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俺はここにいる 

作者: スズヤギ

 もしこの世に神様が存在するのなら、ひとつだけ願いをかなえて欲しい。


 『君に逢いたい―――』


 * * *



 いよいよ明日、俺達は結婚する。

 高校の時から付き合いだしてもう10年。いや違うな、まだ10年だ。


「とうとう私も明日から桜庭メイになるのかー」

「俺は桜庭真斗(さくらばまさと)のままだけどな」

「真斗ったら、当たり前でしょー」

「「あはははは」」


 まるでパズルのピースがはまるように、俺たちは惹かれあい結ばれた。

 人生で一度きりの運命があるとすれば、この出会いこそがまさにそうだ。


「今晩はお互い最後の夜を実家で過ごすから寂しいね」

「なーに、明日から一生側にいられると思えば1日ぐらいどうってことないさ」

「強がり言っちゃって。本当はどうなの?」

「1日でも会えないかと思うだけで寂しいよ」

「素直でよろしい」


 幸せという名の温もりを感じながら、独身生活最後のキスをした。


 そして――


 これが俺たち二人にとって、人生最後のキスになるとは知る由もなかった。


 * * *


「嫌!起きて!起きてよ真斗!」


 ドクン ドクン ドクン


 あれ?


 メイの声は聞こえてくるのに、姿が見えないな。辺りは真っ暗だしちょっと飲みすぎちゃったか。

 

「なんで、なんで私をおいていくの?なんで――」


 ドクン ドクン ドクン


 メイはなぜ泣いてるんだ?これから俺たちはずっと一緒じゃないか。俺がメイを独りにするわけがないだろ。


 ドクン ドクン ドクン


 さっきからうるさいな。少し静かにしてくれよ。

 そろそろ結婚式場に行かないと遅れてしま――


 なんだか、すごく、眠くなって、きた――


 ドクン ドク


 * * *


「おい、聞いてるのか?」

「?」

「本当に体はもう大丈夫なのかと聞いてるんだ」

「……」


 目の前に、スーツを身に纏ったオジサンが座っている。

 なんだか高そうなスーツだな。


「あ、父さん?」

「本当に大丈夫なのか?まだ事故の後遺症が残ってるようだな」


 いや、違う。頭では父さんと認識してるけど、この人は()()父さんじゃない。

 事故?いま事故って言ったのか?


「あああ!俺は車で事故に遭ったんだ!」

「そうだ。()()()事故を起こしたんだ」


 なに言ってるんだこのおっさんは。

 たしかに俺は、昨日の夜、車で事故に遭った。明日の結婚式前に、どうしてもメイに渡したいものがあったので東京までプレゼントを買いに行った際の出来事だ。信号待ちをしていると、正面から対向車線を割り込んで車が全速力で突っ込んできた。

 

 グシャ!


 正面衝突してからの記憶はない。そういえば遠くでメイの声が聞こえた気がする。


「そ、そうだ!こんなことをしてる場合じゃない。結婚式に行かないと!」

 

 主役の俺が行かなきゃ始まらない。

 試着では見てるけど、メイのウエディングドレス、綺麗だろうな。


「なにバカなことを言ってるんだお前は。夜遊びばかり繰り返しているお前なんかと結婚するモノ好きがいるわけないだろ」

「バカなことを言ってるのはあんただろ!いま何時だ?そもそも、ここはいったいどこなんだよ!」


 きめ細やかな細工が施された壁。豪華なシャンデリア。

 結婚式場かとも思ったが、こんな部屋は見たことがない。


「まだ自分の家すらわからんか。今日は10月7日、時間は10時を回ったところだ」

「は?」


 昨日が7月6日だから今日は7月7日だろ。

 これから毎年結婚記念日を迎える大事な日になるんだ。冗談はやめてくれ。


「もう少しマシな噓をついてもらえ―――」

「記憶が曖昧なのも無理はない。あれだけ大変な手術を受けたあとだからな」

「手術って?なんだよそれ。俺はピンピンしてる」

「手術をしてから3か月も経つから当然だろ」


 なに!?

 俺は手術するくらい重症だったのか?


 じゃあ結婚式は?メイは?どうなった!?


「今の医療技術なら手術をしても3か月も必要ないはずだろ!」

「そう興奮するな。まだ、あまり心臓へ負担をかけるのは良くない。ようやく適応してきたんだからな」

「心臓が適応って。まさか俺は心臓の手術を――」

「おまえはもともと心臓が弱くてな。事故でどうなるかと思ったが、急に心臓移植のドナーが見つかってな。そのまま移植手術を受けたんだ。あれは12時間にも及ぶ大手術だった。その後、ずっと眠り続けてようやく昨日目を開けたばかりだ」


 ちょっと待て!?


 俺の心臓が弱かった?そんな事実はない。

 親からそんな話を聞かされたこともない。

 嫌な予感がする。


「相手の運転手は残念だった」


 や、やめろ。


「手の施しようがなかったそうだ」


 やめてくれ。


「次の日に結婚式をするはずだったそうだ。もちろんおまえのじゃない。おまえが死なせてしまった相手のな」

「!?」


 う、嘘だ。


 それなら俺はなぜここにいる?


「死なせてしまった相手の名前は?」

「おまえはずっと眠っていたから警察の聴取はこれからだが、たしか、桜庭真斗さんだ」

「そう、ですか。じゃあ僕の名前は?」

西園寺京也(さいおんじきょうや)。わたしの息子だ」


 もしこの世に神様がいるのなら、なんて残酷なんだ。


 俺は『自分を殺した相手の中にいる』


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