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#05 馬鹿な高校生④

 男子高校生が、リビングでバタバタしていた。今は、朝の早い時間帯。だから、寝坊ではないみたいだ。バタバタを、絵に書いてください。そうなったとき、この今の状況を描写すれば、90点は取れる。それくらいの、慌ただしさが、ここには存在していた。詰まっていた。バタバタというより、ドタバタと言った方が、辞書編纂の人も、納得するだろう。


 男子は何も喋っていない。たぶん一言も喋っていない。あーどうしよう、とか。焦るなよ、さえも喋らない。何にも言っていない。あの有名な腹話術師の人よりも、口は、忙しく激しく動いている。なのに、声が聞こえない。家族の誰かがおふざけで、テレビリモコンを男子高校生に向けて、『消音』ボタンを押したのか。それで、そのおふざけが、現実になってしまったのか。そう考えてしまったが。そんなことはない。


 僕を、必要としていないのが分かる。誰も、僕を必要としてない。そんな家族だ。妹さんが、無言でこっち見てる。仕事しろよ、という目なのか。役立たずのバカ野郎だね、という感情なのか。よく分からない。でも、圧力がすごい。仮装して色々演じるテレビの特番で、25番『空気』という演目で出たとしたなら、満点だろうとは思う。


 いつものことらしく、家族は平然としている。スマホは、全然使われていない。メモ要員として、二台もスタンバイしているのに、一文字も打ち込まれていない。スマホから、アクビをしたときの声が漏れた。そんな気がした。たぶん漏れてないが、そんな気がした。実感がない。初仕事の実感がない。実感はどこだどこだと、探してもどこにもない。会話のない家族が、悪い家族。そんな決まりはないから。いい家族なのだろう。


「ねえねえ」

「はい?」

「あなたから、お兄ちゃんに話し掛けるのは、無しなの?」

 妹が話しかけてきた。誰かの声が久々に聞けて、喜んだ。右鼓膜も左鼓膜も、右心室も左心室も喜んだ。

「話し掛けるのは、無しではないですけど、無駄な気がします」

「そうだよね」

「そうですね」

 妹は声を発している。だから、これはもう決まりだ。妹の言葉を記録するしかない。それしか、道はない。


『お兄ちゃんは、自転車通学で一時間以上かかるから』

『朝は、全然時間が無いのよ』

『ちょっとちょっと、ちょっとちょっと』

『私の発言をメモしてどうするのよ』

『私は、過去は振り返らない女なの』

『だから、嫌じゃなければ消してよね』

 指が覚醒していた。スマホが文字で溢れている。完全に、今までで一番調子がいい。だから、このまま妹の発言をメモしようとした。でも、叶わなそうだ。妹は妹で、とてつもない電車移動をして、学校に行くらしい。


『私は、もう出掛けるから』

『記録するなら、部屋の家具配置のメモでもするんだね』

『あと、お兄ちゃんは、自転車を漕いでいるときに、独り言だだ漏れになるタイプだから、よろしく』

 パニックになると、お喋りになる人がいる。パニックになると、無口になる人がいる。それは、勉強になった。

 自転車通学の男子高校生に、ついていくことも出来る。ついていかないと、メモ人間としての、プライドが許さない。一応聞いてみることにする。そうしないと、口コミサイトで、小数点以下のみ、という記録を叩き出しそうだから。

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