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10話「届いた思いの先」


暗い森の中、少し開けた場所で少年少女が、鱗を生やした大きな魔物と相対していた。


1人少年は髪色は茶色寄りで短く、髪型は少しツンツンして逆立っており、黒い無地の服を着た輪道新太という少年が。


そしてもう1人少女は、ボロボロになった薄い緑色に半袖の上着の上にアラタの灰色の上着を身に付け、ショートボブの藍色髪で頭には赤いカチューシャを着けたリオという少女。


エヴェンを先に帰し、残った新太とリオは、そこに止まっていた。


「とまあ…2人だけになってしまったが…こいつを倒せる手段は…あまり浮かんでこない事を先に言っておきますごめんなさい」


「いや…うん。なんとなく察しがついてたから大丈夫」


心の中で深々と頭を下げて、もう一度謝る。すみません、と。


(だが…今やれる事はたった一つ。1人でこいつの注意を引かせる事!)


それは先程失敗に終わってしまった、リオが放つ技の時間稼ぎ。それをたった今から一人でしなければならない。


なぜなら、今はそれしか魔物を…ロザリーを倒すことは出来ないからだ。その魔物の姿となってしまったのは元人間で、その元凶をロザリーという人物と戦い勝利に近い形で終わった。


だがロザリーが最後の最後で変貌を遂げ、この鱗が生えた魔物。所謂リザードマンとなってしまった。その証拠にロザリーの紫色の髪が頭部に生えている。


「とりあえずお前は、魔力を溜めといてくれ」


「それはいいけど、1人でできるの…」


「…わからん。とだけしか言えねえ…けど今この場に誰がいる?もう…やるしかねえだろ!」


新太は勢いよく飛び出す。それと同時にリオも移動し、少し離れた場所の木に登り、威力に影響が無い距離から、弓で狙撃する。


今度こそ、『豪炎の一矢(バーン・マルス)』を放つために。


(俺の攻撃は通用しない。尚且つ俺の存在は、こいつにとって有害である事を伝えなければならない…)


そんな矛盾と理不尽な要求が求められる。だがそんな中、新太の出した答えは…相手に『嫌悪感』を与える戦いを、これからしなければならない。


「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


声を上げ、魔物に近づくと声に反応するように相手も雄叫びを上げる。


そして互いに距離が近くなると最初に攻撃したのは、魔物の方からだった。新太より一回り大きい右腕が迫ってくる。


直撃するわけにはいかないと思い、姿勢を低くして攻撃を躱すと正面に立つように立ち回る。


新太にとって動きは、人だったロザリーより遅いのだが、代わりに一撃も喰らってはいけないという、ハンデを背負っている。


「おぉら!」


新太も負け時と魔力を込めた右ストレートを放つ。


バシィッッ!と当たるが、結果は分かっていた通り、やはり効いていない。ヒビすらも入っていない。


魔物の左手が横から伸びてくるのが見え、新太はすぐにその場を離れる。


(違う…こんなんじゃダメだ!今は勝つ事にこだわる戦い方をするんだ!)


少し姿勢を低くし、左手に砂を掴むとゆっくりと姿勢を正す。何かを拾い上げた動作がバレない様に。


(簡易的だがこれで目潰しして時間を稼げるか?)


そして新太は再び駆け出す。こちらが待っていたら、いつリオの方に行くかわからない。そう思うと恐怖が押し寄せてくる。


魔物は腕をブン!ブン!と風を切る様な音を立て振り回し新太は近づくことが出来なくて、苛立ちを感じ始めた。


このままではいけない!と思った新太はさらに魔物の懐へ潜り込もうとする。


左手から繰り出される攻撃の動作で魔物は隙だらけになり、ここぞとばかりに新太は一気に距離を詰める。


「おらあ!!」


すかさず近づき、攻撃…ではなく。左手に掴んでいた砂を顔の前で撒き、目に入るように仕向ける。


新太の理想では、これで最低でも5秒程は稼げる!と思っていた。だが現実は非常。自分の思い通りにはいかない。


砂煙が風に乗って消えると、上手く行かなかったと思い知らされる。


ロザリーの目には半透明の膜によって覆われていたのだ。


鳥や爬虫類がよく目を閉じる時、たまに透明な膜が見えたりする。それを『瞬膜しゅんまく』という。主にゴミや目の潤い、機能を保つために使われる機能なのだが…


この魔物は、おそらく本能でその機能を使い、新太の砂による目くらましを防御する事に成功したのだ。


完全に不意を突かれた新太は、「ヤバイ!?」と瞬時に悟り、引き行動を取ろうとするのだが、魔物は既に裏拳の構えを取っていた。


右腕から放たれる裏拳は、新太の上半身に狙いを定める。無理して姿勢をスケート選手のイナバウアーのように、攻撃を避けるのだがそれは最悪を招いた。


まず一つ。無理を通して姿勢を低くした行動により、新太の腰に悲鳴を上げるような痛みに襲われたこと。


もう一つは、魔物の裏拳の動作はそのまま回転する様に、次の動作に移っていたこと。ヒュン!!と鞭のようにしなる尻尾が新太の右脇腹に直撃する。


「お…ぼっ!?」


そのまま流される様に新太は飛ばされ、数メートル程転がって木に激突する。先程とは違って、周りには木が生えている場所に新太は居る。


「あ…が…ぐぁ…」


意識は失ってはいない。だがいっそのこと意識は無かった方がよかったと思ってしまう。


尻尾が当たる直前に、少量ではあるが防御魔力を集めたのだが、新太にとって大きなダメージになってしまう。それに加えて、木には強く激突してしまった。


「…っ!?あぁ…」


右脇腹を抑えながら木に寄っ掛かり、痛みに耐え再び立ち上がる。


「あぁ…ぐっそ痛ぇ…」


ロザリーに付けられた傷口広がったのと同時に肋骨にヒビ、もしかしたら数本折れている可能性もある。


「………っ!」


歯を食いしばり、ゆっくりと歩いて行くのだが、突然ふらっと足に力が入らなり、倒れてしまう。


なぜ急に力が入らなくなった?と新太は思う。だがすぐに答えは出た。


答えは疲労によるものである。


新太にはどっと脱力感が襲ってくる。今思えば、まだ人だったロザリー、それと周りに居た人達。そして今の戦い。


息が荒い。自分の中に酸素を取り込むのが辛い。


「っ!この位置はまずいぞ…!」


先程新太は数メートル飛ばされてしまった。


ということは…リオの攻撃は、相手に命中しづらい場所に居るのでは?仮にリオが力を貯めながら移動できるとしたら話は変わるのだが、その考えは切り捨てる。


(今アイツは俺のほうに来ている。勝つためには、命懸けで向こう側に行かなきゃならない…)


この体で?だがやるしかない。


「うおおおおおおおおおっっ!」


叫びながら新太は魔物に向かって走る。その時に激痛が体を襲ってくる。手を思い切りギュっと握りしめ、歯を食いしばり、ただ敵に近づく。


そして互いが近づくと、魔物は足を大きく開くと同時に手を大きく振り、なぎ払う様に腕が新太に迫る。


「んぎっ!!」


手が当たるギリギリの距離で足を止め、攻撃を避ける。そしてもう一度新太は足を動かす。


「らあああああああああああっ!!」


魔物の大きく開かれた股の間をスライディングで潜り抜ける。さすがに相手もこれに関しては予想もできていなかった。


あの開けた場所に戻らなければ!そう思い、後はガムシャラに走り出す。痛み?そんなの今は関係ない。


後ろからはドスン!ドスン!と大きな足音が近づいてくる。


「うおおおおおおおおおおっっ!」


前の方に大きく飛び込み、少しだけ新太の体は宙を浮く。


地面に体が着くと、すぐに後ろを振り向く。すると魔物は口を開きながら飛び込んでくる。


今この巨体をどうすることもできない新太はただ叫ぶだけだった。


「リオォォッ!!まだかあぁぁぁぁっ!!」






新太が魔物の尻尾で、狙いの場所から離れてしまった時リオは嫌な予感を感じていた。


ここまでで約30秒を新太は稼ぐことに成功していた。


(あの化け物が木とか荒らしていたから、狙いは定められたけど…ここからだと完全に姿が見えない…!)


魔力を溜めながら移動することは多少可能だが、まだ体の痛みは消えていない。


信じて待つか。それとも溜めるのをやめて、助けに行くのか。


「ぐ…どうすれば」


だがこの考えはすぐに切り捨てる。せっかくここまで溜めたのだから、新太を信じて待つ。


今自分にできることをやる。すぐに撃てるように構えておく。それがベストだとリオは思う。


「うおおおおおおおおおおっっ!」


飛ばされた方向から新太は飛び込んでくる姿が見えるようになる。その後ろには口を開き、今すぐにでも食い殺そうとしている、魔物の姿が。


そして…


「リオォォォォッ!!まだかあぁぁぁぁっ!!」


新太が大きな声でリオの名前を叫んでいる。ここしかないと悟ったリオは口に出して詠唱をし始める


「炎よ命令する。我に在りし力を使い、この矢に疾風の如く素早い炎を宿せ!」


豪炎の一矢(バーン・マルス)!!』


放たれた矢は勢い良くまっすぐに突き進む。その時勢いに負けリオは、木から落ちてしまう。


狙いはできれば心臓中心に撃てればよかったのだが、唐突な事だったためそれは出来なかった。


しかし、リオはそれでも急所になるような部位に狙いを定めていた。


そして当たる瞬間新太はしっかりと見えた。左方向から、炎で纏われた矢が魔物の首元に当たる瞬間を。


ドオオオオオオオオッッッッ!!


「グオオオオオオオオッッッッッ!!」


大きな轟音が発生し、魔物は矢の方向へ吹き飛ばされる。その光景は木が薙ぎ倒され、周りを巻き込み、土煙が大きく舞い上がりながら、やがて姿は見えなくなる。


「はあ…はあ…」


(間一髪だった…死ぬかと思ったよぉ…!)


胸を押さえ、荒い呼吸を整える。


「アラター!」


「リ、リオォ…」


「大丈夫…ではなさそうだけど」


「し、死にかけた!まじで怖かった!いろんな所が悲鳴を上げちゃってるよ!」


「わ、わかったから!ちょ服を掴まないで?私も痛いから!」


「てかすげえ威力だな!?これが魔法なのか……!」


「アラタはこういうの使えないの?」


「使えないよ。俺どの属性を使えるのかも知らないし。とりあえず見に行くか。これでダメージ無しとかだったら最悪だけどな」


「了解。行きましょ」


2人は並んで歩き出す。走って確かめに行きたいが、2人ともダメージを負っている。現状一番ダメージが大きいのは新太ではあるが。


「……」


「……」


2人は静かに歩く。だがこれは決して痛くて喋ることができないのではない。


ただ単純に、何を話せばいいのかわからないのである。


もし生きてたらどうする?しかしその話はどうなのだろう。互いに緊張感が張った状態が続き、疲労困憊な状況で、今この場に関係のない話題をしようものなら、こいつ空気読めない奴だと思われてしまう。


その間2人は何も喋らず、ただただ静かに歩いた。


「「っっ…!!」」


歩いた先には、魔物が項垂れる様にぐったりと座り込んでいる。


「やった…」


「やめろぉ!そのセリフを言うな!」


新太はよく知っている。そのセリフを吐いてしまえば、いい結果にはならないと。


「なあリオ。お前あの技あと何回撃てる?」


「本当ならあと2回。でも…武器の状態がね」


リオは手に持つ弓を新太の方へ見せる。よく見れば弓の所々はボロボロで焦げ目もある。


「撃てるのは、1発だけ」


「そうか…じゃあここで溜めておいてくれ。少しでも動いたら撃ってくれ」


今、この場からぐったりと倒れている魔物の距離はおよそ3m。


少しでも動けば、視認できる距離であるため意図を理解したリオは頷き、腰を落とし弓を構える。


矢の先端には、紅く燃え上がる炎が灯され、力が集約されていくのが新太にもわかった。


そして20秒が経った頃。時が再び動かされた様に、2人の意識はそう錯覚される。


再び魔物が立ち上がったのだ。


「リオォォッッ!!撃てぇぇぇ!!」


新太がそう叫ぶ。だがしかしリオは撃つことは出来なかった。


30~40秒溜めた魔力を首元に放ったが、20秒程しか魔力を溜めた程度では、倒せないのでは?そう思ってしまったのだ。


だから撃つことは出来なかった。


「グガアァァァァァァァァッッッッッ!!」


魔物は完全に立ち上がり、側にあった大木を手に取るとそれを野球選手の様に2人に投げられる。


「らあああっ!!」


新太はリオに飛び込み、投げられた大木を避けることに成功する。


(なんつー力だよ!あの時のオークより強いんじゃないのか?)


「ごめん!すぐに撃てばよかった!」


「いやいい!どちらにせよお前の方が正しかったと思う。立てるか?」


「もちろん!」


新太はすぐに立ち上がってリオに手を出して、立ち上がらせる。


「もっかい時間稼ぎか…しんどいぞこれ…」


「頑張ってとしか言えないからね!私からは!」


「ガアアアァァァァァァァァァッッッ!!」


魔物が大きな咆哮をすると、空気が震えると同時に魔物の周辺には『黒い魔力』が出現する。


(まさか第二形態とかそんなのは無いよな!?)


耳を抑えながら嫌な空気が体を襲う。『黒い魔力』が消えると、魔物は2人に向かって走ってくる。


「リオ行けっ!…畜生!もう一回やってやるっ!」


新太の声を聞いたリオは来た道を戻り始める。そして新太は再び面と向かって対峙する。


もう一度…地獄の時間稼ぎが始まる――。


だったのだが…。


魔物は新太の事を無視し、通り過ぎたのだ。


「………は?」


予想してもいなかった事で、その場に固まってしまった。一瞬思考が止まってしまう。しかしおおよその検討はついていた。


(狙いは…リオ!?)


リオも自分が追われている状況を理解し、来た道を走り抜けていく。それを追う様に新太も走っていく。


(なんで今になってリオを狙うんだ!?…いやあいつの立場になってみれば簡単か。だが問題は奴にそれ程の知能があるのか。ということ)


こういった魔物は考える力は無いとそう判断していたが、以前戦ったオークは喋ることが出来ていた。思考パターンは相手を殺すか殺さないかだけではなく、その戦い方を常に変えることが出来る魔物がこの世界には沢山居ると思っていい。


(そういえばアイツ…ヴァリー達と時間稼ぎしてた時、いち早くリオに向かって飛び出していた…考えが間違ってなければ、アイツは自分にとって『害になる魔力』に反応しているのか?)


自分の考えは定かでは無い。この戦いを通しての考えた答えだ。


「仮にそうだったとしたら、なんとかなるかもしれねえ…だが今は奴に追いつくことが先決!」


策と、更に意志を決め追いかけていくと、ズッズッズッと背後から何者かの足音が聞こえてくる。


(ん?なんか近づいてきてる…どっかの魔物か?)


だが足音は4本足の獣では無い。土を蹴る音はおそらく2本足の者。その足音は確実に近づいてきている。


ゆっくり、ゆっくりと顔を向ける。


「な…何いぃぃぃぃ!?」


首のない死体が肌を露出している服を着ており、まるで男を誘惑するための服装で黒いオーラを纏いながら、走っている姿がそこにあった。


「うおぉわぁぁぁぁ!?怖ぇぇぇぇ!」


側から見れば、首のない人間が一人の少年を追いかける図である。


首元を見れば中身が見えそうになる。もちろん新太はそういったスプラッター的要素に耐性は無い。


(でもなんでここに人の死体があるんだよ!?…待てよ?)


もう一度振り返って見てみる。何故かその動く死体には既視感があったのだ。


そう、それは――。


「これは…マイリの死体なのか!?でもなんで動いているんだ!?」


顔が無いため正確にはわからないが、服装に身に覚えがあるため、新太はそう確信する。


しかし問題はなぜ死体が動いているのかという点だ。


(なにか変わった事あったか?変わった事…)


走りながら思い当たることを考えていると別方向からはまた何者かが葉をかけわける音が聞こえてくる。


「もう一体!?どこ…ぐぁ!?」


新太の背中に突如として衝撃が襲いバランスを崩し、倒れ込む。


「がはっ!?ごほっ!ごほっ!なんだ急に!」


起き上がる時に背中に何者かに掴まれる感触を感じ、自分の背中を見る。そこには、目の焦点が合わず、短い時間しか会ったことは無いが、共に戦った中年の男。ヴァリーの上半身が背中に掴まっていた。


「ぁ…あぁ…あああ」


その姿はまるでゾンビの様で、今でも襲ってくる。


「っ!?」


ヴァリーに注目している場合では無かった。今度は大剣を持った人影が上空から迫ってくる。


「うおおおおおおお!」


申し訳ない気持ちで背中に掴まっているヴァリーを力で引き剥がし、腕を掴み、大剣を持った人影に向かって投げる。


空中でぶつかり、大剣を持った人物は姿勢を崩し落下する。


そして今度は横から稲妻が新太を襲い、左腕に焦げ目が出来上がる。幸い威力はなんてことはないが、新太はこの一撃に身に覚えがある。


よく辺りを見てみると三角帽子を被った女リランと。体格が大きい男ラデクが動く死体となっていたのだ…


「そんな…!」


新太が絶句している時ヴァリーの片腕にはひび割れが起こり、ガラスの様に砕け散る。


新太は道具だろうと、小さな石ころだろうと、戦闘の際に使用すれば壊れてしまう。


だが生きた人間を、武器と見立てて使用すればどうなるのか。その答えはまだ知らなかった。だが死体も道具としてカウントされヒビ割れが入った。


(今を生きる生物にはこの呪いは作用しないのか…)


それに死体の周りあるあの黒いオーラ。おそらくあれは、さっき魔物が出していた『黒い魔法』。


なぜ自分にだけ襲ってくるのか。それはおそらく、リオを追いかけるのを邪魔されないために、新太を襲うように魔法で、機械のようにプログラムされたのだろう。


(こういった死体にダメージは入るのか?だがここで足止め食らってる場合じゃない!ヴァリー、マイリ、ラデク、リラン!アイツをなんとかしたら、必ずお墓作ってやるからな…だから今は攻撃する事を許してくれ!)







一方のリオは魔物に追いかけられている。新太とは違って、木から木へ飛び移り、距離を稼ぐ。


(まずい…まずいまずい!アラタの姿が完全に見えなくなった…これじゃあ溜めることも出来ない)


「オオオオオオオオオオオオッッ!!」


木が次々と倒され、咆哮と殺意をリオに向けられる。


(ひらけた場所…いやダメだ。そこで逃げまわったっていずれ追いつかれる。でもこれ以上アラタと距離が離れると、取り返しがつかなくなっちゃう。最悪が続いてる…)


すると相手は痺れを切らしたのか唸り声を立て、片手で木を持ち上げそれをリオに目掛けて投げる。


「くぅ!」


全力で飛び移り、木の枝にぶら下がる。だが一回だけでは終わらない。すぐに木や岩を投げてくる。


直撃すれば死は免れない。


「なあっ!?」


姿勢が崩され地面に落下する。背後からは魔力の気配を感じ、嫌な予感に包まれる。


「う、そでしょ…」


見れば口を大きく開き、氷を作っていた。


(今まで…そんな事してこなかったじゃない!?)


立ち上がり、避けようとするのだがもう遅かった。


光に包まれ視界が見えなくなり、体は重力を逆らう様に浮かび、手足が動かせなくなる。


「う、ぅう…?」


生きてる?まず思ったことがそれだった。


手も足もある。動ける事を確認して、リオは立ち上がる。落ち着いて周りを見ると、リオは絶句することになる。


直径約5~6m程のクレーターが出来ており、深さは2~3程だろうか。所々氷が張っている。


リオは当たる寸前に炎属性の魔力を噴射したことにより氷の爆風は直撃は避けられた。…いやそれにもう一つ。


(衝撃は凄かったから、体のあちこちは痛い…でも魔法攻撃に関しては、どこも凍ってない…アラタの上着にもそういう目立ったものは無いし…)


と言っても、灰色の上着の生地は少しボロボロになってしまっているがのだが。


(それに寒くもない…氷は張ってあるから、寒気はあってもおかしくはないと思うけど)


口から吐いた息は、白く吐き出される。自分にはこんな力は合っただろうか?今発揮しているのか?いやもっと簡単な理由がある。


「アラタのこの上着…」


新太には武器や防具を装備することが出来ない。防具に関しては、付与されてる特性すらも自分に効かないと聞いた。


だが今は自分が着ている。この上着の与えられた能力はリオにはわからないが、おそらくこの服に備わっている力が命を救ってくれたのだ。


その理由としてあれ程の威力を喰らってしまったというのに、この灰色の上着だけが形を保っている。


何気なく気を回してくれた新太の行動がリオの命を救ったのだ。


(それに奴はまだ私を追いかけてくるはず。アラタとこれ以上距離は作れない)


戦場は、この作られたクレーターがフィールド。再び逃げてしまえば新太との距離が生まれ倒すことはより難しくなってしまう。


リオは早速、クレーターの中へ滑り入っていく。


バアアァァァァァン!と大きな音を立てて土煙が上がる。その中から現れるのはやはり魔物だった。


「こっちよ!デカ物!」


相手にわざと気づかせると、魔物もすぐにクレーター内に入る。


地面が平面な場所にお互いが着地すると、魔物はすぐに口から氷を吐き出す。


息を吐き終えると次の瞬間にカッ!!っと閃光が辺りを照らすと氷の塊は何度も発射される。しかし、リオにとって避けることは造作もない。


だが避けていたって何もできない。こちらに残されている攻撃手段は、魔力を乗せた矢の攻撃のみ。


溜めさせてくれる時間も与えてくれるわけもなく、攻撃の手は止まらない。


(移動しながら溜めるのには無理がある…!)


相手はその事を理解しているのか、どんどん氷を作り、吐き出す。


(これだけだったらまだ良いけど…直撃さえ食らわなければ隙は作れる!深く溜める瞬間一気に近づく!)


次の氷が放たれた後、魔物はすぐに溜めに入る。魔力が集束していくのを感じた瞬間にリオは距離を一気に詰める。


弓を引き、狙いを目に絞る。鱗に攻撃が効かないのは知っている。なら他の部位を攻撃すればいい。


相手の体で一番柔らかい場所なら、鱗に守られていない『目』を狙う。


「アアァァァ!!――あぁ?」


足の力が一瞬抜けて転んでしまい。その時に手から弓を手放してしまう。


(な、んで…)


改めてよく見るとリオは愕然とした。自分が先程立っていた地面には氷が張っていた。


(一体いつ?自分の先に氷は…!?)


魔物は最初に氷の塊ではなく冷たい息を放っていた。溜める時間は少なく、足下を凍らせるだけならば十分。それでわざと隙を見せ近づかせリオの進路に凍った床を作った。


(戦いに関して…こいつは知能がある…待っていたんだ…突っ込んで来るのを…策に嵌められた…)


知能が無いと思って近づいた事が、裏目に出る。


「くっ!!」


今すぐ立ち上がろうとしていると影が重なる。


(もう…目の前に…)


爪がリオに迫る。体が引き裂かれるのは時間の問題だろう。


終わった。と心がそう嘆いておりリオの目から光が薄れていく――。


「だあああああああっ!!」


少年が大きな魔物の背中に飛びつく。腕を首元へ回し、ヘッドロックの様にしがみつく。


髪色は茶色寄りで短く、髪型は少しツンツンして逆立っており、黒い無地の服を着た輪道新太という少年がそこに居た。


「うお!?ちょっ、待っ!」


背中にある違和感を無くすため、引き剥がすため体全身を揺らし、新太を引き離す。


「があっ!!ぐぁ…」


勢いよく地面に叩きつけられ、体内の酸素が吐き出される。同時に腹部にも鈍い痛みがやってくる。


「ア、ラタ…」


「ご、めん…ちょっと時間食っちまった…」


リオは新太の体を見てみると、あちこちからは血が流れており、引っ掻かれた傷も見える。


「別れたあと何があったの?」


「ちょっとゾンビ達と戯れてました」


「えぇ!?」


「そいつら殴ってもすぐに起き上がってきたから木に縛りつけてきた。そんで爆発が合ったから、急いでこっちにきたんだ」


「そっか。でもごめんね…この場所で戦うんじゃなかった。これ以上離れるわけにはいかないって思って…」


「全然問題なし!おかげですぐに合流出来たし…そんなことよりいい加減こいつを止めないとな」


「また、頼りにしていい?アラタ」


「ああ…なんか今は何とかなる気がするんだ。ランナーズハイって奴に近い感じなのかな」


(え?アラタ…何で体の外に魔力を…まさか…!?防御魔力無しで迎え撃つ気なの!?)


「じゃあリオ。もう一回溜めててくれ」


「うん…分かってる」


「ガアアァァァァァァァッ!!」


魔物が咆哮を上げた途端に両者は近づいていく。距離が目と鼻の先まで近づくと大きな腕が新太に迫るがその一撃を避ける。すぐに新太は魔物の側面に立ち、右拳に魔力を溜めて攻撃する。


「うおおおおおおおおっ!!」


脇腹に放つのは全力の右ストレート。しかし今までとは『何かが違う』一撃。


するとあの巨体がほんの一瞬だけ浮かび仰け反った。次に新太は飛び上がり、顔に蹴りを食らわす。


防御を捨てた捨て身の攻撃。しかしまだ新太の攻撃で鱗にヒビは入らない。


しかし相手もすぐに次の行動に移す。


コォォォォォッ!っと口に魔力を溜め、氷を作り出す。


(氷!?まさかこれはロザリーのか?)


離れようとするが氷は放たれる。右に避け、左に避け、リオのいない方へ移動していく。


「ぁぐ!?」


ステップ移動をする時に足に力を入れるのだが、現在の新太は肋骨を負傷している。思わず痛みで動きも止まり、声も出てしまう。


「ぁっ!?」


顔を上げると小さく声を出し、迫る大きな手が近づいてくる。


(まず…!)


後ろに身を引いて避けようと片足を後ろに下げる。


「わっ!?」


奇跡的に背中から盛大に転び、大きな右フックを避ける。


(あっっぶね!!…なんか、冷たい…氷だ!滑って助かったのか!)


新太は起き上がると同時に相手の腹部に、両足の蹴りを食らわす。


「ッグ…」


(効いてる…?さっきまでアラタの一撃はどれも効果は無かった…魔力量が上がった…訳じゃないし、アラタの持つ力とは『違った力』…?)


「はあ…あぁ…痛え…」


瞼は重くなり、視界はボヤける。体は段々と熱くなっていくのを、感じていく。だが逆に体は不思議と軽くなっていく。


矛盾を抱えた体を持つのは一体どんな感じなんだろうか。それは新太にしかわからないだろう。


「ッグ…ガアアアァァァァァァァァッ!!」


(っ!?まだ余力があんのかよ!)


魔物が新太に向かって雄叫びを上げるとその時に発せられる風圧でアラタは再び身構える。


魔物がこちらに真っ直ぐ向かって走ってくる。それは間違いなく本能で目の前の敵を生かしておくべき存在ではないと思ったのだろう。


(近づいてくるのかよ!?)


魔法で攻撃してもダメージが与えられないからと考えたのだろう。しかし真正面からぶつかったって力では流石に負ける。


(どっかに…どっかに無いか!?あいつの脆い箇所は!)


今まで戦ってきた中で、何か大きな変化は見当たらなかったのか?ドドドドッ!と地響きが大きくなっていく中で新太は探し出す。


(いやある!コイツの脆い箇所。リオが撃ってくれた一撃は確か、首元だったはず。コイツを数十m程飛ばした一撃ならば、硬い鱗には多少ヒビが入っていた!)


大きな巨体が新太に迫っていく中、痛みを堪えながら相手の攻撃が当たる寸前に頭上に飛んでやり過ごす。


「おりゃあああああああ!!」


空中で態勢を変えて右脚でかかと落としを、首元にリオが撃った箇所。左側に精一杯の蹴りを当てた。


ズシリ…と重い一撃は、鱗の鎧を砕き、血飛沫が舞い上がる。


「アアアアアアアアアアァァ!!」


魔物は大きな声を上げ、蹴られた箇所を手で抑える。


(流石に効いたろ…この野郎が)


息を荒げながら暴れている魔物を見ていると、仕返しをするかの様に魔物の腕が新太の左腕に当たってしまう。そこからミシミシと嫌な音を出しながら新太は弾き飛ばされる。


「が、あ!ぐおおぉ…!!」


左腕を抑えてながら痛みを堪える。


その光景はあの時に似ている。あの異質なオークに襲われた時に腕を折られたあの光景を思い出していた。


(やばい…心が折れそうだ…)


意識が何処かに飛んで行ってしまいそうな感覚に苛まれている中、一つの声が耳に入ってくる。


「アラタッ!!」


リオは無言で頷くと新太はその意図を理解する。魔法を放つ準備が完了したのだ。


「そっ…か。溜まったんだな」


左腕がダラリと垂れ下がったまま立ち上がると、右手に魔力を込める。そして無言でリオの方を見つめた後、再び歩き始める。


(最後の勝負だ!)


新太の右手に集まる『巨大な力』。それに反応するかの様に、魔物は声を上げ、新太に近づく。


距離が段々と近づいてくると、新太は下を向くと右手を拳の形に変えて力一杯地面を殴る。


ズガアァァァァァァァァ!!


クレーターの穴がさらに深くなり、その衝撃で土煙が上がる。その土煙を見てリオはなんとなくだが、その行動の意図を理解する。


その土煙の中新太は走り回っており、魔物に対してチクチクと有効打とは言えない攻撃を繰り返している。


しかし本能が、大きな魔力が1つある。それを、感じた魔物は新太を完全に無視。狙うべきなのはあの少女なのだと判断するのだが、もう遅かった。


煙の外に近づき、体が、頭がほんの少し煙からはみ出ると、弓を構える少女と、横に飛び退いている、少年の姿がはっきりと見えた。


「炎よ命令する。我に在りし力を使い、この矢に疾風の如く素早い炎を宿せぇぇっ!!」


豪炎の一矢(バーン・マルス)!!』


放たれるリオの矢は、前とは威力が断然違う一撃。弓は燃え、砕け散る。


「いけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


少女は叫ぶ。今までの鬱憤を晴らす様に。だがまたしても、表情は豹変する。


「ぇ――。」


見ると、魔物は両腕でしっかりと矢を受け止めていた。だが威力を殺す事はまだ出来ておらず、どんどん後ろに下がっていく。


「ォォ…オオォォォォォォォォッッ!!」


叫び、力を込め、生きる事に執着する。


(どうしよう…何も…もう私には何もできない…)


もう片方は絶望感に襲われる。そして祈るしかなかった。


もう、終わって欲しい。と


そしてもう一人は、矢を受け止めている魔物の元へ駆け寄っていた。


(もし。もしだ。コイツがリオの技を受け止める事があったら、どうしようと思った。コイツはその時受けた一撃の重さを知っている…)


ここまで生きる事に執着するのなら、予測不能な行動をしてくると思っていた新太は右手に力を集めていた。


希望が目の前で無くなるというのなら。


「誰かが作ってやるしか、ないよなあぁぁぁぁぁぁ!!」


新太は受け止めている炎を纏った矢に向かって、押し出す様に攻撃をする。『巨大な力』と一緒に攻撃する一撃は、鱗の鎧にヒビを入れるのに時間はかからなかった。


「っぎ!…ぐぅおぉ…おおおおぉぉぉ!」


(これで…全部終わらせる!リオの為にも…アイツらの…為にも!お前の為にも!)


「ああああああああああああああああああああああああっ!!」


矢と一緒に魔物の体が貫通する。ピキピキと音を立てて崩れていく鱗と薄れていくロザリーの意識と共に落ちていく。


カアッ!!っと、爆発と閃光が相まって、視界は完全に無くなる――。







「ア………タ…」


「…あぁ?」


「アラタ!」


「アイツはどうなった…!?ぅお…!!」

意識を完全に取り戻した新太だが受けたダメージがとうとう限界を超えて体に異常を来す。


「倒せたよ…でも」


スッとリオが指を差したためその方向に首を向ける。


クレーターの底に残されていた物は、巨大な姿を持った魔物ではなくロザリーの。人間の体になっていたロザリーの体が残されていた。


確認の為に新太はリオに肩を貸してもらってゆっくりと近づいていくと異変に気付く。


その体は以前のロザリーの容姿ではなかった。皮膚の状態から分かる事は80代の老婆に変化していた。


「もしかして…魔物化した代償なのか?」


「分からない。多分そうだと思う」


「ぅ…あ?」


小さい呻き声だが、ロザリーが意識を取り戻し始めた。2人は当然身構えるが、すぐにその警戒は解かれることとなる。


「誰か…誰か…私を、忘れないで」


「どうしようアラタ」


ロザリーは空に向かって手を伸ばしている。それもか細い声で何度も訴えている。そんな中新太は座り込んでロザリーの手を掴み返す。


「俺はお前の事を忘れない。もちろんお前がやってきた悪行の事も。けどロザリーという今を生きていた貴方のことは忘れない!貴方の意志は、心は立派な物があったよ。だからゆっくり休んで欲しい」


そう言って新太の言葉を最後まで聞き届けると口元がほんの少し緩み、最後には意識を手放した。


「埋葬してもいいか?」


「うん。そうして上げた方がいいと思う」


固い土を手で掘り起こし、埋められる深さまで掘り起こす。ロザリーの体を持ち上げそっと置き、そして土を戻す。完全に姿が見えなくなると、2人は目を閉じ、弔う。


「後…他の4人もあるんだけど…それも手伝ってくれるか?」


「それはもちろんやる」


「あぁ…マジ…助か…る」


「ちょっ!アラタ!」


新太は全身の力が抜ける様に、倒れる。リオが揺すっても意識を取り戻すことはなく、暗い暗い意識の底に沈んでいく――。


「――ん?なんだここ…辺り一面真っ暗闇なんですが!?」


新太の意識が戻った…とは言えないが体の痛みは無い。息苦しさは多少あるが、ここには一度来たことがある。そう体の一部がそう覚えていた。


「いや、覚えている…俺はここに来た事が…そしてここにはもう一人居る!」


視線をあちこちに向け、出会った筈の人の様な『何か』を探す。


だが一向に見つからない。


「くっそ……聞きたい事があるんだ…お前なんじゃないのか?俺をこの世界に呼んだのは…俺はこの世界で最初、他とは違う感じがしたんだ…自分で言うのもなんだけどさ」


少年暗い世界の中に話しかけても周りに変化はない。ただ暗闇のまま。


「あ………は……………ぃ」


声がどこからか聞こえてくる。それは小さくて上手く聞き取る事は出来ない。それどころか所々発音は出来ていない。


「どこに居るんだ!頼む出てきてくれよ!あぁっ?」


そして少年の視界は、真っ白い光に包まれる。


「待ってくれぇ!」


そして新太は上半身を起こして目の前の『何か』に向かって手を伸ばす。


「は――。」


横を向くと知っている少女リオが椅子に座ってこちらを向いていた。それも驚いた様子で目を丸くしており、その光景を見た新太は夢を見ていたのだと理解する。


「あ~おはようございます…」


「おはよう。大丈夫?」


「所々あちこちが痛いですね」


体は上手く動かすことは出来ない。新太はベッドの上に寝かされている事に気付く。


「本当に何とかなっちゃったな~犠牲者は出ちゃったけど」


「うん、そうだね…それと何で私を助けに来たの?」


「うぇ?」


「だってアラタは集落に居たって誰も責めないはず。私一人が死んだって何も変わら――。」


「それは違うだろ。皆お前の事が大切だから助けに来たんだろ?力が足りなかった事に関してはどうしようもないけどさ…自分が死んでおけばいいなんて考えは結局誰も幸せにはならないんだよ」


「私は、じゃあ…」


「生きていくしか、ないんじゃないか?それもお前の夢を叶えながら…自分を生かしてくれた人達の事を忘れずに」


「難しいね。生きていくって」


「当たり前だろ。人は色んな事で死んでしまう様な生き物なんだから…そういやヴァリー達の死体はどうなった?」


「ああ。あの後エヴェンがいろんな人達連れてきてくれて、私が事情を話しておいた。勿論ラデクの事も…見つけてちゃんと埋葬したってさ」


「そっか。よかったぁ」


「あれからもう1日経ってるしね」


「あんな出来事が1日経って……ん?1日経ったの?」


「正確にはもう2日経とうとしているがな」


新太にとって聞き慣れた声が、扉の先から聞こえてくる。


「せ、先生…」


長い銀の髪、青い透き通った瞳に黒い上着を羽織り、中の白いシャツからは少しヘソを出した服装。おまけに一本アホ毛が目立つ女性レオイダ・クメラという女性が曇った表情で部屋に入ってきた。


「頑張ったな、アラタ。そしてすまなかった…」


「ええ?なんで謝るンスか!?」


意外な行動を見た新太は声を上げて大層驚いた。


「私がしっかりしていれば、お前にこんな大怪我を負わせることはなかったんだ。自分が嫌な記憶を思い出したせいで」


「…誰だって嫌な思い出ぐらいありますよそりゃ。逃げたくなるような事があったら俺だってやりそうですし。まあ結果オーライって奴じゃないですか?」


(違うんだよ…アラタ。私はただ逃げてしまった臆病者なんだよ…)


「先生。また旅を続けましょうよ」


「ああ…けど怪我を治してからだな」


ニヤニヤ笑う少年と大人びた女性を見ていたとある少女は決心する――。








「さてと行くか。アラタ」


「あーい…」


痛みに悶え苦しんだ日から5日経ち、動けるようになった新太は、とうとうこの集落を出ることにした。


門に行き、集落で暮らしている人々も集まる。


「クメラさん。この度ありがとうございました」


「私は何もしてないさ。礼ならアラタに」


「ええ…その通りですね。アラタさん」


「ありがとうございます!アラタさん!」」


「やめろぉ!!急に律儀になりやがって!」


あの一件以降、この集落の人々は新太に、ごまを擦りながら丁寧な扱いをする様になった。


「俺は覚えてんだからな!前までぞんざいに扱いやがって!」


「え~?」


そして皆は首を傾げ、わかりません。と言う様なジェスチャーをとる。


「なんだよその、もう記憶にあーりません。みたいな仕草!」


ガルルルルと犬の様に唸り声を上げる新太の首元を掴んだ女性は引っ張っていく。


「もういいだろうアラタ。さあ行こう次の目的地へ」


「お元気でー!」


「ありがとーう!」


「頑張れよー!」


道を歩き、進んでいく。約一週間しか居なかったが、色んな事が起こりすぎて、新太の体は未だ重く感じている。


「そういえば、先生聞きたい事があったんですが」


「ん?答えられる質問ならいいぞ」


「俺が戦った相手は武器…神代器を使ってた。先生が経験している中でどんな神代器があったのか教えてくれませんか?」


「それは構わないが…その前に、そこで何やってるんだ。リオ?」


「へ?」


「……よく分かりましたよね…」


「私をあまり甘く見ない方がいいぞ?」


「何でここにお前が?」


木から飛び降り、静かに着地する藍色の髪をした少女が一人現れる。


「改めて礼を言っておきたくてね。ここで待ってたんだ」


「別に礼なんて要らないだろ。もうお前から『ありがとう』って言葉は貰ってるし」


「それだけじゃあ、ないんだけど…」


「何だ?新手のツンデレなのか?」


「言葉の意味は分からないけど、褒めてる感じには聞こえないな~?」


「馬鹿言うな。この言葉は俺の国では一部に対して需要がある物なんだぞ」


「なによそれ。それとさ私、旅しようと思うんだ」


「…許してくれたのか?」


「うん、というか自由に生きなさいって言われた」


「よかったじゃんか!」


「うん。だからそのお礼を言いたかったの。そしてどこかで会う事があったら、また助けてよ」


「ああ、お前が困ってたらな」


2人は笑うと別々の方向へ歩き出す。


「うーむ…」


「どうしたんですか先生」


「なあリオ。一つ相談があるんだが」


「はい?」


「一緒に行かないか?旅に」


「「えっ」」


「お前もあの戦いを生き抜いた力はあるんだ。これからどんな形で成長するのかを、私は見てみたい」


「わ、たしは…」


迷惑をかけるのではないか。その思いが答えの邪魔をする。


「嫌なら嫌でいいんだ。追求はしないよ」


「私は…」


一人で進むのは怖い。人生で初めて旅をするのだから。


しかし――。


「行きたい…行ってみたい!迷惑をかけるかもしれない。でも色んな所を見てみたい!」


「大丈夫だ。迷惑ならアラタもかけてる」


その返答を聞いて、思わず新太は「えぇ…」と声を漏らす。


「これからよろしくな」


「…はい!」


1人新しく、共に行く仲間が新太達に出来た。


そしてまた新しい旅が、始まる――。


ついにロザリー戦決着!どうもオオモリユウスケです。私としても長く険しい戦いだった…でもまだまだ続きます!ロザリーの持つ神代器は『変化』。それによって怪物化ロザリーは新太君一人では絶対に勝てません。リオちゃん達の協力が必須でした…まああとは火事場の馬鹿力とかです…かねえ。そしてリオが仲間に加わった!彼女の活躍はいかに!?それではまた次回お会いしましょう!

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