#27 酒好き会社員⑥
依頼者さんは、酔いつぶれた。宵くらいに、酔いつぶれた。本当に、つぶれたわけではない。まあ、テーブルに顔が押し当てられて、つぶれてはいるけど。二次会は、酔いつぶれたから依頼者さんがいない。だから、メモをしない完全プライベート時間がやってくるのだ。イライシャと、カタカナで書くと、海外のアスリートっぽくなる。イライシャ・ヨイツブレータと書いたら、かなりそう見えてくる。
メモをまとめて、荷物をまとめて、居酒屋をあとにした。井坂という昔の友人を、イサカさんと呼んだとき、『イザカや!』とつっこんできた。それを居酒屋で思い出していた。イライシャ・ヨイツブレータさんは、イライシャ・ヨイツブレータらしく。イライシャ・ヨイツブレータのまま、イライシャ・ヨイツブレータをしていた。イライシャ・ヨイツブレータさんと言いたいだけだ。
二次会の家飲みのツマミのため、スーパーに向かっていた。楽だなと思った。タノだなと思った。楽しいという漢字の感じや雰囲気は、ホントに楽しそうに見える。色んな方向に、線が伸びているから。書くときも、線が跳び跳ねるというか、活きがよく感じる。スーパーに向かったのだが、スープパーティーの略ではない。スーパー銭湯でもない。まあ、スーパーに行くよとしか言われてないから。スーパー銭湯の可能性も、数パーセント残っているだろうけど。
こんなに、手ぶらっていいんだな。そんなことを思った。スマホが手元にない。手に持ってない。それは楽と思った。スゴい魔法箱という言葉を略すと、スマホになる。スマホの正式名が、スマートホンではなく、スゴイマホウ箱なら、世の中変わっていただろうか。スーパーマーケットと聞いて、思い出した。小学生の頃に、何でもすぐできる【スーパーマンケント】というクラスメートがいた。自己申告だけど、100メートル13秒とか言ってたっけ。
「肉とか肉とか肉とか。肉とか肉とか肉とか、買いたいな」
「じゃあ、買いましょう」
依頼者じゃないおじさんも、厄介だった。そうだった。そんな感じだった。
「おう、なに作るんだ?」
後ろから、大きく聞こえた。背筋はビクッてなったり、ならなかったりした。その声は、あの人の声だった。
「来たか来たか来たか」
みんなが沸いている。特に、言葉繰り返しおじさんが、沸いていた。脱落したと思っていた、依頼者さんだった。
再び、メモは始まった。何も要求してこなかった。でも、念のために、今から家に行くおじさんとの会話も、すばやくメモした。すべて覚えていたから。普通だ普通だ普通だ普通だ。依頼者さんは、普通だ普通だ普通だ普通だ。そう思った。あれは、酔いつぶれていなかったのか。酔いつぶれていたら、こんなに滑らかに喋れない。だとすると、イライシャ・ヨイツブレータという名前も改名が必要だ。
イライシャ・ヨイツブレータという名前は、メモらない。メモってない。イライシャ・ヨワーズに改名しようと思う。ネギが買いたいと、言われてネギ売り場に行った。側面みたいな場所にあった。ひとりで選んでいた。すると、右前と左前からそれぞれ、女性のカートが来た。そして、後ろでくっつき閉じ込められた。僕は、トジコ・メラレータに改名した方がよさそうだ。




