失恋生活二十六日目
「えーーーーー……ゴホン!!」
「にゃ?」
「重大発表ーーーーーーー!!」
「にゃにゃ?」
私の唐突な行動にミケが「どうしたの?」と言った視線を向けてきた。
ミケはよく分からないけど取り敢えず盛り上げようとしてくれているらしく、肉球で拍手を贈ってくれた。ふむ、空耳か分からないけどファンファーレが聞こえた気がする。
まあいいか。
では早速カミングアウトしまーす!!
「なんと私の鞄の中から無線機が出てきましたーーーーー!! ティッティリーーーーーー!!」
「にゃー……」
うわあ、ミケにものすごく呆れられちゃった。
そうなんです、実は先ほどミミズとの戦いの最中に鞄の中身を引っ掻き回してたら出てきました。私はしっかりと家出の時に緊急時の連絡方法を準備していたのです。
これがあったらパパやママと連絡取れたじゃん。
しかもこの無線機は自慢の弟作の超高性能無線機で、宇宙からの電波も拾える優れもの。過去に私はこの無線機で宇宙人とも会話したことがある。
私の交友関係はインターナショナルどころかギャラクシーなのよ。
そんな機種名のスマホもあったわね。
私がやらかしを誤魔化そうとギャルピースをしながら舌を出す仕草をするとミケがポンと肉球を肩に置いて「おやつは三百円までね?」と言ってきた。
はい、ミケにとって無人島の漂流は遠足感覚だったようです。
先ほどまで喧嘩をしていた私たちだったが、このカミングアウトで完全に立場が決まってしまったようだ。
まあいつもの如く? 喧嘩の理由はさっぱり覚えていないんだけどねー。なははー、だから今回も喧嘩にはカウントしません。
そしてどう言う訳か今の私にはミケが信楽タヌキに見えて仕方がないのだ。
どうして?
その理由がノーカウントの喧嘩が原因に感じるけど、それもよく覚えてないのよねー。
それもまあいいか?
「にゃにゃー」
私がそんな理由でウンウンと唸っているとミケがまたしても私の方をぽんぽんと叩きながら話しかけてくる。ミケは「はよキャットフードの手配してね」と言ってます。
だからキャットフードなんて今はどうでも良いじゃない。とは言え連絡手段があるならば家族に無事の報告だけはしておかないと。
私だって元々は旅行先から定期的にパパとママに連絡しようと考えてはいたのだ。私だって久しぶりに家族の声を聞きたい訳で。
ポチッとな。
私は早速無線機を起動させた。
ピーーーーーガガガガ!!
『もしもーし、鯖井です。暗殺のお仕事のご依頼ですかーーーーーー? ご用件のある方はピーーーーーガガガガ!! と言う発信音の後にお名前とご用件をお伝え下さい!!』
「パパーーーーーーーー!! ハルちゃんだよーーーーーーー!!」
パパの声だ!!
パパは無線機しか仕事の依頼を受けないタイプだから居留守対応はデフォルトなのよ!!
『ハルちゃん? ……おい、コラーーーーーーーー!! うちの可愛いハルちゃんを誘拐するだなんていい度胸じゃねえか!! テメエ、コラ!! ぶっ殺すぞーーーーーーー!!』
「パパー!! ハルちゃんは誘拐なんてされてないよ?」
「にゃー」
『え? 違った? だってハルちゃんはウチが大好きなのに最近帰ってこないから誘拐かと思ったよーーーー。だってだってー、ハルちゃんはアイドルグループのセンターを狙えるくらい可愛いしーーーーーーーーーー!!』
「えっとね、ザックリ説明すると漂流しちゃったーーーー」
『なーんだ、漂流か。じゃあ大丈夫だね。ママに変わる?』
「お願ーい。それとパパ、無線機越しでもお口が臭いよ」
『うおおおおおおおおん!! ママーーーーーー、ハルちゃんが反抗期だよーーーーーーー!!』
パパは泣きながらママにスマホを渡したようだ。
因みにウチの家族は全員が無線機仕様のスマホを持ってます。それも完全防水性能を誇った一品。
勿論それも弟の発明品です。
『ハルちゃん? ママだけど今日のお夕飯はどうするの?』
「あ、ママ? 今日も要らないかなー。ゴメンねー、連絡もしないで」
『ハルちゃんが元気だってことが分かればいいのよ、パパなんてハルちゃんが帰って来ないから泣き叫んじゃって大変だったけどママがしばき倒しといたわ』
「ママ、ありがとーーーー!! それでね、私お家に帰れなくなっちゃって。お迎えに来て欲しいんだけど」
『うーん、パパもこのところ暗殺家業で残業続きだし、ママもタイガーなんとかカットって言うアッパーを得意とする格闘王との一戦を控えて忙しいの』
「はあ」とママは無線機越しでため息を吐いていた。ええ、じゃあ私は当分の間、無人島生活しないといけないの?
ママの作った本マグロの活け造りが恋しいのよ。
私もママに釣られて盛大にため息を吐いてしまった。するとママはこれまた無線機越しで『!』と言ったマークを頭から出して私の頼み事を切り出してきた。
こう言う時のママの発想って斜め上を突き抜けてるのよね。私は眉を顰めながらミケと顔を突き合わせていた。
どうやらミケも同じ想いだったらしい。
私たちはゴクリと唾を飲み込みながらママの言葉を待った。
『そうだ!! ハルちゃん、お使い頼める?』
「お使いって、私、今は無人島にいるから近所にスーパーなんて無いよ?」
『違うのよーー!! パパが仕事の帰りに頼んでおいた暗殺の仕事を忘れてきちゃったの!! それでハルちゃんが無人島にいるって言うから丁度いいかなー、なんて思っちゃいました!!』
「丁度いいって? どう言うこと?」
私はママの言葉の意味が分からず、ミケと再び首を傾げながら顔を突き合わせしまった。
『暗殺対象が無人島を根城にしてるのよー。だからお迎えに行くまでにチョチョッと殺しといてーーーーーーー』
「ええ……、めんどくさいーーーーーー!! パパのお口くらい臭いーーーーーー!!」
『しょうがない子ねー、じゃあお小遣いアップするからー。三千円から五千円にしてあげる』
「……詳しく話を聞こうか」
こうして私はママに懐柔されてどこぞのスナイパーの如く濃い顔付きになって、詳細に耳を傾けていった。
私の顔付きは葉巻が似合うほどに濃くなっていった。
そして私が粗方の理解を済ませるとママは「まあまあ」と言いながら話を続けていった。
『居場所は無線機の電波を馬理衣に解析して貰えばすぐに分かるからハルちゃんは待ってるだけでいいわよー』
因みに馬理衣とは私の弟の名前です。
名前からして凛々しい顔付きの美少年です、……バカだけど。
「分かった、じゃあ私はお使いして待ってるねーーーーー!! 待ち合わせはハチ公前だよ?」
『りょうかーーい!! じゃあねーーーー、ちゅっ!!』
ママは芸達者に投げキッスで無線を締め括った。
では私はママのお迎えが来るまでにその標的を暗殺するとしましょう。私はお小遣いアップに心をときめかせながらミケとハイタッチし合って行動を開始することになった。
勿論竈門は作るけどね。
どうやらミケもどら焼きが食べたいようで、私の肩の肉球を置いて催促してきた。私は中断していた竈門の作成のためにレンガの仕上がり具合の確認作業を再開していったのだった。
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