#06 馬鹿な高校生⑤
自転車通学の男子高校生に、ついていくことになった。想定はしていなかった。例えるなら、突然のどしゃ降り、みたいな感じかな。ああ。自分の中だけで、小さくかっこつけてしまった。それはいいとして、想定できるわけがない。当たり前だ。一言も喋らないなんて、誰も思わない。オウムやヨウムなら仕方ない。いや、仕方なくはない。ただ、人間だ。しかも、自分から頼んできた系の人間だ。そんな人は、絶対喋る。
電車通学の妹が、自転車を貸してくれた。助かった。パック卵は、二段重ね出来ない。だから、二段重ね用の板みたいなものを、スーパーで無料配布してほしいと思っている。でも、その日は買ったものの中に、ちょうどいい板状のものがあった。だから、二段重ねできた。その時と同じくらい、今は助かったと思っている。
妹の言葉しかまだ、記録していない。何をメモして記録したのか、記憶してない。記録力は優れているが、記憶力はないタイプだと思う。ちなみに、帰路苦力みたいなものもある。帰り道は、いつも苦しくなるから。妹の自転車が、本格的で良かった。ピンクピンクミニミニ自転車だったら、どうしようと思っていた。
意外に、男子高校生の漕ぐスピードがはやすぎた。男子高校生の後を、ギアを最大の5にしてついていった。独り言を言っていた。それなりのボリュームで。高架下を100とした場合、85くらいだろう。飛行場の隣家を100とした場合は、よく分からない。高架下と頭で思っているときに、下り坂になった。坂を下ることを降下すると言うなら、被った。被ってしまった。高架下と降下したで、被ってしまった。
風の轟音が、たまに男子高校生の声を遮る。でも、その風の音も心地よい。ミステリードラマから、合間のCMに移り変わる。そんなときに、CMで商品名みたいなものを、小さな声でささやいていた。驚いて、背筋がファッてなった。なんで、怖いドラマの合間CMの冒頭が、不気味な小声なんだよ、と思った。その時は、小声にビビった。今はなぜか、感じている凍えにビビっている。
メモを忘れていた。仕事を忘れていた。メモをすることが、仕事だった。自転車で追跡して、坂を下る気持ちよさを、感じる仕事じゃなかった。しかも、自転車に乗ったらメモが出来ないことに、今さら気づいた。手放し運転は出来るけど、駄目だ。歩きスマホよりも、車の運転をしながらのスマホよりも、危ない。もちろん、パニックでカラダは硬化した。
高架下を頭に浮かべて、降下して、硬化した。そんな自転車旅だった。旅かは、よく分からない。でも、楽しかったからそれでいい。この場合は、返金だよな。返金だよな、と思っていた。仕方がないことだ。ヘンキンに、濁音半濁音を付けるとペンギンだよな。そう思ってしまった。仕方がないことだ。男子高校生よりも、僕の方が馬鹿かもしれない。記憶力はないと思っていた。でも、かなりあるもしれない。男子高校生のさっきの独り言を、かなり覚えられていることに気がついた。でも、どうすればいいのかは、よく分からない。