ドーア帝国時代の
ドーア帝国時代の総督府があった街、海南。
様々な技術が帝国の滅亡と共に失われ、しかし未だに世界有数の規模を誇っている。
人口、経済、技術、文化。一度は失われたものを取り戻そうと。
高濃度のマナをコントロールする技術も、そのひとつ。
とても人の住める状態ではなくなった旧市街を塀と結界の中に封じ込め、溢れ出る魔獣を駆除しながら少しずつ取り戻してゆく。
結界の設置と解除をすることができる『真言法師』。
マナを様々な自然の力に変えて行使する『依代』。
神々に祈り、その奇蹟を顕現する『神官』。
前に出て直接戦ったり、罠を調べたりする前衛の戦士達。
それらが力を合わせ、命の危険もある仕事に挑む。
魔獣駆除。要人警護。古代文明の遺産発掘。
当世では、そのような荒事を生業にする人種を冒険者と呼ぶ。
☆★☆★☆★☆★☆
第二暦四百五十年。ハイナンの表通りにある『幸色の銀猫』亭。
有象無象の冒険者が集まる酒場の店先、額を寄せて話し合う若い男女がいる。
「…姉さん。あといくら持ってますか?」
「ふのよの……五です」
「僕は七です。合わせれば保存食が一つ買えますね」
それでは野宿になるのだが、この姉弟にツッコミを入れる者はいない。
ちなみに宿代は銀貨三十枚。馬小屋に泊まっても半分はする。
おまけに、これは一人分で。
「…あー。そこのお二人さんよ」
角刈りのドワーフが声をかけてきた。
相当若い。種族の特徴である髭を伸ばしていないことからも分かる。
全て親指のような太い指が、銀貨を八枚掲げてみせる。
「三人で二つ。そのほうが多く食えるぞ」
「…えーと。仕事を紹介してあげますから、お店の前で貧乏くさい真似やめてくださいます?」
店の引き合わせにより、こうして三人は仲間になった。
道士の少年アレク、同じく少女エリザ。ドワーフのカスパル神官ドラッド。
カスパルとは古い神の名前で、神官は身体強化系の創術を得意とする。それゆえ軒先を借りるセレス教団内では戦士団的な位置づけだ。
道士を崇めるリゼ教徒と神を信仰するセレス教徒は、概して仲が悪い。三人の素性を聞いた店主も、あまり拘らないほうと知って安堵に胸を撫で下ろしたほど。
気を取り直して、仕事の話を再開する。
「真言法師は必須ですよね。依代もいたほうがいいです。この迷惑な……もとい、常連客二人も一緒に連れてってくださいな?」
片隅で呑んだくれるエルフ女と、三十路手前の胡散臭い男を指し示す。
「え~。お金なら払ってるでしょう?私、上客よ?」
「こちらも心外ですね。当方、一人前の真言法師ですよ」
「ここは冒険者の店ですっ。面白半分に絡んだりナンパしたりするなら余所行ってください。他のお客さん達から毎日苦情が来てるんです!」
こんなひと悶着もあったが、店に居座る二人の酔客も仲間になった。
「…まあ仕方ないっか。そろそろ路銀も尽きそうだし」
エルフの依代ルーナ。かなり長く生きているそうだが、ミレニアム時代の総督というわけではないらしい。ドーア帝国のことは……少しだけ知っているとか、いないとか。
エルフには二種類ある。千年以上前に自ら奇蹟を起こして人工進化した古代種と、彼らが捕縛されたことを嘆いて『黄金樹』が創りだした似姿の現生種。
この黄金樹も説明が必要だろう。何らかの理由により大量のマナを欲した神々が、ミレニアム時代に世界各地で植樹した意思を持つ木。異界のマナを浄化して取り込む力があり、その周りでは作物の育ちや術式の働きがよくなるという。
ルーナは後者のエルフだ。村の退屈な暮らしに飽き、飛び出して現在に至る。
人間の真言法師サイラス。三十路を目前に控えているが、未だ導師の資格を取れずにいるうだつの上がらない男。愚鈍というより対人関係に問題があるのではないか。浮いた話のひとつも聞こえてこないとは、長年彼を指導してきた師匠の言。
「食べるもの、ないんでしょ?だったらあたしが奢ったげるよ。これから狩りに行くところだしねっ!」
元気よく挙手したのは、猫の獣人メリル。
十二歳くらいにしか見えないが、それは種族的な特徴であり三十云歳だ。ミレニアム時代末期、後の皇帝ドーアが神代の遺跡で発見したという比較的新しい種族。
鋭い牙や爪、素早い動きを武器とする天性の狩人。身体的な能力は古代種のエルフに迫るものの、術式を使える者は珍しく能天気。トラブルの種となることも多い。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「さ、行きましょうか。今日のうちに足取りを摑みたいし」
「…なんでっ!?」
この六人で組むことになった。
結界から逃げ出すと、魔獣はマナが薄れて弱くなる。
さりとて数が増えるのも厄介だ。交易の邪魔になってしまう。
相場は魔狼五匹、十日でひとり銀貨四百枚。
駆け出しの冒険者達は、まさしく他人の不幸を飯の種にしていたのである。
ご存じの方は楽しんでいただけると何より。
この子らにも、こういう平和な頃があったんです。




