#01 言葉の記録屋
喋った言葉が、そのままテキスト化できる。自動的に、テキスト化できてしまう。そんな時代だ。タイピング技術。それをひけらかしても、あっあー、あっあーと受け流される。そんな時代だ。昔は、タイピングが出来れば天下取れる。みたいに言われていたような、時代もあった。ようななかったような。でも今は、タイピングではなく、ピンク鯛の方が重宝される。
需要はないかもしれない。けれど、記録屋黒木を立ち上げた。重要なのは、需要ではない。重要なのは、需要ではない。重要なのは、需要ではない。ただ意味もなく、三回繰り返したのかというと、その通りだ。記録屋黒木ということは、名字が黒木か。そんな声を、投げつける人がいるだろう。それは正解だ。正解のようで正解だ。かなりの正解だ。読み方は、クロキではなく、クロギなのだが。
黒木グロッキー状態、という駄洒落のようなものは、置いといて。それは、ひとつの隅にある、小椅子みたいな場所に、いったん置いといて。今は記録屋に集中だ。カメラやボイスレコーダーには、できない世界。それがここにある。人の心は、人しか分からない。そう思っている。【AI】と、ニュース内テロップで見ても、アイさんなのか、人工知能なのか、判断に迷う。今は、そんな世の中だ。
情報の確認のとき、自動より手入力の方が正確だ。なぜ?という質問がきても、10秒フリーズしないと、思い浮かばない。それほどのことだ。書くと覚えられる。書くと覚えられる。それは、学校の授業で、先生が教えてくれたこと。先生は、早口が多い。それは、授業を長い間受けてきた僕の、心の中の人が教えてくれたこと。
喋った言葉を、全て記録できる。タイピング技術が僕にはある。喋った言葉が、そのままテキスト化できる。そんなソフトにも負けない技術が、僕にはある。そりゃ、体調が悪かったり。好きな人がイケメンと、喋っているのを見た後は、少し落ちる。正確性とスピードが、少し落ちる。でも、大丈夫。
昨日は、このお店に誰も来なかった。その前の日も、来なかった。その前も、その前も。その前も、お客さんは来なかった。だって、昨日が開店の当日だったから。それだったら、当たり前の話だ。でも昨日、誰も来なかったのは、当たり前の話ではない。宣伝を一切しなかった。看板も、路地裏の民家風の
、隠れ家和食レストランみたいに、控えめにした。でも、それは関係ないと思う。ふと見ると、入り口のガラス越しに、黒い人が立っていた。
そこにいたのは、制服を着た人だった。真っ黒の、真面目そうな高校生男子だった。真っ黒といっても、光が当てられたら、そりゃ反射する。制服を着ているから、このお店を征服しにきた。そんな安易な考えは、5秒前に捨てた。名字が黒木だから、黒に敏感とかそんなことはない。黒木という名字は、線対称だから好き。そんなことは、少しだけあるかも。