#02 馬鹿な高校生①
入り口のガラス越しに、黒い人が立っていた。それは、制服を着た男子高校生だった。真面目そうな、高校生だった。こちらを見ていた。目が合ったような気がした。でも高校生は、目が合っていない素振りをする。だから、合っていないのだと思う。全然、店内に入ってこない。沼に足が、ハマってしまった人かよ。そう突っ込んでいた。
開いた。やっと、開いた。テレビで、開かずの金庫が開いたときより、嬉しかった。自動ドアの位置が分からず、入れなかった。そんな説もたぶんある。1パーセントくらいは、ある。自動ドアの【位置】が分からなかっただけに、【1パーセント】てか。
「いらっしゃいませ」
「チラシを見て、楽しそうだったから、来てしまいました」
「あっ、はい。どうぞどうぞ」
すぐに、何かを提示された。チラシだ。チラシを見て、きてくれたらしい。チラシは、原色で賑やかだった。原色ハラスメントかと聞かれれば、原色ハラスメントだ。でも、原色ハラスメントではないといえば、原色ハラスメントではない。作ったことは、覚えていない。でも、チラシを作ったような。チラシを酔っぱらって作って、酔っぱらって配ったのか。
「一週間、お願いします」
「はい。はい?」
長尺だ長尺だ。それが、今、頭にいる言葉だ。牧場のヒツジくらい、いっぱいいる。大脱走をしないタイプのひつじだ。だから、おとなしい。記録作業一週間、それは、できなくない。サプリメントを飲むことは、二週間も続いたんだ。日記は、10日も続いた。だから、いきなりの長期も、大丈夫だ。
「学割はありますか?」
「学割ですか?」
学割までは、行き届いていない。でも、できないことはない。やろうか。学割と聞いて、パッと思い浮かぶものがある。それは、【学校の窓ガラスを割る】だ。それは、忘れよう。初仕事だけど、不安だ。いきなりハードだ。グミだって、いきなりハードはキツい。ソフトを食べてからの、ハードだ。【アソビ】という5文字が、頭でぐるぐるする。アソビは3文字か。アッソビーで、換算してたな。
学割を、適用することにした。適用しないと、大変なことが起こりそう。そんな、予感がしたから。もし断ったら、学校の窓ガラスを割られて、責任を取らされるかもしれない。僕がそれに、耐えられるか。いや、耐えられない。そういうことだ。前払いで、一週間やることになった。
「これで」
「はい。はい?」
札束を出してきた。でも、全部千円だった。千円の束だって、立派な札束だ。学割があっても、一週間の記録は、かなり値が高い。僕の一週間を捧げる訳だから。セレブハイスクールスチューデントでない限り、無理だろう。でも、この高校生は、セレブハイスクールスチューデントっぽくない。どちらかというと、ノーマルハイスクールスチューデントだ。僕は黒木だ。記録のスペシャリストの、黒木だ。僕、ブラックウッドは頑張る。セレブハイスクールスチューデントのために。