあこいよ裕樹。こっから先は遠慮なんてしないから――。」
この戦いの中で静かにノイズが走る――。
どうもオオモリユウスケでございます。ギリギリ一か月以内には間に合わなかった…。さて今回は闘技場編の最終戦ですね。新太VS裕樹の異世界召喚者同士の戦いですが、破壊の魔力に触れるだけでダメージを負うって中々に腹立ちますよね。それに加え炎も出すわと厄介ですねえ。作中でも言ってた通り、裕樹の放った火球は神代器の力ではなく本来の力なので関係はないです。そして新太は足から風を噴射出来る…それだけです。この恩恵がどこまで得られるのか…それではまた次回お会いしましょう!!




