失恋生活十七日目
ハルちゃんにトラウマが植え付けられるまで3、2、
……1……どうぞ。
「にゃにゃーーーーーーーーーー!!」
なんとミケは肉球を使ってヌタウナギの粘液を滑走している。波に乗るサーファーのようにミケは華麗にヌルヌルのウェーブを操っていた。
え!? 肉球ってそんな使い方があったの!? 肉球って人を癒すためにあるんじゃないの!?
「いっけーーーーー!! ミケもサングラスなんか掛けちゃってノリノリじゃない!!」
「にゃにゃーーーーー!!」
私はアイドルコンサートで熱狂するファンの如くペンライトを振ってミケを全力で応援していた。勿論、ペンライトも持参品よ!!
こんなことなら団扇とか持ってくれば良かった!!
だけど何はともあれ、今はミケを誠心誠意応援するしか私にはやることがない。フレフレ、ミケーーーーーーー!!
エル・オー・ブイ・イー、ラブラブミケーーーーーー!!
「にゃにゃーーーーー!!」
「出たーーーーーーー!! ミケの必殺・肉球キーーーーーック!!」
ミケは滑走からネコ科独特のしなやかな筋肉を活かして飛び蹴りを放った。充分に加速してあったから『肉球キック』はマッハの動きに達しており、そのままヌタウナギにメキッと音を立ててめり込んでいた。
私、肉球の摩擦係数を舐めてました。
すっごいじゃん!! ミケってカッコいい!! まるで戦隊モノの必殺技みたいじゃん!!
私はヌタウナギを島最強の生物と考えていたけど、間違ってました。ミケが最強の生物です。良かった、ミケが味方でいてくれて。
そんな風に私はホッと胸を撫で下ろしていたが、途中でふとしたことに気付く。あれ? ミケがヌタウナギを倒す度にその粘液がドンドンと広がっていく。
そして気が付けば私の方にまでヌルヌルが近づいて来る。
終いには私は洞窟の隅にまで追いやられて右腕一本で立ってました。それこそミケのようにシェー!! のポーズを取りながら壁にひっついていた。
ギャーーーーーー!! もうお終いじゃん!!
女子高生が汚される一歩手前なんですけど!!
だけどそれでもミケとヌタウナギの戦闘は続く訳で。バシバシとヌタウナギを倒していくミケは周囲のことなど気にも止めずに、夥しい量の粘液が洞窟内に飛散していく。
そして時が来てしまった。
その瞬間を持って私の時間は停止した。
ピトッ。
はい、終わりました。私の靴に粘液が着いちゃいました。もうその辺りから私は記憶が飛んでいた。まるで全てを燃やし切ったボクサーの如く真っ白になっていた。
そしてズルズルと脱力しながら粘液まみれの地面へと倒れ込んでいたのだ。
ああー……、オワタ。
こんな状況になるなんて、私って何のために生きてきたの?
きっとアレよ。
私は深夜アイドルのように視聴者に心の慰み者になって一生を終えるんだわ。
「にゃにゃーーーーーーー!!」
それでも私の心を置き去りにしてミケは奮闘を繰り返す。加速するようにバシバシとヌタウナギを倒しては身動きの取れなくなってそれらを積み重ねていくのだ。
はいはい、ミケもハッスルしてるね?
私は完全に口から霊体的なものを吐き出してます。じゃあ後はよろしくねーーーーーーー。適当に倒したらヌタウナギとその粘液を掃除しといて頂戴。
「はは……。このヌルヌル、どうやって落とそう。まだお風呂も作ってないのに……」
私の呟きはミケの掛け声でかき消されていく。そしてこの後、私は完全に気を失いました。そして起きた時には何事も無かったかのようにミケは清々しい笑顔を私に向けてくれた。
勿論、ミケは粘液まみれだったけどね。
そして地面もヌルヌルの、それはもうスケートリンクのようでした。
「にゃにゃにゃーーーーーーー!!」
私は気を取り戻してから一心不乱に風呂場の建設を開始した。その私の姿にミケは「一体にゃにがあったんだにゃ?」と首を傾げながら視線を送っていた。
それはそうですよ、だって私はたった一時間で風呂場を作り上げたのだから。
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