失恋生活三十三日目
「はあ、食べた食べたー」
「にゃにゃー……」
私とミケは拠点に戻るなり釣り上げた巨大魚を丸焼きにした。そして子供の頃からの念願を叶えて満足してました。
一人と一匹が満腹でお腹を膨らませて大の字になって寝そべる。
こうなったらやることは一つでしょ?
「げええええええ……っぷ」
「にゃにーーーー……っぷ」
巨大なゲップを吐き出しました。
「ミケー、きちゃない」
「にゃー、にゃにゃ」
ミケも「ゲップはNGにゃ」と言ってます。
そう言えば拠点に辿り着くまで何か大事なことで悩んでいた気がするのよね。この巨大魚を食べづらい、と思えるほどに気持ち悪いことがあった気がするのよ。
何だっけ?
私って都合の悪いことはすぐに忘れちゃうから、技術とか技巧だったら絶対に忘れないのだけど。確か拠点に着いてから直ぐにグーッてお腹が鳴った。
そこから記憶がない。
……まあいいか。
私はガバッと起き上がっていまだ膨張したお腹をポンポンと叩くミケに話しかけた。
「ミケ、次はママのお使いよ」
「にゃー?」
「そうそう、暗殺のお・つ・か・い」
戦闘機は紫電カ・イ。
私は馬理衣が送ってくれたデータを確認すべくアホ毛をレバーの様に前方に引いた。私のアホ毛は弟が改造を施した一品。
レバーがスイッチとなって私のセーラー服から映像が流れ出して壁に映像が映し出した。
ふふふ、私のアホ毛はこんなことも出来るのよ。映画館の劇場用CMに登場する映画盗撮防止を注意喚起するカメラ男だってコレは出来まい。
すると一人の男が映し出された。
「イケメンじゃん……」
私はジーッと暗殺対象の顔を凝視して記憶に刻み込む。
「にゃー」
ミケはまだ魚大魚を消化出来ないようで、大の字のまま映像を見ていた。そして気になることを口にしたのだ。
「え? 見たことあるって?」
「にゃにゃー」
「顔は見たことないけど体の方は見覚えがあるって……、何のこっちゃ?」
ミケは何を言ってるのだろう? 普通は逆じゃない?
人と出会ったらまず見るのは顔でしょう。
私はミケが何を言っているのは理解出来ず、首を傾げてしまった。そしてその姿勢のまま更に映像を凝視していった。
映像の中の男はマッチョだった、それもナルシストなのか鏡の前で上半身裸になってポージングを取っていた。もしかしてボディービルダーだったりして。
そしてこれまたイケメンらしい趣味ね。
男は帽子が好きなのか、店舗の棚に並んだ帽子を選んでいた。おそらくショッピングの最中なのだろう。とても楽しそうに帽子を選んでいる。
え?
男はピタリと足を止めて『とある帽子』、と言うよりも『被り物』の前でとても眩しい笑顔になった。私とミケは男の選んだ被り物に驚いてしまい、目が飛び出るほどに驚いてしまったのだ。
こ、これは……。
「鯛のお頭の被り物ーーーーーーーーー!?」
「にゃにゃーーーーーーーー!!」
ミケが驚きのあまり今しがた私たちが食べ終えた巨大魚の残骸を指さしていた。
うっそ!? もしかしてさっきの変態業の胴体って暗殺対象だったの!?
いや、まさかねー。ただの偶然でしょう。
私は驚くミケに「そんなバカなー」と言う。ミケも「だ、だよねー」と冷や汗を垂らしながらフーッと息を吐いて額を拭った。
だけどやはり間違いじゃなかったらしい。
何と男は店舗の中で突如全裸となってポージングを取り始めた。そしてそこには私がつい先ほど見たばかりの『モノ』が映っていたのだ。
私は驚きすぎてギャグ漫画の如く本当に目が飛び出していた、そしてシェー!! とポーズを取りながら驚きの声を上げてしまった。
「このチ◯コ、さっきの変態魚のと同じ形してるーーーーーーーーー!!」
「にゃにゃにゃーーーーーーー!!」
「し、しかも!! この男、逆光をモザイクの代用にしてる!?」
ギャーーーーーーーーーーー!!
この男、絶対にさっきの変態魚だ!! 間違いない、だって映像の中でラグビーまでしているのだから。
それに体も妙にテカテカしてるし。
私は口をアングリと開けながらミケと顔を突き合わせていた。そして当分の間、一人と一匹は身動き一つ取れないまま体を硬直させてしまった。
ウッソーーーーーーーーー!?
まさか既に暗殺対象とすれ違って、いやそうじゃない。出会ってしまったとは思わなかった。
これは大事件だ。
もはや島がジュラってるからとか、そんなことがどうでも良くなるほどの大事件だ。
うわー、まさか暗殺対象にまでフラれているとは。
コレは本気で凹むわー。
私とミケは驚きが一周して顎が地面にぶつけるほどに開いてしまった。そして思い出してしまったのだ、男の残していった被り物を丸焼きにして食べてしまったことに。
お、おええええええええ……。
「そう言えば……若干だけど汗臭かった気がする……」
「にゃにゃ……、にゃにゃ……」
私とミケはショックが凄すぎて再び大の字となって地面に倒れてしまった。そして燃え尽きた様に真っ白になって意識を失うのだった。
チクショーーーーーーー!!
私は口から霊体的なモノを吐き出して泣きながら悔しさをぶち撒けていた。
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