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#28 酒好き会社員⑦

 スーパーマーケットのカートで、閉じ込められた。女性が操作する、ふたつのカートでガッチリと。僕は大人しくなった。人生初の、カート閉じ込めだったから。今まで、一回もこんなことは、なかったから。ガードマンなら、カッコいい。ガードマンという、名前の響きは、カッコいい。だけど、カタカナのカに点々はない。僕はカートに閉じ込められた、カートマンだ。閉じ込められた側だ。急に、追いやられたのだ。カート閉じ込め事件。それは、残酷だ。抵抗しても、無駄になるだけ。ふたりのカートが、退いてくれるのを、待つしかない。


 時を待った。1分は経っていなかっただろう。でも、一時間拘束の疲労感は、あった。一時間拘束が、どれくらいの疲労感かというと。一時間、ノロノロ渋滞に巻き込まれた、高速道路といったところか。依頼者から離れてしまうという、大失態をしてしまった。でも、不幸中の幸いみたいなことが起きていた。声が大きい。親戚のおじさんくらいある。そんな依頼者だったから。


 ようやく解放された。メモしながら、探した。まだ、メモ漏れはない。メモ漏れはないから、よしとする。でも、もうメモ漏れという言葉は、使わないと思う。だって、言いにくいから。依頼者の顔を探した。口が開いていた。口を大きく開けながら、笑っていた。ワインを滝飲みしたときだって、あんなに口は開けてなかったというのに。僕の閉じ込められを見たのか。見てから、口が閉じなくなったのか。分からない。口の開き具合で、テンションや機嫌が読み取れる人ならば。今は、最高のテンションなのだろう。


 依頼者さんがもう、シラフ顔をしていた。シラフ目で、シラフ色の顔をしていた。復活が早い。ガッツリ見られていたのなら、恥ずかしい。その後普通に、女性二人は買い物にいそしんでいた。いそしむの意味は分からないが、そんな感じだろう。僕がいなければ、なんの変鉄もない、カート位置だったんだ。普通にカートを置いて、普通にカートで去った。普通なんだ普通なんだ。普通に迷い込んだ、僕はなんだ。僕は幽霊なのか。幽霊なのか。人生最大アルコール摂取量には、なっているけど。


 レジを済ませた。色々買ってしまった。エコバッグが、いっぱいになった。肘の内側に、紐を食い込ませて、しっかり運んだ。エコという文字を、頭の中に並べていた。そこに、ちっちゃくした、点くらいの自分を放してみた。【エ・コ】という光景を浮かべていた。さっきの場面が、浮かんできた。エとコがくっついたら、閉じ込め

られる。こういう場面では、すぐ逃げる。こういう場面では、すぐ逃げる。そう、言い聞かせなくてはだ。逃げるイメージトレーニングをした。もう、閉じ込められない。


 すぐそこらしい。家はすぐらしい。歩いてすべて、済ませられる感じらしい。二次会になった。新しそうな家ではある。でも、それなりの狭さだった。狭い部屋に、まあまあの人数。嫌いじゃない。狭い隙間を進んで行く、アスレチックアトラクションとか、好きだから。【二次会】という三字。いい漢字だ。その狭い隙間を、進みたくなる。真ん中が、通り抜けられそうだ。

「エピソードトーク大会しよう」

「いいね」

「おう」

「へい」

「分かりました」

「あなたは、メモに集中してください」


 胸を撫で下ろした。エピソードトークは、微弱電流一時間に相当する。苦手すぎる。メモを続けた。エピソードトーク、というカタカナ。伸ばし棒がふたつある。テレビのアスレチック競技の大会みたいなやつで、上を進んで行くと、横に回転してしまう板。そんなのがあった気がする。エピソードトークという文字上を進んだ場合、伸ばし棒で池に落ちる気がして。ゾワッとなった。

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