レオナは率先して喋らなかったが、
レオナは率先して喋らなかったが、訊かれたことには淀みなく答えた。要領がよすぎて、事実か練り込まれた嘘か判別できないほど。
その話によれば、遺跡を専門に探索する個人の冒険者だそうだ。食事は山で取れば足りるから、お金は要らない。単に珍しいものを見るための旅だという。
だとすれば、この遺跡はお眼鏡に適うはず。壊れているとはいえ、全身機械でできた人形など見たことがない。もう一つの塔にも、珍しいものがきっとある。
こういうとき、人数が多いと助かる。一人か二人が気を逸らせている間に、他の仲間だけでこっそり相談できるからだ。
レオナは怪しい。また彼女の仙気は信じられないほど強い。
今回の囮はエリザとアレク。固有の道術を聞き出す役割も兼ねている。
「…どう思いますか?」
「珍しいものを見るだけ、というのは変よね。正直……嘘。お金目当てじゃないのが本当なら、大抵は何か別の目的がある」
今回のルーナがそれだ。でなければ悪事を働くための道具を探しているとか。
人を疑うのは、多くの場合サイラスとルーナの仕事。性格のよさが滲み出る姉弟や面倒くさがりのドワーフには向いていない。そしてこれは一緒に仕事をするうち発覚したことだが……見境なくいかがわしい拷問をしようとする獣人にも向いていない。
「ここの研究成果で大それたことができますかね?まだ全部は見てませんが、今のところ医療器具ばかり。軍事転用とかは難しそうですよ」
「機械人形の製法があったら、武器を持たせて兵士代わりにできない?それと表に黄金樹があったでしょ。立派な動力源になる」
「黄金樹はエルフに任せる決まりですからね」
「どこの国も知らない遺跡。無尽蔵のマナ欲しさに、口封じを企むおそれはあるわ」
現生種のエルフは、黄金樹により創造された。ほぼ全ての古代種が術式代行システムに組み込まれた後、帝国時代のことである。動力源としての黄金樹は術式代行システムに劣ること、また黄金樹の精霊術『迷霧の森』に護られて不遇の時代を生き抜いた。
暗黒時代になると、現生種のエルフ達はようやく森の外へ出る。全く知られていない精霊術を武器に、偏見と迫害を受けつつも傭兵として活躍した。そして六王国時代が始まる頃には世界中の同胞と緩やかに結び、七番目の勢力として認められたのである。
六王国の円卓会議にエルフ達が要求したことは三つ。エルフに他の人種と同等の権利を与えること、エルフの里を侵さないこと、黄金樹の管理は全てエルフに任せること。
神聖独裁の再来を危ぶむ声もあったが、結果的に要求は承認された。
現生種のエルフ達は、出自からして古代種とは違うこと。またそれゆえに、黄金樹との結びつきが古代種以上に強いこと。現生種を迫害すれば、黄金樹の周辺が全て危険地帯になりかねない。そして今のエルフには、統一的な指導者がいないこと。
円卓会議が創設されて十年。ようやくエルフも数ある人種のひとつとして、世の中に受け容れられつつあった。
「さっさと終わらせて報告するのが吉ね。『学び舎』が介入してこないうちに」
『学び舎』とは真言法師の育成機関兼互助組織。どこの国とも一定の距離を保ち、古代遺跡や黄金樹の管理について独自の立場を取る。
元は記憶派と呼ばれるセレス教団の一員だったが、神秘主義的な信仰派と訣別。リゼ教との競争に敗れた彼らと違って、今や飛ぶ鳥を落とす勢い。優れた研究者や技術者を数多く輩出し、名前のとおり最高学府の地位を確立するに至った。
「…前々から気になってたんだけど。『学び舎』ってエルフに厳しくない?」
マナを扱う才能は最もあるはずなのにエルフの真言法師がいなかったり、何かと理由をつけては黄金樹の引き渡しを遅らせたり。円卓会議の成果を蔑ろにしている。
「それは……まあ」
サイラスも認めざるを得ない。論理を重んずる『学び舎』が、エルフという種族に対して最も差別的であること。やむなしと言えるだけの根拠はあるのだが、その根拠をサイラスは知らない。導師資格を得た程度では、秘密の全てを明かしてもらえないのである。
「昔から、そうなのよ。あんたみたいな不良導師もいるけどね」
どん、と背中を叩く。華奢に見えてエルフの力は強い。
道士達の元へ駆け寄ってゆく姿を、恨めしそうに見送った。
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「…なるほど。毒が効かない、怪我の治りが早い、餓死しない……ね」
こうして聞くと、レオナの道術は大したことがないように思える。
能動的に発動する奇蹟が一つもないのだ。つまり戦力としては、普通の人間と大差ない。
小さくなる姉弟を、ルーナは半眼で睨めつける。
「で、あんた達は。自分の力を全部喋ったと?」
「はい……すみません」
「ごめんなさい……」
「…それじゃ意味ないでしょがっ。情報は力だって、何度も教えたでしょう!」
小声で叱る。と、首を竦めたアレクが遠慮がちに挙手。
「…レオナさんにも言われた。いい人そうだから私は教えるけど、あなた達はあまり喋らないほうがいいって」
「んがああぁあ!?」
半ば狂乱しつつ、アレクの顔を摑んで四方八方に引き伸ばす。
もちろん、同じことをエリザにはしない。後で思う存分、愛でるつもり。
「どうどう、ルーナちゃんどうどう……」
見かねたメリルが止めに入る。
「落ち着け、落ち着け」
ドラッドも、それに手を貸す。
ここまで来ると筒抜けだ。滑稽というしかない。
気づかないふりをしてくれるレオナの心遣いに胸が痛む。
「それで、これのことなのだけれど」
「…〇¥£×の定義を明確に@*&%……」
機械人形を示す。そういえば彼女は、不毛な苦行に倦んでいた。
今のところ手掛かりはこれだけ。危険に繋がりそうなのも、お金になりそうなのも。
改めて観察する。それはもう、まじまじと。
「こん、にちは」
「……………」
何度見ても、壊れた人形である。
脅威にはならないが、新しい情報も得られそうにない。
「…先へ進みましょう」
機械科棟は六階まであった。
三階は地位ある患者用の個室。四階は書庫と実験室。五階は客間。
六階は科長室兼専用の実験室。ここと書庫では、研究資料を納めていると思しき古代の記憶装置が見つかった。紙に印刷された資料の類は一つもない――生体科側の工作を想定していたとでもいうのか。
大きな記憶装置を持ち出すのは難しく、また解析できるのも『学び舎』の技術者だけ。
この手の遺跡、エルフのルーナとしては面白くない。金にはなるのだが、先に王国へ知らせたとしても調査の主導権は『学び舎』が握る。技術の独占を崩さない限り。
(いっそ全部、壊してやるか)
野蛮な思いつきが浮かぶ。そうすれば里にも危険はない。しばらく貧乏生活になるが、たまの気晴らしもよいのでは……?
不穏なことを考えながら戻る。下まで一気に。それから反対の塔。
「え?」
慌ててエレベータを止めた。
マナとは匂いのようなもの。実際、目に見えるわけではない。
近すぎると発生源が分からなくなることも。
二階で降りる。壊れた機械人形を見つけた場所だ。相も変わらず、雑音交じりの聞き取りづらい定型文を垂れ流している。
「…こん、にちは」
「こんにちは。今日もいい天気ね」
「……………」
「暖かい?寒い?何でもいいから、あなたの感じたことを伝えて」
「あ、あ、t……@*¥£♳♁ꡰ☿○×△◇&%#」
「……やっぱり」
サイラスだけでなく、創術を覚えたばかりのドラッドにも調べてもらう。
「そう、じゃな。確かに感じる……」
「…ええ。ほんの僅かですが、間違いありません」
「何を言っているの?」
道士の三人とメリルには分からない。
壊れた機械人形の頭部から、清浄なマナが湧き出ていた。




