#20 カリスマブロガー⑨
ゴリラのいる場所に来た。ゴリゴリのゴリラがいた。いたのは、1ゴリラだった。でも、3ゴリラとか、5ゴリラがいるような存在感があった。この動物園は、そんなにゴリラをピーアールしていない。アピールしてない。園内に入り、少し歩くまでは、ゴリラがいることを知らなかった。だって、ライオンを、これでもかっていうくらい宣伝していたから。
ごり押しライオンだ。ごり押しライオンだった。だから、ゴリラがいると分かったとき、ゴーリゴリゴリって、叫びそうになった。まあ、叫んではいないのだけれど。ゴリラのせいで、ゴリラを見逃すところだった。ちなみに、前者のゴリラが、【ゴリ押しライオン】の略のゴリラで。後者のゴリラは、あのゴリラだ。
ゴリラ前に来ても、依頼者の動きは少なかった。【ゴリラすごい】とか。【ゴリラ大きいな】とかしか言わなくなった。完全に、普通の客として楽しんでいた。ライオンはあまりなかった。ライオンは、依頼者からほぼ聞こえなくなった。ヤバい。一回も使ったことのない言葉を、普通に脳で使っていた。【来音】と書いて、ライオンと読む言葉を、普通に使っていた。来る音という意味で、普通に使っていた。
ゴリラは、ものすごい喋っていた。喋っているというより、叫んでいるという方が、近いかもしれない。とりあえずメモした。ゴリラの声を、聞こえたそのままに。聞こえたものは、何でもメモするのがプロだ。今のところはまだ、依頼者さんの言葉のメモの方が多い。でもゴリラの、特に聞き取れはしない声のメモも、かなりのペースで増えてきていた。
このままでは、ゴリラ語の第一人者になってしまうかもしれない。いや、ならない。きっと、ゴリラ語はもう、誰かがとっくに研究しているだろう。すると、依頼者さんに動きがあった。鞄のようなものの中から、何かを取り出した。眼鏡ケースのようなものだった。きちんと観察したい。よく見て、しっかりゴリラを知っていきたい。そんな感じだろう。
出した眼鏡らしきもののレンズは、黒かった。ドブラックだった。サングラスだった。僕は、サングラスをしたことが、人生で一度もない気がする。記憶には、全くない。だから、よく分からない。でも黒っぽいゴリラを、黒っぽいサングラスで見ると、消えないかな。黄色い壁で、黄色パーカーの人が、バナナを食べる。みたいにならないかな。
また、脳が単独行動している。でも、書いている。耳から指への、直通運転だ。言葉がそのまま指に移り、入力している感覚。だから、妄想と仕事を、並走できているんだな。そう思ったけど、1秒間に10文字喋る人が現れたら、無理だろう。ずっと依頼者さんは、サングラスをかけながら、ゴリラを凝視していた。依頼者さんは、たぶん、散々な暮らしをしてきたのだろう。なんか分からないけど、そう感じた。【散々で暮らす】略して【散ぐらす】だったのだろう。




