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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
夢  ~新暦180年~
13/210

「ここ三月くらいで、

「ここ三月くらいで、ドーアの身長が急激に伸びたのです。早口なのは賢い子だからと思っていましたが、それにしても速すぎなのと声の調子も変わってきまして。喉の具合でもおかしいのと訊ねましたら、みんなや先生のほうが最近のんびりしてる、って」


「ああ……多分だけど、お腹が空くのも早かったりしない?」


「…ええ、よくお分かりで……みんなと同じものを食べたのに、一時間もすると辛そうにしてる。どこも悪くなければよいのですが」


 術式やマナと馴染みがない者達にはお手上げだろう。この現象はドーアの才能と体質が深く関係している。


 時間加速。周辺よりマナ、変化の可能性を示す指標となる謎のエネルギーが多いことによって、ドーアだけ時間の進みが速くなっているのだ。先程の鬼ごっこでマナの気配を感じたことも、気づいたときには捕まっていた素早さも、それで説明がつく。


 自分の意思でコントロールできるならよいが、恐らくそうではないのだろう。原種の人間にもかかわらずマナを引き込む体質。これは早々に対処すべきだ。とはいえクリメア化が許されるのはミレニアムの法で二十歳以上。マナの扱いを教えることによって。


 年長の少年達に交じって料理を奪いあう男の子へ視線を向ける。


「明日から四十五日間、毎日マナの扱いを教える。院長先生、それでいいかな」


「あの子が望むのでしたら。変わった子だと思っていましたが、エルフの資質があったのですね……」


 毎回鬼ごっこしていたのも、こうして変化の兆候を摑むため。上から一方的に事実を伝えるよりも、日々の暮らしの中で自然に知ってゆくほうが周囲の抵抗は少ない。イシュカの両親とハバロフスク総督レオーノフは例外である。


「真面目にやらせないと死ぬかもよ。取り込むマナがいつも綺麗とは限らない」


 翌朝から修業が始まった。表向きは内分泌異常の治療になる呼吸法を教えるとして。


 さすがにファドワの知るところとなった。彼女もマナの扱いは心得ている。すなわち適当な言い訳は通用しない。


「クリメア候補ですか?これほど早く……」


「バランスが悪い。扱うほうの資質に欠けるんだろうね」


 半分嘘だ。資質に欠けるのではなく、相対的に低い。それもただ単に教わらなかっただけのこと。


「調べてくれないと困る。医療と福祉は大事だって言ったろ」


「…申し訳ございません。私達の目が行き届かず」


 他のクリメアは、希望者があったとき適性を調べて許可する。しかしエルフだけは、社会に与える影響が大きいのと本人の健康のために見つけ次第報告することとされている。


「すぐ父に伝えて対処します。今後このようなことのないよう、適切に」


「いや、いいよ。これは僕のほうでやる。私的な交友関係もあるしね」


 普通に会話していた相手をしっしっ、と追い払う。


「一般市民のクレーム終わり。ここからは仕事」


 予定の四十五日目を待たず、ドーアはマナの扱いを習得した。時間のずれを解消し、成長速度も喋る速さも普通に戻っている。


 十歳を迎えてからは、助手見習いとの理屈をつけて街の外へ連れ出した。ほんの数日程度だが、余程刺激になったらしい。将来エルフになると自分の口から言わせることができた。それで巡察視になり一生旅暮らしをする、とまで言われたのは誤算だったが。


 子供の頃の夢は、ほとんど叶わない。それが現実というものだ。しかしドーアの場合、生まれつきかなり近いところにいる。


 その現実的な夢を、変える出会いが待っていた。

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