#25 酒好き会社員④
そういえば、来たときには食事という名のご馳走が、もうあった。ズラッと料理が並んでいた。この居酒屋の前では、今初めてここに来たって感じだった。ああ。ズラッと、という言葉で、ヅラが思い付いた。思い付いてしまった。カツラかも、という人がいなかったから、それはおさまりそうだ。いたら、もう大変で大変で仕方がなかっただろう。
予約のコースか何かなのかな、と思った。それを思ってから、少し経った。ようやく、聞いてみようと思った。
「先に料理ありましたよね。予約ですか?」
「電話注文だよ。向かう途中にね」
予約か、予約じゃないかを考えたが、それは予約だ。会話を、右手のスマホでメモしつつ、左手で食べつつ、考えていた。だからかもしれないが、予約の[予]みたいな体勢に僕はなっていた。
来てすぐに食べ始めたいから、酒まで注文済みだった。待ち時間を避けたかったのだ。酒だけに。違うか。僕は、そんなことはしない。でも、得だとは思う。損なことはしない。得なことはしたい。ちょっと、待ってくれ。今、何してるのか、一瞬分からなくなった。ラップバトルに出てる気分になっていた。そうそう、このテーブルに並んだ料理たちに、どれほどはやく、食品用ラップが掛けられるかを、競うやつね。って、そのラップじゃないよっ。
ノリツッコミをしてしまった。地区予選敗退レベルの、ノリツッコミをしてしまった。ひとりラップバトルで、独り言バトルをしているみたいにも、なってしまった。アルコールのせいかもしれない。アルコールを飲まないと、こんなのにはならない。そう思う。なんか、みんなで盛り上がっている。あるコールで盛り上がっている。
「♪食べて食べて食べて 食べて食べて食べて ゆっくり ゆっくり味わって」
いつもと別世界だった。
依頼者さんは、そんなに食べていない。飲んではいるけど、ほぼ僕が鶏肉を食べている。そんな感じだ。本当は今、[肩組み横揺れ]をしたい気分だ。だけど、出来ない。臆病だから。チキンだから。普段は、そうでもないのに。お酒を飲むと、こうなるのかもしれない。いや違うか。チキンの食べ過ぎで、チキンになったのかもしれない。違うか。
僕は、お酒を飲んでいない方が、積極的に行けるのかもしれない。酒を飲んでない状態のこと、なんて言っただろうか。ああ。ジラフの時の僕の方が、最強かもしれない。ジラフじゃなくて、シラフか。ジラフは、キリンの英語名か。確かに昔から、首を長くして待つことはあったけど。小学生のときに、急遽参加した集合写真的なものに、写っていた僕。その僕の首は、いつもの3倍くらいに見えたけども。
箸を伸ばしやすい雰囲気、だからいい。唐揚げを取りにくい雰囲気は、ない。普通に食べてしまった。普通に飲んでしまった。酔ってはない。普通のときでも、酔ってる?って聞かれるくらいだ。でも、何しても酔わないらしい。普段から、酔っぱらい言動はするが。普段から、酔っぱらい言動はするのだが。呼ばれて嬉しかった。楽しかった。小学生のときの、授業終わりの礼をしたあとの、ゆっくりな言い方の[ありがとうございました]。それみたいな、ありがとうございましたを、心で言っていた。




