失恋生活四十七日目
前回から引き続きしゅこー……。
「平民シュート!!」
「モテル、甘ーーーーーい!! ハエを叩き落とすブローック!!」
キュキュッ、ダムダム。
ええー、現在の状況を説明しましょう。
つい先ほどモテルパパが私に求婚したことが彼の息子のモテルくんに露見して、当のモテルくんが激怒。確かに私が同じ立場だったとしてもそれは嫌。
クラスメイトが自分の父親と付き合う事になったら学校に行きづらいし。
それは分かる、すごく良く分かる。
それで激怒したモテルくんはモテルパパに決闘を申し込んだのだけど、問題は二人が選んだ決闘の方法にあるのよね。
一軒家にボールの音が響き渡る。
「忘れてたわ、モテルくんってバスケ部だったじゃん」
そうなのだ、モテルくんが選んだ決闘方法はバスケットボールだったんです。
だけど、それでも何故にバスケットボールを?
「にゃー」
「そうね、ミケの言う通り。あれはバスケットボールじゃないわ。ポートボールよ」
いつの間にか合コン参加者を巻き込んで白熱したバスケットボールの試合が催されていた。モテルくんは言うまでもなく上手い。
元々バスケットボール部だし、宇宙市でも屈指のガードプレイヤーだったらしい。私はバスケットボールの事情に詳しくないけど、入学式の時にそんな話を聞いた気がする。
だけど腹が立つのはモテルパパの方、モテルパパは葉っぱ一枚のくせに妙にバスケットが上手いのよね。
変態がスポーツ得意って無性に腹が立つんですけど。
「親父と言えば黙ってアゴをタプタプさせて選手を癒しとけば良いんだよ!!」
「ふっ、白髪のデビルと言われたこの俺を簡単に倒せると思うなよ!! 俺は学生の時に宇宙市の隣街、ギャラク市で有名な選手だったんだ!!」
腹立つわー。
モテルパパの葉っぱがドリブルの振動にギリギリ耐えるのよね。落ちたら落ちたで腹立つけど、ギリギリで耐えているのも腹が立つ。
モテルパパの葉っぱはファイト一発ななんとかDとかか!!
「あ、モテルくんがダンクしようとしてる!! キャーーーーーー!! モテルくん、頑張ってーーーーーーー!!」
「にゃにゃーーーーー!!」
「あ、モテルくんがモテルパパの頭の上にダンク決めちゃった」
「にゃにゃー」
ミケは「ファウル四つ目だにゃ」と言ってます。
そもそもこの試合、モテルくんの方が圧倒的に不利な気がする。だってモテルくんのゴールを務める合コン参加者ってヌタウナギじゃん。
ヌルヌルにはボールを掴む手が無いのよ。掴んでもヌルヌルでボールが落っこちる。モテルパパは策士ね、実に息子にここまでやるだなんて、とんだ外道よ。
因みにモテルパパの方のゴールはマンモス。シュートを外しても器用に鼻で拾ってしまう。
モテルパパの勝利への執念だけは本物みたい。
「ハーッハッハッハッハッハ!! モテル、お前に勝ったら父さんはハルちゃんと結婚するぞ!!」
「クソー、シュートは決まらないってストレスだな」
「ふっふっふ、息子よ、お前は後ファウル一つでレッドカード退場だ」
レッドカードは種目がちゃうやんけ。
ガガガガ!!
え? またセーラー服の襟が動いた。
もしかしてモテルパパって試合中にハッキングしてきたの!? 私が印刷された紙を拾い上げるととんでもないことが書かれていた。
『邪魔な息子を排除して葉っぱの裏側に隠れてる真の息子をハルちゃんにお見せしよう』
ブチッ。
私はストレスが溜まりすぎて反射的に行動を取っていた。
「帰ってきたアホ毛カッター!!」
私がモテルパパに向かってアホ毛カッターを投げるとゴッキーが弾き返してしまった。ギャーーーーーー!! 私の大事なアホ毛がゴッキーに触られた!?
カサカサカサカサ!!
「にゃにゃー」
「え? あのゴッキーは審判なの!?」
「にゃーにゃにゃー」
ミケが言うには審判が「ファールボールにはご注意ください」と言っているのだとか。だからそれも種目が違う!! ゴッキーのくせに球場の鴬嬢を気取ってんじゃないわよ!!
ニュルニュルニュルニュル!!
そしてミミズはチアガールをしている。ティラノサウルスに至ってはNBAチームのヘッドコーチの如くスーツを着込んでコートの外で跪く。
何もかもがメチャクチャな状況なのです。
もうヌルヌルとかニュルニュルでバスケットコートが粘液塗れ。モテルくんもよくこのコンディションで試合が出来るわね。
やっぱりモテルくんはカッコいい!! 私はモテルくんのカッコよさを改めて実感して目がハート型になっていた。
エル・オー・ブイ・イー、ラブラブモテルくーーーーーーん!!
そして遂に試合の流れは変わり出してモテルくんがモテルパパに対して優位を取り始め出した。
何とVRMMOの世界で習得してきた次元を切り裂く剣を駆使してドンドンシュートを決め出したのだ。
「お、おい!? モテル、それは卑怯じゃないのか!?」
「いや、親父は卑怯以前に犯罪だから。存在そのものが猥褻物陳列罪で重罪だから」
「じゃあモテルは犯罪の息子だな、俺の本当の息子は葉っぱの裏側にいるけどね!!」
モテルパパの発言は聞いていて相当に低レベルね。
そしてミケに至っては飽きてしまった様で「にゃ」と呟いたかと思えば、当然走り出してコートの中に乱入していった。え? ミケの姿が消えた?
私はまたしても忘れていたのだ。
ミケはその昔、ミスディレクションの技術をバスケットボールに取り入れて中学バスケットボールを席巻した過去を持った猫だったのだ。
ミケにバスケットボール界でのあだ名は『マボロシ〜なシックスマン』。ミケは雄叫びを上げながら肉球でボールを叩いてモテルくんにアリウープバスを放っていた。
「にゃーーーーーーー!!」
ミケは「僕はシャドウだ」と言ってます。
キャーーーーーー!! モテルくんがミケのパスを受けてまたダンクを決めたわ!!
そんな悦に浸るミケの後ろでダンクから着地を決めたモテルくんが突如よろけてコートにしゃがみ込み。私はモテルくんが怪我でもしてしまったのかと心配になって走っていった。
「鯖井さん、テーピングだ……」
「骨に異常があるかもしれないのよ!!」
「いいからテーピングだーーーーーー!!」
このノリ、案外楽しいわね。
しかも相手がモテルくんならなおさら楽しいーーーーーー!! 私はウキウキしすぎて毛筆で紙に「がけっぷち」としたためたくなっていた。
「にゃにゃーー!!」
「うわーーーーー!!」
あ、知らない間にミケがダンクを決めてるじゃない。ミケは「ゴール下もキングコング・弟」と叫んでます。そして情けない声をあげてミケにパワー負けしたモテルパパにニヤリとほくそ笑んでいた。
「キングコング・弟だなんて……かわいい奴ね、モテルくん」
「ふんっ、まだまだだ」
「くっそーーーーー!! モテルならいざ知らずこんなどこの骨ともわからない奴に……。だったらコレだ、フライングでドライブなシュート!!」
モテルパパが勝手に種目を変えちゃった。
モテルパパは脚を振り抜いてバスケットボールを蹴ると、ボールはもの凄い角度で弧を描いてミケに向かっていった。
「にゃにゃーーーー!!」
するとミケはどこから出したのか、バットを握りしめて世界で最もヒットを積み重ねた日本人メジャーリーガーのバッティングフォームを模してボールを弾き返す。
ミケも勝手に種目を変えてんじゃないわよ。
「鯖井さん……、バスケがしたいです」
今度はモテルくんがこの流れに乗っちゃった!? え、もしかして除け者は私だけ? モテルくんの涙ながらの呟きで種目が一周して帰ってきた。
ピリリリリ!!
そしてそんなカオスなタイミングで私のスマホの着信音が鳴り始めるのだった。
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