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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
忘れること  ~第二暦970年~
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線香をあげる。

 線香をあげる。


 仄かな紫煙が立ちのぼり、春空へ広がってゆく。


 『佐々木家代々之墓』――そう中原文字で刻まれた石の柱に手を合わせる。その彼自身は大きすぎる肉球が邪魔なため、自らあげることは叶わなかった。遅れて手を合わせた女性のほうが、花や菓子を供えたりと甲斐甲斐しくつとめている。


 しばし無言。秋山小太郎は、両手を下ろして呟く。


「…少尉の歳、ずっと追い越しちゃいました」


 そういえば大佐でしたね、と寂しそうに笑いながら。


 十九歳のとき徴兵で軍に入り、二年勤めあげて除隊。それから三十年経った。アマンダとの間に生まれた原種の息子も二十二歳。コタロウが出会ったときの佐々木兼続より一つ下である。前向きで正義感が強く、毒舌家の母と臆病な父を気後れさせているらしい。


「うちの息子、どういうわけかあなたにそっくりなんですよね……」


 少なからず危ない愚痴をこぼす。事あるごとに男の理想像として伝えてはきたが、ここまで似ると夫婦喧嘩の際にうっかり口を滑らせてしまう。それで死んだ魚のような目をした妻から渾身のお仕置きを何度受けたことか。


 もちろん、そのような事実はない。我ながら最悪だと思うし、息子が立派に育ってくれたのは嬉しくもある。泣きながら全力で赦しを請い、都合がつくときは三田村玲菜元中尉やルーナに――後者はかえって拗らせることも多いが――取りなしてもらい、どうにか結婚生活を続けてこられたのだ。自信がないことは、ここまでくると罪である。


「ん。実は少尉の子。立派に育ったから、安心して」


「ちょ!?」


 今日は、かなり機嫌がよいようだ。これまでの復讐とばかり、近頃のアマンダはコタロウをからかうのに余念がない――そもそも夫が自信を持てないのは、知り合った頃の未来の妻に好き放題弄ばれたせいもあるのだが……


「私達の、大切な子。絶対幸せにしてみせる」


「…その『達』って、僕のことでいいんだよねぇええ……?」


「戸籍上の父はあなた。当たり前」


「そういうことじゃなくってぇ~……とまあ、こんな感じでやってます」


 ちなみに自慢の息子小兵衛は、大学四年生の今年からパン屋の修業をしている。卒業したら他所の飯を食わせるつもりだが、今日のところは店番である。


 ここにカネツグが眠っている実感はない。大陸戦線で殿を務め、そのまま行方不明となったゆえ。撃たれるところを見たという戦友の言葉があっても、家族は希望を持ち続けた。重傷を負って捕虜になったか、まだどこかに隠れているのかもしれない、と。


 コタロウ達も同じ。遺族が――ようやく遺族であることを認めたゆえ、こうして墓参りに来ることができたのである。


 やがて二人は、ほぼ同時に立ちあがった。


「…行きましょ」


「うん。じゃあ……また来ます。今度は息子mいshn※※※※

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