#13 カリスマブロガー②
カリスマブロガーの、ぴぴぷぷさんの依頼を受けることにした。ぴぴぷぷという言葉は、かなり言いにくい。【ぴ】も【ぷ】も、破裂音だろう。それが、4連続で続くんだ。疲れないわけがないだろう。唇付近で、小爆発が4回連続した。爆竹が4連続で、爆発した。そんな感じだろう。違うか。とにかく言いにくい。疎遠になった父への、結婚報告くらい言いにくい。
ぱぱぴぴさんとか、ぷぷぺぺさんとかもいるのかも。そう思った。なんかもう、口が疲れてきた。脳内で考えるだけでなく、口も動かしてしまっていたから。口痩せしちゃう。いや、口の筋肉が、ヤバイことになるかもしれない。このままじゃ、5キロの鉄アレイを口にくわえて、挙げられるかもしれない。そうなったら、マウスリフティングの世界に進むしかなくなる。かもしれなくなるな。その時、電話が鳴った。
「もしもし。記録屋黒木です」
「ぴぴぷぷの妹のぺぺぽぽです」
「はい。依頼の詳細は決まりましたか?」
「色々悩みました。でも、決まりました」
「どういった内容が、よろしいですか?」
「テレビの密着の芸能人みたいな感じで、常にいっしょに行動してほしいみたいです」
「かしこまりました。密着取材形式で、よろしいんですね」
「はい。姉は密着取材形式を、望んでいました」
「分かりました」
ぱぱぴぴさんと、ぷぷぺぺさんはいないのに、ぺぺぽぽさんがいたこと。妹さんが、ぺぺぽぽという名前だったこと。それが、ずっと頭にいる。あることが、頭をよぎった。あることが、ずっと頭にとどまっていた。それは、マウスリフティング大会のことだ。絶対に妹さんは、マウスリフティングが強い。【ぴぴぷぷの妹のぺぺぽぽです】というフレーズ。それを言っただけで、どれだけ口筋が鍛えられるか。もう、10キロの鉄アレイなら、軽々あげてしまいそうだ。
契約内容は、だいたい決まった。一週間の密着。そこで、全ての言葉を、文章データ化してほしいようだ。これは、楽しみだ。タイピング技術が、発揮できると思うから。タイピング、タイピング、タイピング。ああ、また悪い癖が出た。タイピングと聞いてから、タイ産のピンクグレープフルーツの画像が、ずっと頭にいる。ずっと、どかそうとしても、どかなかった。
依頼者のブロガー名が、覚えられない。それは、誰もがそうだと思う。だって、妹も似たような名前だから。それに、ぱぱぴぴとか、ぷぷぺぺとか、脳内で言っていたら、正解が分からなくなった。本当のブロガーが、どれなのか忘れてしまった。もういっそ、世界の共通言語が、ぴぴぷぷ語になってしまえと、思ってしまった。すべて、ぱ行だけで会話した方がな、と思ってしまった。そんな僕は、変なのだろうか。
明日から、密着する。カメラを持たないテレビマン。そんな感じかな。すごく嬉しい。だって、初仕事は記録というより、記憶の仕事だったから。ただ、今は少し引っ掛かっている事柄がある。それは、【疎遠になった父への、結婚報告くらい言いにくい】。そう、脳で言ってしまったことだ。それは、実際にはない。結婚はしていない。父と疎遠になってもない。むしろ、仲がいい。もしかしたら、ぴぴぷぷ語だけでも、意思疏通が出来てしまう。それぐらい、父とは相性がいい。そう思っている。




