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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
135/210

俺はイスモ。最近気になることが。

 俺はイスモ。最近気になることが。


 俺の彼女――ハニーことマルヨちゃんは宇宙一可愛いんだけど、その様子が少しだけ変なんだ。俺のことはそっちのけで、鉢植えなんかに興味を持ったり。


 元担任の勧めと親の言いつけで仕方なく来たけど、そういうのに関心はない。ハニーと一緒にいるのに仕事なんかしなくてもいいんだから。同じ考えだろうと思ってたのに……ところがハニーは違った。


 多分あいつのせい。ハニーがすごくカワイイって言った、研究所の本当の責任者とかいう中等科生。ハニーは可愛いものに目がないから、あいつを見て楽しむために毎日通ってたんだと思う。それが最近は、仕事そのものにまで興味を持ってきて。


 そんな頑張らなくてもハニーはいつも輝いてるのに。上手くいったときの嬉しそうな顔は、また格別だけど。その笑顔を一番に向けてくれるのが俺なのは、正直複雑な気持ち。


 不安になる。このままでいいのかと。


 もしかしたら、いつかあいつにハニーを盗られるんじゃないか。こんな雑用さっさと辞めて、早く二人だけの時間を取り戻すべきなんじゃないかと。


 十八歳になって義務教育も終えたから、俺達は大人だ。いっそのこと二人の愛を、目に見える形にしてしまうべきじゃないかと思う。少しでも早く。


 そうしたら、ハニーも分かってくれるはずだ。きっといろいろ忙しくなって、余計なことを考えてる暇なんてなくなる。


 親とかも関係ない。どうせ独立するんだし。この島には家が余り過ぎってくらい余ってる。ミサイル後の騒ぎで人が大勢死んだから……その後始末もすっかり終わって、別に不吉な感じはしない。みんな母なる大地に帰って、今頃安らかに眠ってる頃だから。


 そうだ。明日この気持ちを、改めてハニーに伝えよう。


 善は急げ、って言うらしいし。きっとハニーも喜んでくれるよな。


 それにしてもあいつ、気に入らない。俺のハニーに色目を使いやがって……



 ☆★☆★☆★☆★☆



「イスモ君はお休み?」


 ひとりで出勤してきたマルヨを見止めて、レフィアが訊ねる。


「えっと。そのぉ……はい」


 答えるマルヨの反応もぎこちない。何かあったのだろう。


 恐らく私的な事情だと察せられないほどレフィアも木石ではない。かといって仕事でもあるゆえ、何も訊かないわけにはゆかず。


 イスモとアメリア以外の全員が来ている。一瞥、マルヨを別室へ誘う。


「…奥に」


「はい……」


 ここでは話しにくいこともあるでしょう、とは言わなかった。言わなくとも、それは全員に伝わる。


「バカップルも、いよいよ破局か?」


「止しましょうよ、意地の悪い……」


「……………」


 注目が逸れて幸いと、エイラは鉢植え棚の森へ入ってゆく。元々頭のよい子ゆえ、最近はひとりで黙々と日課の仕事をこなしていた。ダイチが時々ライブラリで監視していることを差し引いても、レフィアは信頼して任せるようになっていた。


 ダイチの研究室に通じる廊下。元どおり鍵をかけると、レフィアは先に入らせたマルヨを振り返る。この向こうにある部屋は二つ、ダイチの居室と植物の発芽や培養を行う無菌室だ。そのどちらも入れるわけにはゆかないため、必然ここでの立ち話となる。


「ごめんなさいね。こんなところで……休憩室も整備すべきかしら」


「あ……はい……」


 マルヨがこの空間に足を踏み入れるのは初めてだ。というより、先程のドアのこちら側にダイチとレフィア以外が入ったことはない。秘密めいてはいるものの、あまり興味がなかったので気にしなかったのだが……実際来てみると緊張を隠せない。


「そう硬くならないで。何も叱ろうってわけじゃないの」


「それは、分かってます。でも多分……わたしのせいじゃないかなって」


 見るからに元気なく萎れるマルヨ。木石ではないにせよ、そのあたりの経験はレフィアなど無きに等しい――すなわち突撃あるのみ。


「イスモ君と喧嘩したの?」


「あうっ」


 マルヨのせいしんに12ポイントのダメージ。


「…そのう……そういうわけじゃ、ないと思うんですけど」


「まさかとは思うけど、冗談でも別れ話をしたとか」


「ああうっ」


 マルヨのせいしんに30ポイントのダメージ。


「……ち、違いますよう。ただこのまま放っておくと、そんなことになっちゃうかも……って不安になって」


「マルヨさんも参ってるのね……どこかへ遊びに行く申し出を断りでもした?それで彼の心が折れそうになっているとか」


「ああああうっ」


 かいしんのいちげき!マルヨのせいしんに151ポイントのダメージ。


 マルヨはしんでしまった!


「……ちーん」


「マルヨさん?」


 へんじがない。ただのしかばねのようだ……


「マルヨさん、しっかりして」


 軽く揺さぶってみると、どうにか蘇生した。真相はデートの誘いを断ったなどという軽微なものではないのだが。話さなければならないだろうか?ちらとレフィアの顔を窺う、やはり話さないとこの場を切り抜けられそうにない……


「……を断ったんです。まだわたし達には早い、って」


「え、なに?」


「……んを」


「よく聞こえないわ。もう少しはっきり」


「…こんを……」


「ごめんなさい。言いにくいなら、紙に書いてくれる?」


「……………」


 いよいよ逃れられそうもなかった。ここ数日の付き合いで、マルヨにも分かっている。これでレフィアは結構気が短いと。


「…どうぞ」


 メモ用紙に書かれた単語を見て、レフィアは直立した姿勢のまま固まった。


「…結、婚?」


「はい」


「……けっ、こん」


「はい……」


 マルヨが顔の前に右手をかざして振る。


 レフィアはいしのかたまりになってうごけない。

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