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#24 酒好き会社員③

 飲み会は、進んでいった。順調に時間が、経過したということだ。決して、ここが屋形船だった、というのではない。そんなオチはない。飲み会が進んでいった、と言った。でもそれは、この飲み会ごと、川を進んでいるわけではない。スーツの依頼者さんは、恋バナばかりだった。マッチングアプリで、いい子がいたとか。知り合いに紹介された、若手女優さんが可愛いとか。


 もう、記憶がないゾーンに、きっと入ってる。きっと、少し前にもう入っているかもしれない。まだ、 30分も経っていない。だが、もうかなりヤバイゾーンに来てる。このメモが完成して渡したとき、どんな反応をするだろうか。好きなコンビニ店員さんの話や、ファンのアイドルの話などでも、盛り上がった。『高校生かっ!』そんな風に、つっこんだりしていた。


 依頼者さんが、スーツを脱いで、下着姿になっていた。依頼者さんは、どうやら露出のお方らしい。でも、サマになっている。腹筋がスゴい。上腕二頭筋も、スゴい。ヒラメ筋も立派だ。これは、メモするべきか。もう、知ってるだろう。本人のカラダなんだから。さっきまで調子よかった。かなり調子がよかった。でもでも、急に変わってしまった。脳に溜め息を指示する、信号のようなものが、 バンバン届いた。


 すべてをメモした。服を脱ぎ始めたとか、横になって小声でブツブツ話し始めたとか。またポーズを、取り始めたとか。でも、喋り言葉は、一字もメモしていない。聞き取れる言葉のようなものが、ひとつもない。さきほど、服を脱ぎ始めた頃からずっと。嫌な予感がした。前回、前々回の悪夢がよみがえってきた。人は喋る生き物だが、ずっとずっと喋っているわけじゃない。そんなことが分かった。


 唐揚げが美味しかった。すごく美味しかった。14回くらいは、美味しいと口にしたと思う。ジューシーだ、ジューシーだ、とかも口に出して言っていた。ジューシーは、16回は言ったと思う。左手で食べながら、右手でメモした。左手での箸さばきは、かなりヤバかった。凄かった。今日の収穫は、唐揚げが、とても美味しかったこととか。唐揚げが、とても美味しかったこととかだ。


 今回は、左手が開花した。今まで、左手で食べたことなかったのに、食べられた。それが、一番の収穫かもしれない。毎回、何かしらの収穫がある。飲み会は、正直、あまり行ったことがなかった。飲み会に最後に行った日よりも、工具のノミを買いに行った日の方が、最近かも知れない。誰も信じてくれないと思う。この世に、ひとりくらいしか、信じてくれる人はいないと思う。僕にとって、ノミ買いの方が、馴染みがあるということは。


 まだまだ、夜は長そうだ。でも、こんな体験が出来て嬉しい。あと何時間くらいあるだろうか。楽しいから、あと何時間もいられそうだ。依頼者さんが、身に付けていたボクサーパンツが、良さそうだ。あとで、どこに売っているか聞こうと思う。依頼者さんが、ほとんど喋っていなかったこと。それを伝えたら、どんな反応をするだろうか。なんか怖い。

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