#29 酒好き会社員⑧
依頼者さんが、エピソードトークを始めようとしてる。今は、エピソードトーク大会、みたいなものだから。エピソードトークとは、簡単に言えば、個人的話みたいなものだろう。トークとは言うものの、得だと思うようなトークは、今まで出会っていないかもしれない。最近、得だなと思ったことは、伊勢海老をご近所さんに貰ったことだ。これにタイトルを付けるとしたら、【海老どうぞ得】だ。僕がエピソードトークするときは、【海老どうぞ得】の話をしようか。依頼者さんが、今からトークする。だから、メモする。しっかりとメモをすることにする。
【俺は、散歩していたんだ。リサイクルショップをハシゴしながら。そしたら、美女が自転車で横にきた。ものすごい美女だった。でも、次の信号で、別の方向になった。だから、別々になってしまった。もう会えないだろうと、思っていた。リサイクルショップに着いて、店に入った。そこになんと、あの美女が入ってきた。また会えて、嬉しかった。俺は歩くのはやいし、近道を知ってたから自転車より、はやかったんだ。ハシゴを続けたら、次の店舗もあの美女と会った。それが、三店舗続いた。何回も何回も会っちゃって。ね】
エピソードが、独特すぎる。気になることが多すぎる。あまり説明は、ない方だけど、ギュッとなってる。詰め放題のニンジンのごとく、情報がパンパンだ。スーパーマーケットでは、ジャガイモしか、詰め放題したことがない。でも、ニンジン入れた時のパンパン感がある。盛り上がっていて、いい感じだ。今かなり盛り上がっている。スーパーマーケットで言うと、あれだ。惣菜の、パック入り唐揚げだ。それくらい、盛り上がっている。
気になっている。依頼者さんの、エピソードのなかに、引っ掛かる部分がある。それは、歩くはやさだ。はや歩きすぎる。美女の自転車より、はやく店に着いている。近道っていっても、そんなはやく着くか。そう思ってしまった。まあ、歩きでしか通れない場所とかあるし。自転車は、遅く漕ぐこともできる。だから、ありえるか。
今、気づいてしまった。三回違う店舗で会ったということは、こうなる。美女も、リサイクルショップ三軒はしごしたことになる。自転車で、リサイクルショップをはしごする美女は、会ったことない。それもそっか、リサイクルショップに僕は、1店舗しか行ったことないんだ。それは、そうなる。会ったことあるわけない。
依頼者さんのエピソードの、その先が気になる。美女のことが気になる。何を買ったのとか。何か、話はしたのかとか。でも、今は謎の時間が流れている。だから、何も聞けない。ざわんざわん、ふわんふわんの、びよんびよんみたいな。独特の、いい雰囲気が流れている。だから、何もできない。
エピソードトーク大会に、参加したくなった。カート閉じ込め以上に、強烈なエピソードがあるから。もう少ししたら、次の人がエピソードトークするのだろう。それまで、待とう。エピソードを振られたら、喋れるくらいにしておこう。ちなみに、自転車という言葉に、かなり引っ掛かっている。自転という言葉を辞書で引くと、自分の力で回転させることみたいだ。だとすると、自転車と人は、一心同体なのか。そうなのか。




