32話「光が壊れる時」
イニグランベ国の半壊した闘技場には2人の闘う者が立っている。
一人は短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型。白色を基調をした身動きが取りやすそうな武装に背中には赤色のマントを取り付けて腰元には細くて長い青白く光る剣を携えた少年の転堂裕樹。
そして相対しているのは大きな体格に黒のインナーシャツ姿に、金色の長い髪が風で靡かれ、青い透き通る瞳が開かれる。ドリオンという美青年な男。
(私の『勇者の決意』が搔き消された…ヒロキは一体どんな神代器を有しているんだ…?)
ドリオンは身体能力を上げる魔法を自身の身に掛けて裕樹と戦っていた。だがその魔法は突如として消えてしまった。
(1分も経たずに消えることは無い…。特に目立った技に触れたという訳ではない。だが近づくのは危険だと視た!)
素早く立ち上がり手を合わせたドリオンは詠唱をし始める。
「光よ命令す――」
「させるか!」
詠唱を止めるため裕樹は剣を振り魔力を飛ばして攻撃する。ドリオンはヒラリと躱してからもう一度手を合わせる。
手を合わせるドリオンを見て距離を空けないように間合いを詰める。能力が分からない以上迂闊に触れられない。
(向こうは私が手を合わせて発動する技だと思っているのなら…)
一歩後ろに下がったドリオンは三度手を合わせる。その手の動きを見た裕樹は斜め下から剣を振り上げる。
しかし剣の軌道を捉えたドリオンは一歩後ろに下がった瞬間に体を回転させながら踵で回し蹴りを裕樹の顔面に当てる。
仰け反った裕樹は体勢を大きく崩した。この時間を無駄にする訳にはいかないと「パァン」と手を合わせる。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、この身に――。」
次々と言葉を言い放ち魔法を放つ準備をしていくドリオン。だがふとした瞬間に「パキッ!」と何かが折れる音が脳裏に走る。
ドリオンの手に集まろうとしていた光の魔力がまるでガラスが割れたか様に砕け散った。他の人物から見れば棒立ちしているかの様に見えるが当の本人はそのように感じ取った。
そしてこの戦いをじっくりと観戦している少年が一人。髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太が高級そうなバスローブを着て視ている。
「お前っそんなガラスに鼻息が当たるほど近づくな」
茶色のローブを身に纏い、可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪。そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという人物が新太の首根っこを掴んで落ち着かせる。
「だって何が起きたのかを理解したくて」
「変な顔になってまで見ろとは言ってないよ。けどやっぱりドリオンって人は戦いに慣れてるね。さっきだって魔法の発動を囮にして相手を釣った」
「他にも持っているのかな。だとしたらどんな技があってどんな駆け引きがあるんだろう」
「……まあアラタもあれぐらい出来る様になったら魔物の時も楽になるのにな~」
新太に対して変な視線を送るカランは椅子に座り直す。
「うるさいなぁ。だから練習してるんでしょお!」
「けど未だに分かっていないのは、あのヒロキって人の神代器の能力。ただ遠くから見てただけじゃ、相手に異常をもたらす能力か…そういえばアラタには教えられてないの?」
「……言われてないな。どんな能力か聞いても『大した能力じゃない』って言われた。でも一緒に居た時までに見ていたのは凄いド派手な一撃を魔物に当ててた」
(ならもっと攻撃的な力?いや使い方によっては攻撃力は高くなるのが神代器。せめてこの戦いでわかればいいけど)
2人して闘技場を見ていた際、コンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。カランは警戒し始めたが、新太は簡単に「どうぞ~」っと声を発する。
「ごめ~ん。待たせた?」
「お、リオ。全然大丈夫だぞ」
「なんでバスローブ姿なのアラタ…」
扉から姿を現すのは短いデニムパンツを身につけ、紺色の上着を羽織って黄色のカチューシャを身に付けた藍色髪をしたリオという少女。
「それで?今どうなってるの?」
「いや~互角の勝負と言っていいのかわかんないな。裕樹の能力が分からないからドリオンの方が不利なのか?」
「私も見てたけどヒロキって人の能力自体は目立つ物は無いのかもね。武器有りきでここまで勝ち残って来た感じ」
「急に辛辣なコメント出すじゃん…どしたの?」
「一応他の試合も見てたけどほとんど武器が決定打になっているの」
「力もスピードも全体で見れば中堅クラスだと思うしね」
2人は裕樹に対しての評価を述べ始める。例えどんな最悪な関係になったとしても悪く言われる言葉を聞くのはあまり気分は良くない。
だからこそ――。
「そんなのは過去の話。自分の弱さは自分が一番よく知っている…だからこそ本番こそで発揮できる奴も居るんだ」
「アラタはヒロキの良い所を知ってるんだね」
「ああ。だって俺が証明出来たようにアイツもやってくれるよ。それに元の世界では成績優秀だったからな!」
そして今もなお戦いが続く闘技場はここから激化していく――。
「せえぇぇい!!」
ドリオンは限られた闘技場で駆け回る裕樹に魔力で創り出した光の刃を飛ばして攻撃していく。
掌から放たれる光の刃を剣で弾いたり、躱したりしてドリオンに近づいていく。
(ヒロキの持つ力は未だに分かりきっていない…自身に攻撃を与えた者にダメージが返ってくる能力。十分にありえるがそうではない気がする)
ドリオンの策が読み通りならば、遠距離で攻撃しているドリオンにダメージが返ってくるはずだ。例え小さなダメージだったとしても積み重ねれば大きな物となる。
(それが無いならば発動するのは直接攻撃した際…意地でも発動させなければ!)
魔法を発動させるため光の刃を裕樹の足元に放つ。足が止まった裕樹に連続で攻撃を飛ばし相手との距離少しが空く。すかさずドリオンは両手を合わせると光の壁がうっすらと現れ始める。
「させるか!」
前のめりで裕樹はドリオンに近づいていくが詠唱の方が速い。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、相対する者から遠ざけこの我を光で護りたまえ!」
『煌煌たる我が障壁』
魔法名を言い終わるとドリオンの周囲には光の魔力が溢れ、壁が創り出される。しかもそれは何重にも重なってドリオンを守っている。
「はあああああああっ!!」
光の障壁に向かって剣を振り下ろすと「ガキイィィィン!」と弾かれる。
「さあ!出し惜しみは無しだ!」
そしてもう一度手を合わせて詠唱が始まる。
「なら、それを全て壊すだけだ!」
裕樹は手に持っていた剣を下に向けてゆっくりと地面に落とす。剣が地面に刺さると魔法陣が展開される。その魔法陣は赤黒く光りドリオンは震え上がっていた。
『破剣!壊王攻!』
雪の結晶の様な紋様が浮かび上がると同時に赤黒い魔力が闘技場全体に迸る。裕樹の魔力がドリオンの光の壁を覆い被さろうと迫ってくる。
(何だ…コレは!?)
光の壁が裕樹の赤黒い魔力にぶつかり合うと、壁がピシピシと破壊されていく。だがドリオンは取り乱すことなく口を動かす。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、この身に降りかかろうとする災いから――」
「うおおおおおおっっ!!」
光の壁を押し切ろうとする裕樹は地面に突き立てた剣を力一杯握りしめ、ドリオンに向かって走り出し「ガギイィィン!」と護る光と赤黒い光が衝突し合う。
「聖なる光をこの手に宿し、我が身に災いを払う力を与えたまえ!!」
「らああああああっっ!!」
『絢爛たる災禍を退ける我が手』
ザアアアアアアンンッ!!と煙が巻き起こると勢いよく弾き飛ばされる人影が現れる。
ダンッ!!と壁に叩きつけられていたのは裕樹だった。しかし様子がおかしく、ビキビキと裕樹の体がどんどん壁に埋め込まれていく。
「うっ!ぐぅううう!?」
裕樹が睨みつける先には光の線が伸びており煙の中から両腕を前に突き出しているドリオンが構えて立っていた。
その光の線は人の腕よりも一回り大きな光の魔力で編み出された手でありドリオンの動きと連動している。その大きな両手で裕樹を締め付けていく。
(コレ、は…属性で創られた手か!それにこの手、まだ何か――。)
ギリギリと締め付けてくる光の手からじわじわと自身の体に魔力が入り込んでくる感覚に見舞われる。
しかしその感覚によって痛みが走ってくることは無く。寧ろ体の奥底から魔力が膨れ上がってくるようだった。裕樹は相手の思い通りにならぬように赤黒い魔力を解き放とうとした途端――。「ボンッ!」と赤黒い魔力が風船のように弾けた。
「は――。」
弾け飛んだ瞬間に光の手は裕樹から手を放してドリオンの元へ戻っていた。
(一体…何をされた?)
場外に足が着いてしまったため、急いで半壊している闘技場に戻る。
そして自身の体を見ても特に異常は見当たらない。残っているのは締め付けられた痛みのみ。そんな自身の方に意識を向けていたため、「キンッ!」という甲高い音と共に光の手が迫って来ていたことに気付くのが遅れた。
迫る右手に剣で対抗しようと魔力を解放して攻撃を繰り出そうとするが、そこで異変に気付く。
「魔力が…出な…い!?」
ドリオンの光の壁を破壊した赤黒い魔力が放出出来ない。感覚的にも問題は感じられない。異常をもたらした原因はもう分かっているが、今自身がどんな状態になっているのかが分からない。
光の右腕は拳の形に変形し裕樹の体に攻撃が当たる。
「ガ、ハ!」
正面から攻撃を受けた裕樹は後ろに飛ばされ悶絶している。この技は速さもあり威力もしっかりとある。身に付けていた鎧にもヒビが入っているのが良い証拠だ。
「さあ。ヒロキよ。もう分かっているだろうが、お前が神代器を持っていようがそれは結局自身の魔力を原動力としている。ならばそれを封じてしまえばいい」
ドリオンの『絢爛たる災禍を退ける我が手』という技。使い手の両腕の動きと連動するのは勿論。両の手で相手を掴めば魔力の放出を出来なくさせる能力を持っている。
「な、るほど…道理で上手く発動出来ない訳だ」
「まだまだ、行かせてもらおうか」
光の左腕が薙ぎ払うように横から迫ってくる。ヒロキは上へ飛び攻撃を避けるのだが、「ガシッ!」と左脚を光の右腕で掴まれると、勢いよく地面に叩きつけられる。
「ァガ!」
左脚を掴まれたまま上空に投げ飛ばされると光の右腕が水平チョップの如く裕樹の体に叩きこまれる。
地面に叩きつけられた裕樹はそのままダウンし動かなくなったため、10カウントが進み始める。
(い、痛い…魔力が放出出来ないのが、ここまで辛いなんて)
怖い。そんな気持ちが頭の中で一杯だった。戦っていく中で傷ついていく痛みが体中に広がっていくのが、ただただ怖かった。
だがそれと同時に『何か』が壊されていく自分がどこかに居て、それを知ることも怖かった。
「ぬ?」
カウントが進められていく中で片膝を着いて立ち上がる裕樹を見て、異質な『何か』を感じたドリオンは一歩後ろに下がる。
完全に立ち上がった裕樹は、見えづらいが口角が左右に上がって笑っていた。それも異様な様子で――。
「フフ…クククク…」
「何かが、変わった」
「ピュンッ!」と離れた所から光の両腕を飛ばし、裕樹をもう一度掴もうとしたが光が触れた瞬間、光の手にヒビ割れが発生した。
(これは!?)
「ヒヒ!」
裕樹は剣を光の腕に突き刺したまま、「ギャリギャリギャリ!!」とドリオンに向かって走っていく。
「ヒャハハァ!」
剣が届く範囲まで近づけると剣を振り上げてドリオンに剣を振るう。気迫に押され避ける判断が遅れ、顔に剣先が掠る。
「く、おおおおおっ!」
残っていた光の右腕を裕樹に打ち込み大きく吹っ飛ばす。攻撃が当たった箇所から血を拭おうと指を当てるのだが、ピリピリとまるで電流が走った痛みが襲う。
そしてその痛む箇所に触れてみると、縦や横などのひび割れた線が浮き出ていた。
(最初に受けた痛みとはまた違う感触…魔法で治しつつ亀裂が拡大しないように立ち回るしかない。それにしても――。)
魔力は封じた筈なのに、何故こちらの攻撃に対応出来たのか――。近づけさせるのは更に危険を招く。そしてまずはこのダメージは治すことは出来るのかを確かめる。光属性の魔法で治そうとするとヒビ割れた箇所から、「シュー」と煙が音を立てて湧き上がる。
「アッハッハッハッハッハ!!あ~何か嬉しい……」
「さっきまでとは様子が全然違うな。まるで欲しい物を貰えた子供の様に喜んでいる」
「ふぅ~ハハァッ!!」
不気味な笑顔を浮かべながら剣を振りながらドリオンに向かっていく。光の右腕で裕樹う動きを止めて光の左腕で打ち込む。
闘技場の端まで弾き飛ばされるのだが、直ぐに立ち上がり同じ様にドリオンに近づいていく。ドリオンは畳み掛ける様に自身も裕樹に近づき接近戦が始まっていく。
裕樹の剣がドリオンに迫るが光の右腕で身を守ったのと同時に光の左腕の手刀が裕樹の横腹を抉る様に深く入る。
ダンッッ!と地面に叩きつけ大きくバウンドし裕樹の体が宙に浮く。ドリオンは続けて光の右腕で拳の形を作り、裕樹の体を殴りつける。
そのまま魔力で創られた結界に体を打ち付ける裕樹は地面に落下し、あちこちの装備が破損しかかっていた。
(大きなダメージにはなっている筈なのだが、違和感?不安?その不確かな物が粘りつくように私の体から離れない)
そしてその不安は直ぐ如実に表れる。深手を負っている筈の裕樹の体は流血しており、所々剥がれ落ちた装備の隙間から肌が露出してそこには青く腫れ上がっているのが見える。
それなのに――。彼は簡単に立ち上がって闘技場に戻ってきたのだ。
ドリオンは改めて裕樹を見つめると、何かノイズ様な線が浮かび周囲に走っていた。
これが一体何なのかは分かりはしないが、もう以前までの裕樹はここには居ないという事だけが分かった。
ドリオンはずっと笑みを浮かべ続ける裕樹に恐怖を抱き、裕樹の頭上に光の右腕で振り下ろす。
「ドンッ!」と衝撃が響き渡るのだが、振り下ろされた光の右腕は裕樹の手に持っている剣で受け止めていた。
そのまま剣に触れていた「ガンッ!」と光の右腕が破壊された。
(まさか、魔力が使える状態になったというのか?いやまだ効力は続くはず…と言いたいが今の状態では何を起こしても可笑しな話ではない)
光の右腕は完全に破壊されて魔法が扱うことが出来なくなった。残っているのは左腕のみ。
「アッハッハハハハハハ!!」
裕樹の周囲から赤黒い魔力が沸々と湧き上がりつつある。先に仕掛けられる前に光の左腕で牽制するため、前に突き出す。
裕樹は向かって来る光の左腕をスラリと躱し伸びてくる腕に剣を突き刺す。すると光の左腕には斬り込みの跡が「ズザザザザッ」と走っているが、入っているのは斬られた跡ではなくひび割れの線が全体を覆っていた。
(斬られた?いやこの感覚は私の『勇者の決意』が搔き消された時と似ている…だが違う。これは明らかに跡形もなく破壊され、魔力の残滓すらも無くなった)
ドリオンの『絢爛たる災禍を退ける我が手』の光が無くなり塵となって消えていく。もう詠唱させてくれる時間は与えてはくれない筈だ。ましてや覚醒しつつある裕樹を前にそれは自殺行為に等しい。
残された選択は魔力を纏った拳のみ。
(この先自身の体がどうなるかなんて分からん…だが今は大事な約束の為に!)
力を奮う――。
その一瞬だけ、ドリオンの視線が新太の居る観戦席の方へ移る。視線が合った新太は思わず固唾を飲み込み見続ける。
「ねえ…カラン。この戦いを見て疑問に思ったことがあるの」
「それは、能力について?」
死闘を繰り広げる2人を黙々と見続けていたリオは大きな窓にそっと手をかざして新太とカランに聞こえる様に言葉を発する。
「見て、感じて思ったことは…あの剣の、神代器の能力は『破壊』を司っているんじゃないかな?」
「破壊?それはまた何で?」
「ドリオンの『絢爛たる災禍を退ける我が手<ウォー・クロウ・アント・ゾンネ>』で腕が斬られた時さ斬り付けられた線じゃなく、ヒビ割れを起こしていたのよ。普通剣で斬った時なぞった跡が残る筈なのに、たった一突き剣を差し込んだだけでガラスの様に粉々になったんだよ?」
「もし仮説が合ってるなら、ドリオンの魔法は神代器の能力によって壊されていた…そして『破壊』の魔力に直接触れて相手にもダメージが入るのか?」
最初に先制攻撃をしたドリオンは片膝を着いていた。そして能力を底上げする魔法を破壊していた。挙句の果てには自身の身に起きた異常さえも破壊してしまう。
だが、憶測で神代器の能力が分かっても一つ分からない事がある。
「けどヒロキの状態の変化は何なんだ?」
「それ、は分からないけど。でもあの感じどこかで知ってる気がする…」
雰囲気や様子はどこで見たんだったか。のらりくらりとしたあの動きは今にでも押してしまえば倒れそうなのだが、そんな様子は見られない。
(倒れそうに…)
「あ!多分そうだ…」
「思い当たることがあったの?」
「うん。私が住んでいた集落にある男の人が感情も無いまま働く。似てはいないけどアレに近い気がする!」
リオの言ったことで、新太はあの集落での出来事を思い出していた。まさにアレはこの世を生き続けるゾンビの様だった。
「……じゃあさ、もしあのまま戦ってたら裕樹はさ、あんな雰囲気になっちまうのかな?」
(前にマキリが、主に冒険者や戦いに生きる者などによく見られる。と言っていたけど、今止めればそうはならないのかな。目の前で友達が無感情のまま動く人になってしまったらアラタの心はどうなっちゃうんだろう)
「大丈夫だ。どっちが勝ってもアイツは…裕樹は俺の大切な友達なんだ。だから大丈夫!」
そして戦いはそろそろ幕を下ろそうとしている――。
不敵な笑いを続ける裕樹に対し、ドリオンは魔力を込めた右拳を顔面に叩きこむ。だが裕樹は後ろに押し負けることはなく、剣をドリオンに当てようと動かす。
しかし、刀身に触れないように左腕で裕樹の持ち手の箇所を受け止めたあと、両肩に手を置き裕樹に向かって頭突きを喰らわせる。
「ぅが!?」
攻撃を当てたあとに痛みが右手と額に走る。だが攻撃の手を緩めてはならない。続けるように右フックから左ストレート。休む暇もなく乱打。乱打を打ち込み続ける。
(おかしい…明らかに異常すぎるっ!こんなに拳を叩きこんでいる筈なのに…何故血が流れない…何故怯むことなく目を開けていられる!?)
裕樹を異質な者として見始め、臆してしまいドリオンの攻撃が一瞬遅れてしまう。その一瞬が勝敗を分けてしまった――。
「ビギィ!」と割れる音が鳴り響く。下から振り上げられる一撃がドリオンの体が剣を斬り付けた。
「う…あぁ…ガハァ!」
体が割れる様に裂け、傷口から血が流れ始める。
(詰み。か…)
両膝が地面に着き、気力がどんどん抜け落ちていくのが分かる。
「私の、負け――。」
自身の負けを宣言しようとした途端。自身の影が誰かと重なった。嫌な予感が全身を襲い、見上げてみると目の前に裕樹が立っていた。
(なんだ…何をする気だ…!)
裕樹は見下ろしたまま、今にでも剣を振り下ろさんとばかりに目に光が無い。それはもう情けを掛けない虚ろな戦士と化していた。
(もう…この者には声が届かないというのか!?)
バチバチと稲妻が走る剣が魔力を纏い、どんどん出力が増していく。全てを察し目を閉じてされるがままに全ての力を抜き始める。
(約束は果たせなかった――。)
「ズザンッッ!!」と一撃が放たれる。暗闇のまま座り込んでいたドリオンは衝撃で後ろに吹き飛ばされた。
だが。意識はある。痛みがこれ以上増えてはいない。
(何が起こった――?)
上半身を起こして半壊した闘技場の中心を見る。そこには誰もおらず目に入った光景はドーナツの穴みたく深い穴がドリオンと裕樹の間に出来ていた。
「ならぬ。この戦いにおいて命を奪うという愚行は赦してはいない」
高い場所から薄紫色の髪色で束ねた髪を後頭部でまとめた髪型をして、こめかみ部分には煌びやかな髪飾りを付けていた。ルミノジータ・ウキメ・イニグランベという女性が折りたたまれた棒状の大きな旗を天高く掲げて言葉を放つ。
どうやらルミノジータ・ウキメ・イニグランベがドリオンと裕樹の間に魔力を放ち攻撃を中断させたのだ。裕樹は糸が切れた人形の様にだらりと座って意識を失っていた。
「此度の勝敗はヒロキの勝ちとする。敗者は去るがいい」
そう言い放ち部屋の中に戻っていく。
そしてこの戦いはあっさりと裕樹の勝利で幕を閉じた。
「ふぅ~」
この戦いの終始を見ていた新太は溜めた空気を口から吐き出す。この結果により決勝戦は新太と裕樹になった。
「さてと、どう戦おうかな~」
「先に言っておくけどアラタ。正直勝ち目は少ないぞ。あんなの見せられたら」
「おい!そんなこと言うなよ。だけどな俺には未来予知があるからなぁ」
「え?未来予知!?」
「ああ。リオは居なかったからね。知らないか。なんか相手からの攻撃はちゃんと痛みとして体に通るらしいけど」
「それを活用できれば勝機はあると思うんだけどな」
「でもさ、それってマズくない?痛みを伴う予知ならさ、ヒロキの神代器の能力に触れてダメージが入る可能性もあるって事でしょ?」
「ぐ…それじゃあ相性悪いのか。いろいろ試したかったのに」
『あーあー。お知らせをお伝えいたします。先程の戦いで闘技場の破損が大きすぎるため整備の時間を設けます。そのため3位決定戦と決勝戦は2時間後に行いたいと思います』
「2時間後…」
「良かったねアラタ!これなら十分に体を休ませられるね!」
「おし!ベストコンディションで戦いに臨むしか俺に道はねえ!」
「いや…この時間は勝利のために使おう」
「え?だから休むんじゃ?」
「今の手札だけじゃ勝てるとは思えない。有効的な遠距離技だって持っていないし、魔力感知だってお粗末なレベル。まともな攻撃なんて出来ずに終わるのが目に見えてる」
「じゃあどうすんだよ」
「この残された時間で魔力の感知力を実践レベルまでにする。そしてあと一枚切り札を用意する。これがヒロキに勝てるかもしれないラインになると思う」
「でも出来るなんて保証は無いんでしょ?いくらなんでも希望を押し付けすぎなんじゃ…」
ドリオンは新太よりも強かった。それは新太自身も分かっていた。カランから提示した条件さえなければまともに戦う事は出来ないという事も理解している。
だからこそ――。
「分かった。やろう…カラン。俺はアイツに勝って、関係を元に戻したい!」
「じゃあ行こう。時間は無駄には出来ない」
「そうだ。リオ。俺が言ってた代わりの服は買って来てくれたか?」
「大丈夫!ちゃんと買って来てる」
紙袋を自信満々で新太に渡し、新太はガサガサと中身を漁る。すると中から薄めた青色の全身タイツが出てきた。
「なあ、リオさん?この服は一体なんぞや?」
「全身の筋肉の動きをサポートしてくれるだけじゃなくて、魔力の動きとかもサポートしてくれる優れものなんだってさ!」
「まさかコレを俺に着てもらおうと?」
「うん!似合うと思って」
「着れないよ!こんなの着れないよ!?なにこれ!顔までしっかりと用意されてんじゃねえか!空いてんの目元と口元の全身タイツって何だよぉ!」
その場にへたり込んでしまった新太は、こんな姿で戦っても変な目立ち方をして恥をかく。そのため負けても勝っても嫌な思い出が出来上がるのは必然だった。
「何でお前はそんなズレたセンスを持ってんだよ…クソこうなったらカラン、ナイフかなんか貸してくれ!着る前にこの服を切る!」
つまらないギャグを交えながら、恥じらうリスクを最小限にするためナイフで切っていく。どんどん全身タイツではなくなっていくこの服は次の戦いでどうなっていくのか。
そして次の戦いで勝者はどちらになるのか。
この大会もいよいよ最後。残された時間で両者は何を思いながら過ごすのか――。
皆様明けましておめでとうございます。更新は2か月ぐらいなのではないでしょうか?仕事と健康面が異常に異常を重ねて掛けませんでした。ここまでいくとまた直ぐに出せるのか不安になりますね…。
さて今回は準決勝戦ドリオン対裕樹の決着でした。今回で結構光系の魔法を出しましたね。相手にバフを掛けつつデバフにもなる魔法というのをコンセプトに作っています。神代器から出る技に関しては語呂とかその能力に見合いそうな言葉を混ぜて作ろうと思っています。裕樹に関しての能力は作中を通して確定なのかそうじゃないのかは次回分かることになります。
直ぐに会えるように頑張って参ります。新年もよろしくお願いします!それではまた次回お会いしましょう!




